聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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23話 笑う戦場

リの国のオーラシップ「ヨルムーンガント」とクの国のオーラシップ「ファリ・ドーン」が並んで飛行する。

眼下には海、そして長い橋がどこまでも続いていく。

 

 

 

 

「北の大橋?」

 

「うむ」

 

シュンジ王の問いにビショット王が答える。

 

「アの国とナの国の境、丁度ラウのてっぺんにある橋さ」

 

ビショットがそう言い、手を大きく拡げる。

 

「渡るのに数日がかりだって?」

 

トッドが話に加わる。

トッドを横目で見ながらビショットは話を続ける。

 

「誰が造ったんだか知らんがな」

 

「オーラマシンに乗っている俺たちには?」

 

「無論、意味はないさ」

 

トッドの問いにビショットは笑う。

 

「付近の住民は使っているだろうな」

 

「そうそう……!!」

 

シュンジの呟きにビショットは我が意を得たりと微笑む。

 

「壊さないようにしろってか」

 

乗機であるオーラボンバー「ブブリィ」のクルー達と打ち合わせをしながら、トッドは苦々しげに舌打ちをする。

 

「不満か?」

 

「どうせ、アレンの奴が出てくるんだぜ!」

 

トッドは顔をしかめる。

 

「撃退したとは聞いたけど?」

 

「何度も上手くいくもんかよ!!」

 

トッドはシュンジに怒鳴り付ける。肩をすくめるシュンジとフェラリオのフィナ。

 

「ブブリィ、大丈夫か?」

 

ビショットが心配そうにトッドを見る。

 

「何とかやってみますよ、王」

 

トッドは再び打ち合わせに入った。

 

 

 

「正式にクの国へ移ったんだって?」

 

シュンジはトッドに訪ねる。

皿のスパゲッティが跳ねたのをトッドは眉をしかめながら返事を返す。

 

「ああ、ビショットとは話が合うんだよ」

 

スパゲッティを器用にフォークに巻きつけながらトッドは答えた。

 

「ドレイクは……」

 

「別に、何も言わなかったさ」

 

シュンジの手から粉チーズを取りながら、トッドは食べ続ける。

 

「あのタンギーでアレンを撃退したんですって?」

 

リのパイロットであるアイリンがトッドに聞く。

食事は終えたようだ、食後のコーヒーを飲んでいる。

 

「一緒に乗っていたクルーがね、良い女だったからね」

 

「フーン」

 

アイリンはつまんなそうにコーヒーに口をつける。

 

「ブブリィでは?」

 

「野郎ばかりさ、だが俺は今度は火力で押すつもりさ」

 

「ブブリィはタンギーのプロトタイプだろう?」

 

「火力は段違いだよ」

 

シュンジはスパゲッティを食べ終え、茶を飲み始めた。フィナもジュースを飲んでいる。

 

「じゃ、またな」

 

食べ終えたトッドはファリ・ドーンのハンガーへと足を運ぶ。

 

「地上人って」

 

「ん?」

 

シュンジは部下のアイリンに耳を傾ける。

 

「真面目なんですね」

 

「トッドが?」

 

「ええ」

 

「フーン……」

 

アイリンの感性を理解しきれないシュンジは無言でランチプレートをカウンターへ置きに行った。

 

 

 

どこまでも長く続く橋。果てが見えない長い橋。海の色の中に一条の線があるように見える。

「誰が造ったんだか……」

 

アルダインで上空を飛行しながら、シュンジは呆れた声を出す。

 

「天上の者かもしれませんね……」

 

「あのババアかよ……」

 

シュンジはジャコバ・アオンの事を思い出し、少し気分が悪くなった。

 

「シュンジ王」

 

ザナドのズワァースがシュンジのアルダインの近くへとやってきた。

 

「ズワァースな?」

 

「出力がでかすぎる……」

 

ザナドは操縦に苦戦しているようであった。

シュンジのアルダインを見ながら調整をしている。

 

「俺も出世したら、機体を金ぴかに塗りましょうかねぇ?」

 

「俺のこれは趣味ではない」

 

「解ってますよ……」

 

アルダインの装飾をズワァースの指でなぞりながら、ザナド機は離れていった。

 

「ザナド……?」

 

「トカマク先輩から……」

 

先鋒に立つトカマクのヴィーヴィルから機体信号で連絡があった。

 

「来たか……」

 

ナの国の部隊の姿が見える。

 

「始めてですね」

 

オーラバトラー隊の隊長であるナラシが言う。

 

「ナの国への侵攻ですよ」

 

「こっちが攻め手か……」

 

ナの国のウイングキャリバー「ドゥミナント」が接近してくる。金色の機体が昼の光に反射する。

 

「地上人は金色趣味か?」

 

