プロローグ
ある日の事だ。俺は目を覚ますと、燃え盛る街で一人寝転がっていた。
あれぇー?おっかしいなぁ、俺は確かさっきまで……えーっと、なんだっけ?お、オル……オルガマリー社長?所長?市長?の説明会を聞いていたはずだ。
で、何か遅刻して来た奴が機長の平手打ちを喰らって気絶して外に運び出されて、俺は一般公募枠とかでファーストミッションとか何とか言われて………レイシフトでなんか爆発してここに来たんだっけ。
まるで世界の終わりのような風景、何なのこれ?すっごく暑いし。ていうか、ここにいたら酸欠で死ぬんじゃ………。
「……………」
いやあぁぁぁぁあああッッ‼︎いやあぁぁぁぁぁああッ‼︎死ぬううううっつーか死にたくねええええええ‼︎
と、とりあえず出口見つけないと!窒息死は絶対一番苦しいもの!死ぬなら苦しみのない感じでっ………。
いやいやいやいや、無理無理無理無理!だって周り炎しかないもの!360度あらゆる方角を見回しても燃え盛る炎しかないもの!
残念ながら、俺に炎の中に飛び込む勇気はない。ダメだこれ、詰んだなこれ。ファーストミッションからこれってふざけんなよカルデア。クソブラック企業が。
いや、もはやこの怒りを当てられる相手すらいないか。せめてその辺に八つ当たりしよう。そう思って、その辺のレンガを蹴り飛ばした時だ。炎の中にレンガが入り、ガギッと何かに当たった音がした。
すると、炎の奥がユラリと揺れた。
「えっ?」
そして、姿を現わす人型のモンスター。えーっと、ガイコツ?なんで、ガイコツが剣持ってんの……?まぁ、あれだ。とにかく。
「ふおおおおおおおおお‼︎」
『Gyaooooooooooooo‼︎』
逃げろおおおおおおおおお‼︎
大慌てて走り始めたが辺りは炎で囲まれていて、もはや逃げ道などない。いや、大丈夫だ。火が俺に燃え移る前に火を抜ければ良いだけだ!
「風になれええええ‼︎俺の身体ああああああ‼︎」
言いながらヘッドスライディングの如く炎に飛び込んだ。炎を抜けて地面に両手を着け、前転して受け身を取ると走り出した。
っしゃああああああ‼︎案外抜けられるぜこれええええええ‼︎
そう思って、ふと後ろを見ると、尻が燃えていた。
「嘘おおおお⁉︎漫画かよおおおおおお‼︎」
慌てて走りながらズボンを脱ぎ捨てた。どうせ俺以外に人はいないんだ、恥ずかしいことなんてあるかい!
そう思って無我夢中で走ってる時だ。
「マスター、褒めてやれよ。テメェのサーヴァントは今、ちゃんと宝具を展開してやがった」
「先輩……わたし、今………!」
「うん、すごかったよ、マ……」
ピンクの髪でデッカい盾を持った女の人と、青い髪で杖を持った男と、赤髪の女の人とどっかで見た女の人とすれ違った。
「………………」
………人、いるじゃん。
呆けながら四人を見つめながら走ってると、足に足を躓かせて盛大に転んだ。
「………なんだ?今の変質者は」
「さ、さぁ………」
「知りたくもないわね」
「何処の世界にも変態はいるんでしょう」
「違うわ‼︎」
あまりの言い草に大声で突っ込んでしまった。そんな俺に、青髪の人が冷ややかな視線で聞いて来た。
「違くはねぇだろ。ていうか、何者だテメェ。いや、答えなくていい。てか知りたくない。死ね」
「いやいやいやタンマタンマタンマ!そんなん言ってる場合じゃないから!後ろ!後ろ!背後!」
「あん?」
直後、俺を追って来たガイコツが姿を現した。
それを見るなり、赤い髪の人が叫んだ。
「マシュ!キャスターさん!」
「はい、先輩!」
直後、ピンクの髪の人がガイコツの攻撃を防ぎ、青い髪の人が杖からなんか出してガイコツを一撃で倒した。
え、何この人達。強くない?サーヴァント?とにかく助かった……。ホッと息をついて立ち上がると、青い髪の人は俺に杖を向けて来た。慌てて両手を上げて無抵抗の意思表示をした。
「おい、誰だテメェ」
ヤバイ、怖い、ちびりそう。
「いえ、わたくし田中正臣と言います」
名乗りながら頭を下げた。
「怪しい者ではございませんので、お願いですからその杖を下ろしていただけませんか?」
「パンイチの時点で怪しい者ではないって事はねぇんだよ」
「ぐっ……そ、それは違うんですって!逃げてる最中に炎をペネトレイトしたら炎が俺のヒップをバーンされてて……」
「普通に話せ。殺すぞ」
「先程、追い払っていただいたガイコツに追われ、炎の中に飛び込んだ所、お尻が燃えてしまったので、ズボンを脱ぎ捨ててここまで逃げて来たという所存でございます……」
「………なんで炎に飛び込んだんだよ」
「逃げ場がなかったものでして……いや、でもこれはこれで悪くないものですよ?灼熱の中、布一枚ないだけで割と涼し」
「変態の感想は聞いてねえんだよ」
バッサリ俺の台詞を断ち切ると、青髪の人は「どう思う?」みたいな感じで残り三人を見た。
すると、何処からか聞き覚えのある声が聞こえて来た。
『彼の言ってる事は本当だ!彼はレイシフトファーストミッションの生き残りだ!』
あれ、この声ドクターの声か?
