インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者   作:ichika

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大変長い間お待たせいたしました。
お待たせしてしまった割には短いお話になりますが、どうかお楽しみください。


清流の如く

noside

 

「お待たせしましたね、センパイ?」

 

白亜の機体、白式参型を纏った一輝は、不敵な笑みを浮かべながらも腕を組み、今回の対戦相手である少女を見下ろす様に滞空する。

 

見下ろされるのが性に合わないのだろう、彼の性格の一端が現れていた。

 

「来たわね・・・!随分と遅かったから、尻尾を巻いて逃げたと思ってたわよ?」

 

その姿を視認した少女は、その表情に下卑た笑みを浮かべながらも挑発する。

 

どうして遅れたのだ、まさか、代表候補生で、英雄の息子たる者が怯えていたのかと。

 

プライドの高い、短気な者なら激昂しない筈の無い言葉を投げかけ、冷静に戦えない様にするつもりなのだろう。

 

だが・・・。

 

「お生憎、アンタの事なんて眼中に無かったからな、遅れ様が遅れまいが、俺の勝手だろ?」

 

一輝にとって、この試合は自分の名を売る事以外にメリットは無く、別段遅れて来たところで何とも思いはしないと言うのが本音だった。

 

故に、その態度からは不遜とも取れる余裕が感じ取れた。

 

「ッ・・・!バカにしてぇっ・・・!」

 

相手の激昂を狙った言葉が自分に返ってきた事に苛立ちを隠せないのだろう、少女はギリギリと歯軋りをし、彼を睨みつけていた。

 

全く気に入らない、男風情が自分を見下ろし、あまつさえ眼中にないと言い放つのだ。

自分がわざわざ相手にしてやっていると考えている彼女からしてみれば、屈辱以外の何物でもないだろう。

 

「バカにされてる自覚あるんすね、ホント、プライドだけしかないみたいっすね。」

 

そんな女のプライドだけの言動を見た一輝は、それを鼻で笑う。

 

プライドなら自分もあるが、それよりも遥かに安っぽいプライドに最早失笑に値するモノだったに違いない。

 

「ま、さっさと始めましょうや、この後はデートがあるんでね。」

 

そんな事は無いが、今の彼にとってこの試合は順位の高いモノでは無い。

 

もっと大事で、もっと優先したい相手がいるのだ。

故に、彼は空けていた両の手に自身の武装を呼び出していた。

 

「かかって来いよ、親父を侮辱したケジメ、着けて貰うぜ。」

 

『試合、開始ッ!!』

 

かかって来いと挑発した一輝の言葉を皮切りに、試合開始のブザーが鳴り響く。

 

その瞬間、先に動いたのはリーダー格の少女だった。

 

一輝との間合いを取る様に飛び回りながらも、マシンガンで弾幕を張り、接近させない事に重きを置いていた。

 

近接格闘を得意とする機体を相手にする際に取る戦法のセオリーを実践できる辺り、それなりの修練は積んで来たと見受ける事が出来た。

 

だが・・・。

 

「生憎、こっちもそれは織り込み済みってね!!」

 

一輝は壁の如く迫る弾幕の間隙を縫う様に機体を奔らせ、両手に呼び出した銃剣型複合兵装≪ガンブレードⅡ≫のライフルモードでの銃撃戦に入った。

 

「なっ・・・!?射撃タイプの武装・・・!?そんなバカな・・・!?」

 

予想すらしていなかった飛び道具の登場に、彼女は集中力を掻き乱されてしまっていた。

 

まさか、銃の様な飛び道具を使ってくるとは思いもしなかった。

 

世界最強、織斑一夏が駆った白式系はどれも近接格闘戦メインの装備を施されていた。

そこに射撃装備など一切なく、侍というスタイルを突き詰めた機体とバトルスタイルだった。

 

故に、その息子である一輝が駆る白式参型もまた、近接格闘戦に重点を置いた機体だとばかり思っていたのだ。

 

ならば、近付け指せない事を突き詰め、射撃系統の武装で固めれば、被弾の確率は限りなく低くなり、負ける事は無いと踏んでいた。

 

だが、蓋を開けてみればどうだ、こちらの手の内を読んでいたかのように、織斑一輝は自分よりも高度な射撃精度で応戦してくるではないか。

 

これでは勝てる勝負も勝てなくなる。

その焦りからか、彼女の銃口はぶれ、白式参型を捉える事は無かった。

 

「どうした、そんなもんかセンパイ?」

 

ガトリングの弾を回避しつつ、一輝はライフルモードで少女を的確に狙い撃つ。

 

その弾丸は、関節や頭部など、構造上シールドが最も薄くなる部分や急所付近を捉えているため、ウェアウルフのシールドエネルギーはみるみる内に減少していく一方だった。

 

「う、嘘よ・・・!冗談じゃない・・・!!」

 

その現実を受け入れられないのか、少女は青ざめながらも必死に距離を取ろうと機体を動かしていた。

 

しかし、後退などさせないと言わんばかりに、彼女の眼前に白亜の機体が迫ってくる。

 

