少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第12話 もう一人の悪魔

 皆様ご機嫌よう。

 ティナ・アルベルト中尉です。

 先日、我らが二○三大隊は初戦を華々しく飾り帝国軍上層部にその実力を余す事無く示す所となりましたが、つきましては過分な評価を頂けたのか早速次なる戦場を用意して頂ける事となりました。

 さらに我々も第二○三“遊撃”航空魔導大隊と名を改められ、更なる活躍を期待される次第であります。

 大隊にとって二度目の晴れ舞台として提示されたのは、懐かしの戦場北方ノルデン。

 南の次は北と、まさに遊撃の名に恥じぬ期待にわたし達も一層奮励努力して参りたい所存でございます。

 

 

 まさかダキアが落ち着いたと思ったら、休む間も無く再び前線に送られるなんてターニャじゃ無くても嘆きたくなるのです。

 そのターニャはレルゲン中佐の下へ直接抗議しに行ったみたいですが、それで参謀本部の決定が覆るとは思えませんし、あまりレルゲン中佐に無理を言ってはいけませんよ。

 ただでさえ、この間お会いした時にお疲れのご様子でしたのに。

 

 確かにヴァイス中尉の例も有りますし、ターニャが危惧するのも分からなくはありません。

 でもターニャが散々実弾演習だと豪語していたせいかは知りませんが、参謀本部は訓練は充分だと判断したそうです。

 案の定辞令が覆る事があるはずも無く、わたし達は大人しく北へと向かうのでした。

 

 北方、ノルデンと言えばわたしに取っても初めての戦場でしたが、ターニャに取っては全ての始まりと言っても良いほどでは無いでしょうか。

 今こうしてターニャが大隊を率いているのも、もとを正せばノルデンにおける多大な評価による物と言えるでしょう。

 あれからもう二年も経つのですね、何だかとても懐かしく感じます。

 

 しかし二年経って勝敗が決していないと言うのは一体どういう事なのでしょうか。

 いくら雪と山に阻まれているとは言え協商連合程度、既に決着してなければおかしいのです。

 ターニャは個人的な推察だと言ってましたが、諸列強の介入は確実なのでしょう。

 なぜ皆そんなに戦争を続けたがるのかと、呆れてしまいます。

 確かにそれぞれ言い分はあるのでしょうし、わたしとしてもそれは理解出来無くもありません。

 でもそんな物、ターニャの可愛さの前では全てが霞むのですよ。

 彼らには一度、それを教えてあげなければなりませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノルデンに到着するや否や、わたし達には友軍の救援が命じられました。

 まだ正式に着任すらしていないのに、ちょっと人使い荒すぎではないでしょうか?

 とは言え仲間の危機ともなれば是非もありません。

 わたし達はすぐさま展開し、敵を目指して飛びます。

 救援目標でもある物資集積所を守備していた友軍部隊のヴァイパー大隊はこちらと合流を目指すようですが、ターニャは不要だと切り捨てました。

 

「『援軍ゴ無用。ヴァイパー大隊ハ直チニ後退サレタシ』送れ」

 

 ターニャがそうヴィーシャに命じますが、流石にそれでは角が立ちますよ?

 しかしターニャがいらないと言うのなら勝手に合流を許可する訳にもいきません。

 まったく、仕方ありませんね。

 

「……すみません、ヴィーシャ。『ヴァイパー大隊ハ後退サレタシ。早急ノ再編ヲ願ウ』これでお願いします」

「は、はい。了解いたしました」

「ん?アルベルト中尉、何かあったのか?」

「ああいえ、別に。あれ、何か……?何でしょうこれ、……敵の観測波でしょうか?」

「何?確かに。覗き見とは破廉恥極まる」

 

 上手く誤魔化せましたね。

 丁度良いタイミングで観測術式に反応が合って助かりました。

 しかしこんな所で盛大に観測波を撒き散らしてるなんて、相手は素人なんでしょうか?

 いくら何でも魔導師を舐め過ぎだと思いますが。

 案の定ターニャによって吹き飛ばされましたし。

 いやー、相変わらずすごいですね。

 射撃においてはターニャに勝てる人はいないんじゃ無いですか?

 

 ちなみに今ターニャが吹き飛ばしたのは、敵の指揮所であったようです。

 これでお仕事が楽になりますね。

 空と言う広大な空間において、頭を失った手足など烏合の衆であるのです。

 では手早く蹴散らすとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵は前衛が準連隊規模、後衛に二個中隊、そして爆撃機多数。

 しかも国籍不明の“義勇”魔導師部隊の存在も確認されています。

 敵前衛は第二から第四中隊に任せ、わたし達第一中隊は回り込んで後衛及び爆撃機を叩いた後に、敵前衛を挟撃する手筈です。

 しかしターニャが発破をかけたお陰でわたし達を待たずとも敵の前衛は崩壊しそうですね。

 ちなみにその時のターニャの発言によると、一番成績の悪かった中隊長は皆に高級ワインを奢らされる様です。

 まあわたしは飲めませんけどね。

 

 

 

 しばらくすると後衛の敵を捉えましたが、しかし。

 

「爆撃機はどうするんですか?」

「悪いが、わたしが独り占めだ。丁度空軍でもエースとなりたかった所だ」

 

 何てターニャはとんでも無い事を言い出しました。

 え、そんな事出来るんですか?

 そんな思いでヴィーシャを振り返れば、彼女は困った様な顔で首を横に振ります。

 

「その、戦闘機で墜とす必要があると思われますが……」

「そうなのか?ならば借りてくれば良かったな」

 

 ターニャは取りに戻りたいな、などと呟いてますが、わたしにはそれよりも気になる事がありました。

 

「いえ、それよりも。少佐がお一人で行くなら、わたしはどうすれば良いのですか?」

「アルベルト中尉には第一中隊を預ける。敵の二個中隊を叩け」

 

 ターニャはそう言うと一気に爆撃機に向かって飛んで行きます。

 何で一人で行っちゃうんですか!

