セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
もう待ってる人おらんのちゃう? ままええわ。
4巻は大体終わりになります。次話でちょっとだけ千冬さんがどこに行ってるのかがわかったり学園祭編に突入したりします。
自慢じゃないが、俺はそこそこ料理ができると自負している。
最近では記憶がかすみ始めているが、子供を育てていた頃は嫁が料理を作れない体調不良のときは自分で全員分を作っていたわけで。というより何度でも言うが絵に描いたようなメシマズな人は、量らない、従わない、アレンジをしたがる。料理本通りの計量と調理方法とアレンジはせずにやれば、塩と砂糖を間違えるレベルの間違いをしない限りは一定のレベルは保てる。
思えば原作セシリアは完璧?主義だった。とにかく料理というものは料理本通りでなければならぬとハッシュドビーフにタバスコを投入していた気がする。
で本題に入るが、俺は可能な限り一夏と接する機会を作りたかったのだ。一夏の行動パターンはごくごく単純だ。寮に泊まりISの練習をしているか、家に帰るかだ。どうやら千冬さんは日本を離れてしまっているらしく、家には一夏が行かない限り、誰もいないままになっているらしい。妊娠宣言からの海外出張?をする千冬さんの行動がどうしても腑に落ちない。中の人的にだとシャアっぽいあの赤い機体の人を追いかけていって、それで偶然馬に乗ってるところに出くわして殴りかかるとかだろうか。
俺がぼんやりとそんなことを考えながらチェルシーの運転するロールスロイスの小気味いいエンジン音と共に流れていく風景を見ていた。
ちなみに今の髪型だが、ポニーテールにしている。女になってよくわかった。ロングヘアというものがいかに面倒で手入れがいるのかということを。専属の美容師をつけていようが生活するためには自分である程度なんとかしないといけないわけで。後ろで結ぶのが一番楽という結論に達した。
近頃は考えることが多い。
中身の違う面々。一夏。IS。学業。パルヴァライザー。亡国機業。あと身長。体重! 体脂肪率! 肌のお手入れ! 髪の毛のお手入れ! 流行! 雑誌のチェック! メール返信! 無駄……いやよそう。考えてはいけない。考えすぎてはいけないんだ。うん。
などと俺が上の空だったのがいけないのか、ふと気が付くとチェルシーが肩をぽんぽんと叩いてきていた。
「お嬢様。想い人のことを考えるのも結構ですが、まず車から降りなくては会うことも叶いません」
「だだだだだれが下着が黒でレースですって!?」
「あぁ、やはりそうなのですね」
俺がてんぱって今の下着を大暴露してしまう。気が動転していたらしい。まあやっぱりなという顔をするチェルシーのお陰で頭が冷えたが。
雑誌で勉強した今流行のえっちい下着でございます。準備は万端だよ。玄関でもいいよ!
俺は赤面を隠すようにそっぽを向くと、チェルシーの手に掴まって車から降りたのだった。織斑邸から200mといった距離である。
「ご健闘をお祈りいたします」
にっこりと微笑みを浮かべてチェルシーがロールスロイスを駆って去っていく。
俺はごくんと生唾を飲むと、歩き始めた。
ごくごく普通の住宅街のど真ん中にそれはあった。織斑というプレートのかかった家が。
俺がインターホンを鳴らそうと手を伸ばしていると、特徴的なエンジン音が響いてきた。不規則な爆発。ツインエンジンか? 俺が振り返ると、クラシカルなバイクに跨った銀色の妖精がオルコット家メイド候補を後ろに乗せてやってきた。いいよなぁ、トライアンフは……じゃなくて!
