セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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74話 ジャブロー強襲

「お、降りられるのぉー!?」

 

 学園から遥々三時間と少しの時間をかけてジャブローに到達することができたのは、攻略組十二機中、VOBのトラブルで離脱が一機、敵艦隊の迎撃に遭い撃墜が一機、十機だけであった。もはや存在を隠そうとすらしていない亡国機業こと企業連合は、南米奥地、天然の要害である地下空洞とジャングルに分厚い迎撃戦力を配備し、学園からやってくる戦力に手厚い歓迎を浴びせかけていた。

 ISは比類なき機動性を誇る兵器であるが、無敵の兵器ではない。ジャングルから、空洞から、ありとあらゆる方向から放たれる対空砲弾。弾幕などという生易しいものではない、豪雨のように叩き付けられる砲弾の群れに、十機は回避行動で精一杯だった。

 

「こんのぉぉぉー!」

 

 鈴音の甲龍(ファンロン)が拡散衝撃砲を連射し、対空砲がある場所を丸ごと吹き飛ばす。だが、それだけだ。木々という天然の偽装の為、ハイパーセンサーでも位置を特定しきれない。

 

「鈴! 情報によると、ジャブローの何点かの坑道から侵入すれば、特攻兵器生産プラントが……」

「わかってるわよ! けど、チマチマ降りて探すなんてとてもできっこない! 爆撃機連れて来て森ごと吹っ飛ばせる爆弾(デイジーカッター)でも投下しないとお話にならないわ!」

「だったら!」

 

 シャルロットのZ(ゼータ)が、一気に高度を上げた。ここぞとばかりに対空砲が狙ってくるが、ひらりひらりと背中に目でもついているような動きで翻弄し、一発たりとも掠らせない。

 

企業連合(やつら)は特攻兵器を制御できてない! ということは、今この瞬間にもどこからか特攻兵器が発進してるはず! 特攻兵器が出てきた穴から入れば……!」

「は、ハァ!? あんたバカ? ねぇバカなの? シャルロット!」

 

 特攻兵器はプラントで生産されている。ということは、出てきた穴から入れば確実にたどり着けるだろう。理屈としては間違っていないが、出てきた穴から入るということの意味を考えれば、とても正気とは思えない発想だった。

 シャルロットが対空砲をゆらりとかわすと、一気に高度を下げた。

 

「やるしかないんだ! 僕たちが!」

「あーーーッ! もうっ! わかった! みんな聞いてた!? 花火の中に突っ込むわよ!」

 

『おっけー任せて!』

『ぴったりついていく!』

『まか……きゃあああっ!?』

 

 仲間たちは、混乱状態にあった。なんとか三機が二人の動きについていこうとしたが、直後一名が対空砲をまともに食らいジャングルに墜落した。

 

「セシリアはどこにいるの……? 出てきたらタダじゃおかないんだから!」

 

 鈴音は特攻兵器が出てくる坑道に突進するシャルロットの後に続いて、空中でくるりと一回転しながら急降下した。

 四機、坑道侵入に成功。

 

 坑道の内部は予想の数倍は広大なものだった。ISどころか戦闘機が飛行できる程には広い。坑道の中を飛行してみようという稀有な戦闘機乗り(・・・・・・・・)がいればだが。

 

「ちいっ! 前方から特攻兵器多数! ぶつからないで!」

 

 先頭を行くシャルロットが一番初めに気がついた。やはりプラントに直結している通路らしく、空飛ぶ赤いイナゴなどと蔑まれている特攻兵器が飛んできていた。正面衝突すれば、例えISのシールドとて搭乗者を守りきれないであろう。

 

「回避!」

 

 シャルロットがバレルロールで回避すると、後から続く三人も同じように回避した。

 

「ねえ鈴。敵のISが出てこないなんて、おかしいとは思わない?」

「なによこんな時に」

「僕の()はよくあたるんだ。あの、戦争を遊びにしてる二人の………」

 

「そうよ、そのまさかよ!」

 

 後方から爆発。坑道に潜んでいた二機のISが突如して出現すると、同じように特攻兵器をひらりとかわしながら迫ってきた。

 IS『リザ』―――オータム。

 IS『アルケー』―――スコール・ミューゼル。

 亡国機業実働部隊の二人組が邪魔をしにあらわれたのだった。

 オータムは、無機質に。

 スコールは、野生的に。

 人類の命運が掛かった戦いに参加しにきたのであった。

 

「こんなときに! 戦争を遊びにしてるお前たちに構ってる時間なんてないんだ!」

 

 シャルロットが目線を強く絞ると、叫びながら更に加速をかけた。

 

「デュノアさん! (ファン)さん! 私が足止めをするから、行って!」

「私だって時間稼ぎくらいはやってみせる!」

 

 後続の二人がくるりと反転すると、武器を抜き、オータムとスコールの足止めに入った。

 一瞬、同じように反転しかけたシャルロットを、鈴音が肩を掴んで引き止める。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「いくのよ! ここで止まったら―――……犠牲になった、みんなが、なんのためにッ……!」

「わかってる!」

 

『そんなっ!?』

『や、やめ………うわぁぁぁぁっ!』

 

