さぁ、夜が明けた。宿の食事をとり、朝の素振りをし、井戸水でさっぱりしたあとに珈琲を飲む。
あぁ、幸せだ。こんなことをしていると本当にこの世界にこられてよかったと思う。
うむ、ファーナムを見ていて思ったが、やはり向こうの世界から人を呼んでみようかと思う。
自己満足かもしれないが、こちらの世界の方が生きている実感を得られる。
あの敵を殺す昏い悦びではなく。
まぁ、最初に恐らくファーナムが呼びたいであろう方々を呼び出さねばな。それが筋と言うものだ。
「アッシュさん、行きますよー!」
おや、主が来たようだな。少し名残惜しいが主のもとへと急ぐ。
「おぉ、なんかスッキリした顔してますね。良い休息になりました?」
「あぁ、最高だった。」
「それはよかったです。じゃあ、会議にいきましょうか。」
「あいわかった。」
てくてく歩くこと数十分、そこそこ大きな【市民会館】についた。金を払えば会議、食事、宿泊など色々と出来る建物らしく、各都市に一つ以上はあるらしい。
中々だよね中々良いシステムだ。
「本日のご用件はなんでしょうか。」
「【究明主人会】で会議の予約はありますか?」
「はい、三階の階段横の第2会議室でございます。」
「ありがとうございます。」
‥‥究明主人会か。
「主人、その会の名前は「僕も納得してないから何も言わないでください。」‥‥了解した。」
うーむ、そこまで言うなら何も言えん。‥‥流石に安直すぎると思うが。
指定された会議室にはいると、十数個のうち7つの席が埋まっていた。
「早かったじゃない。【十二席】」
「今回は迷宮が安定してますので。」
「珍しいわね。あなたの迷宮が機能するなんて。」
「‥‥どうも?」
主人よ、それは誉められていないぞ。少し棘のある少女だが、礼儀知らずのあんな感じではなく高貴さゆえの態度に近いな。こちらの方が好感を持てる。
‥‥後ろの女性が睨み付けてこなければだが。
私は女難でもあるのか?最近面倒な女性としかあっていないぞ。
そうこうしているとある程度席が埋まり、会議が始まった。議題は【定期報告】ということだ。
「さて、基本的に変わらないのならば何も言わんでいいが、変化があった場合はきちんと言うように。
では時計回りでいこうか、始めに【第一席】から。」
「特に何もありませんが、宝箱の質を少しあげてみようかと思っています。結果が出たら次の会議でお知らせします、以上です。」
そんな感じでたんたんと続き、主人のばんになった。
「僕からですが、まず紹介をしようと思います。【使徒召喚】でお呼びしたアッシュさんです。」
おっと、突然だな。主人のなに恥じぬようしっかりとせねば。
【一礼】をして挨拶する。
「ご紹介に預かりましたアッシュともうします。出身は騎士の国アストラ、現在は【暗月の剣】に所属しています。どうぞ宜しく。」
ロスリック式の挨拶だったがよかったか?
どうやら嫌悪感を抱かれてはいない模様。むしろ興味深いといった感じだな。
「その兜はとらないの?無礼ではなくて?」
おっとたしか【十一席】だったか。言われてしまったが、
「兜の下は非常に悪い見た目となっております。不快感を与えてしまうかと。」
「‥‥‥少しはずして見せてくれないかしら?」
む、まぁそうだな。仕方がないか。
ゆっくりと兜の留め金をはずし、兜をはずす。
するとあちこちから圧し殺した悲鳴やざわつきが聞こえる。
無理もない。左目から首までの切り傷とつぶれた左目、右の頬には巨大な火傷痕など見て気持ちのいいものではないだろう。
「‥‥謝るわ。そうね、兜はつけておいていいわ。」
顔色が悪いな。非常に申し訳ない気持ちにさせられる。
兜をつけ直すと、次第にあたりはもとの空気に戻っていった。
「‥‥話は逸れましたが、僕のダンジョンの件ですが、アッシュさんとその他の使徒の方々のお陰でかなりの侵入者数になっています。なにか質問はありますか?」
というと数人のてが上がる。席の番号が少ないものから順らしいな。
「主要な収入は?」
「【絶望】【歓喜】【感動】ですね。あとは【羨望】等も少し。」
「使っている魔物は?」
「【スモークスネーク】ぐらいしか既存の魔物は使っていませんね。あとはアッシュさんが品種改良を施した魔物です。」
「今度見に行ってもいい?」
「いいですよ、その方が分かりやすいでしょうし。他にも見たいかたはおられますか?」
そう聞くと数人の手が上がる。中々注目されているようだな。
「ふむ、ではこちらの方で【十二席】のダンジョンへいくメンバーの予定を調整しておきます。後で連絡を送るのでお待ちくだされ。今回の会議は以上とします。解散。」
と、議長が言うとそれぞれ出ていく。さぁ我々も帰るとしようか
「あ、アッシュさん、帰ったら三階層をお願いしてもいいですか?」
「あぁ、了解した。」
さぁ、休憩は終わりだ、仕事に入ろう。
【ロスリックの高壁】
火継ぎを祀るロスリックの国を囲う巨大な壁
その大きさは他国からの攻撃を防ぎ、イルシールへの対抗として作られた。
今は崩れ落ちた大橋、不死街への道が開かれていた頃はファランの城塞や罪の都とも交流が出来ていた。
城下にはこんな噂が広がっている。
【高壁は他国を防ぐ盾ではなく、王族を閉じ込める檻である。】