聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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24話 聖王女

「シーラ様」

 

侍従のマフメットがナの国の王女「シーラ・ラパーナ」に声をかける。

 

「人形が壊れました」

 

シーラは硬く唇を噛みながら答える。

 

「慈悲をあたえなさい」

 

マフメットと呼ばれた女は銀のカーテンの奥に入り、少し声を上げた。

 

ガキン……

 

何かが壊れるような金属音がした。

 

 

 

シーラは一糸纏わぬ姿になると、シャワールームに入った。

 

その滑らかな背中には1対の羽が生えている。

いや、羽と言うよりは光の扇と言えるだろうか、よく見ると、彼女の裸体には肩にもう一対、踝に一対、羽が生えている。

 

シーラは頭に手をやる。

美しい空色の髪の中にも一対の光の羽があることが分かる。

 

シャワールームからでたシーラは鏡の前で自分の羽を見る。

 

「成長している、羽が」

 

その白く光る羽を見て呟く。

鳥の羽とも違う、太陽の白い日差しがそのまま固定したかのような羽。

 

「天のものだ」

 

羽を取る。

 

「だか、リーンではない」

 

羽が輝く。

 

「リーンの如き、人を救う力も、悪を打ち倒す事もない。大義を貫く力もない」

 

羽を触る。

 

「慈悲もない」

 

羽を睨む。

 

「悪を為すものだ」

 

羽に宣告する。

 

鏡から離れる。

シーラは下着を見に着けようとする。

 

「……」

 

ブラジャーが背中の光の羽に当たる感覚はいつもシーラを苛立たせる。

シーラは革でできたパイロットスーツによく似た「ディナ」という服を身に纏い一人呟く。

 

「私はジオになるのだ」

 

 

 

 

シーラは自室から出ていく。

傍らに立つ女性兵士に「ご苦労」と声をかけてから、空に浮かぶ天空城「グラン・ガラン」の最高層のバルコニーへ出る。そこには先程の侍従が控えている。

 

「マフメット」

 

「はっ!」

 

「散策に出る」

 

「はっ……!」

 

「フェイ・チェンカを連れて行きたい」

 

「なにゆえ?」

 

「あれには学がある。話が楽しい」

 

「左様で……」

 

マフメットは通信機に手をやった。

 

 

「シーラ様」

 

「フェイ、何だ?」

 

天空城グラン・ガランから飛び立った三人は大空を飛翔する。

空は青天、雲ひとつなく対岸のラウまで見渡せそうな気がする。

 

「なぜ、俺を?」

 

「学がある」

 

「耳学問です」

 

「物事の髄をつかんでおる」

 

「謝……」

 

フェイが礼する。

 

シーラは飛翔する。

ほかの二人がグライウイングに乗っているにも関わらす、シーラは光の羽をはためかせて大空を飛ぶ。

 

「どちらまで」

 

「嵐の玉まで行きたい」

 

「弁当がないですよ!!」

 

フェイが叫ぶ。

 

「買ってこい」

 

マフメットが言う。

 

「あんたが行けよ!!」

 

「女のために働け、地上人」

 

マフメットが冷たく言う。

 

「くそ!!」

 

「シーラ様の好みの物を買ってこい」

 

「高くても気に入らないだろうがよ!?」

 

「考えろ」

 

氷の女と言われるマフメットがフェイを突き放す。

 

「へいへい!!」

 

フェイのシュットが地上へと降りていく。

 

「マフメット」

 

シーラが含み笑いをしながら侍従に言う。

 

「フェイへの恋慕はいつから?」

 

「会ったときからです」

 

シーラの羽が昼の光に輝く。

 

「では何故?」

 

「故にこきつかいます」

 

マフメットの顔に微かに笑みが浮かぶ。

シーラは微笑みながら羽を強く広げた。

 

 

 

 

「スーパースター」

 

アレンがフェイに説明をする。

 

「F22ではないのか?」

 

レンがアレンに訊ねる。

 

「F22の仮名称の一つだった、好きな名前だ」

 

アレンは煌々たる朝日に浮かぶドゥミナントの改修機を見ながら呟く。

 

「ラプターは気に入らんか?」

 

フェイがアレンを小突く。

 

「神はビーストをお気にめさらない」

 

アレンは十字を切る。

 

「ドゥミナントのほうが余程……」

 

「チャイニーズ、共産主義には理解出来まい」

 

「けっ!!」

 

フェイ・チェンカは唾をはく。

 

「フェイ……」

 

レンが声をかける。フェイは目を潤ませる。

 

「レン君…… アレンが苛めるんだよ……!」

 

フェイはレンに抱き付こうとする。寸前でかわすレン。

 

「神はアブノーマルな愛も許されない」

 

「うっせえ!!」

 

フェイは大股でナの街へと去っていった。

 

「レン」

 

アレンはレンの肩に手を置く。

 

「許してやってくれよ、あいつを……」

 

「なんの……」

 

レンは笑顔を浮かべる。

 

「俺はあのチャイニーズが嫌いになれないんだよ」

 

アレンはそう言いながら、スーパースターへ乗り込んだ。

 

「セキトゥハは?」

 

「フェイに任せてある」

 

アレンはスーパースターのエンジンテストをしながら、首に下げてある十字架を握り締めた。

 

ナの戦士は暫しの休息を楽しんでいた。


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