インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者   作:ichika

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白き旋風

side一輝

 

「それでは、今日の授業は此処までとします、明日からも頑張りましょうね。」

 

思い出すだけで胸糞悪い昼の出来事から数時間後、今日一日の授業が終了した。

 

いや、初日から4時間も授業あるなんて聞いてないぜ。

 

まぁ、3年しかない期間内に、ISの基礎から専門の課程、並びに一般高校教育のプログラムも入ってくるから、そりゃキツキツに詰め込まなきゃ終わらんわな。

 

夏休みも冬休みも、一般の高校に比べりゃかなり短い部類に入るらしいし、仕方ないと言えば仕方ないかな。

 

まぁ、そんな事はさて置いて・・・。

 

担任である藤堂先生の号令を受け、クラスの全員が起立、一礼の後に全員が思い思いの放課後を謳歌しようと動いていた。

 

そんな中で、食堂での一件に関わった三人は集まりを持った。

 

無論、俺達織斑姉弟と、リザの三人だ。

 

「んじゃ、さっさと行きましょ、あたしが先鋒ね!」

 

「何勝手に決めてんだよ、相手が何人か分からんのだ、俺が先に出るからルキアは待機。」

 

喧嘩っ早いのは若い頃の親父譲りなのかも知れない俺達姉弟、なんか、言ってて悲しくなるようなならない様な・・・。

 

「おじ様を侮辱したのです、相応の報いを受けて頂かねば・・・。」

 

「「待って、リザ、落ち着いて。」」

 

それ以上にキレてたのが、一番御淑やかだと信じていたリザだった。

 

俺達の親父の為にキレてくれていると分かってるからありがたいのだが、この件は織斑に売られた喧嘩だ。

オルコットまで巻き込むつもりは毛頭ない。

 

「落ち着いてくれよリザ、俺だけで何とかしてみせる、エドや楯無もキてるだろうけど。」

 

まぁなんにせよ、売られた喧嘩は買う。

それが善きにしろ悪しきにしろ、責任は取るつもりでいた。

 

ま、全部親父や海斗おじさんからの受け売りなんだが・・・。

 

それはさて置き・・・。

 

「そこの三人、ちょっと来なさい。」

 

そんな話をしている事がバレたのか、俺達三人は教壇に居た先生から見事にご使命を喰らう。

 

顔があんまり笑ってないから、結構迫力ありますね・・・。

 

っていうか先生、俺達がなにしたって言うんですか・・・。

 

しょんぼりと、三人そろって教壇で待っている先生の所に向かう。

 

見た目は美人だけど、その苛烈さはIS業界では相当有名な人だ。

 

何せ、この人、俺の親父が指揮官やってた部隊の設立当初からのメンバーなのだから。

 

その関係で良く家にも遊びに来てたし、俺達も小さい頃、香里奈姉が遊び相手になってくれた事を思い出す。

 

まぁ、戦場に出ればゴリゴリの武闘派になるってなもんで、テロリストの殲滅に成ったらそりゃもうえげつない事になっているらしい。

 

その辺は、実際に見たことないから何とも言えんが・・・。

 

そんな俺達の様子に気付いたのか、クラスの面々が、御愁傷さまと言った様にそそくさと教室内から消えていった。

 

そんな気遣いはいらないから助けてくれよ・・・。

 

薄情なクラスメイトに恨み節を抱きながらも、俺達は先生の顔を見た。

 

「聞いたわよ一輝、ルキア、上級生に喧嘩吹っかけたんですって?」

 

呆れた様に、藤堂先生、いや、香里奈姉は教室に他の生徒がいない事を確認して尋ねてきた。

 

あ、特別扱いしないって事と、昔馴染みって事は分けて考えてくれてるのかなぁ。

 

俺達が幼稚園の頃から、香里奈姉が候補生候補だった頃から知ってるし、融通効かせたいって事かな?