 わたしの役割忘れてませんか?

 て言うかこの場合、わたし達が成績最下位だったらわたしが奢る羽目になるのでしょうか?

 ……それは嫌なんですけど。

 ならば迅速に、やるべき事をやりましょう。

 何が悲しくて、自分が飲めもしないお酒を奢らなければならないのでしょう。

 

「……仕方ありません。わたしが先行して敵に突っ込みます。ヴィーシャ達は掩護(えんご)をお願いします」

「中尉!?危険すぎます!」

「ふふ、大丈夫なのです。少しくらいは頑張りませんとね。……わたしも奢りは嫌ですから。わたしが落とされない様、掩護頼みましたよ?」

 

 そう言ってわたしも敵を目指して加速します。

 さてお仕事を始めましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方、敵魔導師部隊確認。中隊規模。い、一機飛び出しました。先行してこちらに向かって来ます!」

「何?……どう言うつもりだ?」

 

 観測にあたっていた部下からの不可解な報告を聞き、連合王国軍義勇魔導師部隊の隊長は眉をひそめた。

 

 確かに帝国軍魔導師は優秀だ。

 個々の戦闘能力が高いが故の、柔軟性の高さ。

 こちらとしても火力の低さを統制射撃などで補ってはいるが、それは数が減れば加速度的に弱体化すると言う事でもある。

 個々の質の差は如何ともし難い。

 それほどまでに奴ら帝国の魔導師、ひいてはその演算宝珠の性能は脅威的な物なのだ。

 しかしそれも互いに同数であればの話であり、数的優位を容易く覆し得る物では無い。

 ましてや相手は単騎で向かってくると言うのだ。

 無謀と言う他無い。

 ああいや、ラインに現れた悪魔とやらは単騎で中隊を落とすのだったか。

 大方、錯乱した誰かの妄言だろうが、だからと言って油断してやる道理も無い。

 

「とにかく叩き落とすぞ。相手は一人だ、良く狙えよ。……撃てぇ!」

 

 敵は回避機動もとらず真っ直ぐ向かって来る。

 そこにいた誰もが命中したと確信した次の瞬間、しかしながら信じられない光景を目の当たりにする。

 幾条にも延びる術式弾の間をすり抜ける様にして避けたのだ。

 馬鹿な!

 あんな動き、乱数回避では有り得ない。

 ならば自力で回避したと言う事だが、術式に向かって飛んでいたのだ。

 その相対速度はいかほどの物か。

 人間に成し得る物では到底無い。

 

 ラインの悪魔、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!向こうの奴らも撃って来やがった。このままでは狙い撃ちだ!」

「おい、何とかしろ!敵は一人なんだぞ!」

「だ、駄目だ、振り払え無い!誰か助けてくれ、このままじゃ……!」

「この距離で何故捉えられない!何なんだ!あいつは!!」

 

 統制を乱し、混乱している敵を一人、また一人と斬り捨てて行きます。

 やはり最初に真正面から避けたのが良かったのでしょう。

 ファーストインプレッションは大切ですね。

 それにヴィーシャたちも上手くやってくれているみたいです。

 しばらく敵の統制が回復する事は無さそうですし、よしんば回復したとしてもその頃にはほとんど壊滅してるでしょう。

 

 いやそれにしても、両手両足魔導刃装備は結構便利ですね。

 どんな体勢からでも攻撃に移る事が出来ますし、どの方向にも対応出来ますから死角が減ります。

 ターニャに見せた時は曲技飛行だと言われましたが、対集団戦ではかなり有用な様です。

 

 そもそもわたし、射撃あんまし好きじゃ無いんですよね。

 いやまあ苦手と言う訳では無いですし普通に使えますけど、何と言うか人を殺す感覚が薄い気がするんですよね。

 ああ、勘違いしないで下さいよ!

 別に人を斬った感触が好きだとか、そう言う事では断じてありません!

 ……何となく、無感動に相手を撃ち抜くよりかは、自分が人を殺したと言う事実を感じられる気がするのです。

 今は戦争中でありわたしは軍人ですから、別にそれについて異議を挟むつもりはありません。

 ただ、敵とは言え相手も一人の人間なのですから、その命を奪う重みを忘れたく無いのです。

 きっとこんな事を言えば軍人失格だとされてしまうでしょうから、誰にも言えませんけどね。

 だからこれは、ただのわたしの我が儘なのです。

 

 

 

 わたし達の方も粗方片付いた頃、爆撃機を墜としたターニャが戻って来ました。

 前衛の方も他の中隊の皆さんが頑張っているらしく、一部の敵は壊走を始めているようです。

 部隊再編を終えたヴァイパー大隊も応援に来てくれましたので、敵の追撃は任せてわたし達は残敵掃討にあたります。

 それにしてもこんなに早く再編が完了するとは、いやぁお願いしておいて正解でしたね。

 敵増援も確認されないそうですし、これでお仕事も無事に終わりそうです。

 緊急展開を命じられた時はどうなる事かと思いましたが、最初に敵の指揮所を発見出来た事と言い、運が良かったですね。

 と言うか、ダキアの時と言いわたし達って緊急展開しかしてなく無いですか?

 いやまあ確かに即応部隊ですけど。

 

 文句を言っていても始まりませんし、後始末にかかりましょうか。

 北方方面軍の皆さんに、詰めが甘いと思われたくは無いですからね。


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