「強行偵察?」
「ナの実状を観察したい」
バーンはシュンジに依頼を持ってきた。
「いま、アの国は動けない」
「俺たちに泥をかぶれと?」
「充分な謝礼はある」
「クの国は?」
「奴等も動けない」
シュンジは苦笑しながら現在のリの状況を計算する。
「しかし、少しはアも出てほしい」
「仕方があるまいな……」
「バーンがいれば百人力だ」
「了解した」
バーンは頷いた。
「ガロウ・ランが?」
「ナの南であります」
伝令はナの女王「シーラ・ラパーナ」に告げる。
「アポクリプスの町を破壊しています」
「苦労であった」
シーラは羽を震えなせながら考える。
「どう思う?」
玉座に立てた肘に頭をのせながら、傍らの侍従マフメットに訊ねる。
「国境付近にアの敵性部隊が確認されています」
「数は?」
「少数」
シーラはため息をついて、配下の家臣に訊ねる。
「どうするか」
家臣の数人が恐る恐る意見を言う。
「ガロウ・ランは後回しにし……」
「やらいでか!!!」
シーラの羽が謁見の間に突風を巻き起こす。
広間中の家臣が吹き飛ばされる。
「民草を守る意識をもて」
「はっ!!」
意見を言った家臣はかしこまる。
シーラのこの所業は慣れているとはいえ、家臣たちは気分の良いものではない。
「シーラ女王」
地上人であるフェイ・チェンカが意見を言う。
「申せ」
「私のセキトゥハであれば、倍の敵を圧倒できます」
「アのレプラカーンは強敵ぞ」
シーラは指をコツコツと椅子に叩きつけながら続ける。
「猛虎の如き火力である」
「セキトゥハはその倍でございます」
「申したな」
シーラは微笑みながら、フェイに訊ねる。
「数は必要か」
「敵の倍を」
「フン……」
シーラは片肘をつき続けながら、近衛隊長である「レン・ブラス」に言葉をかける。
「ガロウ・ランの如きにはそちがあたれ」
「ハッ!!」
レンはかしこまる。
「アレン・ブレディは……」
騎士の一人が訊ねる。
「予備機であるよ」
シーラは薄く笑みを浮かべた。
「ナの聖王は亡くなられたってね……」
リの国のオーラシップ「リィリーン」のブリッジでシュンジはバーンに訊ねる。
「そのようだな」
「寿命か?」
「らしいな……」
バーンはレプラカーンの遠隔コンソールを叩きながら、気のない返事をする。
「シーラ女王か……」
「会った事があるらしいな」
「大昔な……」
シュンジはラウの王城での事を思い出した。
「便利なものだな……」
遠隔コンソールを見ながらシュンジはバーンにコーヒーを淹れてやる。
「本当はテレビがほしい」
バーンは遠隔操作でアの国の戦艦「センテリオン」にある自機「レプラカーン」の調整をする。
「テレビは放送局が必要なんだよ……」
「残念だよ」
バーンはコーヒーを飲みながら、コンソールを操作し続ける。
「レプラカーンな……」
「強い」
バーンは率直に言った。
「いったな……」
「量産品とは思えない」
バーンは仕事を終えた。
「シュンジ王」
バーンのレプラカーンが隣に近寄ってくる。
「偵察であるよ」
「戦う必要はないか」
レンの大橋と呼ばれる大長距離の橋をみながら、シュンジはアルダムを駆る。
「アルダムのⅢだよ」
「剣は?」
「この通り」
シュンジはアルダムの手に握られているカ・オスを見せる。
「機会があるか?」
「あるようだ」
シュンジはナの方向を指差す。ナからオーラバトラー隊が接近してくる。
「隊長機をやる」
「任せた、シュンジ王」
バーンはレプラカーンを上昇させ、フレイボムを放つ。
「こんな距離で?」
「レプラカーンならば」
随伴機である二機のレプラカーンも攻撃を開始している。アルダムⅢも三機加わり、ナのオーラバトラーに接近する。
「あれが隊長機?」
シュンジはフレイボムの支援の中、敵機に機体を接近させた。
「リの者か!?」
ナの隊長機がオーラショットを放ちながら接近してくる。
「シュンジ王であるよ!!」
「レンの元の主人か!!」
「知っているのか!?」
アルダムを器用に動かしながら、シュンジは敵機に肉薄する。
「セキトゥハである!!」
「地上人!?」
「そうだよ!! ジャパニーズ!!」
「何処から来た!!」
「チャイナである!!」
セキトゥハの火線をひらりと避けながら、シュンジはミサイルを放つ。ドゥ!!
「ふん!!」
セキトゥハの全身からバルカンが放たれる。
バッバッ……!!
迎撃されたミサイル群を尻目に見ながら、アルダムはダガーを投げつける。シュ!!
「甘い!!」
セキトゥハは股間部からオーラキャノンを発射する。
バンッ!!
「珍妙な!?」
破壊されたダガーの事など気にせずに、アルダムはコンバーターを加速させる。相手のキャノンの光が逸れる。
「フェイ・チェンカだ!!」
「レンとはどういう関係!?」
「仲間であるよ!!」
ギュン!!