 

「違うって香里奈姉、あっちが女尊男卑振りかざして親父を馬鹿にしたんだよ、ここにいるリザと、睦月の兄貴が証人だよ。」

 

この人は俺達の姉代わりになってくれてた人だから頭は上がらないが、せめてもの名誉の為、自己弁護を行う。

 

尤も、大した効果は得られそうにないのは事実だけど。

 

「知ってるわ、だからこそ忠告しようと思っただけ、やり過ぎないようにね?」

 

予想に反して、香里奈姉は悪戯っぽい笑みを浮かべて忠告してくる。

 

やっても良いがやり過ぎるな、か・・・。

親父みたいな事を言うなぁ・・・。

 

「あの子たち、実力は然程高くは無いけど、その思想が上層部でも問題になっててね、そろそろ目に余るから、謹慎以上の事を用意しないといけない頃合いなのよ。」

 

それは大体分かる気がするよ。

何せ、兄貴が嫌そうな顔をするぐらいなんだしな。

 

「だから、一夏先生の息子の貴方が、彼女達の幻想をぶち壊して頂戴。」

 

なるほど。

単純に男に負けるよりも、織斑一夏の息子である俺に負ける事が何よりの屈辱だって事か。

 

確かに、そりゃ胸が空く良い刺激になりそうだ。

 

「あぁ、やってみるよ、俺も、修行の一環として頑張るよ。」

 

「えぇ、その意気よ、やってやりなさい、ご挨拶、ね?」

 

俺より一回り近く年上とは思えない程キュートなウィンクに少しドキッとしたが、それ以上に闘志が燃え滾って仕方なかった。

 

何せ、派手にご挨拶できるんだ、それも教師公認でね?

 

後ろでリザが面白くないと言わんばかりの様子で俺を見てるが、ルキアが宥めてくれるだろうからとりあえず流しておこう。

 

それじゃ、派手にいくぜ!!

 

sideout

 

noside

 

それから数十分後、IS学園第3アリーナは全席満員御礼と言わんばかりの盛り上がりを見せていた。

 

何処の誰が伝えたか、昼に起きた、一輝達と女尊男卑思想を掲げるグループとの決闘が行われる事が全学年に伝わり、興味を抱いた者達が詰めかけて来たと言う寸法だった。

 

内訳としては、単純に興味で来た者が八割だったが、残りの二割は些か異なった趣を持ってこの場に臨んでいた。

 

一部は女尊男卑を疎ましく思っていた男達が、彼女達が無様に負ける様を見て、追々のネタにしようと言う魂胆のため、もう一部はその逆であり、英雄など大した事ないと知らしめるためでもあった。

 

そして、最後の一部は、IS業界におけるレジェンドの息子たちの実力を計り、それを打ち破る事でレジェンドたちを倒す足掛かりとしようとしているのだろう。

 

様々な思惑が入乱れる中、彼等はアリーナへ入場し始めた。

 

まずは、女尊男卑を掲げていた2年の少女たちのリーダーが量産型のISを駆って入場してくる。

 

その少女が駆るのは、アメリカ製第四世代IS≪ウェアウルフ≫だった。

IS黎明期の女傑、ナターシャ・ファイルスや元代表イーリス・コーリングが引退前に最後にテストフライトを行った機体としても有名であった。

 

展開装甲を日本製ISを除いて最も早く搭載した機体でもあり、特に姿勢制御と火力に性能を特化させた調整をおこなっていた。

 

特殊な武装は無いが、展開装甲を応用し、大口径荷電粒子砲≪レヴナント≫を形成、敵を一撃で葬る事が出来る火力がウリだった。

 

既に第6世代機が台頭し、燃費やその他諸々の性能で後れを取った第四世代機は、IS学園や各国のIS養成機関に払い下げられ、今や訓練機としての役割を全うしていた。

 

とは言え、その性能は高く、雛形としての扱い辛さもあってか、訓練生にとっては非常に良い教材でもあった。

 

それはさて置き・・・。

 

彼女は今回、ガトリング砲やマシンガンなど、弾をばら撒いて敵を近付かせない事に重きを置いた武装で身を固めていた。

 

装備を見るからして、対近接戦機を想定している事が丸分かりだったが・・・。

 

恐らく、これから相手をする一輝の機体が近接寄りの機体だと想定した結果なのだろう。

 

どれだけ時代が進もうとも、銃のリーチに近接装備のリーチは及ばないという絶対条件は変わっていないのだ。

 

彼女の表情には、最早勝ったと言わんばかりの様子であり、早くその時が来ることを心待ちにしている様でもあった。

 

何せ、彼女の楽しみは此処には無く、この後の男を見下すと言うビッグイベントが待っているのだ。

 

それに加え、相手は候補生とは言え新入生、この一年、女こそが頂点と知らしめるために過ごしてきた自分が負けるはずなど無いと高をくくっていた。

 

