セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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71話 Encounter World

「この!!」

 

 殴打音。

 シャルロット=デュノアは、実の父親の顔面を空手仕込みの上段突きで殴打した。父親はまともに突きを食らってしまい、そのまま後ろに倒れこんだ。

 

「何をするか! この新型の“Z”があれば、お前が作戦を成功させた暁には、わが社の名声はますます―――」

「まだ言うのか! 皆が必死になって、命を掛けて戦おうというときに、あんたって人は!」

 

 シャルロットは鬼のように表情を引きつらせていた。この場に及んで、まだ自分のことしか考えていない父親に対し、愛想が尽き果てていた。愛して欲しかっただけなのに、この男は自分のことなんて見ていないと、真に理解できたのだ。

 新型IS『Z』の待機状態であるネックレスは、床に転がっていた。

 

「あんたって人はァァァ!!」

「シャルロット、そこまで」

 

 顔を守ったままの父親に、更に追撃を加えるべくシャルロットが手を挙げた瞬間、背後から抱きしめられた。そのまま無理矢理引き剥がされてしまう。

 シャルロットと同じようにISスーツを纏った鈴音だった。

 シャルロットは肩で息をしながら、父親のことを睨み付けた。

 

「はぁっ、はぁっ………はぁっ、はぁっ…………二度と、僕の前に姿を見せないで!」

「………フン。この状況では使わざるを得ない癖に………」

 

 父親はブツブツと何やら言いながら立ち上がると、護衛の者を引き連れて遠ざかっていった。

 シャルロットはZを掴むと、床に叩きつけようとして、腕を振り下ろさずに胸元に抱えた。人類の命運が掛かっているこの状況では、自分で改造したラファール・プラスよりも新型を使ったほうが遥かに良いのはわかっている。わかっていても、父親のあの態度を許すことは出来なかったのだ。

 

「もう出撃の時間よ。いきましょ」

「鈴は怖くないの?」

「怖いわよ」

「そっか、僕も怖いや」

 

 二人は見つめあうと、空を見上げた。憎憎しいまでの青空だった。

 出撃の時間だった。二人は、VOB発進設備が整っている校庭へと走った。

 

 

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『秒読み開始。一分前。各員所定の持ち場から離れないように。慣性制御システム、順調。慣性力充填中…………』

 

 ずらりと並んだロケット。均等に並べられたVOB。生徒が、教員が、その巨大な設備で待機していた。日本中から、世界中から、特攻兵器の被害にも関わらず人員や物資が集まってきたからこそ、たった一日で完成することができたのだ。

 

『三十秒前』

『VOB、予備点火開始』

 

『十秒前』

 

『五秒前、ロケット、ブースター点火(イグニッション)

『VOB、ブースター、点火(イグニッション)

 

『三秒』

『カタパルト、OK』

 

『二秒』

 

『一秒』

 

離陸開始(リフトオフ)!』

 

 ロケットが、重力アンカーから解き放たれ、慣性制御システムの恩恵の下、ものの数秒と掛からずに音速を突破、雲を突き破り、真っ直ぐ上へと上昇を開始。

 同時に、VOBが電磁カタパルトから射出される。ブースター点火と同時に、ヴァイパーコーンを破り、南東の方角に飛行機雲を作りながら発進していく。

 

『本音ちゃん―――虚ちゃん―――みんな! ちょっと宇宙行ってくる!』

 

 通信。ロケットに搭乗していた刀奈からの通信が校庭に響いた。

 やんややんやの歓声のもと、人類を守る為に、今鏃が放たれた。

 

 

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「ふぅぅぅぅぅ!」

 

 ジャブロー攻略組には、シャルロットと、鈴音が入っていた。時速5000km超。慣性制御システムと、ISのシールドの恩恵で空気抵抗が極限まで削減されている関係上、更に速度は上がり続ける。南米までの17000kmの距離を、実に3時間足らずに走破することができるのだ。

 ジャブロー攻略組みに、IS学園からの通信が届く。

 

