シュンジは自らの愛機である巨大兵器であるオーラバトラー「ゲド」を強獣の群れに飛び込ませる。
強獣を操るガロウ・ランたちがシュンジに集中攻撃をかける。
ガフォ!! ドゥ!!
ガロウ・ランの手から放たれる原始的な火縄銃の銃弾ならば、ゲドの装甲を貫く事は出来ない。
しかし、弓矢に括り付けられたガダ――ニトログリセリンに似た爆薬――ならば話は別だ。
シュンジのゲドは身軽な動きで次々と放たれる弓矢をかわしたが、一本の矢がゲドの左手に突き刺さった。
ボウッ!!
矢に括り付けられたガダが爆発してゲドの左腕が吹き飛ぶ。
ガロウ・ランたちはさらに追撃を加えようとゲドに強獣をけしかけようとする。が、ゲドに乗っているシュンジはそれを許さない。
ゲドの背中のオーラコンバーターを全開にしてガロウ・ランの強獣部隊に切り込む。
ゲドの巨大な剣が次々へと強獣達を斬り倒して行く。
シュンジは近くの崖の上にもガロウ・ランの強獣部隊がいることを確認した。
その強獣達に向かってゲドの腰に括り付けられているガダ・グリネイドを放つ。
ボッフォォ……!!
連続投擲されたガダが強獣達を殲滅する。
シュンジはオーラバトラー用の巨大な剣――オーラソード――を肩の鞘へとしまい、同じく巨大なクロスボウを背中から取り出す。
「狙うはガロウ・ランの棟梁、それのみ!!」
シュンジは気合の声を自らにかけると、ゲドを飛翔させた。
シュンジ以外にはここまでゲドを使いこなせるパイロットはバイストン・ウェルにはいないだろう。
シュンジが所属しているリの国の隣国、アの国の地方領主「ドレイク・ルフト」が開発した戦闘機械「オーラマシン」
そのなかでも人型の物を「オーラバトラー」と呼ぶ。
このゲドはそのオーラバトラーの記念すべき第一号機である。
まだまだ試作機の域を出ない期待であり、その戦闘能力は高いとは言えない。
そのくせ扱うのに要求されるパイロットの資質は高いときている。
この機体をあつかえるのは、開発したアの国でもごく限られている。
しかし、シュンジはそのゲドをまるで自分の手足の用に扱っている。それは彼の資質か、それとも彼が聖戦士であることの所以か。
聖戦士。
リの国の伝承曰く「リの国に危機が迫ったときに天から救世主が降り立つ、そは聖戦士なり」
この伝承通り、リの国には聖戦士が降り立った。
この当時
リの国は闇深き地の底に住まう蛮族「ガロウ・ラン」の大規模な侵攻を受けていた。
ガロウ・ランどもはリの国のあらゆる物を壊し、奪い、そして人民を使役する。
この危機に際してリの国の国王「ゴード・トルール」は隣国のアの国、ケムの国と連携をとりつつ対応していたしかし、ガロウ・ランの猛攻に有効な策がとれず、リの国は崩壊の危機にさらされていた。
一時はリの国の王城「トルール城」すらガロウ・ランに包囲されるという事態すらあった。
その時、リの国に救世主が降り立った。
彼の名は「シュンジ・イザワ」
とりたてて目立つ能力が有るわけでもなく、実戦で剣を握ったこともない。
リの国の精鋭部隊である飛竜に乗ることも出来ない。
だが、彼はアの国から借り受けた「オーラバトラー・ゲド」を驚くほどの腕前で操ることが出来た。
リの国では他に満足に扱う者などいない。
それを聞いたアの国の領主であるドレイクはリの国にゲドとオーラボム――複数の乗員で作動する戦闘用オーラマシンだ――を貸してくれた。
「凄いものだな、聖戦士というのは……」
ドレイク・ルフトの第一の部下、アの国にその人ありと讃えられる騎士「バーン・バニングス」が感嘆の声をあげる。
彼らはこのリの国でのガロウ・ラン主力との決戦の時にドレイクから支援役として派遣された。
強力な機械化部隊であり、ゲド数機にオーラボム「ドロ」数機を中心とした高い戦闘力を持った部隊である。
そのうち、ゲドは実験型のフレイ・ボム(火炎放射器)を搭載した最新型である。
もっとも、このたびのガロウ・ラン決戦の時は後方支援をかって出た。
もともとはリの国の戦いであり、他国の自分達が前線に出るべきではないと考えたのだ。
それに、ドレイクから「出来るかぎり、リの国に渡したオーラマシンの実戦データを収集せよ」との命令もうけている。
「……フンッ」
バーンは手にある小さな紙に目をやった。
そこにはドレイクからの二番目の命令、いや密命が書かれているのだ。
「……お館様は少し考えすぎではないのかい?」
バーンはその密命を果たすべきタイミングを計るため、
あらためて前線に目をやった……
「あれがガロウ・ランの頭領!?」
シュンジは巨大な飛竜に乗っているガロウ・ランを見やりながら叫ぶ。
豪華絢爛な金属鎧、一際目立つほど大きい胴体。
誰が見てもただの人間ではないと解る。
「見参!!」
シュンジはゲドのオーラコンバーターの出力を上げる。
「なんだあ!?」
そのガロウ・ランがシュンジに気づく。その人形――ゲド――から放たれたガタを見た彼は乗っている強獣の手綱を大きく引く。
ドゥ!! ドォ!!
