インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者   作:ichika

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一輝とリザ

noside

 

屋上で再会を喜んだ四人が食堂に入ると、真っ先に目に飛び込んで来たのは食堂全体を支配する甘ったるいピンクのオーラであった。

 

周囲の生徒達はその雰囲気に戸惑うか、若しくは壁を叩くかしており、被害はそれなりに甚大であった。

 

「あーぁ・・・、やっぱりこうなる訳ね・・・。」

 

その惨状にやはりかと言う様な表情をしながらも、ルキアは額を抑えた。

 

実に数年ぶりに見たが、収まるどころかひどくなっている様な気がしてならなかった。

 

「やっぱり、こうなっちゃうかぁ・・・。」

 

その元凶を作っているのが自分の身内だと思うと、周囲の生徒に申し訳なく思うエドだったが、致し方あるまいとさえ思ってしまう。

 

「羨ましい・・・。」

 

その中心にいる者達の関係を思うと、少し羨ましく思う楯無であったが、もし自分が想う相手とそうなった場合を考えると、赤面せざるを得なかった。

 

無理もない、彼女とてまだ15の少女なのだ。

そう言った事を夢見て当然だった。

 

「やってるねぇ、俺が最後に見たのは3年前だったな、よっし、からかってやる。」

 

睦月はワルそうな笑みを浮かべながらも、それの発生源まで歩みを進めた。

 

そんな彼において行かれまいと、彼等もその背を追った。

 

「リザ、そのかつ綴じの味、どうなんだ?」

 

「悪くはありませんわ、御母様達が召し上がられたものと同じだと思いますと、なにやら不思議な心地が致しますわね♪」

 

そんな彼等が間合いに足を踏み入れた途端、会話の内容が鮮明に聞こえてくるようになる。

 

「一輝さんの天ぷらは、どの様な御味でして?」

 

「気になる?」

 

「えぇ、久方振りの日本食ですもの♪」

 

昼間から天ぷら定食を食べている一輝だったが、それはリザが久方ぶりの来日だと知っているからこそ選んだものだった。

 

幼少の頃からかなりの日本びいきであり、日本食を何より好むリザに、久方ぶりの味を楽しませてやりたいと言う気遣いもあるだろうが、彼の思惑はそこには無かった。

 

何せ、リザが楽しそうに笑っている事が、彼は何よりも大好きだったから。

だから、彼女の笑顔が見られる様にと、日本食メインの天ぷらを選んだのだった。

 

言うなれば、大好きな彼女のため、とも取れる行動だと言えるだろう。

 

「なら、俺のおすすめ食べる?」

 

そう言いつつ、彼は箸できすの天ぷらを器用に切り分け、その一切れを抓んでリザの口元へと運ぶ。

 

所謂、『はいアーン♡』の状態だった。

 

「ふふっ♪あーん・・・♪」

 

その意図が伝わったか、リザはパッと笑顔を浮かべながらも、ぱくりと天ぷらを食べさせてもらった。

 

下品と思われない様に小さく口を開けて口に含むが、そこは幼馴染同士のアレコレと言うべきか、一輝に対しては遠慮を見せてはいなかった。

 

「ん・・・、昔おじ様に連れて行っていただいたお店の味とは違いますが、美味しいですわね♪」

 

「ははは、そりゃ何より。」

 

口元を抑えつつ咀嚼し、柔らかく微笑むリザに、一輝もまた頬を綻ばせる。

 

様子だけ見れば、完全なバカップルそのものに、周囲の生徒は皆苦笑するか、悔し涙を流す以外なかったのだ。

 

「ホント、お熱いこって・・・。」

 

そんなラブラブ空間に足を踏み入れた睦月は、一輝の頭に顎を乗せながらもからかう。

 

まるで、カップルに絡む不良のようにも見えたが、それはそれで間違ってはいないだろう。

 

「げっ、兄貴、なんだよ急に・・・。」

 

「あら、御久し振りですわね睦月さん。」

 

そんな彼に、一輝は少し嫌そうな顔をし、リザは少し残念そうに笑いつつ、会釈していた。

 

この二人、自分達の雰囲気を邪魔される事が結構嫌なのだろうか・・・。

 

「おう久し振り、俺は御邪魔虫かよ・・・、折角コイツ等連れて来たのに。」

 