ばら撒かれたガトリング弾に当たる事など構わず、腕に覚えのある者ならば誰にでも使える技術、瞬時加速≪イグニッション・ブースト≫を使用し、一気に間合いへ入った。

 

「シェアッ!!」

 

ブレードモードへと切り替えたガンブレードを振り抜き、ガトリング砲の砲身を切り裂いた。

 

「せ、接近戦・・・!?そ、そんな・・・!」

 

「母さん仕込みの妙義、お見せできた様で何より!!」

 

瞬時に武器を切り替え、戦い方を戦況に合わせて流動させていく技、ラピッドスイッチ。

彼の母親、織斑・D・シャルロットが得意としたその技は、息子である一輝にもしっかりと受け継がれていた。

 

とは言え、まだまだ荒削りな部分もあるため、今後に期待と言わざるを得ない部分もあった。

 

しかし、そんな事は対戦している少女には関係の無い事だった。

 

こんなはずでは無かった、その表情からはそんな思いが透けて見える様だった。

 

だが・・・。

 

「(喧嘩吹っかけ解いてこの程度、って訳でも無さそうなんだよなぁ・・・、なんか、奥の手っつーか、隠し玉がありそうなんだよなぁ・・・。)」

 

その動揺に何か違和感を感じ取ったのだろう、一輝は警戒を解く事無く、より一層攻撃に力を入れ始めた。

 

一方的な試合運びにも思えたが、幾らなんでも上手くいきすぎではないだろうか、そんな懸念があった。

 

隠し玉を用意しているなら、それを使うべきタイミングは自ずと絞られて行く。

 

劣勢に追い込まれ、相手が自分を討ち取りに来るタイミングか、それとも・・・。

 

「(ま、なんにせよ、さっさと討ち取らせてもらうとするか!!)」

 

しかし、その奥の手を切らせない様に、一気にカタを着ける。

 

故に、彼は白式参型のスラスターを解放し、一気に相手に向かって突っ込んで行く。

 

同時に、細やかな姿勢制御で被弾を極力抑えている様で、相手が張る弾幕にさえ怖気を見せる事無く、ただ真っ直ぐ駆けた。

 

「は、速すぎる・・・!?」

 

風か何かかと錯覚するほどの速さに、少女は悲鳴にも似た叫びをあげる。

 

突進を何とか避けても、今度は違う方向からの攻撃に晒される。

完全に網に掛けられた魚の様に、逃げ場を失いつつあった。

 

「これで決めるッ!!」

 

両腕に保持したガンブレードⅡの刀身にエネルギーを纏わせ、威力を高める。

 

父の白式、母のプルトーネから受け継いだ力を今こそ示す。

 

「墜ちろ!!」

 

零落白夜とまでは行かないが、それでも高密度に集中されたビームの刃が敵の懐に叩き込まれようとしていた。

 

その時・・・。

 

「ッ・・・!!」

 

敵である少女の表情が、わずかながらも歪められた事に気付いた。

 

そこに嫌な気を感じた一輝は、強引に刃を止め、無理やり機体を反転させた。

 

その直後、彼の居た空間を、幾重もの銃弾とレーザーが薙いだ。

 

「ちっ・・・!」

 

自身の嫌な予感が当たった事に、一輝は舌打ちしながらも距離を取る。

 

それを見ていた観客たちは、一体何が起きているのか理解出来ない様で、皆一様に困惑を浮かべるばかりだった。

 

「どーも嫌な感じはしてたけど、やっぱりそういう事かよ・・・。」

 

相手が何をしたか理解したのだろう、彼は鼻で笑う様な素振りを見せた。

 

何処までも姑息な真似を。

そう思っているのだろう。

 

「ちっ・・・!不意打ちを避けるなんてね・・・!流石代表候補生ってわけ?」

 

少女が舌打ちすると同時に、彼女の両隣に一機ずつ、そして、一輝の白式参型を囲う様にして二機、合計して4機のISが現れた。

 

皆、学園に配備されている第四世代機、リヴァイヴ・ジャッジメントやウェアウルフといった機体に乗っており、一様に下卑た笑みを浮かべていた。

 

力で勝てなくとも、数で、リンチの様に男を虐げる事が出来るならばそれでよし。

 

彼女達の歪んだ思惑が透けて見える様だった。

 

「サシでやれないと解ってて仕込んでやがったか・・・、どこまでも見っとも無ぇ奴等だ・・・。」

 

「ふん!代表候補生相手に勝てるなんて最初から思ってないわ!だったら勝てるように数を揃えるまでよ!!」

 

憐みや呆れを含んだ一輝の言葉に、女達はせせら笑う様に答えた。

 

如何に代表候補生とは言えど、流石に5人を一度に相手にするのは困難だろうと踏んでいるのだろう、その表情には、一輝を嬲れる事を楽しむ様な色さえ見て取れた。

 

「チッ・・・、とはいえ、流石にこれはヤバいかな・・・?」

 

負けを予想しないではないが、流石に多対一の訓練でもここまで大がかりな事は経験した事の無い彼は、どうした物かと毒づいた。

 

粘る事は出来ても、勝利する事はそれなりに厳しくなってしまった。

一撃必殺が無い彼の機体では、活路を見出す事さえ難しくなりつつあったのだ。

 