ガタが連続爆発をする。しかし、そこには飛竜の形をした強獣の姿はない、はるか上空まで飛竜を飛び立たせたガロウ・ランの男が怒りの声をあげる。
「こしゃくな奴め!!」
ガロウ・ランの棟梁であるギィ・グッガは自分の目の前に飛び込んできた人形のような物を嘲るように笑い、自らが操る大型の強獣をけしかける。
バォフォ!!
その強獣の口から炎の息が放たれる。
シュンジはその炎をかわすと、ゲドの手にあるクロスボウ――城攻め用のバリスタを改造したもの――を強獣に向けて放った。
シュオ! チェ…!
ギィ・グッガの強獣は身軽な動きでその矢をかわすと一気にシュンジのゲドへ向けて突進した。
それを剣を抜いて迎え撃つシュンジ。
ギィンン!!
強獣の巨大な口を剣で防ぐゲド。そのゲドに向けてギィ・グッガが叫ぶ。
「主が聖戦士とやらかぁ!? てめぇを倒して、この国は俺がもらうぜぇ!!」
「させるかぁ!!」
シュンジはコンバーターを吹かし、強獣を押し戻そうとする。そのゲドに向かって、ギィは自ら剣をとって接近する。器用に強獣の胴体を渡り、ゲドのコクピットへ近づく。
「……!!」
シュンジはコクピットをこじ開けようとするギィ・グッガに気づき、傍らのライフルを手に取る。
「シュンジさん……!!」
肩の上に止まっているミ・フェラリオ(妖精)のフィナ・エスティナが怯えた声をあげる。
「大丈夫だ、安心しろ」
コクピットがミシミシと音を立てて開かれる。
「聖戦士よぉ! てめぇには感じるぜな! 俺達地の者の匂いをよお!!」
「お前らみたいのと同類にされてたまるかよ!!」
コクピットが開かれ、ギィ・グッガの姿が目に浮かぶ、まるで女性のような美しい顔立ちであるが、その胴体は歪な野獣のそれである。
シャ! シャ!
ギィ・グッガが剣を次々にコクピット内に突き立てる、それを身体を振ってかわす。
ギィ・グッガが少し身体を引いたとき、シュンジハは小銃をうち放った。
ジュ!! グムッ!!
弾丸はギィ・グッガの肩を撃ち抜く、怒りの咆哮をあげるギィ・グッガは渾身の力を込めてシュンジに剣を突き立てようとする。
「……ガッハッ!!」
シュンジの肩を剣が貫く、飛び散った血と痛みで前が見えない。
「終わりだぁ! 聖戦士!!」
ギィ・グッガが両手に剣を構え、シュンジに止めをさそうとする。身体が動かないシュンジ。
「ここまでか……!?」
シュンジは不覚にも目をつぶってしまった。
シュンジの身体に血飛沫が降り注ぐ、これは自分の血か? 致命傷を負うと痛みを感じないことがある。
そう言うことか?
シュンジは恐る恐る目を開けたら、そこには背後から血を吹き出しながら倒れ伏しているギィ・グッガの姿があった。
その背中には巨大な傷、どういう事だ?
「シュンジさん……」
泣きそうな声でフィナが声をかける。
「フィナ…… そうか、君が」
ミ・フェラリオのフィナがゲドの剣をギィ・グッガに降り下ろしたのだ。
フィナは必死に腕部レバーを動かしてくれたのだろう。
彼女の手に血が滲んでいる。
よくみると、いつのまにかギィ・グッガの乗っていた強獣の姿が見えない。
シュンジはコクピットから辺りを見渡す。
「シュンジ殿!!」
オーラマシン「ドロ」に載ったゴード王とその騎士団長であるザン・ブラスの姿が見える。
彼らが強獣を始末してくれたのだろう。
地面に強獣の死体が燃えているのがわかる。
「……聖戦士」
「!!」
虫の息のギィ・グッガがシュンジに語りかける。小銃を手に取るシュンジ。
「我ら地の者の意思を継げ…… 聖戦士。我らガロウ・ランの聖戦士よ……」
シュンジを睨み付けながら呟くギィ・グッガ。
「地の者の聖戦士だと……!? なんだ……!?」
「カ・オスの聖戦士…… 我が怨念を継げい……!!」
ギィ・グッガはそう言うとゲドのコクピットから身体を傾け、ゲドのコクピットガラスから落ちていった……
地面に叩きつけられるギィ・グッガの姿を見ながら、シュンジは自分が奮えているのを感じた。
「シュンジさん…… 凄い汗が……」
「ああ…… 大丈夫だ、フィナ……」
シュンジは無理してフィナに笑顔を作ると、口のなかでギィ・グッガの言葉を呟いた。
「カオスの聖戦士…… なんだそれは……?」
シュンジは自分の考えを振りほどくかのように頭を振った。
「いや、違う…… 俺はリの国に喚ばれたんだ、ガロウ・ランの戯言など聞くな……!!」
リの騎団の勝利の歓声が聞こえる。
シュンジはギィ・グッガの姿を見ながらいつまでもコクピットから動けないでいた……