セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
「何もこんな時にしなくてもいいのに……」
俺はクラス対抗戦がもうじき始まるというのに本国の技術者の呼び出しを食らっていた。といってもあくまで学園の中なので、やろうと思えば駆けつけることも可能な距離だった。
技術者の一人は俺に紅茶を手渡しつつ渋い顔を作っていた。
「これは極秘事項なんですがブルー・ティアーズ二号機“サイレント・ゼフィルス”がテロ組織によって強奪されていたそうです」
「されていたというのは?」
俺はカップの中身を一口飲みつつ尋ねた。さすがは本国人。温度といい、茶の質といい、よく勉強している。ステレオタイプ的なイギリス人のキャラ設定のセシリアの俺が言うべきせりふじゃないのかもしれないが。
技術者は椅子で物書きを再開しつつ、俺に視線を向けた。
「我々下っ端には公表されていなかったということです。まだ実験段階のあの機体が、よりによってどこの馬の骨とも知れない輩に持っていかれたなんて公表できるわけもありませんからね」
「しかしまだ実験段階でBT兵器の調整も済んでないと聞いていますわ?」
「そんなものを盗んでどうなるんだ、ですか? テロ組織からしたら貴重な一機を盗み出せただけでもいいんでしょう。ISは持ち運び可能な核より扱い方は簡単な上に強力ですから」
俺はフーンと唸って俯いた。
やはりこうなったか。タイミング的にかなり早いのが気になるが。一応政府上層部に掛け合って警備を強化してもらうだとか、亡国機業に狙われていることを伝えようかとは考えていたんだが、貴族で有力者の娘とてただの小娘がそんなことを知っているはずが無いし、『オタクんのとこの警備甘いッスよ』なんて言えるはずがなかった。最悪機業に口封じされそうで怖くてなんもしないで終わった。
盗み出された機体はのちに……エム? マドカ? とかいう千冬そっくりの女が乗ることになっていたはずだ。面倒なことになったなあ。
俺はモニタを操作してクラス対抗戦の模様を観察することにした。原作では、ゴーレムが襲撃してくる手はずだ。これも事前に警告しようかと思ったが、しなくてもいいんじゃないかなという安心感があった。何しろあの場には、あの黒い鳥こと織斑一夏がいるのだ。出てきて早々即死させられるゴーレムが見られるかもしれない。
「………」
俺はため息を吐くと、唇に触れていた。
一夏のことも気になるが、もう一人のことも気になっていた。水泳勝負の結果はあろうことか俺の敗北に終わった。なんだろうねあのバイタリティ。勝負直後貧血を起こしてぶっ倒れかかりそうになるくらいはがんばったらしい鈴音がピースサインしながらこんなことを言ってきた。
『キスしよっか』
『は?』
『女の子同士キスってふつーじゃない』
『普通じゃないと思います』
『ははーん、もしかしてはじめて……?』
『…………』
その後のことはあんまり思い出したくない。うう。この体では、父と母にしかキスしたことなかったんだけどなあ。この場にいたり俺は悟る。鈴音は原作通りの中身であるが、恋愛の対象が違うらしいと。
なんてことをしてくれたんだよ! まともなのは僕だけか!? と大声を張り上げたくなった。いや中身違うし俺もまともじゃないのか?
「舌入れなんて破廉恥にも程がありますわ……!」
顔が赤くなる。嫁にだってあんまりせんかったんだぞ! あんまり! 最近の子進みすぎてないか!?
「何かいいましたー?」
「なんでもありませんわ! 作業に集中なさい!」
「はぁ……」
技術者が呼ばれたのと勘違いしたらしく振り返ってきたので俺は首を振って誤魔化した。
第二アリーナ第一試合。織斑一夏VS
あ、そうそう、鈴音の機体はやはり『
一夏が試合開始直後に放たれる衝撃砲『
初見殺しにも程があるあれをかわすとかやっぱりこの人おかしい。俺なら回避できずに食らってる。
『
『オとすのはこっちだってーの!』
なんだろう、意味合いが違うような気がする。気のせいだろう。
一夏がブレードを振るう。その一撃はまさに一撃必殺。後で聞いたことだが両腕に装備されているブレード『壱式月光剣』はシールドエネルギーを攻撃に転用しているらしい。使えば使うほど死が近づくマゾ仕様なのだとか。エネルギー効率の高い鈴音の機体とはまさしく正反対だった。一方は短期決戦を求めて、一方は持久戦に持ち込もうとしている。はずなのだが、青竜刀を連結させてビームナギナタよろしくぶん回して突撃する鈴音の姿はむしろ短期決戦を求めているようにしか見えなかった。
『当たると思うの、生半可な攻撃が!』
『………』
鈴音の挑発にも一夏はポーカーフェイスを保ってとにかく距離を詰めようとしていた。詰めようとしたところで青竜刀の迎撃が襲い掛かる。距離をとった一夏へ衝撃が襲い掛かった。あの一夏が苦戦していた。
そうだ、鈴音はとにかく立ち回りが上手いのだ。近接戦闘でブレードを使わせないように青竜刀を振り回してはけん制して、距離を離すや否や衝撃砲を速射で叩き込む。短期決戦に見せかけた持久戦の構えだった。悔しいことに両方の武器をほぼ同時に使用している。異なる武器を同時に使用すると集中力が分散してしまう俺とは大違いだった。
どうでもいいけど甲龍ってR・ジャジャに似てると思う。偶然だとは思うけど。
「な、なんです一体!」
「地震か!?」
衝撃。アリーナの天井が突如として崩落した。学園中を震わす振動にスタッフたちが地震でも起こったのかとあたりを見回している。
「………うぅ」
俺は脚を組んで優雅に紅茶を飲んでいる最中だったのに大揺れしたせいで顔がびしょびしょになっていた。どこぞの戦車乗りのようにはいかないね。何であれ零れないの? 紅茶ゼリーなの?
俺は顔をハンカチで拭いてカップを机に戻すと、慌てるスタッフたちを一喝するべく立ち上がって手を両腰にやった。
「落ち着きなさい! 安全確認! 情報収集! 緊急事態なのですから学園側に対応について連絡を取りなさい!」
始まったらしい。一夏ならなんとかしてくれるだろう。俺は、やることをやるだけだ。つまり学生の避難と、救援である。アリーナへ駆けつけるのが一番いいんだろうが―――。
「緊急用の防火シャッター及びハッチ電子操作できる全ての扉とシールドがオフラインになっています……!」
スタッフの一人が絶望的な表情を浮かべていた。アリーナ中央に何かが落ちたようで、濛々と煙が上がっている。そして学園中のシステムがクラックを受けて扉とシールドが閉鎖状態に移行していた。つまり誰も学園から逃げられないということだ。
俺はどうするかと考えて、ISによる強行突破を思いついた。スタッフの一人の肩を掴む。
「ブルー・ティアーズで扉とシールドを強行突破します。緊急事態につき……」
「Ms.セシリア。これは………ISなのでしょうか?」
スタッフの一人がアリーナを映した動画を見つめて首を傾げていた。確かにゴーレムはISらしくない
「………あ、あれは………」
ありえない。そんなはずが無い。そこにいたのはゴーレムでもなく、それどころかISですらなかった。
俺はスタッフを押しのけるとモニタを食い入るように見つめた。
間違いない。間違えようが無い独特なデザイン。これは……。
「パルヴァライザー………!?」
唐突なクロスオーバー