「待たせたな」
「二人とも……! ホホホ奇遇ですわね。どうしてこんな場所へ?」
一瞬キャラが崩壊しかけたのをぐっとこらえて俺が聞いてみると、ミリタリールックのラウラがにやりと笑った。後ろに乗っているシャルロットを下すとスタンドをかけて降りる。ヘルメットを脱ぐと小脇に抱えた。
シャルロットはにこにこ笑いながら両手を胸元でふっと見せる。
「もちろんあの坊主を落としにきた。で、こいつはついて来たってところだぞ」
「ハローせっしー」
「誰がせっしーですか! ぐぬぬ……あぁ一夏さんとの素敵なアバンチュールが待っていたというのに……!」
シャルロットはまあいい。ラウラは強敵である。原作の無知な感じがなくなって色恋に強く積極的で、うかうかしていると横から取られてしまいそうな気配がある。まさかこのタイミングで居合わせるなど、俺は己の生まれの不幸を呪った。
いいだろう。恋は戦争だ。俺は後ろで縛った髪の毛が鞭のようにしなるほど素早く身をひるがえすと、インターホンに向かい合った。
「いいですわ。受けて立ちましょう。セシリア=オルコットの辞書に敗北の字はないのですから!!」
俺がインターホンを鳴らすと、なかなかどたばたと物音がした。そして扉が開く。
「このプレッシャー……! さらにできるようになったなセシリアッ!!! そう、私たちは引き合う運命(ディスティニー)!!」
「ほ、箒さんっ!? その恰好は一体!?」
「これはまさしく王道! 正義(ジャスティス)!!」
扉が開くと、裸エプロンに仮面というシュールな恰好の箒が姿を現した。流石の俺も動揺して(いつもしてるって? うるせえ)大声を上げてしまった。
箒はきゃっと頬を手で包むと、身をよじらせた。
「聞いて驚くがいい! 不肖、篠ノ之箒!! 一夏との熱い新婚生活の予行演習のためにわざわざ可愛いエプロンを通販ぐぶべらぼっ!?」
「セシリア、ラウラ、シャルロットか……なんの用だ?」
背後から音も無く忍び寄ってきた一夏が真顔で箒の首を絞めあげる。絞められてるのにうれしそうな悲鳴を上げてもがく箒。羨ましい! じゃなくて!
「見事な拘束だな」
ラウラがのほほんとそんなことを言う。そこ? 感心するとこそこ?
俺は咳ばらいをした。
「こ、こほん! えーっと、一夏さんがちゃんと食べてるか心配になったので様子を見に来たのですわ」
「もっとだ! もっと痛みをくれ! 通販と言えばマタニティグッ…………ベッ………きゅう」
俺が見ている前で箒が意識を失う。今日はいつにもまして飛ばしてんなオイ。
一夏は箒を抱きかかえると、ふむと喉を鳴らして俺たちを一瞥した。
「カップ麺でなんとか済ましていたが、問題はないと思う」
「問題ありですわ! 簡単に何か作って差し上げますから、お邪魔してもよろしくて?」
「おう」
「あ、あ、あと! 専門店で買ってきたケーキもありますから!」
「そうか。茶を淹れないとな」
抱きかかえられた箒はとても幸福そうな顔だった。
「急に押しかけて来た」
箒がここにいる理由を聞いてみると一夏はあっさりとそんなことを言ってきた。まあ箒のことである。特に用事がなくても一夏の家に行くことは想像するに難しくないのだが、まさか裸エプロンを披露とはなかなかやりおる。
「とりあえず姉さんの部屋に押し込めておいたから出てこられないと思う」
「そ、そうですか」
気になる。その押し込められたら出てこられない部屋というものが猛烈に気になる。メカオタクなアムロin千冬さんの部屋だから色々と魔境と化してそうだ。
「で、なんのために来たんだお前たち」
無表情でそんなことを聞いてくるイケメン。俺は早速本題に入ることにした。
ピンポーン。インターホンが鳴らなければ本題にすぐ入れたんだが。
「くっ! このプレッシャーは……!」
俺は一夏がインターホンの呼び出し応対に向かうのを見つめていて、気が付いた。インターホン越しにでも感じる邪気。間違いない。
『あっ一夏じゃない! なんかこのへんにせっしーの気配を感じたから来たんだけど、一夏ンちにいたりしない?』
「いるぞ」
うわあああああ! なぜばらしたし!
