セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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おまたせ




16話 時には日常の話を

 ノック音。

 返事が無い。中からは誰かと電話をしている声がしていた。

 

 「また今度にしよう。ウン。言わせるのか? ……愛してるよ」

 

 気まずい。ノックをした人物は今まで男性と付き合いをしたことが無い人生を歩んできたが、恋人とのひと時を邪魔されたときほど嫌な瞬間は無かろうというのは理解できた。一拍時間を置いて、ドアから顔を覗かせる。

 

 「織斑先生ここにおられましたか」

 「ああ、汚いところだが適当にしてくれ」

 

 コードが複雑に絡まったヘッドセットをつけた千冬がいた。彼女は体温計を腋に挟んだまま、モニタとにらめっこをしていた。

 ここは整備科が保有する一室。ISを含む各種機器類を整備するための部屋だった。

 千冬の格好とは言えば下はスポーツタイプのレギンスに上はスポーツブラという適当さで椅子に座っていた。うなじで結んでいる髪の毛は作業の邪魔なのか後頭部高くで結われていた。整備用の機器に挟まれているのは独特なT字状のネックレスの形状の待機状態を取っているIS『ν』だった。

 

 「お忙しいところ恐縮ですが」

 「構わない。楽にしてくれ。といっても構えるだけのものもおいちゃあいないが」

 「お風邪ですか?」

 「ン? あぁ……そんなところかな」

 

 山田に指摘された織斑千冬は、気まずそうに体温計をさっと外して机の片隅に放っていた。そして行きがけの駄賃といわんばかりに乾燥イチゴのスナックを袋から摘むともさもさと咀嚼する。

 山田は体温計について何を思ったのか、特に何も言わなかった。モニタの表示へと目線を切り替えていた。

 

 「新型?」

 「いやな予感がするんだ。技術研究の連中と整備科の更識と黛と、あと何人かにも手伝ってもらって改良を急いでいる」

 

 嫌な予感。織斑一夏というイレギュラーを除けば学園は平穏そのものだったが、果たして何がまずいというのだろうか。千冬は急に人の心を見抜いたような鋭いことを言うことがある。山田自身はオカルトじみた話は信じない立場であったが、この眼前で乾燥イチゴのスナックを摘みながらパソコンに数字を打ち込み続ける女の言葉は信用できた。

 嫌な予感。学園が襲撃されるとでも言うのか。日本はもちろん、各国から庇護の下にある学園を?

 

 「次世代型のさらに次世代型――さしずめ第四世代開発のためにというのがメインだが、本音を言うと不測の事態に備えたい」

 

 モニタにはνとは異なり両側にフィン・ファンネルを搭載したISの設計図が映し出されていた。

 千冬はそこで視線をモニタから外すと山田の顔を正面から見据えた。

 

 「戦争は大人の仕事だからな」

 

--------------

 

 飛び込み。ドルフィンキックでおよそ10mほど稼ぐと、水面に出る。優雅なお嬢様という身分からは想像もできない必死なクロールが開始された。とにかく水を掻く。呼吸をする。ヒュッ、という甲高い呼吸音は、それが本気で泳いでいることを示していた。

 セシリア・オルコットは人気の少ない時間帯を選んで温水プールで汗を流していた。

 とにかく泳ぐ。泳ぎまくる。とめどなく泳ぐ。プールの端まで行くと水中でくるりと反転して次は平泳ぎだった。次は背泳ぎ。呼吸を整えて、さらに次はバタフライ泳法。どれだけ泳いだのか、ついに壁に寄りかかって動けなくなった。

 

 「ぜはっ……はぁっ………はっ………」

 

 セシリアはよろめきながらプールサイドに這って出ると、腿に肘を置いた姿勢でベンチに腰掛けて俯いた。

 すらりと長い肢体。白い肌は染み一つ曇り一つ無く光っていて、運動直後のためかうっすらと赤みを帯びていた。薄っすらと割れた腹筋の上に乗った果実はたわわな重量感をこれでもかと強調していて、競泳水着を今にも破らんばかりだった。必然であるがブロンドの見事な髪の毛は帽子に仕舞われていて見えなかった。

 

 「……もう少し泳ごうかしら」

 

 セシリアが目線を上げる。垂れ目がちな瞳は細く研ぎ澄まされていて、攻撃的な光を帯びていた。

 

 「この辺にしておこうかしら……」

 

 そのとき、彼女の前に立つ影があった。

 

 「セシリアおつかれー。どんだけ泳いだのコレ?」

 「…………凰 鈴音……」

 

 セシリアが驚愕の表情で鈴音を見上げる。髪の毛を水泳帽子の中に仕舞い込んだ鈴音が得意げな表情で立っていた。学校指定の水着――ようはスクール水着に身を包み胸を張り腕を組む姿は、とても眩しい。

 眩しいのだが、しかし、セシリアは何か邪気のようなものを感じていた。生ぬるいというべきか、情熱的というべきか、人の感情を強く感じるのだ。第六感というよりも人が本来持つ動物的感性がそう言うのだった。

 

 「鈴音って呼んでって言ってるじゃない! リンでもいいよ! もっと気軽にいこっ!」

 

 鈴音がセシリアの肩を叩く。セシリアは対応する元気も無いのか、手をへろへろと振っただけだった。

 

 「鈴音さん……その、どうしてここにいるとわかったんですの?」

 「んー………セッシーファンクラブ? とかいう人たちが騒いでたから締め上げたら吐いてくれた。ファンクラブ持ちってすごいね。あの連中ストーカークラブに改名させるべきよ」

 「おお……」

 

