汚泥のなかに沈んでからどれ程の時間がたったのか。やっと私の企みが成功したらしい。
筋書きはこうだ。
①世界を越えられる道具をエルドリッチに、喰わせてその力を奴のものとする。
②私のちからの全てをソウルに写して誰かに殺させる。
③エルドリッチが死んだときに私のソウルを混ぜる。
④奴の力で世界を越え、私が舵を取る。
これで世界を越えることができると確信を抱いた私は早速実行に写し、この通り成功したようだ。
忌々しい神の力は全く感じられず、見る限り人の営みが繁栄している。大成功といっていいだろう。ここが深海かはしらぬが。
‥‥‥だがしかし唯一の誤算だが、
「パパー、あのリンゴ美味しそうだよー食べようよー、」
(プルプルプルプル)
エルドリッチが妙なことになっていることだ。
もとは、冴えない神官であり、今は蕩けた汚泥になったはずだが、なぜか小さな少女と小汚いスライムに分裂している。
(エルドリッチは男だろう!っていうか本体はスライムだったはだろうが!そもそも分裂ってなんだ!)
「パパー、リンゴー。」
「ええぃ!パパと呼ぶな!サリヴァーン様だろう!
‥‥まったく、一つだけだぞ。」
(プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル)
「‥‥はぁ、二つだな。」
くそ、本来ならばこいつと供に新たな国を作る予定であったのだが。これではどうしようもない。これじゃあ法王と神官ではなく父と娘かなにかだ。
「店主、リンゴを二つ。」
「あいよー毎度!」
くそ、金に変えられるように幾ばくかの貴金属を持ってきたがそろそろ目に見えて減ってきたな。どうしたものか。
「貴様!なにをする!」
む?何やら騒ぎのようだな。
近づいていくと薄汚い少女が、法衣をきた神官のような男に罵られている。どうやらぶつかったことで気分を害したらしいが‥─
「醜いな。」
声が聞こえたらしくこちらを睨み付けて騒ぎ立てる神官。
それに応じるように静かに前に出ていく。
「黙れ。神に使えるものならばその行動は神に捧げるべきものであろう。それがなんと見苦しいことか。」
まぁ、神ならば隣にいるものが喰らったしこの世界では私がなるつもりだがな。
「なんだと!喧しいぞ!妙な服をきおってからに!」
「‥‥なんだと?」
私から強い冷気が漂っているのだろう周囲の野次馬が避けていく。妙な服、妙な服か。
「これは我が師フリーデに頂いた神官の法衣であるぞ。法衣に向かってそのような口を利くなど」
そこで言葉を切って二振りの剣を取り出す。
「万死に値する。」
虎の尾を踏んだことに気づいたらしく顔を青くしている。なんと愚かな。これがこの国の神官なのか。
「神へ捧げる布施と物を置いて立ち去るが良い。」
そう宣言すると財布を投げ出して逃げ去っていく若い神官。
剣をしまうと少女が駆け寄ってきた。
「あ、あのありがとうございました!」
柔和に見える笑みを浮かべ腰を下ろし頭を撫でる。
フフ、子供の扱いなど知り尽くしている。
「きにするな。我が教義に沿った行動をしたまで。」
「あ、あの、どこの教徒なんですか?」
少し考える。もとの世界ではイルシールの法王と名乗っていたが。‥‥ううむ、そうだな。
「【アリアンデル教】の教えである。全ては等しく、その命が終わるまで安寧に暮らすものであると。」
腐り行くまで、な。
そんなことを知らぬ少女は目を輝かせて礼を言って立ち去る。
‥‥うむ、法王だな。
まだリンゴをかじっているエルドリッチを連れて歩いていく。
「パパ?どこいくの?」
「サリヴァーン様と呼べ。‥‥ふふ、布教に行くぞ。なに、我らさえいるならば一月でこの程度の町掌握して見せよう。」
そして町を練り歩く法王一行。彼等がこの街を、いやこの国を掌握するのは時間の問題かもしれない。
季節は秋。肌寒くなり始め、冷たい冬へと向かう時期のことであった。
はい、エルドリッチ幼女化しました。なんか、そんな予定はなかったのですが気づけばなっていました。
お、恐ろしい。
【女王の指輪】
光の王グウィンの長女、グウィネヴィアの指輪。彼女の柔らかな微笑みが刻印されており所有者に光の加護を与える。
王が残した国を守るため少数の銀騎士と供にアノール・ロンドの最奥にとどまり続けた。いつしか、その最後の女神すら滅び、グウィンドリンの幻だけがアノール・ロンドを保っていた。
効果 奇跡の攻撃力1,8倍
雷攻撃無効化
一部の敵が見方になる(銀騎士等)