少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第22話 新体制

 何とか戦線を開戦前の位置まで押し戻した東部から帝都へと戻って、わたし達は久々の休暇となりました。

 なのですがわたしはターニャに呼び出され、とんでもない話を聞かされる事になったのです。

 

「……………………は?」

「お前にはわたしの後を継いで大隊の指揮を任せたい」

 

 ……何で?ターニャは?

 

「わたしもしばらくは大隊指揮官の肩書きに変わりは無いが、内々に戦略研究室への話が挙がっている。いずれ完全に引き継ぐつもりだ」

 

 ……え、みんなは?

 

「一応大隊はそのままお前に預けるつもりなのだが、悪いが副官であるセレヴリャコーフ中尉だけは連れて行く。だがそれ以外に戦力の引き抜きはしない」

 

 ……じゃあ、わたしは?

 

「それからお前も公式にはまだわたしの部下だが、実質的に大隊指揮官として振る舞って貰って構わん。ほとんどの権限を使えるようにはしてある」

 

 ヴァイス大尉はどうするんですか?

 

「わたしも最初はヴァイス大尉に引き継がせようと思っていたのだがな。そのヴァイス大尉直々の推薦でティナが相応しいだろうとなった」

 

 ………………うん?

 

「まあ、しばらくはヴァイス大尉がフォローしてくれる手筈になっている。後をよろしく頼むぞ」

 

 ちょっと待って!

 何?どう言う事!?

 えーと、えーと、一旦落ち着いて整理しましょう。

 ……つまりはターニャとヴィーシャが大隊を抜けて、その代わりに何故かわたしが大隊長になると言う訳ですか。

 なるほどなるほど、そんなの……。

 

「駄目に決まってるじゃないですか!!」

「……あ、アルベルト大尉?」

 

 あれ、ヴァイス大尉?

 何でこんな所に?

 ……えーと、もしかして今のは。

 

「…………夢?」

「おや、アルベルト大尉。居眠りですか?」

「あ、あはは。お恥ずかしながら。いやーびっくりしました。ターニャとヴィーシャが大隊からいなくなってしまう夢を見るとは……」

「ははは、大尉は冗談がお上手ですね」

「あはは、そうですよね。そんな事あるはず……」

「それは夢では無く、紛れも無い事実ではありませんか」

「……………………え?」

 

 事実?何が?

 ターニャ達がいなくなる事?

 夢じゃ、無いの?

 と言う事は……

 

「……もしかして、わたしが大隊長ですか?」

「はい。先ほど引き継いだばかりではないですか」

「じゃあ、ターニャ達はもういないんですか?」

「まあまだ正式ではありませんが。今は参謀本部にて割り当てられた執務室にいらっしゃるかと」

「だ、駄目!そんなの駄目なのです!大体わたしはターニャを守る為にここにいるのに、それじゃ意味無いじゃないですか!」

 

 そもそもターニャと一緒にいられないなら、軍人になった意味も無いのです。

 いえ、最初の頃は別々になった事もありましたけど、もう散々一緒だったじゃないですか。

 今更離れるなんて、ひどすぎます。

 そんなの耐えられるはず無いのです。

 

「しかし、参謀本部の決定ですので」

「うー、何かヴァイス大尉冷たくないですか?……泣きますよ?」

「そ、それは、ご遠慮頂ければ……」

「大体、何でわたしが隊長なんですか?普通副長のヴァイス大尉が引き継ぐものじゃないんですか?」

 

 そうです。

 ヴァイス大尉が次席指揮官だったのだから、そのまま繰り上がるのが普通のはずです。

 

「ええ、まあ。少佐殿にもそう言われましたが、私がアルベルト大尉にして頂きたいとお願いしたのです」

「何でですか?わたし別に指揮経験そんなに無いですし、ヴァイス大尉の方が向いていると思うのですが」

「我々の指揮官はあのデクレチャフ少佐殿だったのです。ならばその代わりを務められるのは、アルベルト大尉以外いないかと。これは何も小官個人の意見だけでは無く、要員一致の思いでもあります」

 

 みんながわたしの事をターニャ並みに信頼してくれているのなら、それは確かに嬉しいのですが。

 でもターニャと別れてしまうのはツラすぎます。

 それにヴィーシャまでいなくなってしまうなんて。

 わたしはこれから何を頼りにして生きて行けば良いのでしょう?

 わたしが微妙な顔をしていたせいか、ヴァイス大尉が励ましてくれました。

 

「まあ我々が前線で奮起する事で、後方にいらっしゃる少佐達をお守りする事に繋がるのではありませんか?それにこの戦争を終わらせる事が出来れば少佐殿と共にいる事も出来るでしょう。ならば我々もこれまで以上に活躍していかなければ。少佐殿がいなくても大丈夫だと思わせるほどにやってやりましょう」

「むぅ……、分かりました。わたしもいつかみたいにターニャの代わりとなれるよう全力を尽くします」

「それは、ご勘弁願います……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 やって来ました西方です!

