聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

26 / 56
26話 男の勲章

「強行偵察?」

 

「ナの実状を観察したい」

 

バーンはシュンジに依頼を持ってきた。

 

「いま、アの国は動けない」

 

「俺たちに泥をかぶれと?」

 

「充分な謝礼はある」

 

「クの国は?」

 

「奴等も動けない」

 

シュンジは苦笑しながら現在のリの状況を計算する。

 

「しかし、少しはアも出てほしい」

 

「仕方があるまいな……」

 

「バーンがいれば百人力だ」

 

「了解した」

 

バーンは頷いた。

 

 

「ガロウ・ランが?」

 

「ナの南であります」

 

伝令はナの女王「シーラ・ラパーナ」に告げる。

 

「アポクリプスの町を破壊しています」

 

「苦労であった」

 

シーラは羽を震えなせながら考える。

 

「どう思う?」

 

玉座に立てた肘に頭をのせながら、傍らの侍従マフメットに訊ねる。

 

「国境付近にアの敵性部隊が確認されています」

 

「数は?」

 

「少数」

 

シーラはため息をついて、配下の家臣に訊ねる。

 

「どうするか」

 

家臣の数人が恐る恐る意見を言う。

 

「ガロウ・ランは後回しにし……」

 

「やらいでか!!!」

 

シーラの羽が謁見の間に突風を巻き起こす。

広間中の家臣が吹き飛ばされる。

 

「民草を守る意識をもて」

 

「はっ!!」

 

意見を言った家臣はかしこまる。

シーラのこの所業は慣れているとはいえ、家臣たちは気分の良いものではない。

 

「シーラ女王」

 

地上人であるフェイ・チェンカが意見を言う。

 

「申せ」

 

「私のセキトゥハであれば、倍の敵を圧倒できます」

 

「アのレプラカーンは強敵ぞ」

 

シーラは指をコツコツと椅子に叩きつけながら続ける。

 

「猛虎の如き火力である」

 

「セキトゥハはその倍でございます」

 

「申したな」

 

シーラは微笑みながら、フェイに訊ねる。

 

「数は必要か」

 

「敵の倍を」

 

「フン……」

 

シーラは片肘をつき続けながら、近衛隊長である「レン・ブラス」に言葉をかける。

 

「ガロウ・ランの如きにはそちがあたれ」

 

「ハッ!!」

 

レンはかしこまる。

 

「アレン・ブレディは……」

 

騎士の一人が訊ねる。

 

「予備機であるよ」

 

シーラは薄く笑みを浮かべた。

 

 

「ナの聖王は亡くなられたってね……」

 

リの国のオーラシップ「リィリーン」のブリッジでシュンジはバーンに訊ねる。

 

「そのようだな」

 

「寿命か?」

 

「らしいな……」

 

バーンはレプラカーンの遠隔コンソールを叩きながら、気のない返事をする。

 

「シーラ女王か……」

 

「会った事があるらしいな」

 

「大昔な……」

 

シュンジはラウの王城での事を思い出した。

 

「便利なものだな……」

 

遠隔コンソールを見ながらシュンジはバーンにコーヒーを淹れてやる。

 

「本当はテレビがほしい」

 

バーンは遠隔操作でアの国の戦艦「センテリオン」にある自機「レプラカーン」の調整をする。

 

「テレビは放送局が必要なんだよ……」

 

「残念だよ」

 

バーンはコーヒーを飲みながら、コンソールを操作し続ける。

 

「レプラカーンな……」

 

「強い」

 

バーンは率直に言った。

 

「いったな……」

 

「量産品とは思えない」

 

バーンは仕事を終えた。

 

 

「シュンジ王」

 

バーンのレプラカーンが隣に近寄ってくる。

 

「偵察であるよ」

 

「戦う必要はないか」

 

レンの大橋と呼ばれる大長距離の橋をみながら、シュンジはアルダムを駆る。

 