ザナドがぼそりと呟く。

 

「まずはクの国に手柄を譲れ」

 

「了解!」

 

ズワァースの速度が低下する。

その脇を通り、トッドのブブリィが疾る。

 

「アレン!!」

 

ブブリィから声が響く。

 

「トッドかよ!?」

 

ドゥミナントが上昇する。

それを追ってトッドのブブリィが機体高度を上げる。

 

「橋を壊すなよ!!」

 

ナの国の隊長機だろうか? アレン機へ通信が入る。

 

「ん……?」

 

何処かで聞いたことのある声だなと思いつつもシュンジはアルダインの高度を低下させる。

 

今回はクの国が侵攻の主役なのだ。

ファリ・ドーンからクの国の部隊が続く。

ビアレスとタンギーの部隊である。

そのクの国の部隊にナの国製ウイングキャリバー「フォウ」に乗った量産機であるボチューンの姿が見える。

 

「……ん」

 

クの国部隊がナの国部隊に接近する。少しずつ火線が拡大する。

 

「チェッチ!!」

 

ビアレスの女性パイロットがナのボチューンを落とす。ボチューンはフォウから転げ落ちる。

 

「腕が良いな、あの機体」

 

「たいしたもんじゃないよ、あんなの……」

 

ザナドが不満げにブツブツ言う。苦笑するフィナ。

「……ん?」

 

ザワッ…… 無線があわだたしくなる。

 

「何があった?」

 

「南の方向!! オーラマシン部隊!!」

 

「なにっ!!」

 

シュンジは海から目を離し、南の山脈へと目を向ける。何かの影が見える。オーラバトラー!!

 

「ラウの部隊!?」

 

シュンジは見知らぬオーラマシン群を見て叫ぶ。

ラウの国のオーラバトラーらしきものは右手に斧を持ちながら、左手には巨大な大砲を持っている。

 

いや、持っているというより、腕に固定されている。

後方にはオーラシップの姿が見える。

 

「迎撃!!」

 

シュンジはリの騎団へ叫ぶ。

シュンジが叫ぶ前に前方へ飛び出した機体がある。

 

「ザナド!!」

 

「やりますよ!!」

 

ザナド機は弾丸のようなスピードでラウの部隊へと突撃していく。そのザナド機にむかって飛び付く機体がある。

 

「ビルバイン!?」

 

その赤い機体はザナドのズワァースにもつれつく。

 

「てめえ!?」

 

ザナドが叫ぶ。

 

「聖戦士じゃないじゃないか!!」

 

その赤い機体のパイロットと思わしき女の声がする。

 

「いっちまえ!!」

 

ズワァースからショットが飛ぶ、そのショットをまともにくらうラウの赤い機体。

 

「ビルバインではない……」

 

動きが固いのだ、初陣か? シュンジはそう思った。

 

「敵ながら強引な……!!」

 

「シュンジ王!!」

 

リのパイロットから注意が飛ぶ。

 

「なかなか早い!!」

 

すでに戦闘領域に到達していたラウの機体がシュンジに照準を定める。

 

ヒュオオォォ……!!

 

左腕の大砲からミサイルが放たれる。

ミサイルの軌道を見ながらかわそうとするシュンジ。

 

ボフゥ!!

 

「何!?」

 

寸前でかわしたミサイルがシュンジ機を追尾したようだ。アルダインの肩へと当たる。

 

「損傷は軽微!!」

 

フィナの叫び声を聞きながら、ラウの部隊へと目をやるシュンジ王。そのシュンジに一機のオーラバトラーが突進してくる。

 

「……!!」

 

オーラバトラーはシュンジの目の前で止まると、通信を入れてきた。

 

「久しいな!! シュンジ王!!」

 

「フォイゾン王!?」

 

フォイゾン機は何故か機体を上方向に一回転させた。

乗っているオーラバトラーの腕を動かしながら、自軍のオーラマシンを指差してゆく。

 

「大砲付きは我がラウのオーラバトラーであるボゾーン。主の部下と戦ったのはビルバインの量産型であるゼルバイン。オーラシップはアンデルセーンである。

ああ、ボゾーンの腕に付いているのはガッシュという武器であるよ!!」

 

「なんだ!?」

 

「儂の大自慢であるよ!! まいったか!!」

 

「舐めるな!!」

 

シュンジはアルダインをボゾーンへ突進させる。

 

「ここで勝っても負けても貴国との不干渉条約は続行! そうでもよかろう!! シュンジ!!」

 

「何を!? やり合えばお互い俺達や部下も死ぬんだぞ!?」

 

「戦士だろう!?」

 

フォイゾンはボゾーンのガッシュとやらを発射しながら、アルダインとの距離を詰める。

 

「ふん!!」

 

シュンジはバルカンでミサイルを迎撃し、ボゾーンを迎え撃つ。フォイゾンを斧を振るう。

 

「喝! 渇! 喝! 渇!!」

 

フォイゾン王は呪文とも笑い声とも言えない叫び声を上げながら、シュンジのアルダインヘ切り結ぶ。

 

「年寄りの冷や水が!!」

 

「タータラを出る前に若い娘の気をさんざん吸ったからなあ!!」

 

「助平ジジイめ!!」

 

シュンジはカ・オスの剣をフォイゾンのボゾーンへと振るう。カッ!!