俺が恨めしい顔で応対している一夏のことを見つめていると、横からシャルロットが視線に入り込んできた。俺はやけくそ気味に腕を組んだ。
「せっしー眉間に皺寄ってるよ」
「せっしーじゃありません! もうっ。いいですわ。こうなればクラス全員丸ごと来てしまえばいいのですわ!」
「全員は入れないが」
「そういうことを言ってるのではありませんっ!」
またもや真顔で正論を吐く一夏に俺は肩を怒らせて声を上げたのだった。
で。
ケーキはとりあえず俺用、一夏用、千冬さん用、とあとおいしそうなやつを二つ持ってきていた。シャルに一つ。ラウラに一つ。箒はぐっすり寝てるからいらんだろう。万が一……万が一もクソもないが、万が一起きてきたら俺のやつを譲ろうと思う。
ここは一夏の部屋である。机、椅子、箪笥、あとカーテン。とにかく殺風景で、几帳面に整理整頓されている以前に物がない。
「はぁー」
俺は自分の分のイチゴムースのケーキを見つめていた。ほかほかと湯気を立てる……というわけではなく、アイスティーに浮いている氷がからんと音を立てる。
せっかくなら二人きりがよかったなぁと思うのだ。
「せっしー、あーんしてあーん。落ちちゃうからあーんしてよほらほら」
「んもうっ、鈴音さん! はしたないですわよ」
「あーん」
「うぅ……あーん……」
俺は目をキラキラさせながらタルトにフォークをぶっ刺して口に入れようとしてくる鈴音から逃れようと身をよじっていた。どこまで逃げても口についてくるフォークに、逃れる場所がないことを悟りしぶしぶと口を開ける。チーズタルト。濃密なチーズの味と、サクサクとしたタルト生地のハーモニーが味覚を刺激する。
「きれいな舌してるわね……」
などと背筋が凍るようなことを呟き始める鈴音さん。やめろ! 俺は一夏と添い遂げるんだい!
じーっと俺を見てくる鈴音様。やめろ! 見るんじゃない!
自分のタルトを食べて、ぺろりと唇を舐める鈴音殿。やめろや!
「うますぎる!!」
と驚愕の表情でショコラケーキを突くのはラウラである。食い意地が張ってるのか。ネイキッドの方なのかなやっぱり。好物はチキンラーメンだったりしないだろうな。
「あ、ずるいよ鈴。はいあーん」
と悪戯っぽい表情で自分のメロンの乗った涼しいフルーツケーキをフォークに乗せて俺に食わそうとするシャルロット。
「あーん。せっしーこっち見てあーん」
「あーん」
「う、うぅぅぅぅ一夏さん助けてください!」
二人そろってあーんしてくるので、俺はいよいよ困ってしまい一夏にSOS信号を発信した。
「食えばいいんじゃないか……それにしても小さいな」
一夏といえば、シュガーのかかったイチゴの乗ったシンプルなショートケーキをものの数口で平らげてアイスティーを一気飲みするという男気を発揮していた。なるほどアイスもかじるタイプか。わかるよ。
じゃなくて! こういうときは俺があーんをしたいのであってあーんされたくはなかったのだ!
「口についてるぞ」
とか言いながら一夏が俺の口元に手を伸ばすと、クリームを拭ってくれたではないか。感極まった俺は目をキラキラさせながらイケメンフェイスを見つめてしまった。
「一夏さん……!」
「ずるいよあんた。せっしー私もするから、ほらこれつけて。ね、先っちょだけだから! 痛くしないからさ!」
「何を言ってるのですかあなたという人は! そんなはしたない真似できるわけないでしょう!」
「あ、これ知ってる。日本のテレビでいうマエフリって奴だよね。風呂とかに入るための決心がつかない人を突き落としたりするやつ。オデンっていう煮込み料理を食べさせたりするやつ」
「シャルロットさんも変なものに影響を受けないように!」
「風呂は熱い風呂に限る」
「一夏さんも乗らないでくださいまし!」
などと鈴音さんがケーキを俺の顔につけようと企んできたので、俺は仰け反ることでそれを回避した。
ていうかシャル何を見てるんだ一体。教育に悪いとは言わんが妙なもの見やがってからに。一夏はいいや。趣味がおっさんだなということを知れたのでそれはそれで大変おいしいです。
ばたんと扉が開いた。俺がぜいぜいと荒い息を整えつつ振り返ると、仮面を被り私服に身を包んだ箒さんが降臨していたではないか。
「私の分は?」
「お前……あの部屋からどうやって脱出をしてきたんだ……」
一夏が愕然とした様子でそんなことを言う。え? そんなに千冬さんの部屋魔境なの?