「アルダムのⅢだよ」

 

「剣は?」

 

「この通り」

 

シュンジはアルダムの手に握られているカ・オスを見せる。

 

「機会があるか?」

 

「あるようだ」

 

シュンジはナの方向を指差す。ナからオーラバトラー隊が接近してくる。

 

「隊長機をやる」

 

「任せた、シュンジ王」

 

バーンはレプラカーンを上昇させ、フレイボムを放つ。

 

「こんな距離で?」

 

「レプラカーンならば」

 

随伴機である二機のレプラカーンも攻撃を開始している。アルダムⅢも三機加わり、ナのオーラバトラーに接近する。

 

「あれが隊長機?」

 

シュンジはフレイボムの支援の中、敵機に機体を接近させた。

 

「リの者か!?」

 

ナの隊長機がオーラショットを放ちながら接近してくる。

 

「シュンジ王であるよ!!」

 

「レンの元の主人か!!」

 

「知っているのか!?」

 

アルダムを器用に動かしながら、シュンジは敵機に肉薄する。

 

「セキトゥハである!!」

 

「地上人!?」

 

「そうだよ!! ジャパニーズ!!」

 

「何処から来た!!」

 

「チャイナである!!」

 

セキトゥハの火線をひらりと避けながら、シュンジはミサイルを放つ。ドゥ!!

 

「ふん!!」

 

セキトゥハの全身からバルカンが放たれる。

 

バッバッ……!!

 

迎撃されたミサイル群を尻目に見ながら、アルダムはダガーを投げつける。シュ!!

 

「甘い!!」

 

セキトゥハは股間部からオーラキャノンを発射する。

 

バンッ!!

 

「珍妙な!?」

 

破壊されたダガーの事など気にせずに、アルダムはコンバーターを加速させる。相手のキャノンの光が逸れる。

 

「フェイ・チェンカだ!!」

 

「レンとはどういう関係!?」

 

「仲間であるよ!!」

 

ギュン!!

 

接近したセキトゥハの手にある長大な長槍がシュンジに迫る。

 

「あたるかよ……」

 

かわしたシュンジにセキトゥハから火線が集中する。バッバッ!! バッバッ!!

 

「ハリネズミめ!!」

 

カ・オスを振るい、オーラショットの弾丸のオーラを吸収する。

 

シャアア……!!

 

「例の相手を掘る剣かい!?」

 

「掘る!?」

 

「尻を狙う剣だって言うってんだよ!!」

 

セキトゥハのキャノンが伸びる。

 

「レンとは!!」

 

「俺の恋する男!!」

 

「そのキャノンで掘る!?」

 

「同意ならば!!」

 

キャノンをかわしながら、カ・オスをセキトゥハの胴へ叩きつける。

 

「固いな!?」

 

「レンに入れるのはもっと!!」

 

「カマ野郎が!!」

 

「シュンジさん!! あのキャノンを切り落としましょう!!」

 

フィナが怖いことを言う。

 

「宦官になるか!? チャイニーズ!?」

 

「三国志の事からかい!!」

 

「なんで!?」

 

アルダムのミサイルを落としながら、セキトゥハはフレイボムを放った。

 

「フィールダー!!」

 

「拡散された!?」

 

アルダムの防衛機能を生かしながら、カ・オスを相手の長槍へ叩きつける。

 

キンッ!!

 

「青龍円月刀が!!」

 

「三国志とは!?」

 

「セキトゥハ!! 赤兎馬であるよ!!」

 

「関雲長か!!」

 

「どこで知った!?」

 

「テレビゲーム!!」

 

「秋葉系の聖戦士かい!?」

 

セキトゥハは僅かに後退する。

 

「テレビゲームとは!? シュンジ王!?」

 

敵機を片づけたバーン機が支援にあたる。オーラショット!! バンッ!! バンッ!!

