ラース・ワウの森の空き地へアルダムを停めるシュンジ。エンジン・キーを抜き、コンソールからコンバータ停止信号を機体に送る。
「見つからないとは思うがね」
シュンジとフィナはラース・ワウの機械の館へ脚を運ぶ。ここへ来るのは本当に久しぶりだ。
「ドレイク殿はいないだろうな……」
「ショット・ウェポン様ならいるかもしれませんよ」
「燃料を分けてくれるかな?」
「くれるでしょうね」
シュンジ達は真冬の冷たい風を身体に感じながら、ドレイクの城下町を歩いて行った。
「マリア殿!!」
「シュンジ王か!!」
ケムの国のマリア将軍はシュンジに駆け寄る。
「ご無事でしたか、シュンジ王」
「何とか……」
二人は固く握手をする。
「お久しぶりです、シュンジ王」
アの国の機械開発の権威、ショット・ウェポンがシュンジに挨拶をする。
「元気ですか、ショット殿?」
「忙がしくて、風邪をひいている暇もありませんよ」
笑いながらシュンジはショットと握手をする。
「せっかくだから少し話したい、良いか?」
「茶を飲みにきたのかよ…… シュンジ王?」
ショットはからかいながら、機械の館へと案内した。
「地上へね……」
ショットは興味深そうにシュンジの話を聞き入る。
「何故私を呼ばない?」
マリアがそう言いながらシュンジを睨む。
「知りませんよ……」
シュンジはそう言いながら、ショットの隣に座っている少女に顔を向ける。
淡い赤色の髪をした少女である。
初めて見る顔だ。
そのシュンジの視線に気付いた少女は自己紹介をする。
「エレ・ハンムと申します」
少女はそう言い、シュンジに丁寧な礼をする。
「ミの国の?」
「ええ、人質です」
エレはそう微笑む。
「でもないでしょうに……」
ショットが苦笑いを浮かべる。
「母上と一緒にミへ帰る事もできましたのにねぇ……」
「そうなんですか?」
「ドレイクはそう勧めた」
ショットはオーラバトラーの木彫りの彫刻を手でもてあそびながら説明する。
「エレ殿は何故アの国にとどまる?」
シュンジがエレに微笑む。
「だって。 面白いんですもの! 地上人も機械も、何もかも!!」
「ドレイクは憎くない?」
「憎いに決まっているでしょう!?」
エレはそう言い、けたけたと笑う。
「嬢ちゃんは……!!」
マリアが苦笑する。
「エルフ城包囲は?」
シュンジはマリアに訪ねる。
「良くないな」
「ほう……」
「ナの国から雲霞の如く、増援がくる」
マリアは硬い顔をする。
「ドレイク殿は兵糧攻めのつもりか」
「そんなわけがあるか」
マリアがコーヒーを啜る。
「食糧生活日常品など、夜にエルフ城の上からポトンと落とせば済む。オーラマシンもパラシュートで落とせる。根比べだよ」
「ラウの国は?」
「いよいよ二つの国を止めに入っている」
「二つの国ね……」
シュンジはフィナにクッキーを渡しながら口ごもる。
「もうドレイクが引いて済む話ではないな」
「戦争だよ」
「お祖父様は戦争を止めに入っています」
エレがシュンジの持ってきたマンガを読む手を休めて、口を挟む。
「あなたの母上の父であったな」
ショットが報告書にサインを書きながら話す。
エレは再びマンガに没頭する。
「長引くかな?」
「何年がかりになるかもな」
ショットが仕事の手を休め、話に入る。
「特にドレイク軍はドゥミナントというオーラマシンには苦戦しているらしい」
ショットがお茶を飲みながらシュンジに話す。
「ドゥミナント?」
「F22だよ」
「ああ……! ドミナントファイター……!」
シュンジはバッグから地上から持ってきた本をショットに見せる。
「世界の航空機図鑑」と書かれている。
金額一千円なり。
「はは……!! こんなのはマンガと同じだよ…… 当てずっぽうで書かれているだけさ……!!」
ショットは苦笑しながらF22のカラーページをヒラヒラさせる。
「役にたたんか?」
「いんや……」
ショットはその本を傍らのエレへと渡す。
「これもキラキラと!! 地上の本!!」
エレはその単行本のカラーに感動しながら食い入るように見る。
「ドレイクが引いてもナがアを乗っ取るか……」
「ナの聖王の考えは解らんさ」
「聖王?」
シュンジがショットに聞き返す。
「ナの国の統治者だよ」
ショットがペラペラとめくったマンガにでてきたロボットをエレに見せながら言い放つ。
「地上にもオーラバトラーが!?」
エレがきゃっきゃっと喜ぶ。
「ナとはどういう国なんだ」
「知らん」
ショットは無愛想に言う。シュンジはムッとなる。
「そんな言い方はないだろう?」
「いや、ほんとにそうなんだ、シュンジ王」
マリアが難しい顔をして言う。
「サムライのいた頃のジャパンだよ、本当に良く解らないんだ」
何十年もバイストン・ウェルにいるマリア将軍がそう言うと説得力があるように感じる。
「解っているのは」
ショットがマンガを読みながらシュンジに言う。
「機械、オーラマシンが無尽蔵に湧き出てくる国というだけだよ」
「そうか……」
シュンジは昔会ったナの国の王女「シーラ・ラパーナ」の顔を思い出しながら頷いた。
「オーラマシンはショットが作ったんだよな」
シュンジはショットに聞く。
「そうだ」
ショットはマンガに夢中だ、ロボットマンガが好きなのかもしれない。
「どこからそのアイデアが?」
「知らん」
「はあ!?」
フィナがすっとんきょうな声をあげる。
「偶然ドレイクの元へ下りて、それからガロウ・ランに対抗するためのアイディアを出そうとしたとき、頭に浮かんだ」
ショットはマンガの二冊めに取りかかる。
エレがショットの読み終えたマンガをぶんどる。
「ただ」
ショットは「主役機の交代か」とマンガの感想を言いながら、シュンジに顔を向ける。
「デーモを見たときかもしれない」
「デーモ?」
シュンジが聞き返す。
「悪魔の事だよ、シュンジ王」
マリアがマンガをめくりながら、シュンジに言った。
「ではお元気で、ミス・マリア」
「ミセスだよ、ショット殿」
「ケムの国王は亡くなられて久しいでしょう」
「二十年も前の話だ」
「ではミスだよ、美しいアフリカの人」
「オールド・ミス!! 私が四十を迎える歳だとわかっているの?」
マリアは少し腹を立てたようだ。
「良い話のようですねぇ」
エレが興味津々といったふうに二人を見る。
「ショットの好みなのだろう?」
シュンジがエレに笑う。
フィナが面白そうに飛び回る。
「私はオタクは好みじゃないの!!」
マリアが笑いながらラース・ワウの王城へ去っていく。きっとケムのオーラシップでもあるのだろう。
「では、ショット」
「燃料をありがとうございます」
フィナがショットに丁寧にお礼をする。
「また、お会いになるのを楽しみにしております」
エレがシュンジからもらったマンガを大事そうに持ちながら手を振る。
「シュンジ王、ドレイクにも挨拶を!!」
ショットが大声でアルダムのシュンジに叫んだ。