「うむ。それは愛の力でだな」
「チガウヨ チガウヨ」
箒が腕を組みドヤ顔をした途端に足元に転がる緑色の何かが電子音声で喋った。すすすと歩いてくると、俺たちが座るソファに腰掛ける。
「ハロ……! すごい! 本物を見られるなんて!」
俺は思わず素に返って叫び声を上げてしまった。ボールに目を付けたようなロボットの現物が目の前に出現したのだ、驚かないわけがない。ハロとはアムロが作ったとされるロボットであり、ガンダムで(ほぼ)皆勤賞を誇るロボットである。この世界のアムもとい千冬さんも作っていたらしい。トリィとかもいるんですかね?
「デカタ オシエタヨ」
「まあ教えてもらわないと普通に出るのは無理だからな」
一夏が悟りを開いたような顔で呟く。
……気になる。その部屋が気になる。アムロにしろ千冬さんにしろお世辞にも家事や掃除ができるタイプではなかった。二人が悪魔合体した結果生まれる部屋は想像するに難しくないが、一目見てみたいなあと思った。
「ハロというのかお前……で、結局お前たち何か用事でもあったのか?」
一夏が足元に転がって移動してきたハロを抱き上げると、俺たちをぐるりと見回す。原作一夏よりもさらに鈍くさらに人の機微に疎い男である。女の子が遊びに来たんだから察してほしい。ていうかハロって名前知らなかったんかい。
俺は胸を張って見せる。
「気になる殿方の部屋に遊びに来たのですわ!」
「結婚の前準備のため花嫁修業に決まっている!!」
「坊主の部屋を見物に来た」
「せっしーの匂いがしたから来たんだけど」
「ラウラについてきた感じかなあ」
変態が異物混入してるが俺は気にしないよ!
「それでこそ私のライバルだ!」
箒がゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうな迫力で俺をガン見してきたけどスルースルー。
「箒さん。私のケーキをどうぞ召し上がってくださいな。私は、自分でお土産として持ってきたものなので、食べなくても構いませんの」
「その粋な対応に感謝するッ! 御免!」
俺は言いながらケーキを箒の前に滑らせてやった。食べ盛りなことは否定しないけどケーキひとつで心揺るぐほど精神力がないわけじゃないさ。
若干グラハムにブシドー混じってそうな台詞を吐きながらイチゴムースのケーキを食べる箒だった。
「おいしい……頬が落ちそうだ。好意を抱くぞセシリア!」
口元はほんわか。頬を押さえて頭を振りつつそんなセリフを言ってくる。仕草はかわいいよ、仕草はね。
「遊びか………何をすればいいんだ……?」
俺たちの食べたケーキ皿を回収しながら一夏が呟いた。案の定というか、原作一夏は弾みたいな腐れ縁の友達とそれなりに遊んでいる節があったが、こっちのは遊びが何かレベルから入らないといけないのだろう。
「あ、それ僕がやっとくからみんなと遊んでてよ。ねっ、セシリア?」
シャルロットが腰を上げて一夏の手から皿を奪う。俺にウィンクをしながら。
ナイスフォロー!
「あんたのことだから遊びって公園の遊具で~とかボケボケなこと言うだろうなって思ってたわ。ちょっと部屋上がっていい? 上がるわ。遊び道具腐らせてるんでしょどうせさ」
鈴音が言いつつ立ち上がると、おもむろに別の部屋へと歩いていった。
で、鈴音が持ってきたのは部屋で埃を被っていたというツイスターだった。
俺はギラギラとした欲望溢れる鈴音の提案を即効で却下し、無難な人生ゲームを選択することにした。
だってどう考えてもそっちに持ってくつもりなんだもん。
「あっまた子供生まれちゃったー……これで五人目なんだけどそういうのってアリなの?」
「さ、さあ私に言われましても……」
妙に子沢山な鈴音さん。俺のほうをガン見しないでください!
「離婚かあ……まぁ……そうだよね……」
結婚後即座に離婚イベントが来て苦い顔をするシャルロット。
おお、もう……。
「なぜ私は結婚イベントがなく商売で成功するイベントばかりやってくるのだ!?」
結婚できず嘆く箒さん。
「無人島に漂流だと? 相応の装備があれば問題はないな」
何かずれたことを言ってるラウラ。
「なあ、庭から油田ってありえるのか……?」
特になにもしてないのに億万長者にのし上がるメインヒロイン。じゃなくて一夏さん。
「どうして私だけ開拓地送りなんですの!?」
俺? 借金かさみすぎて借金返済のための労働とかいうなんか笑えないことになってましたとさ。