 セシリアの瞳に剣呑な空気が宿る。やはり潰すべきだろうか、ともそもそつぶやきながら。

 鈴音は小柄でやもすれば子供にも見える体を精一杯張りながら口を開いた。

 

 「丁度プールがあることだし勝負してみない?」

 「勝負ですか?」

 

 セシリアは鈴音がプールを指差した方向に目線を向けた。

 

 「そ。スピード勝負にしろ遠泳にしろ体力無い相手が不利だから、私が同じ距離泳いで息整えてからスタート。どう? 悪くない勝負じゃない?」

 

 鈴音は胸を張って見せた。セシリアのそれを丘とするならば平原にも等しいボリューム感の無さであるが、女性を主張する部分は確かに存在したし、スクール水着の下には横にせり出た骨盤の形状が浮き出ていて、女性として完成しつつあることを理解させる。しかし、やはり活発な印象を与えるツインテールが帽子に仕舞われているせいで幼い印象は拭えなかったが。

 セシリアはウーンとうなると天井の照明を見遣った。

 勝負。いいかもしれない。孤独に泳ぎ続けるより競う相手がいるほうが面白いだろう。ぱしんと拳を手のひらに打ち付けて頷く。

 

 「よくってよ。このセシリア・オルコットの背中を目に焼き付けさせてあげますわ!」

 「のった。勝ったらなんでも言うことを聞くようにする条件つけておくから」

 

 セシリア、沈黙する。しばし経って席を立つと胸を張る鈴音を見下ろすように胸を張ってみせる。

 

 「ふふふふ…………その言葉忘れないようにしてくださる?」

 

 セシリア自身何をさせるのかまるで考えてさえいなかったようだが、それは鈴音には伝わらないことだろう。

 そうして乙女二人組の戦いが始まるのだった。

 

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 『この戦いは、神の御前に掲げられる、聖戦である』

 

 滔々と語る女を前に、一夏の心は冷め切っていた。

 こんな言葉は通用しない。まやかしは通じない。洗脳も効かない。まして、それが自分たちを拉致してきた相手側の言葉であるならば、聞く耳など持たない。この世に神様などいないのだ。あの言葉は全てうそ偽りだ。

 だが、戦うしかない。幼馴染の箒が人質に取られている。取り返すためには戦うしかない。その場には大勢の子供たちがいた。大人もいた。いずれも女性男性同程度の割合であった。

 相手の言葉になど従わない。特に、あのモデルのようなプロポーションと美貌をしたブロンド髪の女には。その横に立ち尽くすロングヘアの赤毛の女には。

 

 「………」

 

 いいだろう。一夏は頷いた。今は従ってやる。実力を証明して、箒を取り返す。その過程で同じくさらわれてきた子供や哀れな犠牲者を全員殺したとしても。

 EOS―――エクステンデッド・オペレーション・シーカーが、その建物には敷き詰められていた。国連が運用する戦闘用パワードスーツ。それを使って傭兵の真似事をしろということらしい。

 

 どこかで鴉が不吉に鳴いた。

 

 その後、一夏はISが席巻するこの世の中を一変させる出来事を起こすのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 意識が回復する。一夏は目を覚ました。

 自室。うなされていたらしい。ベッドから身を起こすと、先日も白い着物に身を包みお香を焚いて待っていた箒がグルグル巻きの状態でベッドの上にいた。

 

 「ぐぅ……」

 

 その状態で暢気に寝息を立てているのだからもはやあきれ返るしかない。縛られ慣れたというべきか、箒は涎まで流して仰向けで眠っていた。

 

 「仮面か……」

 

 箒がつけている仮面は、素顔を見られまいとする気持ちそのもののように感じられた。

 一夏は眠っている箒へと手を伸ばした。

 

 「そこまでだ一夏」

 

 箒が突如として目を覚まし、顔を背けていた。

 

 「身持ちは堅いと言ったはずだ! この仮面を取ることはまだ許されない」

 「……そうか。狸寝入りしていたのか」

 「いいや違う。野生の勘が働いた!」

 

 一夏は無言で立ち上がると、シャワーを浴びるために自分の下着とタオルをあさり始めた。いつもなら起きてすぐ縄を解くはずというのにである。

 箒は身をもじもじしつつ赤面していた。

 

 「そのだな………縄を解いてくれないだろうか」

 「………」

 「生理的現象を催している。構わないというなら是非もなし!」

 「はぁ……」

 

 一夏はため息を吐くと、にこにこと嬉しそうに微笑む箒へとにじり寄っていった。




執筆>感想返し

なので遅れてもご容赦をば。読んでニヤニヤしてるので毎秒書いて投稿して?(はーと)

たまには三人称もいいよねっていうかいつも三人称だから温かくて安心を感じる(シャア並みの感想)


Q.なんで山田は苗字で千冬は名前描写なん?
A.織斑だとなんかコレジャナイ感があるので
 おかしいなら直す

Q.千冬さんのIS待機状態ってアレだよね?
A.チェーンが持ってたやつそっくりだよ

Q.千冬さんに恋人?
A.中の人的に誰かしらいてもおかしくないと思うの

Q.鈴音はどうしてプールにこれたの?
A.本人が言ってることが真実だけど、探してたというのが正しいよ。
 プール中で電話には出られないし

Q.セッシー鍛えすぎじゃね?
A.足が太くなりすぎたりするので自重して体型を維持している

Q.今何でもするっていったよね?
A.おっそうだな

Q.箒の仮面ってなんなの?
A.乙女の秘密だよ

Q.一夏君はホモなの?
A.ノンケなんじゃない?

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