少女×幼女戦記【完結】   作:ふぃれ

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第10話 始まりの大隊 Ⅱ

 一カ月に渡る地獄の様な訓練を乗り越え、わたし達は大隊長であるターニャから精鋭部隊の候補として認められるまでになりました。

 ここまでやっておいてようやく候補とは、ターニャの基準は厳し過ぎませんかね?

 既に並みの魔導師は凌駕しているレベルですが、どうもターニャ的にはまだ満足出来ない様です。

 まあ演算宝珠も新型ですし、今までと大差無いレベルでは意味無いですけど。

 

 そう言えば少し気になるのがわたしの持つ宝珠ですが、皆と少し違う様子なのです。

 個体差なのかわたしとの相性が特別良いのかは分かりませんが、何故か他の人達より出力が高いのです。

 一応開発元のエレニウム工廠にも聞いてみたそうですが、原因不明だそうです。

 とは言え別に、出力高くて困る物でも無し。

 そのまま使わせて貰ってます。

 お陰で唯一ターニャに付いて飛ぶ事が出来ますしね。

 実はターニャも普段は九七式の方を使っている様で、その間はわたしの方が速いくらいです。

 

 そう言えば、わたしの宝珠の性能を測る為、ターニャと一対一の模擬戦を行いました。

 流石に勝てませんでしたが、何とか引き分けには出来ました。

 ターニャに追い付く為に頑張った甲斐があるのです。

 魔導刃をいっぱい出しても普通に飛べるのを良い事に両手両足魔導刃装備で接近戦を挑んだら、ターニャには曲技飛行かと怒られました。

 だって撃ち合いじゃターニャに勝てないんですもん。

 

 

 

 

 

 

 

 わたし、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉が初めてティナ・アルベルト中尉殿とお会いした時の印象は、大変失礼ながらわたしの知っている軍人と言う人達はまるで違う方である、というものでした。

 実はその前に一度お会いしていたのですが、その時の中尉は意識を失っていらした事と、その時と今では印象が全く異なるために最初はそうだと気付きませんでした。

 

 中尉は何と言うか、大変穏やかでお優しくいらっしゃって、およそ軍人然とはなさっていませんでした。

 しかし訓練となると途端にそれまでとは別人であるかのように冷静になり、まるで感情を失ったかのような様子にわたしは少し怖いと感じてしまいました。

 しかしどうやら中尉は軍人としてある時とそれ以外で切り替えているだけのようです。

 その証拠に訓練中も中尉はお優しいままで、雪山で崖から落ちそうになったり雪崩に巻き込まれそうになったりしたわたしを何度も助けて下さいました。

 そうしてわたしは、アルベルト中尉殿の事を大変尊敬するに至ったのです。

 

 デクレチャフ大尉殿を除けば唯一の同性と言う事もあるのか、中尉も何かとわたしを気にかけて下さいます。

 中尉とは良くお話しするのですが、なんとデクレチャフ大尉殿と幼なじみであるようです。

 なるほど確かにお二人共とても優しい心の持ち主で、そう言う所は似ているかも知れません。

 

 それから驚いたのが、中尉はなんとわたしより年下と言う事です。

 中尉は大変落ち着いていますし、背もわたしとあまり変わらないので、歳も同じくらいかわたしより上だと思っていました。

 でもそう言われてみれば、年相応と言うか少し子供っぽい所もありますね。

 そこはデグレチャフ大尉殿と比べると大変可愛らしく、わたしとしてもとても好ましく感じます。

 

 

 

「ヴィーシャ?」

「は、はい。何でしょうか、アルベルト中尉」

 

 考え事をしていたせいで、中尉が話しかけて来ていたのに気付きませんでした。

 

「むー、ティナで良いですのに」

「そ、そう言う訳には……」

 

 アルベルト中尉はいつもそう言いますが、そんな事をすればデクレチャフ大尉殿に何を言われるか分かったものではありません。

 

「ターニャの事なら気にしないで良いですよ?ターニャが何か言って来たらわたしが説得しますし」

「あ、あはは……」

 

 大尉殿の事が無くても中尉はわたしより上級者なのですから、呼び捨てなど出来るはずありません。

 わたしは笑って誤魔化す事にしました。

 

「確かに階級はわたしの方が上ですけど年齢はヴィーシャの方が上ですし、そもそもわたしが良いって言ってるのだから別に良いですのに」

 

 ば、バレてる……。

 

