セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
学園祭当日。
俺は“執事服”を着せられていた。
おかしい。ご奉仕喫茶でメイド服を着て一夏に褒めてもらうはずだったのに、実家から送られてきたのはあろうことか俺の寸法が気持ち悪いくらいにぴったりと誂えられた執事服だったのだ。くそうチェルシーめ、メイド服を送ってねっていうメッセージが読めなかったのか。
生憎というか、元男なので男物の着こなしは慣れている。執事服を着用して、髪の毛をうなじで結んでリボンを巻けばあら不思議、どこに出しても恥ずかしくないセシリア・オルコット執事の完成である。
おっぱいは、コルセットでなんとかしました。
「お、お帰りなさいませお嬢様……」
「セッシー顔が引きつってるよー」
「うぐ……そ、そんなことを言われましても……」
1年1組の教室は超満員状態だった。主に世界唯一の男性操縦者織斑一夏が執事をしているから見に来ているという人が大半だとは思うけどな!
俺は、俺とは逆にメイド服をきっちり決めているシャルがにやけ顔で指摘してくるのに、涙目でにらみ返していた。
メイド服で! あの! 一夏君の横に並びたかったの! 執事じゃないの!
元男が女になって男装って属性が多すぎやしませんか!!
「せっし~お皿わっちゃった~」
本音がにんまりとした表情で報告してくる。皿洗いを任せたらこれだよ!
ああ、どいつもこいつも! せっしーじゃないんだよ。じゃあセシリーならいいのかっていうと、宇宙海賊になりそうだからNGだ。
「本音さんは表に出てお客さんの案内をすること。いいこと?」
「はぁ~い。いってきま~す」
相変わらずのほにゃほにゃとした受け答えである。
「きゃぁぁぁぁ一夏くぅぅぅん!」
「写真! 写真撮らなきゃ!!」
「………セシリア、助けてくれ」
棒立ち状態で固まってしまっていた一夏が俺のほうを見て貴重な困り顔でヘルプサインを出してくる。執事姿が似合ってはいるのだが、表情が相変わらずの能面の一夏が女の子に囲まれていた。
ふふん、もっと頼ってくれてもいいのよ?
俺は颯爽と一夏の横に並ぶと、きゃーきゃー行って動かない女性陣を待機列後方に追いやる。
「お嬢様、列に並んでいただくのが規則でございますので、どうか」
「か、かっこいい……! 外の人ですか! 外の、えっと、男の!?」
「連絡先交換しませんか!?」
……女性陣が俺のことを見るなり目つきを変えた。
いや間違ってはないよ、間違ってはないんだけど、今は男じゃなくて女なんだけど男の格好で声質を中の人で言うところのC.Cみたいにしてるせいで男っぽく見られるというか!
「1年1組イギリス代表候補のセシリア・オルコットですわ………諸事情ありまして。ごほん! とにかく列に並ぶこと! いいですこと?」
「はぁ~い!」
女性陣を追い払った。俺が一夏のほうを見ると、感心したような顔をしていた。
「シャルロット、厨房が鉄火場だ。救援を求む」
うんざりした顔のラウラがシャルロットの服を摘んでいた。『私は愛想が悪いからな』とかなんとか言って厨房担当になっているラウラ。表も大概戦争みたいなものなので助けて欲しい。
「うん、わかった。いくよ」
「助かる。おい、一夏」
「なんだ」
「笑え」
ラウラが男らしくアドバイスをしてシャルロットを連れて消えていく。
「……」
無言で両手の指で頬を持ち上げる一夏。
クソ萌える。写真撮りたくなったけど、ここはぐっと我慢である。
俺は気を取り直して次の客をテーブルへと案内しようとした。チャイナドレスをばっちり決めて化粧までした
わかってたけどね! わかってたけど、いきなり手を繋ごうとするのはヤメロ!!
「せっしー会いに来たわよ。案内してね?」
やめてくれ! ただでさえ忙しいというのに、この……!