もしその予想が覆されようとも、彼女には奥の手がある、負けなど最初から想定に無い。

 

そして、その想いが頂へ高まった時だった。

一際大きな歓声が沸き上がった。

 

「ッ・・・!」

 

その歓声に意識を引き戻された少女の目に飛び込んで来たのは、傾き沈みゆく斜陽に照らされた白亜の機体が、その翼を煌めかせてピットから飛び出してくる所だった・・・。

 

sideout

 

noside

 

時は少しだけ遡る。

 

「おー・・・、結構人いるなぁ。」

 

試合とは名ばかりの私闘が行われようとしている第3アリーナのISピット内で暢気に声をあげたのは、他でもない、この私闘に参加する織斑・D・一輝のモノだった。

 

まるで観衆の事など興味無いと言わんばかりに、念入りに準備運動代わりのストレッチを行っていた。

 

訓練生時代から、訓練開始の15分前から時間を掛けて身体を温める様にしている彼だったが今回は放課後と言う事もあり、特に念入りに行っている様な節も見受けられた。

 

いや、それだけでは無い。

入学後の初戦闘なのだ、あいさつ代わりも兼ねている事も重々承知な上で、無様を晒す訳にはいかないのだから。

 

「はいはい、ンな事気にせずやって来なさい、アタシ等の鬱憤、晴らして来なさいよ?」

 

そんな暢気な彼に、姉であるルキアは呆れながらもしっかりやって来いとエールを送る。

 

姉弟間で通ずる何かがあるのか、彼は無言でニヤリと笑いつつも立ち上がった。

 

今こそ、自分達が培ってきた力を示す時、そう言わんばかりの色が見受けられた。

 

「そいじゃ、行くか、俺の翼!!」

 

彼は左腕に身に着けていたガントレット型の待機形態に触れ、祈る様に目を閉じた。

 

まるで、空を飛ぶ自分を護りたまえと、願う様に・・・。

 

「来いッ!!」

 

祷りを終えた彼は、左腕の拳を天に突き上げて叫んだ。

 

今こそ、俺の戦いの幕が開ける、と・・・。

 

その瞬間、彼の身体をガントレットから発生した光が包み込む。

 

あまりにも眩い光に、慣れている筈のルキアとリザでさえ目を細めていた。

 

その光が晴れた時、彼の身体は白き鎧を纏っていた。

 

西洋の騎士の様なフォルムながらも、どことなく戦国武将を思わせる意匠も取り入れられているその鎧は、嘗て世界を救った、伝説の機体に非常によく似ていた。

 

展開された機体の調子を確かめるために、彼は無言のまま握っていた拳を開き、指を忙しなく動かした。

 

「うっし、感度良好、何時でもやれそうだ。」

 

身体にしっかりとフィットした事を確かめ、カタパルトへ機体を向けた。

 

「一輝さん。」

 

そんな彼の背後で、リザが彼の名を呼ぶ。

 

しっかりと芯の通った声は、一輝の耳にもしっかりと届いていた。

 

「ん?」

 

首だけで振り返りつつも、一輝はしっかりと幼馴染の顔を見詰めた。

 

幼い頃から傍にいた、大好きな笑顔がそこにある。

それだけで、負ける気がしなかった。

 

「御武運を。」

 

「あぁ、行ってくる。」

 

送り出してくれる言葉にしっかりと頷き、彼はカタパルトに機体を固定する。

 

遮蔽壁が閉まるまで、見送る幼馴染の顔をしっかりと見つめながらも、彼は意識を研ぎ澄ます。

 

必ず勝つ。

 

それが、今自分がやるべき事だと。

 

『進路クリアー、一輝、やってらっしゃい。』

 

一輝側のオペレーターを務めている香里奈から檄が飛ぶ。

やってこいと、白の再来を見せ付けてやれと。

 

「了解です!織斑・D・一輝、白式参型、行きます!!」

 

裂帛した気合と共に、白は再び宙へと駆け上がる。

 

嘗て、彼の父がそうであったように、彼もまた、IS学園という舞台へと飛び立ったのだ・・・。

 

sideout




次回予告

舞い降りた白は、その力を見せ付けるかの如く舞う。
だが、卑劣なる手は、白を穢さんと蠢いているのだ・・・。

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

清流の如き

お楽しみに

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