そんな二人の反応に苦笑しながらも、睦月は彼等と相席すべく、手早く席を4つ確保する。

 

「一輝~、アンタ、あんまり目立ち過ぎんじゃないわよ?」

 

「なんだよルキア、先に食堂に行ってるのかと思ってたぞ、折角誘おうと思ってたのに。」

 

「あっそ、それは悪うございました。」

 

苦笑しながらも弟を宥めるルキアだったが、当の一輝は少しだけむくれていた。

 

本音のところは分からないが、それでも誘うつもりだったと言われれば釈明位はせねばと思ってしまうのが人間だった。

ルキアは、仕方ねぇなコイツ、とか思いながらも平謝りしていた。

 

「一輝、久し振りだね、リザと仲良さそうで何よりだよ。」

 

「エド!二年ぶり~!」

 

睦月の後ろから現れたエドに、一輝はパッと破顔、席から立って固い握手と抱擁を交わした。

 

同い年で幼馴染、性格は違っていても、幼い頃は睦月も連れだって悪戯をよくやっていたモノだ。

 

まぁ、その悪戯で女子を泣かせると、もれなく一輝の父から鉄拳を喰らわされていたのは良い思い出だ。

 

そんな仲の良い二人の様子に、リザは少し複雑な表情を浮かべる。

 

まぁ、自分の許婚に近い男と、自分の弟が仲良さ気なのを見ているのはあまり面白い事では無いのだろう。

 

「リザ~!」

 

「まぁ!ち・・・、いえ、楯無さん!御久し振りです!」

 

楯無の登場に、リザは複雑な心境を何処かに吹きとばし、幼馴染との抱擁を交わす。

 

最初に言い淀んでしまったのは、幼い頃の感覚がまだ抜けておらず、嘗ての名で呼びそうになったのを自制した結果だと言えるだろう。

 

その反応に、楯無は僅かに寂しげな表情を覗かせるが、それも仕方ないと頭を振って、旧友との再会を喜んでいた。

 

「皆、代表候補生に成れたんだな、何よりだぜ。」

 

席に着きつつ、睦月は何処か嬉しそうに話す。

 

自身の弟妹のように見て来た者達が、自分の後を追ってくる事が、昔からの目標であった代表への一歩を踏み出した事が何よりも喜ばしい事だったのだ。

 

「兄貴こそ、遂に代表だよな、楯無の御母さんと同じ年齢でだって?」

 

「まあな、お偉いさんからの推薦もあって、いい経験させてもらったさ。」

 

だが、睦月は彼等より一年早く生まれている分、更に多くの経験を積んでいた。

 

彼は日本代表となり、第一線で活躍する者だった。

 

その報は既に一輝達も知る所であり、当時は互いに連絡を取ったモノだった。

 

「ソイツは良い、俺も直ぐに追いつくよ。」

 

「私も、ですわね。」

 

かかって来いと挑発する様な彼の表情に、一輝とリザが好戦的な笑みを浮かべていた。

 

負けず嫌いかそれとも別のモノか。

分かるとすれば、彼等が戦って己を高めようとしている事だけだった。

 

「へっ、良い顔するな、後で模擬戦の相手してやらぁ。」

 

その覇気に応じ、睦月の顔もまた野獣じみた好戦的な笑みへと変わる。

 

そんな三人の様子に、昔と変わらない何かを感じたのか、ルキア達三人は苦笑する以外なかった。

 

昔の喧嘩や稽古の時のように、先に立っている睦月に向かって行く一輝とルキアの様子がフラッシュバックして、懐かしさと同時に呆れも湧き上がってくるのだろう。

 

和やかな雰囲気が幼馴染達を包みかけていたその時だった。

その来客は突如として訪れた。

 

「こんなところでお喋りとは、良い御身分なモノね、代表さん?」

 

「あ?」

 

あからさまな敵意を含んだ言葉に、一輝達は雰囲気をぶち壊された苛立ちを隠さずに振り向いた。

 

声の主は女子生徒のモノで、日本人だと窺える容姿と、現時点の2年を表すリボンを身に着けていた。

 

彼女の周囲には取り巻きと思しき数人の同学年生がおり、それこそ国籍の隔ては見られなかった。

 

「あぁ、またお前等か、謹慎解けたばっかりだろ、いい加減大人しくしてろよ。」

 

睦月はその女子生徒達と知り合いだたのだろう、げんなりとした様な表情で宥めようとしていた。

 