『二人。二人死んだ』

『ぎゃはははは! でしゃばるからこうなるんだってぇーのよ! オラ、お前らも仲良く殺してやるよ! ええ? 生徒さんよぉ!?』

 

 爆発音。オープンチャンネルで嬉々として報告してくる二人組に、いよいよシャルロットの堪忍袋の緒が切れた。歯を食いしばり、目に涙を貯めて叫ぶ。

 

「わかってる!! わかってるけど、こんなことを! 人が死んだんだぞ! 人が!!」

 

 だが、止まらない。振り返らず、前方からやってくる特攻兵器をかわして、奥に進む。

 

『高熱源体検知』

 

 ハイパーセンサーが、通路の先にある物体を検知した。OSに即座に分析結果が表示される。未知のエネルギー・リアクタを搭載した超大型CPU―――。これこそが、プラント。世界中を混乱の渦に叩き込んだ特攻兵器の母胎。

 シャルロットは、勘で背後から襲い掛かってくるファングを回避した。ビームサーベルを展開すると、背後に投擲、同時にビームライフルを撃つ。

 

「ビームコンフューズ!」

 

 サーベルで反射したなでしこ色のビームが拡散し、ファングを次々と叩き落していく。

 

「落ちろ落ちろ落ちろ!」

 

 鈴音も振り返りざまに拡散衝撃砲を発射した。火炎の塊が空中でズドンと轟音を上げて炸裂し、けれど敵二機は踊るようにして回避した。

 

「ッ、このぉぉぉっ!」

 

 背後からアサルトライフルの弾が鈴音の肩を掠めた。頭に血が昇った鈴音は、思わず足を止めてしまいそうになった。

 

「………あ、あんたらなんて死んじゃえばいいのよ!!」

 

 振り返らない。足を止めてはならない。作戦目標はプラントの破壊であって、二人組を退けることではないのだ。罵り文句を投げつけるだけにしておく。

 

 そして二人は、執拗に追いかけてくる敵をよそに、プラント内部への侵入に成功した。

 プラント内部は恐ろしく広かった。中央にリアクターがあり、光の柱が天井に向かい、天井から更に細部へとエネルギーを供給しているようであった。破壊するのはどこでも構わなかった。

 

「火力全開!」

 

 Z(ゼータ)がビームライフルを乱射。腕のグレネードランチャーから次々と弾を放り出すと、壁面に設置されている高エネルギー回路を、ビームサーベルで滅多斬りにした。

 

「ブッ壊れろおおっ!!」

 

 甲龍(ファンロン)、双天牙月をドッキング。中央リアクターに投げつけると同時に、拡散衝撃砲を速射して、目に付くもの全てを破壊する。

 エネルギーが行き場を失い、炸裂。施設の照明が落ち、壁面が崩れ始めた。激しく電流が迸り、空中を瀕死の蛇のようにのたうつ。

 

『達成度を評価中…………施設完全破壊を確認 任務完了(ミッション・コンプリート) R.T.B』

 

「行こう、鈴音!」

「わかってる!」

 

 二人は施設の完全破壊を確認すると、一目散に元来た方角へ引き返した。まるで蜘蛛の子を散らすように施設からの脱出を図る特攻兵器を追い越して、狭い坑道内部を音速を超える速度で駆け抜けていく。

 

「止めろ、オータム!」

「止められんか……」

 

 そして、追いかけてきていたオータムとスコールをも追い越していく。背後で、猛烈な閃光が走り、大爆発が起こった。音速よりも遥かに速く飛ぶ二人には、ただ白い光が走ったようにしか感じられなかったが。

 

「もっと! もっと速く飛べ、Z(ゼータ)!」

「速く飛ばないと煮込んで食うわよ、甲龍(ファンロン)!」

 

 坑道内を、爆発が波となって押し寄せてくる。膨大なエネルギーが爆発に変わっているのだ、飲み込まれたらISとて無事では済まない。

 二人を追いかけることに夢中になる余り、爆発から逃れるのに一瞬出遅れた二人組の戦争屋は――。

 

「殺したんだ――――殺されもするさ―――……」

「キキキ……はははは! 戦争! 戦争ぉぉぉっ! ぐぁぁぁぁぁあああッ!?」

 

 爆発に飲み込まれ、見えなくなった。

 

「もっと! もっとだ!」

「速く速く速く!!」

 

 特攻兵器の波の中を、二人は駆けた。右へ左へ回避しながら。途中、シャルロットがビームライフルを投げ捨てた。

 熱が肌を焼いているのではないか、という程に爆発が迫ってきていても、二人は振り返らなかった。

 前方に明かりが見えてきた。シャルロットが、鈴音が、手を伸ばして――――脱出に成功した。

 二機のISが坑道から出た瞬間、爆発が追いつき、その衝撃で辺りの木々をなぎ倒していく。坑道が崩落を始めると、地響きを上げながらつぶれていく。ジャングルのあちこちから火柱が上がっていた。

 

「はぁっ………はぁっ………」

「や、やったのね………」

 

 二人は肩で息をしていた。そしてどちらがどちらに言うでもなく、抱きしめあった。

 

「………一夏ぁ……失敗したらボコボコにしてやるんだからね……」

 

 鈴音は青い空にうっすらと見えている月を睨み付けて言った。


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