セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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ぎりぎり


29話 のほほんとしてない戦い方

 

 試合開始と同時に俺は全力で後退をかけた。

 相手は鈴音と簪。簪の中身が何かは知らないが、機体は打鉄だった。第一世代で第三世代と張り合うようなキチ……稀有な箒のようなものもいるのだ、油断はできない。そもそも打鉄は弱い印象があるが戦闘機で言う所のF-15のようなもので、対地対空はもちろん対IS戦闘までこなせる上に両肩の装甲は再生すると来ている。ぶっちゃけ初期のブルー・ティアーズより使いやすかったのは秘密だ。技術局に悪いからな。

 一方でドでかい丸盾を構えてロングソードを持って突撃していくのは、のほほんさんこと布仏本音だった。打鉄なんだが色が鉄色かつ肩の装甲とか、頭の飾りとかが若干違う。西洋風にアレンジされていた。専用機は持っていないみたいだが改造はしているようだ。

 

 「うりゃー! かんちゃんかくごー!」

 

 コミカルでノンビリした言い方だから一瞬だまされかけたけど、動きはスパルタ兵のそれだからな? スラスタ全開にしながら盾を構えて猛突進。ロングソードの刺突からのかち上げ切りさらに派生してシールドバッシュと淀みない。

 

 「……間合いを変更。装備変更、近接用ブレード葵。分析中……初期フェーズ進行中」

 

 簪は原作のオドオドというか内気っぷりがまるで感じられない冷たい目で対応していた。片手にはアサルトライフル、片手にはブレードで本音の攻撃を受けては間合いを離して撃ちまくっている。

 のほほんは、とにかく“上手い”。正統派騎士剣術とでもいうべき動きながら、盾を上手く使ってシールドにかすらせもしない。ちなみに盾は例の太陽のペイントがされていたよ。これが案外上手いから困る。

 お互いがお互いの手の内を知り尽くしているんだろうな。俺が加われば形勢が傾くんだろうけど。

 俺は猛烈な勢いで速射される衝撃砲をかわすために、ストライクガンナーを俺の限界にまで使いながら機動していた。

 

 「逃げるだけじゃ勝てないわよ! かかってこーい!」

 「追いかけっこも楽しいものでしてよ!?」

 

 俺は射線にまったく入ってくれない鈴音に追い掛け回されていた。スターライトmk.Ⅲをフルオートでばら撒いてはいるんだが、それだけなんだよなぁ。ノーモーションかつ射角に制限のない衝撃砲は、俺とすこぶる相性が悪い。俺が射撃しようと構えると撃ってくるし、弾をばらまいて距離をとろうとすると追いついてくるし、しかもBTミサイルの迎撃にももってこいと来た。俺のアドバンテージは足が速いことだ。といっても狭苦しい会場内をいつまでも逃げ切れるわけじゃない。

 俺は肉食獣チックに口角を釣り上げて接近してくる鈴音を見ながら、プライベート・チャネルを繋いでいた。

 

 『本音さん! なんとかこちらの援護に来られるかしら!』

 

 俺が見ているとアサルトライフルのフルオートを食らって盾を剥がされた本音が間一髪のところで横っ飛びにローリングして簪のブレード連打をかわしているところだった。いいローリングだ。無敵時間発生してそうだな。

 にしても無表情で息も切らさずブレードを突きまくるのって怖くね? 簪さん表情筋シンデマスヨ。

 

 『んーとねぇ……いけなくはないかな~行こうとするとやられちゃうんだけどねアハハ』

 『だったらわたくしが鈴音さんに仕掛けると見せかけてミサイルをそちらに向かわせます!』

 『は~い』

 

 「ファンネル!」

 

 俺はミサイルを起動すると、合計八発を背後から迂回させる形で鈴音に放った。

 

 「待ってましたぁっ!!」

 

 ここぞとばかりに衝撃砲がフルチャージ。次の瞬間見えない弾丸に半分のミサイルが落ちた。ファンネルは拡散武器に弱い。みんな知ってるね。

 

 「ところが狙いはあなたではなくってよ!」

 

 俺は半分の四発を簪に差し向けることに成功していた。拮抗状態を崩すにはこうするしかない!

 ところが簪もやるもの。アサルトライフルの的確な射撃で片っ端から撃ち落とす。

 

 「ちょいさー!」

 「チッ」

 

 いよいよ表情筋が喪失した簪が俺を睨んできた。怖いよ! おまけに舌打ちが妙に様になっていた。しかし簪は、俺のミサイルのせいで本音の接近を許した。これならやれるかもしれない。

 ここでさらに追加で撃った所で相手の思う壺だ。俺の誘導可能な最大数の十二発で撃てば、誘導精度はさらに落ちる。必要最小限の数でなんとか体勢を崩すしか……しまった!

