「──ッ」
ぐったりと垂れ下がってしまった腕を見て羽を生やした少女は言う。
「え?」、と・・・・
あの恋しいぬくもりは消えていく。
あの恋しい柔らかさは次第に固くなる。
あの恋しい笑顔はそのままだった。
咲夜と同じ程度に忠誠を尽くすその少年の愛らしい血色のいい顔がどんどん青白くなるのを私は気づけなかった。
そう牙から赤い液体を滴らせた少女は悔いる。
震える声を歓喜の震えと勘違いしたバカは誰だ?
そうドアノブのようなナイトキャップを被る青みがかった銀髪の少女は自らに怒った。
我を忘れて血を啜った愚かさに笑いがこみ上げる。
そう大粒の涙をこぼす紅い瞳の少女は嘆いた・・・
【献身】紅魔館に新しく仕えたその少年はまさにその一言がふさわしかった。
多くの美女が集まる紅魔館で当主以外に一切目もくれず、ひたすら・・・ただひたすらに当主であるレミリア・スカーレットに好意を向けていた。
ほめれば素直にはにかみ、叱るとすぐに叱った部分を修正し成長する少年にまたレミリア・スカーレットも好意を寄せていく。
紅き悪魔の館の当主であってもその正体は一人の少女だった。
好意を寄せても人と吸血鬼のその表し方は違った。
少年は少しづつ心を寄せ合うことを望み、少女は激しく燃え上がるロマンスに焦がれた。
周りもやきもきし、ブラックコーヒー片手に生活する日々も一年たつ頃には少年も少女も本音でぶつかり合える仲になった。
そして少女は一念発起し、少年を夜伽役として部屋に呼んだ。
ただ、ここで二人はまたすれ違った。
少年はもともと性知識は少なかった。少女は吸血鬼の観点からしか知らなかった。
よく知らない少年は少女に導かれそういうものだと付き合う。
「ねぇ、あなたの血を飲ませて?」
少女はろくでもない未来への分岐点を自ら選んでしまった。
少年はそういうものと、少女の求めに応じた・・・・応じてしまった。
首に牙が食い込む感触、好意を寄せた少女の吐息が当たることへの興奮、血を吸われていく快感に求められているという満足感。
少年は多くの気持ちよさに支配されていく。
また、それは少女も同じだった。
好きなものに所有権を現すように食い込む牙と、好きな人と密着できることへの歓喜、血を吸う征服感・・・二人の感じる快感はベクトルが違っていた。
だが感じる気持ちよさという概念は同じだった。
もっと、もっと!と求める本能が吸う強さを強める。
もっと多量の血を求め、首の牙を動かし首の穴を広げる。
とどまることなく吸われ、だんだん血は脳へ行くことなく、そして全身に循環することなくただ少女の口へ流れていった。
少年はだんだん温かさを失う体に自分の最期を悟った。
だから少年はより少女に抱き着く、その感触をもう忘れないように・・・・
そしてもうすぐ事切れることを感じた少年は笑顔を作った。
強く食い込ませるために少女の頭を少し強く抑えていた腕がだらりと垂れ下がった。