「!も、もしかして、田中って……田中正臣っ⁉︎」
「いやだからさっきそう言いましたが……」
ああ、どっかで見た白髪だと思ったら課長じゃん。
「な、何故あなただけここにいるの⁉︎」
「どうも、課長」
「所長よ!挨拶は良いから質問に答えなさい!」
「いや、それがなんかよく分からないんですよね。なんか気絶してたみたいで、なんか地面に寝てました」
「よ、よく分からないって……」
「周りに俺以外の人影は無し。なんか無性にイラッとしてレンガ蹴ったらガイコツにあたって、逃げて現在に至るわけです」
「あんた何してんのよ………」
盛大に呆れる所長。すると、青髪の人が状況を確認するように聞いた。
「えーっと……この変態は味方って事で良いのか?」
「ええ、まぁ一応ね」
「えっとさ、とりあえず自己紹介してくれる?所長とドクターとマシュは分かるけど……」
ピンク色の髪の人はマシュだ。同じ班になる予定だったから覚えてる。
…………あれ?待てよ?
「マシュってサーヴァントだったの⁉︎」
「いえ、違います。その………デミ・サーヴァントでして」
ふーん……正直、すごい気になるけどまぁ後で良いか。
自己紹介してもらおうと、青髪の人と赤髪の人を見た。
「俺は訳あってこいつらと共闘してる。キャスターだ」
「えーっと、私は藤丸立花。マシュとキャスターのマスターです。一応」
「ああ、所長の平手打ち喰らってた人?」
「うっ……!」
あまり思い出したくないのか、目を逸らす藤丸さん。まぁ、どうでも良いが。
それより、今俺がすべき事はこの人達と同行する許可を得る事だ。じゃないと、俺に未来はない。
「えっとー、せっかくなんで俺もついて行って良いですか?」
「俺は別に構わんが……」
「私も大丈夫です」
「あーうん、私も」
「仕方ないわね」
と、みんな頷いてくれた。いやー、助かるぜ。これで俺の生存率は跳ね上がった。
とりあえず、現況を聞かないと。
「えっと、それで今は?」
「大聖杯を取りに行く為に移動してる途中で、そこの嬢ちゃんの修行をつけてやって、宝具を展開できるようになったから喜ぼうと思っていたとこだ」
………おい、最後の情報いらねーだろ。俺が邪魔したって言いたいのかコラ。
「まぁ、とにかくその大聖杯とかいうのを取れば現状の打破が可能なんですよね?」
「いや、それをするにはセイバーの野郎を倒さなきゃなんねぇ」
「セイバー?」
「ああ。ていうか、同じ説明するの面倒だから誰か頼むわ」
との事で、マシュから大体の話を聞いた。つまり、この時代では聖杯戦争が行われていて、それを終わらせるにはキャスターかセイバーの何方かが生き残るしかない。
一方、我々カルデアのメンバーは何方かを倒して聖杯を出さなければ帰れない。だから、セイバーを倒して聖杯出して帰ろうって話だそうだ。
「………なるほど?じゃあ、さっさとセイバー倒して帰ろうぜ」
「簡単に言うけどな、お前セイバーは今の所、ライダー、アサシン、バーサーカー、ランサー、アーチャーを殺してんだぞ」
「えっ、何それ怖い」
「だから、俺が嬢ちゃんを仲間にしたんだろうが。正直、2対1でもギリギリだ」
なるほど………理解した。
「まぁ、なんにせよ勝たなきゃ終わらないんだから、さっさと行こうぜ」
「あんた……なんというか、能天気ね」
「いえいえ、戦闘中は絶対見つからない場所で隠れてますし、マシュ達が負けたら土下座して部下に加えてもらうから」
実際、かなりビビってるし。それが生き残るには一番賢い。
だが、他のメンバーは俺をゴミを見る目で見ていた。
「………やっぱここに置いてく?」
「いや、こんなの相手でも流石にそれは……」
「一応、カルデアの人ですし……」
「しかし、聖杯戦争でこんなのがいたら案外生き残るのかもなぁ」
すっごいボロクソに言われてた。な、なんでだよぅ……。間違った事言ってないだろぅ……。実際、マシュ達がやられちゃったらそうするしかないんだから……いや、世界が滅んで終わるだけか?