 

「アの騎士がきたか!!」

 

「フェイ!!」

 

カ・オスを構えたシュンジは遠距離から敵機のオーラを吸おうとした。

 

「長いな!?」

 

セキトゥハの出力が落ちる。必死に後退する中国の聖戦士。

 

「テレビゲームとは!?」

 

「助けろよ!!」

 

フィナがバーンに悪態をつく。

 

「後退!!」

 

ナの部隊が後退を始める。

 

「レン君の昔の男め!!」

 

「ホモの人ぉ!!」

 

フィナが嫌そうに叫ぶ。

 

「シュンジ王!! 深入りするな!!」

 

バーンも引こうとする。シュンジはアルダムのコンバーターを噴かし、戦線を離脱する。

 

「ナの聖戦士か……」

 

シュンジは一人呟く。

 

「シュンジ王」

 

バーンが通信を入れる。

 

「味方の損害は軽微だ……」

 

「いいだろうな……」

 

二隻の艦に戻る二人。

 

「シュンジ王」

 

「ん?」

 

「テレビゲームとは?」

 

「知るか!!」

 

シュンジは怒鳴った。

 

 

「苦労であった」

 

玉座のシーラは片肘を立てながらフェイを労う。

 

「いえ……」

 

悔しそうに顔を伏せる聖戦士。

 

「レン」

 

シーラはレンに向く。

 

「規則を撤回する」

 

「はっ?」

 

「リの国との戦いにも参加せよ」

 

「……」

 

「不満か?」

 

レンは無言で頷く。

 

「失敬であるよ!! レン・ブラス!!」

 

マフメットが叫ぶ。そのマフメットを手でシーラは制する。

 

「レン」

 

「はっ……」

 

「もし、我と一夜伽をすれば考えてくれるか?」

 

シーラの羽がイタズラっぽく揺れる。

 

「女王!!」

 

フェイが叫ぶ。

 

「私には妻が……」

 

「であったか?」

 

シーラは面白そうにレンを見る。

 

「しかし、ナの騎士として考えよ、猶予を与える」

 

シーラは席をたつ。

 

フェイは口を開けたまま、驚愕の表情を浮かべて固まっていた。

 

 

「気を落とすなや、フェイ」

 

グラン・ガランの長廊下を歩きながら、アレンがフェイを慰める。

 

「我が恋破れたり」

 

フェイは下を向いたまま、ブツブツ言っている。

 

「恋は朝露の如くなり」

 

「全く……」

 

アレンが呆れた顔を見せる。

 

「フェイ・チェンカ」

 

曲がり角からマフメットが姿を表す。

 

「食料である」

 

彼女は弁当をフェイに突きだした。彼女は顔をフェイから背けている。

 

「泡沫の如く、恋とは無情なり」

 

フェイは彼女の顔を見ようともせず、弁当を手で払いのける。そのまま廊下を歩く。

 

「フェイ・チェンカァ!!!」

 

屈辱のあまり、マフメットは鬼の形相になった。

 

「許してやってくれ、侍従どの」

 

アレンがあわてて、彼女に駆け寄る。

 

「なんなら、俺が食べて……」

 

ガッ!!

 

いい終えない内にマフメットはアレンの股間を蹴りあげた。足を踏み鳴らしながら去っていく。

 

「なんだよぉ……」

 

アレンは股間を抑えながら、膝をつく。

 

「どうした、地上人よ?」

 

偶然、シーラ女王が曲がり角から現れた。

 

「女王」

 

アレンは股間を押さえながら

 

「少し、俺の股間をさすってくれないか?」

 

バフゥ!!

 

シーラの羽がアレンを吹き飛ばす。壁に叩きつけられるアレン。

 

「天にまします偉大なる主よ……」

 

無表情で立ち去っていくシーラの後ろ姿を見ながら、アレンが天仰ぐ。

 

「俺が一体何をしたのでしょうか……」

 

薄れ行く意識の中、アレンは神に祈った。

 

その声に答える者はいなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。