セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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みじかめ


70話 黒騎士

 南米、ジャブロー。高度に偽装された地下施設内部は、亡国機業―――企業連合の秘密の軍事基地として機能していた。

 

「そうだ。私が言うのだから間違いは無い。やつらは確実にここに攻めてくる。だが、奴らはこの作戦に失敗すれば、もはや反撃する力など残ってはいない。全てが終わったとき、企業連合が国家を解体し、世界を牛耳ることができるであろう!」

 

 一人の人物が、“賢者達”に対し滔々と何かを語っていた。漆黒の鎧に、マント。背丈は高く、がっしりとしており、薄い素材からは割れた腹筋が垣間見えている。声はボイスチェンジャーを使っているのか、不明瞭に歪んでいた。

 

『ふむ。バロン、万が一にでも読みが外れたらどうするつもりだ』

「外れることなどありえん。奴らは必ず攻めてくる。全力を持って迎撃にあたることだ。時間稼ぎをするだけでもいい。インターネサインに情報が送信され、更に強いパルヴァライザーが生産される」

 

 バロンと呼ばれた人物はvoice onlyと表示されている空間投影モニタを前に、手を掲げて演説をしていた。カツンカツンと靴音を響かせながら、堂々と振舞う。

 

「衛星兵器トールは潰されたが、まだエクスカリバーとアサルトセルが残っている。やつらが宇宙に上がろうとしたところを狙撃すればいい。簡単なことだ」

『お前はどうするつもりなのだ』

 

 老人の声がバロンに問いかけた。

 バロンは、声に振り返ると、仮面に覆われて見えぬ顔を向けた。

 

「無論、私も出ることにしよう。地球に近い地点での迎撃ではなく、月面における迎撃にさせてもらうがな」

『しくじってみろ、その時貴様はその立場を追われることになるのだ』

「ありえない。任せていただきたい」

『その言葉に偽りはないな』

「当然だ」

 

 通信画面が切れた。

 バロンは、踵を返して歩き始めた。広々とした作戦司令室を出ようとする。

 

「………………フン」

 

 部屋から出る直前に、ISスーツ姿のマドカと鉢合わせした。マドカは腕を組み、目つきを鋭くしてバロンを睨んでいた。

 

「どんな目論見があるのかは知らんが…………私は、お前を見ているぞ」

「フフフ………企業連合に勝利を。それ以外に、どのような目的があるとでも? “ナイチンゲール”の準備をしておくことだな」

「その情報は機密情報のはず……貴様、どこで知った? 一体お前は何者なんだ……」

 

 IS『ナイチンゲール』。サイレント・ゼフィルスを発展させ、より重装甲、より機動性を高め、更に火力を両立させた重ISのコードネームだった。

 腹に一物を抱えているのがわかるのに、行動は全て企業連合有利で味方であることは間違いない。そんなバロンを、マドカは信用しきれないでいた。

 バロンはにやりと口元を歪めると作戦司令室を後にした。通路を歩けば、道行く兵士たちが道を譲った。敬礼はせず、ただ見ているだけだったが。バロンは仮面に甲冑という異様な姿に注目の的になっていた。

 バロンは格納庫にまで歩いてきた。

 ―――黒がそこにいた。全高、およそ20m。細身な胴体とは裏腹のマッシブな脚部、肩部から突き出た大型スラスタ。腕には二丁の砲が握られていた。背面部にも棘のような形状をしたスラスタがあり、尻尾状のパーツがだらりと力なく垂れ下がっていた。

 

「黒騎士よ…………我が願い成就の為………」

 

 空襲警報。格納庫が俄かに騒がしくなってきた。

 バロンは、その機体に伸びるキャットウォークを走った。まるでそうあるのが当然であるかのように、黒騎士が装甲を開く。装甲表面を青白い光が脈動しては、操縦席がある胸元へと注いでいた。

 バロンが操縦席に入ると、装甲が閉じていく。全て閉鎖完了すると、格納庫全体が動き始めた。油圧シリンダが稼動して、黒騎士が納まっていた格納庫をゆっくりと押し出していく。

 

『バロン、黒騎士――――重力アンカーロケットへエントリー開始します。月面防衛部隊の投入を開始します。作業員は所定の位置まで移動後連絡を』

 

 アナウンスが鳴る。赤い警告灯が点った。

 黒い巨体が、ロケットの格納庫(ペイロード)へとクレーンで移動させられていく。

 

「一緒に死んでくれ」

 

 

 

 

 

 

 その時、全世界が動いた。

 IS学園の作戦を援護しようと、世界各地で陽動作戦が開始された。日本はもちろん、ユーラシアで、オーストラリアで、海上で、都市で、砂漠で、森林で、特攻兵器の目をくらまそうと、一斉に反撃作戦が開始された。市民たちのなかにも立ち上がるものがいた。思い思いの武器を用意しては、空を埋め尽くす敵に対して攻撃を開始したのだ。

 同じ頃、学園から反撃の嚆矢(こうし)が放たれた。ずらりと並んだ重力アンカー式ロケットが空高く舞い上がり、月面を目指す。VOBが一斉に離陸し、時速5000kmという途方も無い速度で南米を目指す。

 空を見上げるIS学園の面々は、これから起こるであろう敵の反撃に備え、銃に弾を込め、照準を定める。

 一方は、世界を救う為。一方は、世界を滅ぼす為。一方は、世界を支配する為。

 

 各々の理屈のための戦いの火蓋が切られたのであった。


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