「と、とにかく行きましょう」
誤魔化すように提案すると、四人は渋々付いて来た。うん、なんか雰囲気壊してごめんね。
×××
歩きながら、マシュの宝具の名前を決めたり俺のズボンを探したりしてると、洞窟に到着した。ちなみに、ズボンは見つからなかった。
「大聖杯はこの奥だ。ちぃとばかり入り組んでいるんで、はぐれないようにな」
キャスターさんが丁寧に教えてくれた。これから、セイバーと戦うのか。まぁ、俺は何もしないんだが………。ていうか、今の所はマジで何もしてねーな………。
とりあえず、対セイバー戦の作戦でも考えてみるか。
「ね、キャスターさん」
「なんだ?変態」
「あの、そういうクラスみたいに言うのやめてくれません?」
セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、ライダー、アサシン、バーサーカー、ヘンタイ。あ、意外と違和感ない。アサシン、がいい仕事してくれてるおかげだ。全然嬉しくないが。
「じゃあ、なんて呼んで欲しいんだ?」
「いや田中で良いです……と、言いたい所ですが、そうですね。こう、クラス名っぽく……ブレイバーとか」
「ヘンタイ、用がないなら行くぞ」
「せめて田中でお願いします!」
懇願してから、質問に移った。
「これから会うセイバーって人はどんな人なんですか?」
「あん?どんなって?」
「戦力的に、です。他の五人を相手にして倒したのはわかりますが……こう、宝具の真名とか」
「ああ、そういう」
「セイバーは近距離職でしょう?壁役と遠距離職が揃ってるうちのサーヴァント達なら問題なく対処できると思いますが、さっきキャスターさん、2対1でもギリギリだって仰っていましたよね。なら、やはり宝具による影響だと思うんですけど」
「そうだな。他のサーヴァント達がやられたのだって、宝具があまりにも強力だからだ」
やはりか。
「ちなみに、その名前は?」
「王を選定する岩の剣のふた振り目。お前さん達の時代においてもっとも有名な聖剣、その名は……」
そこまで言ってキャスターの人は表情を変えた。
「『約束された勝利の剣』。騎士の王と誉れの高い、アーサー王の持つ剣だ」
その時だ。前方に人影が見えた。まさか、さっそくお出ましか?
俺は慌てて岩陰に隠れた。
「! アーチャーのサーヴァント………!」
マシュが声を漏らした。おい、なんでアーチャーがいるんだ?倒したんじゃねーのか?ていうか、なんで黒いの?
「おう、言ってるそばから信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを護ってんのか、テメェは」
キャスターさんが黒い人に好戦的に言った。何あれ、言葉通じんの?
「……ふん、信奉者になった覚えはないがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」
「ようは門番じゃねぇか。何からセイバーを守ってるのか知らねぇが、ここらで決着をつけようや」
何やら話してる間に、俺は藤丸さんを手招きして呼んだ。近寄って来たので、耳元で聞いた。
「ねぇ、何あれ?どういう事?アーチャーは死んだんじゃないの?」
「色々あってね」
おい、その説明はテキトーすぎるだろ。重要な事だぞ。敵の戦力を見誤ると終わる。
「藤丸さん、敵は?アーチャーだけなのか?」
「そのはずだけど………」
「なら、マシュに前衛を張らせて、キャスターさんに後衛を頼もう」
「あ、う、うん」
いつの間にか、所長は俺達と同じ岩陰に隠れていた。奴はアーチャー、言うまでもなく遠距離職で、岩に隠れてる俺達を狙う事もできる。
俺達に出来ることなんて、人質にされないようにして足を引っ張らないだけだ。
藤丸さんが指示した通り、マシュが前に出てキャスターさんが後衛となって杖を構えた。