 え?今更西方で何をするかって?

 そ・れ・は!

 対連合王国の作戦なのです!

 大隊の司令官であるターニャが戦略研究室の所属になるとの事で、その実績の為に麾下(きか)であるわたし達も戦技研究との名目で主戦線から離れたここ西方にやって来たのです!

 ……何でわたしがターニャ達と離れる為の協力しないといけないんですか!?

 ふざけんな!

 

 ……すみません、少し取り乱しました。

 一応、新たに実戦指揮官となるわたしの試用試験も兼ねてるみたいで、ここでの評価に伴い少佐昇級と共に正式に大隊指揮官就任となるそうです。

 それならここでわたしが失敗すれば、ターニャ達は戻って来ますかね?

 ……いや、多分それは無理ですね。

 はぁ……。

 

 今、ここ西方では連合王国に対する威圧として、王国との間に広がるドードーバード海峡上空の制空優勢の確保を目指しているらしく、わたし達もその協力をしています。

 とは言え直接的な航空戦ばかりでは無く、戦技研究として色々やらされます。

 しかもその度に使い道の良く分かんない装備を押し付けられ、運用テストの真似事までさせられます。

 まあ後方の戦場なのでそう言った事をする余裕があるのだと思いますが、やらされる方はたまったものではありません。

 しかも後方だろうと戦場は戦場なのですから当然敵はいる訳ですし、こちらは別に余裕がある訳じゃないのですが。

 何せ主に戦いの場となるのは敵艦隊のうろうろするドードーバード海峡上空か、その海に隔てられた敵地上空のどちらかです。

 落とされても友軍に回収してもらえた今までとは違って敵に捕らわれるリスクが非常に高いですし、しかも捕らわれるならまだ良い方で、何と敵地に落ちた魔導師がそのまま連合王国市民に袋叩きにされる事例が多発しているようです。

 これは魔導師が個人でも一般の人より強大な力を持つ為らしいですが、いくら何でも野蛮すぎないでしょうか?

 ちょっと怖すぎるのですよ。

 

 そんな訳で結局わたし達はいつもの通り危険な戦場に追い込まれている訳です。

 しかも最近、何やら怪しい新手が確認されているそうです。

 連合王国に協力する義勇魔導部隊。

 その国籍は何と合州国。

 確かに現在合州国は帝国の交戦国では無いですが、合州国政府は自国民保護の為なら介入を考えるとか良く分からない事を言っているそうです。

 何それ、取り敢えず殴るけど、殴り返されたら本気で怒るよって事ですか?

 馬鹿なんじゃ無いですか?

 西方軍としてもどう対処すべきか迷っていましたが、積極的には関わらないが立ちはだかるなら敵として対処するしか無いと言う結論に達しました。

 まあしょうがないですよね?

 相手は撃って来るのですから、こちらも撃ち返さなければやられてしまいます。

 その後は政治の問題であり、わたし達軍人の考える事ではありませんもの。

 

 

 そう言えばわたしの副官なのですが、ヴァイス大尉の推薦でグランツ中尉を起用しました。

 当然ヴァイス大尉の方が事務仕事は得意ですが、引き続き副長を務めるヴァイス大尉に副官まで押し付ける訳にはいきません。

 なのですが、そのグランツ中尉はわたしの隣でウンウン唸っています。

 わたしもそんなに事務得意じゃないですし、困りました。

 ターニャは事務得意なのですから、せめてヴィーシャだけでも返して欲しいと思うんですが、まあ無理でしょうね。

 ならそんな事をいつまでも考えていても仕方無いですし、わたしとしてはグランツ中尉を育てて行かなければならないのでしょう。

 

「グランツ中尉、気持ちは分かりますがあまり悩んでいてはいつまでも終わりませんよ」

「も、申し訳ありません……」

「ああ、いえ怒っている訳では。わたしも事務は苦手ですし、中尉の気持ちは分かりますので」

「え!?いえ、しかし。とてもそうは見えませんが……?」

「ふふ、ありがとうございます。まあ経験とコツですかね。グランツ中尉は少し真面目すぎます。こう言う書類は書き方があるんですよ」

「そう言うもの、ですか?」

「そう言うものです。では今日はそれも教えて上げますので、手早く済ませてしまいましょう」

「あ、ありがとうございます」

「他にも分からない事は何でも聞いて下さいね?わたしは別にデグレチャフ少佐みたいに厳しくするつもりはありませんから。あ、今のは少佐には内緒ですよ?」

「は、はい。了解であります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日もいつも通り連合王国との小競り合いです。