『各員に通達。IFFに応答しない国籍不明機複数、方位135、正面、距離650マイル地点に確認。情報更新。交戦に備えろ。遠距離巡航ミサイルを潜水艦からの発射を確認』

 

 時速5000kmの世界には、地球は狭すぎる。たとえ650マイル(1046km)離れていたとして、武器の有効射程200kmまで肉薄するその497マイル(800km)までにかかる時間はおよそ10分しかない。

 

『シャル! こんなところで止まるわけにはいかないわ!』

『わかってる!』

 

 先頭を行くのは、鈴音の甲龍(ファンロン)と、シャルロットのZ(ゼータ)であった。

 

『前方、敵艦隊を捕捉。攻撃するもすり抜けるも任せる』

 

 二機が更に加速した。長距離対空ミサイル(シースパロー)の弾列をすり抜ける。あまりの速度の為、近接信管が間に合わずに炸裂を逃す。巡航ミサイルも同様であった。相対速度が速すぎるためか、捕捉すら間に合わない。

 

『沈めぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 シャルロット機が更に加速。腕に握ったビームライフルを乱射した。近接防衛火器(CIWS)の弾幕を形成していた巡洋艦(クルーザークラス)になでしこ色のビームが突き刺さる。

 白熱する艦隊の上をなめるようにして、ジャブロー攻略組が通過する。遅れてやってくる衝撃波が海面を揺らすと、今しがた気がついたかのように艦隊を構成する船舶達が爆発した。

 

『三番機、VOBにトラブル! ダメ、速度を維持できない! 先に行って!!』

 

 二機に追従していた一機の女子生徒が、あっという間に遠ざかっていく。ブースターから黒煙が噴出しており、ブースト炎も弱弱しいものになっていた。

 

『急造したからこんなものね……』

 

 鈴音が後方を振り返ることなく言葉を漏らすと、シャルロットが声を張り上げた。

 

『行こう、皆! 学園で待つ人たちの為にも!』

 

 

 

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 宇宙。そこでもまた、戦いが始まろうとしていた。

 

『――――……! オペレーター! ロケットの出力を上げてくれ! 私が先に宇宙(そら)に上がる!』

『しかし、燃焼剤の使用率を変えてしまうと月にたどり着くことが……』

『やるんだ!』

『はい!』

 

 一番最初に異変に気がついたのは、千冬であった。誰よりも先に、ハイパーセンサーよりも先に“敵意”に気がついたのか、一斉に空に上がっていくロケットの先陣を切る位置に陣取ろうとする。

 

「そこか……! やってみせるさ! フィンファンネル!」

 

 フィンファンネルが全機起動。花びらのように広がった刹那、宇宙に近づきつつある薄い大気の中を、まるで生きているかのように機動していき、一点で静止した。

 青白いレーザーがフィンファンネルの集合している中間地点に命中、次の瞬間、拡散して威力を大幅に減衰した。

 

『五番機、ロケットに着弾! ダメです離脱します!』

 

 一機にレーザーがかすめ、ロケットから火を噴いた。あっという間に月面攻略組の遥か下方へと追いやられる。

 

「なんだこれは………宇宙が小型兵器で埋まっているぞ……!」

 

 千冬は気がついた。宇宙空間は既に自由に行き来できる場所ではなくなっていたということを。小型の砲台が衛星軌道上を埋め尽くすように浮かんでいた。その最中に、ひときわ目立つ大型の兵器が浮いていた。

 『高度エネルギー収束砲“エクスカリバー”』。剣を思わせる形状をしたそれが、宇宙空間に上がろうとしている面々を照準していた。

 

 ――――チ、チ、チ、チ………。

 

 宇宙(そら)に、小夜啼鳥(ナイチンゲール)の鳴き声が響く。

 

「来たか、赤い奴!」

「織斑千冬、ここで死んで頂く」

 

 重IS『ナイチンゲール』と、『Hi-ν』が。

 

「ターゲット確認、排除開始」

「簪ちゃん!!」

 

 『ナインボール』と、『メタルウルフ』が。

 

 お互いの運命を掛けて、銃火を交えるのであった。


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