「ゼルバイン?」
「で、あるよ、地上人」
「赤く塗りたいな……」
「勝手にしろ」
フォイゾン王は目の前に立つ赤毛の女に苦笑しながら語りかける。
「王様はまだ現役で?」
「質問の意味が解らんな」
「あっちのほうが現役って意味さ」
「地上人!!」
近衛兵が剣を手にかける。それを片手で制するフォイゾン。
「王、あなたに子は?」
「娘がいるが、ある男に持ち逃げされた」
「気の毒にねぇ」
女は髪を指で弄りながら同情するかのような声をあげる。かなりの美貌である。魅惑的な肢体。
「戦えるか?」
「誰の為に?」
女は慎重な性格のようだ。
「儂の為にだ」
「妃にでもしてくれるか?」
「ジェリル・クチビ!!」
またしても兵が声を荒げる。
「喝!!!!」
フォイゾンは一声で黙らせる。
「儂の相手が務まるかい?」
「フッ、ハハハッ……」
女は笑う。
「ラウの直属聖戦士、ジェリル・クチビ。偉大なるフォイゾン王の為に骨を折りましょう」
「頼んだ」
フォイゾンはうなずく。
「ところで、王」
ジェリルは質問をする。
「何故わざわざ直属の文字をいれるのだ?」
「傭兵のような聖戦士ならば、すでにいるからだ。ゼラーナ隊という」
「信用出来ないか?」
「糸の切れた凧のような所がある」
「器の小さいこと」
女はコトコトと笑う。
「アマ!!」
騎士の一人が本当に怒ったようだ。足を踏み出す。
「喝!!!!」
フォイゾンの口から疾風が舞う。騎士は足を引く。
「良い王だ」
ジェリル・クチビは口に手を当てて笑った。
「ドレイクの目的?」
ニー・ギブンは怪我の治りを見ながら、ショウに聞き返す。
「ああ」
ショウはパンを食べながら、ニーに返した。
「アの国の支配だろうが?」
「そう思うか?」
「何が言いたい」
ニーは少し苛つきながらショウに聞き返す。
「ドレイクの目的」
ショウはタバコを吸いながらニーに話す。
「それはナを表舞台に引きずり出す事だったんしゃないかな……」
ショウはタバコを美味しそうに吸いながら、ニーに顔を向ける。
「ナを沈黙から……」
「ああ」
ショウは話を続ける。
「エルフ城がどうとかいうより、ナが目当てだったとしたら?」
「まさにドレイクはガロウ・ランの如き王であるな」
ニーが少し合点がいったようだ。
「もうすでにナの国は沈黙を許されない」
「ああ……!!」
「変わりにラウが沈黙している」
「フォイゾン王がね」
ショウはタバコの煙を燻らせながら、ラウの王城「タータラ」を見上げる。
「ドレイクの興味もラウに移ったか?」
「そこまでは……」
ショウは流石に言いよどんだ。二本目のタバコに火を着ける。
「ニー!!」
ゼラーナ隊の女性騎士「キーン・キッス」がニーに飛び付く。
「俺にはリムルがいる!!」
「ドレイクのスパイでしょ!?」
「違うぜ!!」
ニーはキーンを体から引き離す。マーベル・フローズンがニー達に近寄ってくる。
「どうだった?」
「2ヶ月余りらしいわ」
マーベルはお腹に手をやりながら答える。
「っと、すまない、マーベル」
ショウがタバコの火を消す。
「うれしいわ、ショウ」
マーベルが頬を赤らめる。
「ショウ、自分の子供の名前くらい考えておきなさいよ」
キーンがショウを軽くにらむ。
「チャムはどうだ? チャムは」
マーベルと一緒にやって来たチャム・ファウが口を出す。
「無茶だよ……」
ショウは頭を掻きながら、手帳を広げた。
「髪の色、男女で分類分けしているの? マメな奴!!」
そう笑いながらマーベルが手帳を覗きこむ。
「ネーミングセンスがないわねぇ」
「いいじゃん……」
ショウが照れる。ニーが椅子から立ち、歩き始める。
「どこへ?」
「新造艦の所へだ」
「リムルに会うんでしょ?」
「会っちゃ悪いかよ」
ニーはキーンに無愛想に言うと、タータラの広場へ歩き始めた。
「リムル」
「ニー!!」
ドレイク・ルフトの娘、リムル・ルフトはニーにウィンクをする。
「新造艦?」
「まあね」
ゼラーナの三倍は大きい、その船をニーは見上げる。
「名前はどうするの?」
「さぁてね……」
ニーはショウの手帳から名前をくすねてこようかと一瞬思った。
「しかし、シュンジめ」
ニーはリの国の国王「シュンジ・イザワ」の名を憎々しげに呼んだ。
「シュンジ様がゼラーナを?」
「知っているのか?」
「ショウが私をニーの所へと連れ出したとき、あの王は見逃してくれた」
「そうなのか?」
「何年も前の話」
リムルはニーに言葉を続けた。
「シュンジ王は決して悪い男でない」
「かもなあ……」
ニーは遥か遠くにあるリの国の事を考えながら、月日の流れの早さを実感していた。