「やるわよ皆!!あの男を痛めつけるのよ!!」

 

リーダー格の少女の言葉と共に、総勢6機のISが一輝に向けて銃口を構えた。

 

ガトリングやレーザーライフル、更にはバズーカなども見て取れる事から、相当に殺意や害意は高いだろう。

 

「チッ!!」

 

舌打ちしつつ、彼は射線から逃れるべく機体を動かす。

 

機体の機動性だけでなく、彼自身の身体能力も駆使したマニューバで撃ち掛けられる銃弾を回避し、何とか勝利の糸口を探る。

 

だが、360°すべての角度から撃ち掛けられる弾丸を避けるのが精一杯で、とてもではないが攻撃など出来た状況では無かった。

 

このままではジリ貧となり、いずれは撃墜されるのが目に見えていた。

 

「さぁ!これでチェックメイトよ!!」

 

リーダー格の少女が構えた大口径レーザーライフルが、逃げ舞わる白式参型に定められる。

 

直撃すれば大ダメージを免れないそれを、彼女達は一輝が逃げられぬ様に詰めていっていたのだ。

 

多対一とは言え、実力者を相手にするならば効果的なそれは、一輝に逃げ場をなくしていた。

 

「ッ・・・!!

 

逃れ得ぬ光条が撃ち掛けられ、白い機体を呑み込むかと思われた刹那、それは瞬いた。

 

「なっ・・・!?」

 

予想だにしない事が起こったのだろうか、リーダー格の少女は驚愕の声をあげた。

 

「まったく・・・、俺もまだまだダメだなぁ・・・、結局、助けられちまうんだよなぁ・・・。」

 

目の前に展開する、光の防壁の様なものに遮られ、白式参型を墜とそうと迫ったレーザーは霧散していた。

 

それをみた一輝は、自身の甘さを痛感し、何処か自嘲気味に、それでも頼もしげに呟いた。

 

自分は何時だって彼女に助けて貰ってばっかりだ。

少し情けなく感じる事も無いではないが、それよりも何よりも、頼もしさと安心を覚える自分がいる事を自覚するのだった。

 

「まったく・・・、幾ら強者に挑むにしても、果たし合いを望んでおきながら不意打ちするしか出来ませんか・・・。」

 

「あ、アンタは・・・!!」

 

呆れる様な声に、リーダー格の少女は愕然と声の主を見やる。

 

その視線の先には、沈みゆく夕日を背に佇む、青きISを纏う、風に靡くミドルブロンドの少女の姿があった。

 

一輝を護る様に展開された光の障壁が解除され、それを発していた3基のビットが、まるで主の下へ駆け寄る猟犬の様に戻って行く。

 

「お怪我は有りませんか、一輝さん?」

 

「お蔭さんで傷一つないさ、助かったよリザ。」

 

「どういたしまして♪」

 

一輝の隣に並び立つように、その少女、リザ・オルコットはにこりと微笑み、一輝の礼に対して優雅にお辞儀していた。

 

茶会に参加する令嬢の様な優雅さを持ちながらも、戦場に降り立つ戦乙女の様な風格さえ漂っていた。

 

「あのような卑怯者に、一輝さんを穢させる訳にはいきません、私も共に参りますわ。」

 

「委細承知、一曲付き合ってくれよ。」

 

「お受けいたしますわ。」

 

差し出された一輝の手を取り、空いた左手に大型ライフルを呼び出す。

 

それは、嘗て彼女の母、セシリア・オルコットが愛用した装備、スターライトMk-Ⅱに良く似通ったライフルだった。

 

そう、彼女もまた、母親の名声を、その重荷を背負っているのだ。

 

だが、それが如何したと言うのだ。

今は家の名、母の面目などどうでも良い。

 

大切な幼馴染を侮辱し、あまつさえ卑劣極まりない手段を用いた女達を許す事は出来ない。

たった一つの感情が、彼女を突き動かしていた。

 

「覚悟なさい不埒者、その邪心ごと、この私が撃ち抜いてみせましょう。」

 

舞う様に、踊る様に機体を翻し、白式参型と背中合わせとなった。

互いを護る様に、互いを慈しむ様に。

 

「リザ・オルコット、ブルー・ティアーズ・サードの舞台へようこそ、私達の織り成すワルツに、着いて来れますか?」

 

挑発するように、リザは銃口を向けた。

 

その射線から逃れようと、今回の敵である少女たちは己が機体を動かして乱れ飛ぶ。

 

だが、それが如何した。

自分ならばそれを撃ち抜く事など容易い。

 

それに、喩え外したとしても、こちらには誰よりも信頼できる男がいて、敵を斬ってくれる。

 

愛情にも似た絶対的な信頼で、彼女は戦うと決めた。

 

幼馴染が受けた屈辱を雪ぐ為に。

自身の誇りの為にも・・・。

 

sideout

 




次回予告

女尊男卑の思想を持つ少女たちに、一輝とリザは己が志を持って答える。
それが、喩え思想など形振り構わぬ物であったとしても。

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

何時かの言葉

お楽しみに

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