セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
セシリア=オルコットが学園祭終了後から最近浮かれているともっぱらの評判である。
本人がそうであると口にすることはないが、極めて感情の読みやすい女である。まず、表情に出る。一夏の前ではデレデレとするし、かと思えば箒相手には敵意をむき出しにする(子犬の威嚇のような可愛さとファンクラブ員は密かに語っている。
なぜセシリアが浮かれているのかと言えば、晴れて恋する一夏と同室になったということである。学園祭最後のイベントである『黒い鳥の物語』の演目で最後まで生き残った賞品として与えられたのだ。
ちなみに、
『私は一切関与していない』
と生徒会長である簪が無を通り越して虚無の表情で『あのイベントを選んだ経緯』について新聞部に取材されていたという。
セシリアの一日は、一夏と競うように早起きすることから始まる。
「あふ………一夏さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
一夏はいつも寝るときは上を着ないらしかった。鍛え抜かれた腹筋が露になっている。
一方でセシリアは仕立てのよい薄ピンクのネグリジェだった。ぴょんぴょんあらぬ方向に跳ねている髪の毛を撫で付けながら、欠伸をかみ締めつつ挨拶をする。
一夏は手早く箪笥から引っ張り出すとジャージに着替えていた。同じようにセシリアも風呂場に行き、ジャージに着替えて出てくる。
「それでは参りましょうか」
「そうだな」
朝のジョギング。これが二人の日課だった。
「最近セシリア元気がよくて見ているこっちも楽しいよ」
「そうか。愛する男と一緒の部屋だからな、当然だろう。悔しいことにな」
二人が中睦まじく談笑しながら自室に戻っていくのを、シャルロットとラウラが見ていた。彼女たちもまたジョギングに出ていたのだった。
「ラウラって一夏のどこが好きなのかな?」
「うん? 坊主のお尻に惚れたんだ」
「お尻て」
「お尻はいいぞ。最高だぞ」
「理解できないよ……」
シャルロットが軽い気持ちでラウラに訊ねると、ラウラは腕を組みながらそんな冗談(?)を飛ばしたのだった。
「一夏ァァァァ! 好きだぁぁぁぁぁ! うわああああっ!!??」
箒が全力疾走で一夏に駆け寄っていく。一夏は有無を言わさず腕をねじり上げ床に押し倒す。
セシリアがぷんぷんと頬を膨らませて箒の救助を開始する。
こんな日常がいつまでも続けばいい。
セシリアは、否、全員がそう思っていたことだろう。
空襲警報が鳴り始めた。学園中に設置されている様々な武器が一斉に稼動を開始する。窓という窓が金属製のプレートによって遮断され、戦闘ヘリが一斉に離陸、戦闘機が、ISが、飛行機雲を曳きつつ飛び立っていく。
無数の物体が接近しつつあった。それをみたセシリアは顔色を失ってしまった。
「特攻兵器…………!」
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IS学園防衛の為沖に停泊していた日本国海上自衛隊所属のイージス艦は、謎の物体が領空を侵犯したために撃墜されたという知らせを受けて、警戒を強めていた。
報告によれば無人ドローンのような物体だったらしく、多国籍語による警告も威嚇射撃にも従わず直進を続けたので撃墜したという。この時代、無人機による侵犯はさほど珍しいものではなかったが、警戒を強めろという指示に従っていたのだった。
「艦長、領空侵犯機、更に接近とのことです。数、30」
「30? 了解。全艦対空戦闘用意」
「艦長、レーダーに捕捉しましたが……数が増加しています。500機を捕捉、まだ増えており捕捉限界を超えています」
