インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者   作:ichika

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再会の光達

side一輝

 

SHRが終わり、休み時間に入った直後、俺は此方に向かって来ている女生徒の方へと歩いた。

 

ミドルヘアーのブロンドを持った、美人と形容すべき容姿を持つ彼女は、俺の幼馴染のリザ・オルコットだ。

 

代表候補生選抜試験の前に会ったのが最後だったから、実に三年、いや、二年ぐらい前か?

 

彼女も俺をジッと見つめながらゆっくりと歩いて来る。

 

その表情には、俺が大好きな優しい笑みがあり、昔と何も変わらない彼女の面影があった。

 

だが、その瞬間に教室の空気が変わった。

 

恐らく、日本代表候補生とイギリス代表候補生が互いを見据え、ゆっくりとその距離を詰めていく事に対する恐怖と緊張によるものだとすぐに判る。

 

まぁ仕方ないか。

何せ、力を持つ者同士がやるのって、結局は権力争いとかに集結するもんだし、解らなくはない。

 

けどな、皆勘違いしてるぜ?

 

俺とリザは、そんな肩書きなんて必要ない関係なんだからよ。

 

そんな事を考えている内に、俺と彼女の距離は1メートルを切り、その気になれば互いを殴れる距離に、クラス中に先程より強い緊張が一気に走る。

 

一体何が始まるのか、必要なら教師でも呼びに行かねばとでも思っているのかね?

 

ホント、気ぃ遣い過ぎだって。

 

そんなクラスメイト達の様子に吹き出しそうになりながらも、取り敢えず目の前の事に集中する。

 

今は、彼女の事を見詰めてないと失礼だろ?

 

「久し振りだなリザ。」

 

「お久し振りですわ一輝さん、二年振りですわね♪」

 

あぁ、ホントに何も変わらない、この感じ。

懐かしいよなぁ。

 

「そうか・・・、あれ以来か、なんか随分長く感じるよ。」

 

「ええ、私も、もっと長いと思っていましたわ。」

 

互いに手を差し出し、握手しながらも抱擁を交わすと、その和やかな雰囲気に、何か起こるのではと身構えていたクラス中の人間が呆気にとられた様に口を開けていた。

 

そりゃそうか、ここまで和やかだと逆にアレだと思うわな。

 

「にしても、前に会った時より美人になってたから、一瞬見惚れたよ。」

 

少しだけ身体を離し、彼女の成長を褒める。

 

前に会った時は、お互いジュニアスクールだったからな。

 

リザは彼女の御母さんに似て、ホントに美人になってるんだよ。

幼馴染じゃなかったら、こうもすらすら話せてないってぐらいにはね。

 

「あら♪お上手ですわね♪一輝さんもずっと素敵になられましたわね♪」

 

嬉しい事言ってくれるなぁ。

 

互いに相手の成長を誉めあう、端から見たら完全にバカップルのそれだろう。

けど、俺達はまだそんな関係では無い、今はまだ、だけどな。

 

そう言えば、ウチの親もリザの親御さんも、万年バカップルなんだよなぁ・・・。

 

あの空間にいるとカレーまで甘くなっちまって食欲が失せそうになるぞ、ホントに。

 

え?お前はどうなんだって?

さぁ、どうでしょうね。

 

「あ、あの~、織斑君とオルコットさんって、知り合いなの?」

 

同じクラスの、確か青樹さんだったかな?が、俺達の関係を訊ねてくる。

 

改めて周囲を見てみると、何が何だかサッパリと言った風な様子で、皆興味津々といわんばかりだった。

 

まぁ、隠すほどの事じゃないし、話しても良いか。

 

「ん?ああ、俺とリザは幼馴染みだよ、実家同士が元から仲が良かったから、付き合いは十三年位あるぞ?」

 

「そうですわね、そう言えば、おじ様とおば様はお元気でして?」

 

「ああ、二週間ほど前に会ったけど、相も変わらず激甘だったよ。」

 

「そうなんですの、まぁ、お父様とお母様も似たようなものですがね。」

 

談笑をしている俺達を見て、クラス中の人間は呆気にとられると同時に、リザの実家に思い至った人間も居たようだ。

 

そりゃそうか、俺は慣れてるから何とも思わないけど、そうじゃない人間の方が多いんだよな。

 

「オルコットって・・・、まさかイギリス有数の大財閥じゃないか!?」

 

『ええ!?』

 

再度クラス中の視線が俺達に集まる。

 

その視線には畏怖と驚愕、その両方と過分な好奇心が含まれている。

 