接近したセキトゥハの手にある長大な長槍がシュンジに迫る。
「あたるかよ……」
かわしたシュンジにセキトゥハから火線が集中する。バッバッ!! バッバッ!!
「ハリネズミめ!!」
カ・オスを振るい、オーラショットの弾丸のオーラを吸収する。
シャアア……!!
「例の相手を掘る剣かい!?」
「掘る!?」
「尻を狙う剣だって言うってんだよ!!」
セキトゥハのキャノンが伸びる。
「レンとは!!」
「俺の恋する男!!」
「そのキャノンで掘る!?」
「同意ならば!!」
キャノンをかわしながら、カ・オスをセキトゥハの胴へ叩きつける。
「固いな!?」
「レンに入れるのはもっと!!」
「カマ野郎が!!」
「シュンジさん!! あのキャノンを切り落としましょう!!」
フィナが怖いことを言う。
「宦官になるか!? チャイニーズ!?」
「三国志の事からかい!!」
「なんで!?」
アルダムのミサイルを落としながら、セキトゥハはフレイボムを放った。
「フィールダー!!」
「拡散された!?」
アルダムの防衛機能を生かしながら、カ・オスを相手の長槍へ叩きつける。
キンッ!!
「青龍円月刀が!!」
「三国志とは!?」
「セキトゥハ!! 赤兎馬であるよ!!」
「関雲長か!!」
「どこで知った!?」
「テレビゲーム!!」
「秋葉系の聖戦士かい!?」
セキトゥハは僅かに後退する。
「テレビゲームとは!? シュンジ王!?」
敵機を片づけたバーン機が支援にあたる。オーラショット!! バンッ!! バンッ!!
「アの騎士がきたか!!」
「フェイ!!」
カ・オスを構えたシュンジは遠距離から敵機のオーラを吸おうとした。
「長いな!?」
セキトゥハの出力が落ちる。必死に後退する中国の聖戦士。
「テレビゲームとは!?」
「助けろよ!!」
フィナがバーンに悪態をつく。
「後退!!」
ナの部隊が後退を始める。
「レン君の昔の男め!!」
「ホモの人ぉ!!」
フィナが嫌そうに叫ぶ。
「シュンジ王!! 深入りするな!!」
バーンも引こうとする。シュンジはアルダムのコンバーターを噴かし、戦線を離脱する。
「ナの聖戦士か……」
シュンジは一人呟く。
「シュンジ王」
バーンが通信を入れる。
「味方の損害は軽微だ……」
「いいだろうな……」
二隻の艦に戻る二人。
「シュンジ王」
「ん?」
「テレビゲームとは?」
「知るか!!」
シュンジは怒鳴った。
「苦労であった」
玉座のシーラは片肘を立てながらフェイを労う。
「いえ……」
悔しそうに顔を伏せる聖戦士。
「レン」
シーラはレンに向く。
「規則を撤回する」
「はっ?」
「リの国との戦いにも参加せよ」
「……」
「不満か?」
レンは無言で頷く。
「失敬であるよ!! レン・ブラス!!」
マフメットが叫ぶ。そのマフメットを手でシーラは制する。
「レン」
「はっ……」
「もし、我と一夜伽をすれば考えてくれるか?」
シーラの羽がイタズラっぽく揺れる。
「女王!!」
フェイが叫ぶ。
「私には妻が……」
「であったか?」
シーラは面白そうにレンを見る。
「しかし、ナの騎士として考えよ、猶予を与える」
シーラは席をたつ。
フェイは口を開けたまま、驚愕の表情を浮かべて固まっていた。
「気を落とすなや、フェイ」
グラン・ガランの長廊下を歩きながら、アレンがフェイを慰める。
「我が恋破れたり」
フェイは下を向いたまま、ブツブツ言っている。
「恋は朝露の如くなり」
「全く……」
アレンが呆れた顔を見せる。
「フェイ・チェンカ」
曲がり角からマフメットが姿を表す。
「食料である」
彼女は弁当をフェイに突きだした。彼女は顔をフェイから背けている。
「泡沫の如く、恋とは無情なり」
フェイは彼女の顔を見ようともせず、弁当を手で払いのける。そのまま廊下を歩く。
「フェイ・チェンカァ!!!」
屈辱のあまり、マフメットは鬼の形相になった。
「許してやってくれ、侍従どの」
アレンがあわてて、彼女に駆け寄る。
「なんなら、俺が食べて……」
ガッ!!
いい終えない内にマフメットはアレンの股間を蹴りあげた。足を踏み鳴らしながら去っていく。
「なんだよぉ……」
アレンは股間を抑えながら、膝をつく。
「どうした、地上人よ?」
偶然、シーラ女王が曲がり角から現れた。
「女王」
アレンは股間を押さえながら
「少し、俺の股間をさすってくれないか?」
バフゥ!!
シーラの羽がアレンを吹き飛ばす。壁に叩きつけられるアレン。
「天にまします偉大なる主よ……」
無表情で立ち去っていくシーラの後ろ姿を見ながら、アレンが天仰ぐ。
「俺が一体何をしたのでしょうか……」
薄れ行く意識の中、アレンは神に祈った。
その声に答える者はいなかった。