──あれは我々が岩の古竜との戦争を終わらせたあとの話だ。
当時はまだアノールロンドは完成しておらず、炉の火はごうごうと燃え上がり衰えなど微塵も感じさせなかった頃だ。
その時はグウィンの息子もまだ雷の戦神として名を馳せ、そこのオーンスタインはその筆頭騎士として働いていた。
ある日、イザリスが小さな赤子を拾ってきた。肌寒くなってきた秋の始め、人間や神族とは異なる姿をしていた。それを見たグウィンがそれを【獣】と呼んだ。
人よりかは確かに獣達に近い姿ではあったな。
既に数人の娘と共にイザリスの都を治めていた彼女はその小さな獣を自分の息子として育て始めた。
奴のことだ。震える獣を見て同情でもしたのだろうな。
時がたち、アノール・ロンドが完成し、戦神の振る舞いが問題視され始めていた頃、我々には誰にも話せぬ問題に直面した。
イザリスが育てていた獣が火の恩恵を持たぬものであったのだ。
炎は差異を産み出した。光と闇、熱と寒さ、昼と夜、生と死。
だがしかし、灰の古竜達はその炎を受け入れることはなかった。なぜなら我らには全て不要であったからだ。
死なず、生きず、光も闇も何も感じず、全てを俯瞰しただそこに在り続ける。それが我々の生きざまであった。
しかし古竜は戦に破れた。その結果として大きく数を減らし、衰退することとなったのだ。
イザリスの獣はその【朽ちぬ灰】に属する存在であった。
はじめはある程度好奇心や興味の赴くまま行動していた獣は、ある時期を境に動くことをやめた。
その体は成長し、いつしか灰の古竜達と同じような生活になり、そして、全てを微睡みに落とす【色の無い霧】を産み出すようになった。
そんな獣をイザリスは息子として扱おうとした。当然だ。灰の陣営ならばその命をグウィンが許すことはない。今でこそ融通の聞くが、当時のやつは本当に頭の硬いなんとも頭の悪い奴だった。
イザリスは母であり、研究者だった。生まれながらに溶岩の中に呑まれた息子にそれから身を守る指輪を与えたように、獣の出す霧、それを諸悪の根元として封じることを考えた。
そして奴は最初の禁忌に手を出した。灰に炎をつけようとしたのだ。
奴は獣をさに火を与えるために様々な触媒を作り出し、時には我やニトの所へ行きその力を借りつつ、あるひとつの仮説を作り出した。
【吹き出す色の無い霧に灯をともすことで獣が火の恩恵を受けとることができるようにする。】
という荒唐無稽なことを考えた。思えば、イザリスは最初から狂っていたのだろうな。我やニトは安寧と不変を好み、グウィンは一族の繁栄を望んだ。しかしイザリスには何もなかったのだ。
最初に火の力を手に入れたとき、奴は小さな苗木だった。他のものと違い、奴だけは生き延びるために火に根を伸ばした憐れな植物であったのだ。
イザリスはその計画の無謀さに気づかぬまま準備を進めていった。そして完成したのが奴自身の枝と炎を使って作られた【宿り木の槍】であった。
その槍は霧をソウルに変換し炎をつけるという構造であり、後の篝火の礎となる品だった。
結論から言えば──それは失敗した。
当然だ。無から炎を産み出すのは不可能だ。ましてや薪もないのに燃える炎などあるはずもない。
獣に刺さった槍は獣のソウルを吸収し、その身に莫大なソウルを宿す道具となった。ソウルを吸収されることで、獣の動きは完全に止まり、霧は止み、しかしそのソウルは炎に変換されることなく槍に溜まり続けた。
すると不可思議なことが起きた。槍が成長を始めたのだ。
槍はぐんぐんのび、いつしか大樹となった。その木に近付いた者は槍に内包される絶大なソウルの恩恵を受けた。
人はそれを見て【ソウルの木】と呼んだ。
【灰の獣】
古竜の力を持つ謎の獣。その力はわからぬまま王によって封印された。そのからだから発する霧はソウルを奪う力がある。
かつての資料に少しだけこの獣についての供述が残っていた。異端の魔術師はこの獣を模して【相手の体力を奪う霧】の魔法を作り上げたと言われる。
デモンズちゃんと攻略できてないので考察がイマイチです。違和感等があったら感想のところでお願いします。