どうやら、突っかかってくるのはこれが初めてという訳では無く、何度も何度も、鬱陶しいとさえ思ってしまうほどの頻度でやって来ていると推察できた。

 

「兄貴、この人達は?」

 

雰囲気で良くない事と察知したのだろう、一輝は少々険のある声で尋ねた。

 

睦月を代表と知りながらも突っかかってくると言う事は、ファンと言うよりはむしろ、アンチと言うべき感触を持っている様だった。

 

「この前まで一緒のクラスだった奴等だよ、古臭い思考に囚われて、何回も謹慎喰らってる懲りない奴等さ。」

 

「それって・・・。」

 

睦月の吐き捨てるような言葉に思い当たる節があったリザは、表情を顰めながらも呟いた。

 

彼女の思い至ったそれは、ISが世に公表されてから10数年に渡って広まり、悪化していった悪しき風習、女尊男卑だった。

 

嘗ては社会問題となる程に深刻だったそれは、織斑一夏を始めとした男性IS操縦者の登場とその活躍によって今は廃れたモノとなってはいた。

 

だが、やはりISは女のモノ、と考える者はいなくなるはずも無く、今でもネット界隈の一部のコミュニティに過激思想を持つ者達が集まり、不穏な気配をにおわせてはいた。

 

しかし、一輝達は幼い頃からの教育により、女尊男卑は忌まわしい風習であると教えられてきており、そのロジックも学んできていた。

 

故に、それが忌むべきモノだと理解しているし、それをまたしても推し進めようとしている者達に対して、呆れや憐みの念しか浮かばないのも事実だった。

 

「黙りなさい!そもそも、ISは女だけのモノだったのよ!それを、あの織斑一夏とかいう男が穢したのよ!!あぁ、なんて罪深い・・・!!」

 

だが、それを受けて更にヒートアップしたか、その女子生徒はまくし立てるように宣った。

 

織斑一夏さえ現れなければ、ISが穢される事は無かったと。

それが、女尊男卑主義者のもつ見解であった。

 

だが・・・。

 

「アンタ等の理想を語るのは勝手にしてりゃいいさ、だが、人の親父を貶すのはどうなんだよ。」

 

「ホント、気分悪いわ、アンタ達みたいな屑に、そう言うのを語る意味なんてないわね。」

 

彼の息子と娘は、その罵倒に対して凄まじい怒気を放つ。

 

彼等にとって、誰よりも尊敬し、超えるべき目標である父を貶される事が我慢ならなかったのだろう。

 

「お、親父って、あなた達まさか・・・!?」

 

そんな彼等に気圧されたか、リーダー格の少女は狼狽える様な素振りを見せた。

 

まさか、自分が貶した相手の家族が目の前にいるとは思いもしなかったのだろう。

 

「俺は織斑・D・一輝、憶えてなセンパイ。」

 

「あたしはルキア、コイツの姉よ、ヨロシク。」

 

威嚇する様な、年上に対する言葉づかいでは無い言葉で自己紹介する一輝とルキアの目は、一切笑っていなかった。

 

仕方あるまい、大切に想っている身内を貶されて黙っていられる程、彼等は腐ってはいなかったのだから。

 

「で、俺も男だし、気に喰わないんだろ?売られた喧嘩は買うぜ?それとも、そんな度胸も無いって言うの?」

 

挑発するように、一輝は喧嘩を買うと宣言した。

 

それは、彼女達が馬鹿にした男の息子が、彼女達のプライドを圧し折るという意図が込められていたに違いない。

 

「じ、上等じゃない・・・!!今日の放課後に、第一アリーナで待ってるわよ!!逃げない事ね!!」

 

それを理解したか、それともメンツを保つためかは分からなかったが、その少女は声を張り上げて宣言し、捨て台詞を残しながらも、取り巻きを引き連れて野次馬をかき分けて去って行った。

 

その背に、一輝とルキアは嘲笑を投げかけ、それを見た他の四人もまた、タメ息を吐きつつ、終わらない習わしを呪っていた。

 

だが、それでも構わない。

自分達が力を着ける為にも、新たな戦いの一歩と刻むために・・・。

 

sideout




次回予告

光を継ぐ者が踏み出す新たな一歩は、忌まわしき過去の遺物との戦いでもあった

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

白き旋風

お楽しみに

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