 OSに警告表示。敵接近!

 

 「隙ありぃッ」

 「っ、あ、きゃあっ!?」

 

 鈴音が俺に距離を詰める。とっさにスターライトMK.Ⅲをめくら撃ちしたが、あっさり側転の要領でかわされる。俺が離れようともがいたところで、双天牙月を連結させ投げつけてきたのだ。畜生、ビームブーメランみたいな動きしやがって!

 俺は本能的にスターライトMK.Ⅲを盾に攻撃を守った。銃身が半ばから断ち切られ、行き場を失ったエネルギーが爆発を起こす。そればかりか双天牙月が俺にくっついてごりごりと装甲とエネルギーを削り取る。

 

 「へぇ、やるじゃない。でもその目のよさが命取りなんだからね!」

 

 OK! こう返そう! 俺はインターセプター・プロトタイプを手元に出現させて振り回して双天牙月を叩き落した。ビーム刃起動。

 

 「倍返しですわ!」

 

 合計十二発を起動。俺はインターセプターを腰貯めに構えると、“ミサイルを体に追従させながら”突撃した。誘導など考えちゃいないさ。俺についてくるように、イメージした。

 

 「もっと速く、もっと、もっと! わたくしに応えなさい!」

 

 スラスタノズルが偏向する。俺のついてこいという意思に従ってミサイルが青い火を伴って飛ぶ。

 

 「カミカゼっていうやつ!?」

 「いいえ」

 

 俺はミサイルの誘導を放棄していた。インターセプターを振りかぶる。その剣身にミサイルをまとわりつかせる。

 

 「まさか! そういうの嫌いじゃないけど!」

 

 鈴音がブーメランのように手元に戻ってきた双天牙月を握り分離独立させると正面から飛び込んでくる。

 まあ、これを狙ってたんだけどね。鈴音の性格からして小細工は嫌いだろうし、正面からやりあえるならそのほうがいいと思ってるだろうし。BTミサイルをデコイ程度にしか使えない俺にとってはむしろ―――。

 

 「しまっ……」

 「お眠りなさい」

 

 好都合だ。

 正面から頭部直撃コースのそれをかわすと、手をインターセプターの柄で引っ掛けて後方に流す。変則的な投げだ。俺は空中でたたらを踏んだ鈴音に向けて、インターセプターを照準装置として構えて、一直線にミサイルを飛ばした。

 立て続けにヒット。絶対防御が作動しエネルギーが尽きた鈴音の甲龍が黒煙を上げながら落ちていった。

 敵機撃墜(エネミーダウン)とハイパーセンサーが伝えてきた。

 

 「や、やった……! うひゃあっ!?」

 

 自慢じゃないが入学してからここに至るまで、初勝利である。こんなに嬉しいとは思わなかった。手がかたかたと興奮で震えるのを抑えて、下方から撃ち込まれるアサルトライフルをかろうじてかわした。

 ライフル二丁持ちをした簪が正面を見たまま本音を撃ち、俺のことをまったく視界にすらいれずに撃ってきたのだ。

 残りのミサイルは四発。起動! この発数ならマクロスのマイクロミサイル並みには動かせる! ……と信じている。俺はミサイルを信じている。仲間を信じている。仲間がなんとかしてくれると信じている。

 

 「BTミサイル“ミーティア・シャワー”! お行きなさい!」

 

 俺はインターセプターを相手に突きつけてミサイルを放った。残弾ゼロ。あとは突撃するしかなかった。

 

 「……形勢は不利。現時点では勝利は困難」

 

 いまだ突っ込め! スラスタ、PIC全開!

 俺はトップスピードで突撃した。

 

 「いただきましてよ!!」

 「数的有利を取り戻す」

 

 俺のミサイルはあっさりと簪に迎撃され、代わりにインターセプターをブレードが払っていた。がら空きになった腹部へとブレードを突き立てられる。エネルギー限界。機体の機能が停止する。

 

 「もらい~!」

 

 その隙を狙い本音が飛び込んできた。緩慢な動き。いや、これは誘い? 頬はにこにこと綻んではいるけども、眼球は強い光を宿している。

 簪がブレードを振りかぶり―――本音の打鉄が握る盾に受け流された(パリィ)。一瞬の隙を見逃さず本音がアサルトライフルを量子転換で出現させ握ると腹にぴたりと押し付けてパチリと可愛らしいウィンクをした。

 ――――ガガガガガガガッ!

 マガジン全てを使い切るフルオート射撃。簪が膝をついた。

 

 「やったぁ! かったかった!」

 

 顔に似合わずえげつない戦法嫌いじゃないわ!

 俺はぴょんぴょん跳ねながら喜びを表現する本音にサムズアップしてみせた。


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