聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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21話 エルフ城陥落

美しい春である。

「桜の雨」という縁起のよい現象が起きている。

アの国を始め、隣国のク、リ、ラウまで実に小さな桜色の結晶が降り注ぐ幻想的な光景である。

 

 

 

「均衡を崩すか?」

 

ドレイクはビショットに訊ねる。

 

「何を今さら」

 

ビショットはそれでも他の者へ意見を聞く。

 

「ケムの国は常に分裂状態なのは解っておりますでしょうに……」

 

ケムの女将軍、地上人マリアがズケズケと言う。

 

「リはドレイク殿にお味方はしたいのですが……」

 

「ラウとの関係は?」

 

リの国の聖戦士王、シュンジが意見を言ったあとにドレイク揮下のバーンが口を挟む。

 

「……」

 

シュンジは答えられない。

 

「グズグズといつまでもしてるわけにはいきますまい……」

 

小国ハワの女君主ルーザ・ホルンがかつての夫に囁く。

 

「国境警備隊には最新のマシンをあてがわなくてはいけますまいな……」

 

ドレイク軍技術顧問のショット・ウェポンが頬杖をつきながらそう言い放つ。

 

「……状況に馴れすぎたか?」

 

ドレイクは自問自答する。

 

 

 

「ウィル・オ・ウィスプはいつでも発射できます」

 

ゼット・ライトがドレイクにそう告げる。

 

「うむ…… 発射は明日の朝と決定した」

 

「はっ! ではさっそくチャージを開始します」

 

技術者ゼット・ライトは技師達のもとへと去っていった。

 

 

 

「ドレイクの元へ来たのは一年位前さ」

 

「フーン?」

 

シュンジはゼットの野太い声を聞く。

 

「ケムにいたんだが、あそこはとにかく仲間割れの国さ」

 

「だろうな……」

 

「へんな国に降りたもんだと嘆いていたもんさ」

 

地上人であるゼット・ライトはシュンジに愚痴を話す。

 

「マリア殿は頑張っているんだけどな……」

 

「ドレイクの元での仕事は楽しいか?」

 

「ああ、やりがいがある」

 

「聖戦士になろうとしたことは?」

 

「少しやってみたが、今一つだったな。俺が作ったヴィーヴィルやザーベントに乗ってはみたがな」

 

「ウィル・オ・ウィスプはどうだった?」

 

「あれは俺一人で作れるもんじゃないよ、シュンジ殿」

 

ゼットはそう言いながら、ウィル・オ・ウィスプの元へと歩いて行った。仕事が残っているんだろう。

 

 

 

 

 

「感謝するよ、シュンジ殿」

 

その日の夜、ドレイクはシュンジの天幕へ挨拶に来た。

 

「いえ…… 砲の建設はあなたの部下達のお陰であります」

 

シュンジは謙遜ではなくそう言った。

 

「ナの国な…… 動くと思われるか?」

 

「ふーむ……」

 

シュンジはなんとも言えない。

ドレイクも深くは聞かず、天幕を出ていった。

 

 

 

次の日も「桜の雨」は降ったいた。

 

オーラノヴァ砲ウィル・オ・ウィスプ、通称「ドレイク砲」の周囲には疑似オーラ発生器がいくつも連なっている。

 

 

フォォォォォ……!!!

 

意外にも静かな音がドレイク砲の周辺に響く。音が停止する。

 

ギッ…………

 

発射音が果たして鳴ったのかどうか、聞き取れる者は誰もいない。

 

ジッジッジッ……!!

 

砲門から白い閃光がエルフ城へ向かって走る。

大気を焼きつくしながら、閃光がエルフ城の幾重にも列なる大規模城壁群へと迫る。

 

ボフゥゥゥウウウウ!!!!!

 

白い閃光がエルフ城の中心、天守閣と第一から第五まである大城門群を貫いた。

 

静寂がドレイク包囲軍の陣地に広がる。

 

「ない……!!」

 

シュンジはつむっていた目を開いたとき、地を這うエルフ城の陣地が半分に割れているのを見た。城の残骸へ桜の雨が降り注ぐ。

 

「シュンジさん……」

 

フィナが震えている。シュンジはそっとフィナを懐へ入れた。

 

ドレイク軍のオーラバトラーからエルフ城の生き残りへ降伏勧告をしているのが聞こえた。

 

桜の雨が降り注ぐなか、二年以上にも長きにわたり続いたエルフ城攻防戦は幕を閉じた。


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