 

「複雑怪奇な剣よ!!」

 

ボゾーンは自前のオーラトマホークで防ぐ。

 

ギュオオオオッッッッ!!!

 

カ・オスの剣の力が発揮される。

フォイゾンの驚愕の声が聞こえる。

 

「なにぃ!?」

 

後退するボゾーン。

再び曲がった剣を突き出すシュンジ。ガッン!!

 

「オーラを吸う剣!? シュンジ王!!」

 

「そうかもな!!」

 

「だから主の剣は娘の股間の形をかい!!」

 

「不潔です!!」

 

フォイゾンの言葉にフィナが叫ぶ。

 

後退したボゾーンは再びガッシュを放とうとする。

 

「ありゃ!?」

 

フォイゾンがすっとんきょうな声を上げる。

ガッシュから煙を噴いている。ミサイルが出ない。

 

「褥で遊びすぎたかぁ!? 可っ可っ可!!」

 

フォイゾンは笑い声を上げながら、ボゾーンをさらに後退される。

 

「フォイゾン王!!」

 

「そなたのせいだよ!!」

 

「なにい!?」

 

「その女のナニの剣に儂の精が吸われたんじゃよ、可可可!!」

 

「不潔でぇす!!」

 

フィナが身をよじって再び叫ぶ。

 

「娘は俺と仲良しだぜ!!」

 

「なに!? ばかな!?」

 

フォイゾンは驚きの声を上げる。

 

「パットフットを二度も小僧に取られた!?」

 

「ええ!?」

 

驚くシュンジにフォイゾンは長距離からガッシュを放つ。

 

「ごめん!! 違った!!」

 

「先に言え!!」

 

シュンジにフォイゾンが怒鳴る。

 

「孫娘!!」

 

「エレかよ!!」

 

ガッシュをかわしながら、シュンジは言い放つ。

 

「主はロリコンか!!」

 

「違う!!」

 

「ロリコン聖戦士王シュンジ・イザワ!! 可可可可可!!」

 

フォイゾン王は可笑しそうに笑うと、戦線を離脱していった。

 

「大人げない人!!」

 

フィナが中指を立てて怒る。

 

「ロリコン聖戦士王!!」

 

「なんだよ!!」

 

ヨルムーンガントからザン団長が声をかける。

 

「ザン艦長!! 貴様、覚えておけよ!!」

 

「ナ、ラウが撤退していきます!!」

 

潮騒を引くように下がっていくナとラウの機械化部隊。

 

「あのフォイゾン王!! わざわざ無差別広域無線で!!」

 

「ひどーい!!」

 

フィナが怒り狂う。

 

「笑い事じゃねえだろうよ!!」

 

ザナドが近寄ってくる。

ズワァースのあちこちに損傷がある。

 

「あのアマめ!!」

 

「やられたか!?」

 

「すまねえ、シュンジ王!!」

 

ザナドが大声で謝る。

 

「気にするな」

 

シュンジはザナドの手を引いてやった。

 

「クの国も撤退するようです」

 

「痛みわけか……」

 

シュンジは唸った。

 

クの国の生き残りから一機のビアレスがシュンジ機に近寄ってくる。

 

「ロリコン王!! 御無事で!!」

 

シュンジが何か言う前にザナドのズワァースがそのビアレスを蹴った。

 

「あたしは味方だろ!?」

 

ヨルムーンガントとファリ・ドーンから溢れんばかりの笑い声が轟いた。

 

 

 

 

「レン君、帰ろうかや……」

 

ナの国のボチューン隊の隊長機である白いボチューンからすすり泣く声が聞こえる。

 

「みんな…… 元気でいた……!!」

 

元リの国の騎士「レン・ブラス」は嬉しさの余り、狭いコクピットですすり泣いている。

 

「シュンジ王…… 父上…… フィナ……」

 

「レン……」

 

上空からドゥミナントが降りてくる。

かなりの破損である。左翼がすべて無い。

 

「フェイ、レンを引っ張ってやんな……」

 

「おう…… レン君、行こう……」

 

フェイと呼ばれた男の機体がレン機を引っ張って行く。レンはいつまでもすすり泣いていた。


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