セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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68話 Oh,I'm scary

 最悪だった。

 セシリア=オルコットは“歓喜”していた。

 あの忌々しい篠ノ之箒が成層圏の彼方(インフィニット・ストラトス)から落ちて燃え尽きたのを見て、喜んでしまったのだ。これで、織斑一夏(あの人)を狙うライバルが一人減った。独占に近づいた。傷ついた彼を癒せるのは、自分だけだ。そうに違いない―――などと。

 

「わたくしは………」

 

 麻酔の利きが甘くなってきたのか、腹部がズキズキと痛んだ。

 信じきっていた。親友だと思っていた。よかれと思って両親を救おうとして、その結果として親友(チェルシー)は妹を企業連(やつら)の手の内から救い出すことが出来なくなった。

 よかれと思った。いいと思った。自分は、原作を知っているから。知っているから。

 

「う、ううう………」

 

 でも、今は何も知らなかった。明日どころか数時間先のことさえわからなくなっていた。

 原作を外から見ている人間ではなくなっていた。

 

「わたくしは……おれは………」

 

 セシリアの見た目は酷いものだった。髪の毛はボサボサ。目元は擦ったせいで真っ赤になっていた。服装も、病院着にスリッパのみという簡素さだった。

 

「一夏には………相応しく………ない。ブルー・ティアーズ、どう思いますの?」

 

 セシリアは待機状態(イヤーカフス)になっているIS『ブルー・ティアーズ』に呼びかけた。ISには意識があるという。何も返事はしなかったが、代わりに待機状態であることを示すランプを点滅させた。

 セシリアは目をごしごしと擦ると、イヤーカフスを親指で弾いた。

 

「行こう、ブルー・ティアーズ。お前だけが“俺”のたった一人の相棒だ」

 

 待機状態、解除。光が病院着姿のセシリアを包み込み、ISスーツを量子変換で呼び出す。競泳水着を思わせるそれが、セシリアのしなやかな肉体を包み、装甲を纏わせる。

 ハイパーセンサー起動。敵パルヴァライザーが致命傷を負い逃亡していく姿が映った。

 箒決死の特攻も、パルヴァライザーに止めを刺すことはできなかった。これは、むしろ好都合だった。現在のセシリアにとっては、だが。

 

「さよなら、みんな」

 

 セシリアはその場から跳躍すると、スラスタを全開にして空に舞い上がった。音速の壁を突破。ヴァイパー・コーンを突き破って、速く、遠くへ、飛んでいく。度重なる襲撃で疲弊した学園の誰もがその様子を見ていたが、止めることなどできるはずがなかった。

 自由になったセシリアは、エネルギー残量など気にしていなかった。誰よりも速く、飛んでいく。

 この青く透き通った空の下。

 目から宙に散った青い涙(ブルー・ティアーズ)が、風に揺られて消えていった。

 

「誰だあれは! こんなときに無断出撃をするなど……!」

 

 山田は、IS学園の管制室(オペレーション・ルーム)で作業をしていた。箒捨て身の攻撃によりパルヴァライザーが撤退し、特攻兵器“アンノウン”も引いていった、まさにその最中だった。各国政府への呼びかけ、負傷者の救護、迎撃設備の修復の手配、その他、手が四本あっても足りないほどの作業量だった。

 連絡もせずに一機離陸して学園を離れていくISがいた。IS戦力は貴重だ。ISに対抗するにはISなのだ。一機欠けただけでも、十分すぎる損失になる。

 オペレーターがレーダー画面表示を読み上げる。

 

「IFF照合………ブルー・ティアーズ、セシリア=オルコット機です! いえ消えました。IFFコードを無効化しているようです!」

「バカな……あの金髪(ブロンド)が、トチ狂って敵討ちにでも出かけたということか……? 連れ戻せるわけがないというに!」

 

 パルヴァライザーは手負いとはいえ、通常のISでは手が負えないことは証明されている。ただでさえ手が足りていないというのに、無断で出撃したセシリア機を追いかけるだけの余力などあるはずがなかった。

 

「……チッ。セシリアめ」

 