俄かに戦闘指揮所が騒がしくなる。レーダー画面には、空を覆い尽くさんばかりの敵機が映し出されている。巡航ミサイルに匹敵する亜音速で飛行しており、じきに防空識別圏に入ることが表示されている。
「米軍より報告。数、5000に増加」
「砲雷長、攻撃を開始してくれ」
「了解。攻撃開始。射撃は自動管制で実施」
距離にして100マイルを切っている。各艦の
各艦、一斉に対空ミサイルを発射。ロケットモーターに点火したミサイルは一目散に敵に向かっていく。
「敵数増大、1万を超えました」
「1万だと!? 馬鹿な………」
全ての長距離ミサイルを撃ちつくした各艦は、次に短距離ミサイルの発射準備に移る。戦闘機隊も必死で空を守ろうとしているのが映し出されているが、あまりの数に焼け石に水だった。
各艦、短距離ミサイルを連続発射。更に接近する“波”を防ぐことはできない。
艦砲および
「艦長、報告です。世界各国に同様の兵器が襲来しつつあるとのこと。既に一部海域の防衛網を抜かれており、本国に被害が」
その報告が上がる中、艦隊は次々に特攻兵器の餌食になっていく。被弾する前に撃ち落すことを目的にした現代の船にとって、波のように押し寄せる爆弾の群れはあまりにも強大過ぎた。
一隻、また一隻と消し飛ばされ、穴だらけにされ、沈んでいく。
航空機は辛うじて無事だった。その兵器は足が遅い為、逃げることはできたのだ。ISもまた同様だった。だが彼らが降りる為の空母はそうはいかない。飽和攻撃にさらされ、炎上していた。その炎上している穴へイナゴのように特攻兵器が纏わり付き、内側から粉々にしていく。
『そんな……あかぎが!』
自衛隊所属のIS乗りの女性は、自らが飛び立った空母“あかぎ”が次から次へと機関銃かくや押し寄せる特攻兵器に飲み込まれていくのを、ただ見ているしかなかった。既に武器は全て撃ち切ってしまっていて、後は近接武器しか持っていない。爆発する兵器相手に近接武器など使えるはずもなく、IS特有の音速機動で辛うじて被弾を免れているだけであった。
彼ら必死の防衛も虚しく、特攻兵器はそのほとんどが素通りをしていった。目標は、あらゆるものだ。町、ビル、兵器、人、森。
そしてこの騒動は、全世界中で起こっていた。
衛星軌道上に位置する対地対艦両用質量弾兵器『トール』。質量弾を重力の力で降下させ、その破滅的な運動エネルギーを攻撃に利用するそれは、特攻兵器の襲撃には無力だった。高速で移動する物体を捉えることを想定されていないからだ。
だが、あろうことかトールは起動していた。
地上の管制官は、トールが指示も受けていないのにもかかわらず勝手に起動したのを見た。
『トールが勝手に起動している!?』
『そんな馬鹿な、ありえない。誰が攻撃指示を出している!? 緊急停止コードを送信しろ!』
『だめです受け付けません!』
トールは各種に取り付けられたスラスタを吹かしつつ、金属弾を準備し始めていた。各種衛星から送られるデータを元に標的をセットする。
『トール、アタックオペレーション、イニシエート。東京、ロック。大阪、ロック。名古屋……ロック。札幌……ロック』
『トール2、起動している! 緊急停止コードを受け付けない! モスクワ、ロック。サンクト=ペテルブルク、ロック……』
『こっちは中国への攻撃だ!』
『フランスへの攻撃もある!』
『イギリス、ロンドンにロックしている!』
本来向けるべきではない対象に向けて、次々と質量弾が発射される。
それは全ての国に向けて無差別的に行われていた。アメリカ、ロシア、中国、日本……あらゆる国に向けてだった。
『誰かこれを止めてくれ!』
管制官の悲鳴のような絶叫が上がった。
『企業連合の攻撃型迎撃衛星アサルトセルを使用するように依頼を掛けろ!』
『だめです、アサルトセルも動かないとのこと!』
『クソッ…………一体、誰が誰に攻撃を仕掛けているんだ!!』
最終章『VERDICT DAY』
「"最期"を告げる、評決の日」