 あ、またあの感覚だ。

 中尉の琥珀色の瞳がわたしをジッと捉えて離しません。

 あの目に見つめられると、何となく考えている事がバレてるような……。

 

「あ、あの!前から聞きたかったのですが、その、中尉殿は何故……」

「ヴィーシャの考えている事が分かるかですか?」

「は、はい。……もしかして、人の心が読めるのですか?」

「ふふふ、実はそうなのですよ。でも、ヴィーシャは分かりやすいですからねー。わたしじゃ無くても読めると思いますよ?」

 

 何て、中尉は悪戯っぽい笑みを浮かべてそんな事を仰います。

 その笑顔は、確かに年相応の物で大変可愛らしいのですが、結局中尉の言葉が真実かどうかは分かりませんでした。

 と言うか、冷静に考えたら人の心が読めるなどと言った事があり得るのでしょうか?

 ただ単に中尉はそう言った機微に敏いだけなのかも知れません。

 それともわたしが分かりやす過ぎるのでしょうか。

 

「ヴィーシャ。また考え事ですか?」

「え、あ、すみません」

 

 気付けば中尉はわたしの顔を覗き込むようにしていました。

 その肩口で切り揃えられた黒髪がサラリと揺れます。

 中尉はかなり整った顔をしており、ここまで近いと同性のわたしでも少しドキリとしてしまいます。

 しかも何故か中尉はジッとこちらを見つめたまま動きません。

 

「……むむむ」

「ど、どうされたのですか?」

「いえ、……ヴィーシャもかなり美人さんですよね。スタイルも良いですし。羨ましいのです」

「ち、中尉殿も大変お綺麗だと思いますよ?」

「……ありがとうございます。お世辞でも嬉しいのですよ」

 

 先ほども言ったようにお世辞などでは無く中尉はかなりの美人、いえ美少女だと思いますが、本人は納得されていなかったようです。

 それにあんまり言いたくは無いけど、わたしよりよっぽどスタイルの良い友人を知っているおかげでそれを褒められるのは嬉しくもあり悲しくもあるような。

 さ、流石に中尉よりはあると思いますが、年齢を考えればそれもあまり慰めにはなりません。

 ってそんな事はどうでも良いです。

 とにかくアルベルト中尉は大変可愛らしい方と言う事です。

 

 

 

 そんなアルベルト中尉殿ですが、訓練となると本当に頼もしいです。

 新しく頂いた演算宝珠も既に使いこなしているようで、デグレチャフ大尉殿と同等に飛び回る様には驚きました。

 それに訓練とはいえ、デグレチャフ大尉殿があそこまで追い詰められているのを見たのは初めてでした。

 舞うように飛ぶその姿はまるで、彼女も大尉殿と同じく神に愛されているかのようで。

 わたしは二人も尊敬する上官に恵まれたことに改めて感謝するのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしは久々にターニャとお話ししたいと思い、編成委員会の執務室を訪れました。

 最近のターニャはとても忙しそうで、訓練中はもちろんそれ以外でもあまりお話しする機会が無かったのです。

 

 ちなみにわたしの肩書きは大隊長随行補佐副長相当官と言う物で、一応形式上は副長となったヴァイス中尉と同格ですが実際の指揮権はありません。

 しかし何故か皆、わたしをターニャと同格に扱ってきます。

 ヴィーシャに聞いてみた所、

 

「デグレチャフ大尉殿と対等に話されるのは、アルベルト中尉殿くらいですから」

 

との事ですけど、おかしいですね?

 わたしとしては皆と同じ様にしているつもりでしたが。

 

 ともあれわたしはターニャ専属の盾と言う訳です。

 所属も一応は第一中隊ですが、それよりもターニャとの二人一組(ツーマンセル)が優先されます。

 何でも元々は存在しない役職で、ターニャが編成委員長権限で無理やり作ったみたいです。

 曰く、ターニャと二人一組(ツーマンセル)を組んで飛べるのがわたししかいないから仕方無くだそうです。

 

 ふふふ、分かってますよターニャ?

 つまりこれは、いつでもわたしと一緒にいたいと言う事ですよね!

 もう、照れますね!

 待ってて下さい、今逢いに行きますからね!

 

 そうして執務室の扉を開けたわたしの目に飛び込んで来たのは、何やら壁とにらめっこをしているターニャの姿でした。

 

 

「何してるのですか?ターニャ」

「っ!?何だ、ティナか!いや、何でも無い!悪いが所用があるのでな、また後でな!」

 

 そう言ってターニャは慌てて部屋から出て行きました。

 

 え、避けられてる!?

