聖戦士伝説 ~カ・オスの聖戦士~   作:早起き三文

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17話 剣履く理由

「ウィル・オー・ウィスプ」

 

そうシュンジは目の前に建設されている巨大砲を見ながら呟く。

 

「ドレイク殿もやりますなあ」

 

「リの国に任せるとはね……」

 

シュンジはザン騎士団長と言葉を交わす。

 

「城攻めの切り札ですか……」

 

「よくやるよ、ドレイクは」

 

シュンジはそう呟き、ボワ技師に顔を向ける。

 

「我々、リの技師ではできないものですよ」

 

ボワは巨大砲の近くで働いているアの国の技師達の姿を見ながら、少し悔しそうに顔を歪める。

 

「ドレイクは俺たちを信用している?」

 

「さぁてなあ……」

 

ザンはどう表現していいか解らない顔をした。

 

「しかし、エサはくれたな?」

 

「ヨルムーンガント、凄い艦です」

 

ボワは呆れたようにヨルムーンガントと呼ばれた艦を指差す。

 

「気前の良い事だこと」

 

「ゲドやドロと同じだろ?」

 

いつの間にか近くにやってきたトカマクが皮肉気にシュンジに言う。

 

「出来たもんをポンポンとあげて、腹の大きさを見せつけるってね」

 

「ふん……」

 

シュンジは不満げに鼻をならす。

 

巨大砲の工事の音がリの王城「トルール」へ絶え間なく響いた。

 

 

「ゼラーナの前哨基地と?」

 

「左様」

 

ドレイクは夏の日差しで汗をかく剃髪してある頭をなでながら話す。

 

「この多島海の小島から」

 

ドレイクは地図にラウとナの間にある広大な海の一点を指す。

 

「このエルフ城」

 

アの国の中心を指差す、多島海の小島とやらから西にあるアの国の中心へ左方向に線を引く。

 

「そして、このケムとハワの間に」

 

地図の南方向、海の近くにポインタを置き、エルフ城のポインタから斜め下に線を引く。

そして、多島海の島からもまた斜め下に線を引く。

 

「三角形……」

 

「これがゼラーナの行動線であるな」

 

ドレイクはそう言い、南のポインタへ手を置く。

 

「そこを叩けば、ゼラーナは行動の自由を失う……」

 

「そう言うことだ、シュンジ王」

 

ドレイクは一息つき、水を飲み干す。

 

「アの国からは?」

 

「ガラリアが出る」

 

「久し振りだな……」

 

「ふふ……」

 

ドレイクは含み笑う。

 

「ケムも……?」

 

「頼んではいるがな……」

 

ドレイクは自分の頭を撫でながら、シュンジに答える。

 

「難しいかな……」

 

「やれば、喉の大骨がとれるよ……」

 

シュンジは黙って頷いた。

 

 

 

「ヨルムーンガントで?」

 

「リィリーンでは信義にもとるでしょう」

 

シュンジは唇に手を触れながら呟く。

 

「俺とあと数人…… アルダインが出れればそれで……」

 

「あの剣はどうしますか?」

 

「持ってくさ…… もちろん」

 

シュンジはあまり気乗りしない顔でカ・オスの剣の事を言った。

 

「カ・オスとはまた大げさな……」

 

女性騎士エフアが忍び笑いをあげる。

 

「カ・オスって実のところなんだ?」

 

シュンジは皆に訪ねる。

 

「ガロウ・ランの住むポップ・レッスのさらに下、地の果てのことさね」

 

ガロウ・ランの密偵長であるサーラが気だるげに語る。

 

「ガロウ・ランにも劣るコモン、地上人が行き着く果てでありますよ」

 

リの国の治安維持長であるバラフが言葉を引き継ぐ。

 

「地の最果て……」

 

「強い剣なんでしょうなあ……」

 

身分の低い者達の代表を努めるラージャがそうしみじみと喋る。

 

「カ・オスの剣……」

 

シュンジはくの字に曲がった剣を思い出しながら眉をひそめた。

 

 

 

 

 

「シュンジさん」

 

「ん?」

 

窓から月を見上げながら、シュンジは答える。

 

「ショウさんやマーベルさんは何でナやラウの為に働くのでしょうか?」

 

フィナがランタンの火を見ながらシュンジに語りかける。

 

「さあねえ…… 俺達と同じじゃないか?」

 

「同じ?」

 

「俺達だって、何故ドレイクに協力しているか解らないじゃないか」

 

「まあ……」

 

フィナは何か悲しそうな顔をする。

 

「今から全ての約束を反古にして、ナに付くことだって、理屈では不可能ではないさ」

 

「でも……」

 

「出来ないよなあ……」

 

シュンジは上体を起こす。

 

「俺はリの国はもちろん、ドレイクやバーン、ガラリアもか、好きなんだよ。多分」

 

「マリアさんや、トッドさんも」

 

「そうだね……」

 

「ゼラーナの人たちも同じ事」

 

「同じだろうさ……」

 

シュンジは少し投げやりに答える。

 

「悲しいです……」

 

「……」

 

「みんな良い人達なのに」

 

シュンジはそれに答えない。

 

「少し、剣の稽古をしてくる」

 

シュンジはフィナを置いて、廊下へでる。夏の空気が廊下に満ちている。

 

「戦う理由か……」

 

シュンジは誰もいない廊下で呟いた。


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