聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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19話 若き父母

「ゼルバイン?」

 

「で、あるよ、地上人」

 

「赤く塗りたいな……」

 

「勝手にしろ」

 

フォイゾン王は目の前に立つ赤毛の女に苦笑しながら語りかける。

 

「王様はまだ現役で?」

 

「質問の意味が解らんな」

 

「あっちのほうが現役って意味さ」

 

「地上人!!」

 

近衛兵が剣を手にかける。それを片手で制するフォイゾン。

 

「王、あなたに子は?」

 

「娘がいるが、ある男に持ち逃げされた」

 

「気の毒にねぇ」

 

女は髪を指で弄りながら同情するかのような声をあげる。かなりの美貌である。魅惑的な肢体。

 

「戦えるか?」

 

「誰の為に?」

 

女は慎重な性格のようだ。

 

「儂の為にだ」

 

「妃にでもしてくれるか?」

 

「ジェリル・クチビ!!」

 

またしても兵が声を荒げる。

 

「喝!!!!」

 

フォイゾンは一声で黙らせる。

 

「儂の相手が務まるかい?」

 

「フッ、ハハハッ……」

 

女は笑う。

 

「ラウの直属聖戦士、ジェリル・クチビ。偉大なるフォイゾン王の為に骨を折りましょう」

 

「頼んだ」

 

フォイゾンはうなずく。

 

「ところで、王」

 

ジェリルは質問をする。

 

「何故わざわざ直属の文字をいれるのだ?」

 

「傭兵のような聖戦士ならば、すでにいるからだ。ゼラーナ隊という」

 

「信用出来ないか?」

 

「糸の切れた凧のような所がある」

 

「器の小さいこと」

 

女はコトコトと笑う。

 

「アマ!!」

 

騎士の一人が本当に怒ったようだ。足を踏み出す。

 

「喝!!!!」

 

フォイゾンの口から疾風が舞う。騎士は足を引く。

 

「良い王だ」

 

ジェリル・クチビは口に手を当てて笑った。

 

 

 

 

「ドレイクの目的?」

 

ニー・ギブンは怪我の治りを見ながら、ショウに聞き返す。

 

「ああ」

 

ショウはパンを食べながら、ニーに返した。

 

「アの国の支配だろうが?」

 

「そう思うか?」

 

「何が言いたい」

 

ニーは少し苛つきながらショウに聞き返す。

 

「ドレイクの目的」

 

ショウはタバコを吸いながらニーに話す。

 

「それはナを表舞台に引きずり出す事だったんしゃないかな……」

 

ショウはタバコを美味しそうに吸いながら、ニーに顔を向ける。

 

「ナを沈黙から……」

 

「ああ」

 

ショウは話を続ける。

 

「エルフ城がどうとかいうより、ナが目当てだったとしたら?」

 

「まさにドレイクはガロウ・ランの如き王であるな」

 

ニーが少し合点がいったようだ。

 

「もうすでにナの国は沈黙を許されない」

 

「ああ……!!」

 

「変わりにラウが沈黙している」

 

「フォイゾン王がね」

 

ショウはタバコの煙を燻らせながら、ラウの王城「タータラ」を見上げる。

 

「ドレイクの興味もラウに移ったか?」

 

「そこまでは……」

 

ショウは流石に言いよどんだ。二本目のタバコに火を着ける。

 

「ニー!!」

 

ゼラーナ隊の女性騎士「キーン・キッス」がニーに飛び付く。

 

「俺にはリムルがいる!!」

 

「ドレイクのスパイでしょ!?」

 

「違うぜ!!」

 

ニーはキーンを体から引き離す。マーベル・フローズンがニー達に近寄ってくる。

 

「どうだった?」

 

「2ヶ月余りらしいわ」

 

マーベルはお腹に手をやりながら答える。

 

「っと、すまない、マーベル」

 

ショウがタバコの火を消す。

 

「うれしいわ、ショウ」

 

マーベルが頬を赤らめる。

 

「ショウ、自分の子供の名前くらい考えておきなさいよ」

 

キーンがショウを軽くにらむ。

 

「チャムはどうだ? チャムは」

 

マーベルと一緒にやって来たチャム・ファウが口を出す。

 

「無茶だよ……」

 

ショウは頭を掻きながら、手帳を広げた。

 

「髪の色、男女で分類分けしているの? マメな奴!!」

 

そう笑いながらマーベルが手帳を覗きこむ。

 

「ネーミングセンスがないわねぇ」

 

「いいじゃん……」

 

ショウが照れる。ニーが椅子から立ち、歩き始める。

 

「どこへ?」

 

「新造艦の所へだ」

 

「リムルに会うんでしょ?」

 

「会っちゃ悪いかよ」

 

ニーはキーンに無愛想に言うと、タータラの広場へ歩き始めた。

 

 

 

「リムル」

 

「ニー!!」

 

ドレイク・ルフトの娘、リムル・ルフトはニーにウィンクをする。

 

「新造艦?」

 

「まあね」

 

ゼラーナの三倍は大きい、その船をニーは見上げる。

 

「名前はどうするの?」

 

「さぁてね……」

 

ニーはショウの手帳から名前をくすねてこようかと一瞬思った。

 

「しかし、シュンジめ」

 

ニーはリの国の国王「シュンジ・イザワ」の名を憎々しげに呼んだ。

 

「シュンジ様がゼラーナを?」

 

「知っているのか?」

 

「ショウが私をニーの所へと連れ出したとき、あの王は見逃してくれた」

 

「そうなのか?」

 

「何年も前の話」

 

リムルはニーに言葉を続けた。

 

「シュンジ王は決して悪い男でない」

 

「かもなあ……」

 

ニーは遥か遠くにあるリの国の事を考えながら、月日の流れの早さを実感していた。


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