 何で!?

 わたし何かしました?

 ターニャの気持ちに応える為にここまで来ましたのに……。

 突然の事に茫然自失としていると、ふと先程ターニャが眺めていた壁が目に入りました。

 

 あれ、なんでしょうこれ?

 柱の所に何か引っ掻いた様な跡?

 …………………ははぁ、なるほど。

 ターニャはまだ背が小さい事を気にしてるんですね。

 前に相談された時はターニャの事を思ってそのままでも充分だと言ったんですが、どうやら逆効果だったようですね。

 それでわたしに背の事気にしてるのバレたくなくて、逃げたと言う事ですか。

 しかしどうしましょう、今ターニャに何を言っても無駄でしょうし。

 うーん……、そう言えばヴィーシャもここにいるんでしたね。

 せっかくですから、挨拶して行きましょう。

 

 そんな事を考え、ヴィーシャを探して廊下をフラフラしていると、あまり見慣れない人影を見かけました。

 あれは確か……。

 

「レルゲン中佐殿」

「む……。貴官は確か、デグレチャフ大尉の所の……」

「はっ!ティナ・アルベルト中尉であります」

「そうか。デグレチャフ大尉に用があるのだが……、今は執務室か?」

「はい。先程所用で離れられましたが、今はお戻りになっているかと」

「ならば、案内を頼む」

「はっ、了解いたしました」

 

 レルゲン中佐殿は若くして参謀本部入りを果たされ、将来を嘱望される俊英の一人でおられます。

 わたしも士官学校時代に一度お会いした事があるので、お顔は存じ上げていました。

 ちゃんとお話しした事が無いので詳しくは分かりませんが、少し真面目に過ぎる気もしますがかなり公正な方であるのかなと言う印象です。

 わたしとしてもこう言う方は好ましいですし、何より軍上層部におられる方なのですから友好的に振る舞うのが正しいでしょう。

 

 

「失礼します。デグレチャフ大尉、参謀本部より公用使のレルゲン中佐がお見えです」

「通せ」

「はっ」

 

 レルゲン中佐の案内を終え、そのままわたしは退室しようとしたのですが何故かターニャに引き止められました。

 え、何で?

 流石にレルゲン中佐も訝しんでおられます。

 

「良いのか?」

「はい。彼女は私の専任補佐官です。私の影の様なものと思って貰えれば」

「そうか。では要件に入ろう。まずは昇進おめでとう、デグレチャフ少佐」

 

 レルゲン中佐から告げられたのは、ターニャの昇進。

 つまり大隊の編成は完了したと見なされた様です。

 ターニャは練度不足を危惧していましたが、どうも状況はあまり猶予が無いらしく大隊は南東へと向かえとの事です。

 北でも西でも無く南東との事ですが、レルゲン中佐殿の個人的な助言によるとダキア大公国との開戦が危惧されている様です。

 おそらくこれを伝える為に、レルゲン中佐自らわざわざ公用使としていらしたのでしょう。

 やはりレルゲン中佐は好ましい方であるようですし、それはターニャも同じなのか笑顔でお礼をしていました。

 ですがそのタイミングで言うのはあまり良く無いのですよ、ターニャ。

 戦争になるかも知れないと言われて満面の笑みを浮かべたのですから、どうなるかはお察しなのです。

 ほら、案の定レルゲン中佐も引いてますよ。

 まあターニャのそう言う所が可愛いんですけど、流石にあのままではマズいですかね。

 ターニャの希望する後方がどんどん遠ざかります。

 後でフォローしておきましょう。

 

 

「アルベルト中尉、レルゲン中佐殿をお送りしろ」

「了解いたしました」

 

 レルゲン中佐と共に歩きながら、なんと言うべきか悩みます。

 上手く伝わると良いのですが。

 

「あの、大変差し出がましく申し訳無いのですが……。デグレチャフ少佐の事をあまり悪く思わないであげて頂きたいのです。あの子は何と言うかコミュニケーションが非常に不器用なのです。先程はおそらくレルゲン中佐殿のお心遣いに感謝しただけで、他意は無いと思うのです」

「……そうか。貴官がそう言うのだ、そう言う事にしておこう」

「ありがとうございます」

 

 これで少しはフォローになったでしょうか。

 

 

 レルゲン中佐を外までお見送りした後、わたしは気持ちを入れ替えます。

 とうとう大隊が実戦に赴くのです。

 わたしとしてもターニャを守れる様に頑張らなければなりません。

 

 さて、気合い入れて行くのです!


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