やれやれ・・・、実家は実家、俺達は俺達なんだけどなぁ・・・。

 

まぁ、そういう訳にもいかない、よな・・・。

 

「そうですわ、私の実家はオルコット家、そして、父は二番目の男性IS操縦者、結城リクです。」

 

「そして、リザのお母さんは元イギリス代表候補生で、オルコット家の当主セシリア・オルコットだ。」

 

俺とリザの言葉に、クラス中のざわめきが更に大きくなる。

 

当然だ、俺もリザも、そしてルキアも、あの最高の世代と謳われた人達の血を受け継いでいる。

 

言ってみれば、二世なんだから。

そりゃ、ざわめきたつのは仕方のない事だね。

 

だけど、俺はそれをどうとも思っていない。

なんせ。二世は所詮は二世でしかない、親の七光りって呼ばれる事もある上に、まだまだ技術も稚拙だし、経験も無いに等しいんだ、それを理解していない俺達じゃない。

 

だからこそ、その肩書に恥じぬ力を着けて、俺はあの人を超えるんだ・・・。

 

それが、俺の昔からの夢だから。

 

「ま、いいや、飯食いに行こうぜリザ?」

 

まぁ何はともあれ、昼飯の時間なんだ。

積もる話は山ほどあるし、時間は有効活用しなくちゃな。

 

「はい♪エスコートしてくださいな、一輝さん?」

 

そう言いつつ、彼女は華やぐ笑みを浮かべて俺に手を差し出す。

 

昔からそう言う人懐っこいトコ、全然変わってないな。

今も昔も大好きな、その表情を懐かしく思いながらも、俺は腕を差し出した。

 

「分かってるよ、お姫様。」

 

リザと腕を組み、呆気にとられているクラスメイトを放置して、俺とリザは教室を後にした。

 

sideout

 

noside

 

一組で一輝とリザが再会を喜んでいる頃、屋上では・・・。

 

「やあ楯無、久しぶり、だね・・・。」

 

「っ、久しぶりね、エド・・・。」

 

イギリス代表候補生、エドワード・オルコットと日本代表候補生、更識楯無は二人っきりで会っていた。

遡ること数分前、彼等は互いを屋上に呼び出し、誰にも邪魔されずに再会を果たした。

 

代表候補生同士の事で、まさか初日から喧嘩かとクラスメイトがざわついたが、当の彼等の心はそこには無かった。

 

何せ、彼等は物心つく前から一緒にいた幼馴染同士なのだから・・・。

 

しかし、二人とも何処か思い詰めた様な表情を浮かべており、喜びよりも寧ろ、困惑の色が濃かった。

 

「本当にね、最後に会ったのは、確か三年前だっけ?」

 

「そうね、確かそれぐらいだったわ。」

 

二人とも、何処か固い言葉で再会の言葉を交わしていた。

それもそうだろう、何せ、彼等の立場は、昔とは大きく変わってしまっているのだから・・・。

 

「・・・、僕は、どっちの名前で呼べばいいかな?」

 

「えっ・・・?」

 

唐突にエドが言った言葉に面食らい、楯無は尋ね返す。

 

「君がもう楯無だって事は分かってる、だけど、僕にとって、君はずっと千恵なんだ、だから・・・、その・・・。」

 

しどろもどろに言い、照れを隠すように明後日の方角を向く。

 

伝えたいけど、素直な言葉が出て来ないと言ったところか、思春期の少年らしい表情がそこにはあった。

 

「君さえよければ、僕は君を千恵って呼びたいんだ・・・、ダメ・・・、かな?」

 

だが、伝えなければ進まないと言わんばかりに、彼は意を決して楯無の、幼馴染である千恵の瞳を見詰めた。

 

「うん、私とエド、二人っきりの時だけ、そう呼んで?」

 

その想いを受け取って、千恵は微笑みながらも、嬉しそうにお願いしていた。

 

変わってしまったと思っていた事を払拭してくれた事が嬉しかったのか、その表情には可憐な笑みが浮かんでいた。

 

「分かったよ、千恵。」

 

彼女の答えに、内心喜びつつもなるべく平常を保ち、エドは千恵の方に向き直る。

しっかりと見つめていたい、そんな想いが見て取れるようだった。

 

「ははっ、凄く緊張しちゃったよ、千恵、凄く綺麗になってるからさ。」

 

エドは照れ臭そうに頬を掻きつつも、目の前にいる彼女の事を誉める。

 