 ですが今回は特に変わった事も無いただの航空戦。

 未だ指揮官に慣れないわたしにとっては、余計な事を難しく考える必要も無いので助かります。

 そしてある程度は片付けましたし、あまりやり過ぎても帰還が困難になります。

 今日の所はこれくらいで良いのではないのでしょうか。

 

「これで制圧完了とします。集結して下さい。大隊各位、損害報告」

 

 すると大隊を取りまとめたヴァイス大尉が近付いて来ました。

 

「大隊の集結は完了しました。損害軽微。脱落はいません。戦闘続行に支障ありません」

「ありがとうございますヴァイス大尉。ですが、そろそろ帰りましょう。余力は残しておきませんと。泳いで帰りたくはありませんからね」

「了解です」

 

 さて、帰還する隊列はどうしましょうかね?

 先頭と殿をそれぞれヴァイス大尉かグランツ中尉に任せるとして、どちらが良いでしょうか。

 個人的にはわたしが殿をやっても良いのですが、流石に指揮官としては出来るだけ中央にいた方が良いですかね。

 

「ヴァイス大尉、中隊を連れて先導お願いします。グランツ中尉は殿を」

「私が先頭ですか?」

「グランツ中尉は対艦戦闘の経験がほとんどありませんから、ヴァイス大尉の方が適任かと」

「了解しました」

「とは言え殿も重要です。追撃されるなんて御免被りたいですからね。グランツ中尉、警戒よろしくお願いします」

「はい、了解です」

 

 そうして隊列を組み直し、帰還しようとした時です。

 グランツ中尉が突然声を上げました。

 

「こ、こちらに突っ込んで来る敵影多数!高度、速度からおそらく戦闘機と思われます!」

 

 言ったそばからですか。

 

「01より大隊各位!急いで高度を落として下さい!重装備は投棄!最悪海に飛び込んで……」

「だ、大隊長殿、お待ち下さい!戦闘機群は友軍です。識別票を確認出来ました」

「……了解しました。皆さん聞いての通りです。装備の投棄は中止して下さい。せっかくですからご一緒させて頂きましょう」

 

 向こうもこちらを識別したのでしょう。

 最大戦速で突っ込んで来ていた戦闘機が、ゆるやかにこちらと平行するルートを取り始めます。

 

『友軍か。識別信号を見るまでヒヤヒヤしたぞ』

「こちらフェアリー01。ヒヤヒヤしたのはお互い様です。戦闘機など、我々魔導師には恐怖の対象ですから」

『あんた達が恐怖だって?悪い冗談はよしてくれ。とは言えライン以来だな。こちらはモスキート01。貴隊のような精鋭とまたご一緒出来て光栄だ』

 

 なるほどそう言うお相手ですか。

 しかしわたしはターニャではありません。

 

「残念ながら、人違いです。わたしは白銀ではありませんよ」

『何?どう言う事だ?』

「詳しくは帰ってからお話ししましょう。ご一緒しても?」

『ああ、だがこの高度差では……。いやあんたらには無用な心配だったか?』

「ええ、わたしもフェアリー。ご遠慮は無用です」

 

 そうして共に帰還後いくつかお話しさせて頂き、モスキート改め西方方面軍第一○三航空戦闘団の皆さんとは仲良くなりました。

 その後、交流会にもお誘い頂いたのですが、あいにくわたしは司令部に呼び出されてしまいました。

 

「ヴァイス大尉、グランツ中尉。せっかくお誘いして頂いたのですから、本日ご一緒した皆さんにお礼をしておきましょう。お礼の品はヴァイス大尉に任せます。大隊公庫から適当に見繕って下さい」

「了解しました。大隊長殿は?」

「残念ながら、これから指揮官会合の為わたしは行けません。出来ればそちらの無礼についても謝っておいて下さい」

「なるほど。では我々にお任せ下さい。戦闘に関する聞き取りも多少は行えるかと」

「お願いします。わたし達は戦技研究の為にここにいるのです。ですからグランツ中尉、あまり飲み過ぎては駄目ですよ?」

「り、了解いたしました」

 

 グランツ中尉が神妙そうな顔で頷くのを見て、少し笑ってしまいました。

 ちょっとした冗談のつもりでしたが、やっぱりグランツ中尉は少し真面目過ぎますね。

 

「ふふ。お二人には期待しているのです。よろしくお願いしますね?」

「おや、お褒めに預かり光栄ですな」

「あ、ありがとうございます」

 

 実際わたしだけが新しい体制にてんてこ舞いなだけで、元々副長であったヴァイス大尉はもちろんの事、グランツ中尉もターニャがいた頃から色々やってましたので、その点についてはとても信頼してます。

 むしろわたしの方こそみんなに迷惑を掛けていないか心配なほどです。

 でもせっかくターニャから預かった大隊ですし、そうで無くとも大切なみんなの為なのですから、わたしも精一杯頑張るのです!


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