 山田はレーダー画面を厳しい目で睨み付けた。

 セシリア機が学園のレーダー検知範囲外に出るのは、そう時間がかかることではなかった。

 

 

---------------

 

 

「くそっ!」

 

 ガアン! ロッカーに拳が叩きつけられ、わずかに金属面を歪めた。

 

 織斑一夏は最悪の気分だった。箒が行方をくらました(MIA)。そればかりか、後を追うようにしてセシリアまでもが消えてしまった。

 守る力がありながら、守ることが出来なかった。自分の無力さに嫌気が差す。

 

「くそっ! くそッ!!」

 

 ロッカーを殴りつける。

 一夏は、ISスーツを着用したままだった。全身はしっとりと汗に濡れていて、たくましい筋肉の上を水滴が伝っていた。

 

「くそっ…………」

 

 ロッカーを殴る。殴り続け、その腕を掴まれた。振り返ってみると、ISスーツ姿のシャルロットが立っていた。

 

「シャルロットか………」

「意気地なし」

 

 一夏は思考が爆発するのを感じた。拳を固めると、シャルロットの顔面に振りかざす。

 

「甘いよ」

 

 次の瞬間彼の体はシャルロットの誘導に引っかかり無様につんのめっていた。手首を掴み、体の回転に合わせて床に叩き付ける。一夏が咄嗟に受身をしていなければ、背中をしたたか打ち付けていたであろう一撃。

 

「どんなことになってるか様子を見にきたらこの醜態。ポーカーフェイスの一夏らしくないね」

「………すまん動揺した」

「セシリアのこと? 箒のこと? 両方?」

「………」

 

 一夏は、シャルロットの拘束からするりと抜け出すと立ち上がって頷いた。

 

「二人ともだ。俺が……」

 

 一夏は、ここぞというときに役に立てなかった自分を恥じていた。親友か、あるいは好敵手と言うべきか、大切な人を二人そろって守ることさえできなかったのだ。自分がもっと強ければ、という思いが自分自身への怒りへと変わっていた。

 シャルロットははあと息を漏らすと、一夏を正面から見据えた。

 

「俺のせい、あいつのせい。誰かのせいにするのはいいけど問題の解決にはならないよ」

「……シャルロットは冷静なんだな」

「僕だって冷静になれないことくらいあるけど、ここで取り乱しても……それに、あの二人は殺して死ぬような女の子じゃないよ」

「そうか…………そうだな」

 

 一夏はシャルロットを正面から見据えて言った。

 

「ありがとう」

「………なんだ、ちゃんとした顔もできるんだね」

 

 凛々しい顔立ちになった一夏を見て、シャルロットはわずかに目線を逸らした。

 

「? なんのことだ」

「巡り会わせが違ったら、君に惚れてたかもね」

「??」

「なんでもない、こっちの話」

「それよりさっきのは?」

「セシリアに教えてもらったんだ。アイキドウっていうらしいよ。面白いよね。相手の力を利用して相手を投げるってさ」

「そうか」

 

 学園中に、呼び出しを意味する曲が鳴り響いた。マイクのノイズが走り、続いて疲れ切った山田の声が響き渡る。

『各員に通達する。所定の持ち場を守るように指示を受けている生徒以外は、休息を取るように。2200時を持って、IS学園生徒会長の“更識刀奈(さらしきかたな)”と織斑先生の話がある。各自余裕を持って講堂に集合すること』

 

「だってさ。さっさと着替えて、ご飯食べちゃおうよ」

「それもそうだな」

 

 一夏とシャルロットは顔を見合わせると、頷いた。度重なる戦闘による疲労は誤魔化しようがないものだ。イレギュラー、鬼神、などと呼ばれる一夏とて、肉体が人間である以上は疲れてしまう。

 一夏はおもむろにISスーツを脱ぎ始めた。

 

「わ、わぁぁぁぁっ! この、女の子がいるんだぞ! 朴念仁(どんかん)!」

「納得いかない……」

 

 シャルロットが大声を上げると、一夏の顔面に持っていたタオルを投げつけた。

 弱きものよ、汝の名は男。


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