一瞬俺は何もかもを投げ出したくなったが、逃げたら負けだという己の声にしたがって、抱きつこうとしてくる鈴音を腕で遠ざけつつテーブルに案内することにした。
大胆なスリットの入った赤いチャイナドレス。足は小さく、腰は細く。まるでお人形さんのような美しさの鈴音がこちらをガン見してくる。ねっとり胸とか腰とかお尻辺りを見てくるのをやめてください。
「鈴音さんは中華喫茶かなにかを?」
「そ。所謂
「いえ、好きというか、実家に送ってくるように頼んだらなぜかこれが来ただけですわ」
「写真撮るね?」
「お断りします」
「まあまあ」
強引に肩を組んでくる鈴音。
俺知ってる。君、主要メンバーの中では中の人はおんなじなのに男性に興味が無くて女性のほうがいいってことを。
不用意な接触は危険だ。ということで引き剥がそうとしたわけだが、思ったより腕の力が強くてできなかった。
スマートフォンをすっと取り出した鈴音がカシャカシャと撮影してきた。そっぽを向いてやったがな!
「ふふふふ………かわいいかわいい……じゅるる」
「鈴音さん涎涎」
「おっと。じゃ、せっしー案内してくれる?」
ふう。このレズめ。俺はノンケなんだぞ。
………いや、俺ってどっちなんだ? 今女だけど元は男で……あぁ、めんどうな! 考えるのはやめやめ!
俺はオルコット家から運ばせた調度品が並ぶ店内へと鈴音を案内していた。椅子を引くと、座らせる。
「執事にご褒美セットで」
「おすすめのケーキセッ……」
「ご褒美セットで」
「紅茶セットも……」
「ご褒美セットで」
俺がメニューを差し出して他のものをオススメしようとしても、首を振られる。
ちくしょう、下調べしてきやがったなコイツ!
「執事を食べてもいいセットなんでしょ?」
「執事に食べさせられるセットですわ!!」
「執事が私を食べるセットなの!?」
「執事に! 食べさせる! セット!」
鈴音の目が据わっておられる。早急に退散して欲しい。
くそう、こんなことじゃ一夏に勘違いされてしまうぞ。
「少々お待ちください……」
俺は言うなり引き返していった。厨房では既にセットが準備されていたので、あとは受け取って戻るだけである。
アイスハーブティーと冷やしポッキーのセット。お値段300円とリーズナブル。戻りたくはないが、いくしかない。
俺が戻ってみると、さあどうぞといわんばかりに脚線美を強調して待っている鈴音がいた。
「お待たせしました。こちら、執事にご褒美セットでございます」
「じゃ、やろうか。はい、どうぞ」
言うなりおもむろにポッキーを咥え始める鈴音さん。あのー俺に食べさせるという商品なんスけど~。
「鈴音さん?」
「ん? んー? ん」
口に咥えたまま俺のほうを見る鈴音。
「するわけないでしょう!」
「えぇぇぇぇぇぇ? しないの? しようよセシリア~」
ポッキーをもぐもぐしながら鈴音が口を尖らせる。二本目をすちゃっと咥えてじりじりと迫ってくる。
おいばかやめろ。
「一夏さん助けて!」
「何をだ……」
俺が助けを求めたところ、どこにいたのかすっと一夏がやってきたではないか。俺を見て、鈴音を見て、困惑した表情を浮かべている。
「呼ばれてしまっては仕方が無かろう。不肖、篠ノ之箒、ここに参上す!」
呼んでもないのにメイド服姿の箒さんまで乱入してきて、場は混乱状態に陥った。
「新聞部でーす! あっ、ちょうどいいところに代表候補生の皆さんおそろいで!」
とかやってる間に写真部の黛薫子まで乱入してきて、勝手に写真を撮りまくり。
「せっしーあーんしてあーん!!」
「しませんわ! 絶対に、む、むごごご!!」
ファーストキスだけは死守したとだけ言っておこう。