年相応の少年らしい表情と言葉に、千恵もまた、顔を朱くする。

 

「も、もう!それを言うなら・・・、エドだって、凄くかっこよくなってるよ?」

 

「あ、ありがとう・・・!そんな事言われたのは初めてだよ・・・。」

 

「そ、そうなの・・・!?」

 

はわわ、という擬音が見える様な感じで慌てる二人は、何処か初々しいカップルの様に見えた。

 

実際問題、幼馴染同士の中でも最も仲が良かった二人だが、今現在そう言う関係ではまだない。

 

「なーにやってんのよあんた達?」

 

「「!!?」」

 

出入り口の方から聞こえた呆れる様な声に、エドと千恵は驚きつつもその方向を見る。

 

そこには黒髪長身の男子学生と、金髪の女子生徒が呆れた様な表情をして立っていた。

 

彼等が醸し出す雰囲気に耐え切れなくなった、そう言わんばかりの表情だった。

 

「む、睦月さん!?」

 

「る、ルキア!?なんで此処に!?」

 

二人同時に慌てたように叫び、

あたふたといずまいを正すかの様に動いていた。

 

「熱いねぇお二人さん?再会を喜ぶのは良いが、周りの目だけは、気にしとけよな?」

 

「む、睦月さん・・・、茶化さないでくださいよ・・・。」

 

エドに近付いた睦月と呼ばれた男子生徒は、彼の肩を肘で小突いていた。

 

まるで、年上の従兄がやる様な光景だったが、彼等の仲を考えるとそれも強ち間違いでは無かった。

 

「楯無もウブウブね~?なんだったっけ~?エドも凄くかっこよくなってたよ・・・?だった~?」

 

「や、やめてルキア~!?」

 

ルキアのからかいに、千恵はその顔を林檎の様に真っ赤に染め、聞こえないと言わんばかりに耳を塞いだ。

 

いくら幼馴染み同士とは言えど、こう言った関係での弄りは勘弁してほしいのだろう。

 

「うぅっ・・・、そ、そう言えば、一輝とリザがいないね、どうしたんだろ?」

 

何とか話題を逸らそうと、千恵は必死になってこの場にいない幼馴染み達の名を出した。

 

それが功を奏したのだろうか、そろそろ止めておいてやろうと言いたげな表情をし、睦月は顎に手を当てつつ考えた。

 

「さぁな、あの無自覚バカップルは自分達の世界にフォーリンラブでもしてんじゃないか?」

 

「でしょうね・・・、リザも一輝と会えると知って、無意識にテンション上がってましたし・・・。」

 

その言葉に同意し、エドは苦笑しながらも呟いた。

 

彼の姉であるリザと、幼馴染の一輝の関係は単純な幼馴染と言う括りでは納められないだろう。

 

何せ、彼等の雰囲気はそれなりの時間を共に過ごした夫婦と言うべきもので、彼等の父母同様の雰囲気なのだから。

 

「で、でも、私達がこうやって揃うのなんて、本当に何時振りだろ?」

 

「そうだねぇ・・・、睦月さんがここに入る前だから、かなり長いね。」

 

「もう二年も前、か・・・、俺達の付き合いはそれなりに長いが、こんなに離れて長いと感じたのは初めてだな。」

 

楯無の言葉に、エドと睦月はそう言えばそうだとばかりの表情をし、過ぎた月日を慈しむ様に笑っていた。

 

「さてと、そろそろ食堂に行きましょ、どうせ一輝とリザも筈だしね。」

 

そんな中、ルキアがそろそろ行かないかという風に呼びかけ、さっさと出口の方へと歩いて行ってしまった。

 

「はいよ、久々に思いっきりからかってやんぜ。」

 

彼女を追う様に睦月も駆け出して出口へと向かって行ってしまった。

 

残されたエドと千恵は二人の様子に顔を見合わせて苦笑していた。

 

彼等は何も変わらない、幼いころから同じ空気で自分達と接してくれている。

それが、彼等にはこの上なく嬉しい事だった。

 

「さっ、僕達も行こうか、千恵?」

 

「うん、行きましょ?」

 

置いて行かれては堪らないという様に、二人は少しおっかなびっくりながらも手を繋いだ。

 

その二人の表情は何処か照れ臭そうだったが、それ以上に、喜びに満ちていたのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

久方ぶりの再会に湧く少年少女たちに、それは突如として舞い訪れる。
新たな翼の飛翔は、すぐそこまで迫っていた。

次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者

一輝とリザ

お楽しみに

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