シュンジは暗く深い水の中で目が覚めた。
「……バイストン・ウェル?」
シュンジの乗機「アルダム」の周囲を暗い水が流れている、寒さはない。
「フィナ……?」
隣でフィナが眠っている。シュンジはフィナを起こす。
「ここは……?」
暗く、どこまでも暗い水の底。上下左右もない。
「ワーラー・カーレンです……」
フィナが小声で言う。
暗い水の中に川の流れる音のみがこだまする。
突如、光が川を走った。
周囲に何者かが近づいてくる。明るくなった水の中をシュンジは見渡す。
ポツリ、ポツリと人が近づいてくる。
「フェラリオです」
フィナは羽根を震わせる。
「出てこい! オーラマシンの者よ!!」
明るくなった水の中からフェラリオ達が声を上げる。
「出るか……」
「はい……」
シュンジとフィナはアルダムのコクピットを開き、外へ出る。
水、いや川の流れ。
そのなかにシュンジはいる。
呼吸は出来るようだ。肩にフィナが座る。
大小様々なフェラリオ達の中心にひときわ大きなフェラリオの女が立っている。
以前戦ったガロウ・ランの頭領、ギィ・グッガの巨体を思わせるその女はシュンジに言葉を放つ。
「ジャコバ・アオンの前に跪け」
その女は尊大にシュンジに告げる。
どうしたものかと迷ったが、取り合えず膝をつくシュンジ。
「名乗れ」
「シュンジ・イザワ。地上人にしてリの国の国王であります」
「俗物か」
ジャコバはシュンジを見下しながら吐き捨てた。
「ジャコバ・アオン……」
「お前は……?」
ワーラー・カーレンの統治者は恐る恐る話しかけるフィナに目をやる。
「フィナ・エスティナです……」
「ガロウ・ランのフェラリオ。そうか、そう言う事か」
ジャコバ・アオンは何か一人で合点しているようだ。
「地に落とされし、忌まわしきフェラリオ!!」
ワーラー・カーレンの住人であるフェラリオ達がフィナに向かってそう唱和する。
「お前は再三にも渡り、禁を破り続ける」
ジャコバ・アオンがフィナに憎悪の目を向ける。
「禁を破る忌々しきフェラリオめ」
ジャコバ・アオンの手に大鉈が忽然と顕れる。
「待ってくれ!! ジャコバ・アオン!!」
「どけ、地上人」
ジャコバ・アオンは静かにフィナに近寄る。
フィナの顔は蒼白である。
「何の禁かは知らないが、どうか変わりに俺を……!!」
「お前の血など、何の価値もない」
ジャコバ・アオンはそう言いながらも、手にした鉈をかき消す。
「だが、もしお前が何か償いをしたいというならば、機会は与えよう」
ジャコバ・アオンは配下のフェラリオ達に何か命を下す。しばらくすると、フェラリオ達が何か大きな匣(はこ)を持ってきた。
「フォルト、サンデムル、デル、ラ、カオス……」
ジャコバ・アオンは何やら呪文をその匣に唱える。
「……」
シュンジとフィナがそれを見守るなか、匣は静かに開いていく。中から一振りの剣が取り出される。
「カ・オスだ」
その奇怪に曲がりくねった剣を横たわるアルダムの手の上に置く。
「……シュンジさん」
フィナが震える。
その剣はアルダムの身体の大きさに合わせて大きくなっていく。
「この剣は?」
オーラバトラー用の剣の大きさになったその異形の剣を指差しながら、シュンジは訪ねる。
「カ・オスと言ったであろう」
ジャコバ・アオンの声はどこまでも冷たい。
「この剣でどうしろと……」
「世界に和をもたらせるぞ」
「俺にバイストン・ウェルを征服しろと?」
「解釈など勝手にしろ」
ジャコバ・アオンはシュンジから目を放すと、フィナに向かってこう言う。
「お前をワーラー・カーレンから永久に追放する。コモンでもガロウ・ランでも、永遠とあばずれのまま生きるがいい」
「……」
フィナは涙を流しながら何も答えない。
ちいさな羽根が震える。
「フィナ……?」
シュンジはフィナの「顔」を発見したような気がした。
川の流れが急速に増した、シュンジは慌ててフィナを掴まえる。
「はやくオーラバトラーに乗らないと流されるぞ」
ジャコバ・アオンはサディスティクな笑みを浮かべる。急いでアルダムに乗り込むシュンジ。
「どうしろと……!?」
「どこへ行きたい?」
「リの国…… 俺達の国へ」
「行け」
川の流れが濁流に換わる。
その勢いに流されるままのアルダム。
ヒュウツツツ……!!
バイストン・ウェル、コモン界の天から落下していくアルダム。コンバーターは動かない。
バフゥ!!
強風が吹く。
その風に落下する滝から跳ばされながらアルダムは夜の空へ舞う。
バルルルッ……!!
自動的にオーラコンバーターが点火する。
オーラバトラーアルダムが飛翔する。
「ここは……!?」
「ラース・ワウでは……」
シュンジは眼下に広がる城を見る。
「違うじゃないか……!!」
「知りませんよ……」
フィナは頬に伝わる涙を拭き、シュンジとともにラース・ワウへ降り立とうとした。