デスゲームの半死人   作:サハクィエル

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 投稿が遅れてしまい申し訳ない。忙しかったのです。僕の心は夢の中にあったのです。
 そして、この先もしばらく、更新が捗捗しくなくなると思われます。本当に申し訳ない。完結させる気はあるのですが.....現実ってやつはいつだって非情ですね。


鏖殺碌

「あああああああああああああッッ!」

 

 俺は叫び、技後硬直時間が過ぎるとともにソードスキル、「ヴォーパル・ストライク」を発動させ、眼前の手負いのモンスターを殺すとともに、背後に存在していた二体のモンスターにも確実にダメージを与えていく。

 

 この技は原作でやたらとキリトが入れ込んでいたもので、別シリーズにも登場するなど、作者もまた入れ込んでいたので、効果は勿論のこと、初動のモーションまで覚えていた。有能なソードスキルだ。ダメージは多く、出が早く、正確に照準位置を射抜ける。惜しむらくは技後硬直時間が長い点だが、それくらいの誓約は設定しておかないとゲームバランスが崩壊してしまう。

 

 とにもかくにも、そのソードスキルで敵を射抜いた俺は、しばし技後硬直というペナルティを課せられた。その間に、まだ手を付けていなかったNM(ネームドモンスター)の粘液攻撃を食らってしまう。

 

 そのモンスターはカマキリやらハチやらが足された合成昆虫で、口とおぼしき部分から粘液を射出できるのだ。その汁はどうやらデパフを誘発するもののようで、視界端のHPバー下部に移動速度低下表示、バットクリティカル発生確率上昇、猛毒状態を表すアイコンが顕現される。

 

 それを見届け、胸中で毒づいたところで技後硬直時間は終わったようだった。俺はすかさず剣を動かし、初級技となるレイジスパイクで僅か残った敵のHPバーを消滅させた。

 

 そこから、最も間合いの近いモンスターに片手剣カテゴリ5連撃SS「ノイズ・アポイントメント」を発動。神速という形容の相応しい速度で剣を閃かせ、やたらめったらに打ち込んでいるようで規則性のある攻撃でそのモンスターのHPを削る。HPは5割、4割と素早く減少していきーー2割を僅かに切り込んだところで静止した。バットクリティカルだ。与えるダメージ量が上昇(クリティカル)するどころか減少(バット)してしまう魔のデパフ効果ーー。

 

 と次の瞬間、殺しきれなかったそのモンスターが俺に体当たりをかましてきた。そいつは昆虫の癖にゴリラのような体格をしており、防御力を稀薄にしていた華奢な俺は遥か後方に吹き飛ばされる。視界の端でHPバーが4割まで割り込むのが見えた。

 

 俺は手早くベルトに付けていたポーションを喉の奥に押し込むと、HP回復を待たず飛び出した。デパフの効果はまだ続いている。しかし、回復を待っていれば敵にやられてしまう。

 

 ソードスキルによる光芒が宙を舞い、同時に俺の姿がかき消える。否、消えたのではない。高速で姿勢を低くしたため、消えたように見えただけだ。片手剣カテゴリ2連撃SS、「フライ」ーー。上位SSとは思えない名前の短さと手数とは裏腹に、速度、技後硬直時間、ダメージのどれをとっても申し分のないソードスキルだ。

 

 そのソードスキルの一撃目がてんとう虫を巨大化させたような造形のモンスターにヒットし、左足を裂く。それで体勢が崩れたところで、剣のストックによる殴打をそいつの背中に叩き込む。光芒が舞い、僅かばかりの技後硬直時間が課せられるが、この硬直時間は短い。あってないようなものだ。

 

 刹那、それを見た周囲のモンスターは、俺を取り囲むように陣形を取った。剣士である俺が対応できるのは180度前方の敵のみだ。背後からの攻撃には弱い。

 

 厭らしいイベントである。これを設定したカーディナルはアドミニストレータの気があるのか。

 

 俺はふと、そのモンスター郡の背後に存在する階段を見据えた。その階段とこちらの間にはこれまた大仰かつ無常感の漂う鉄格子が配置されている。あれがさっき解錠したギミックのように触れるだけで開いてくれれば話は早いのだが、こんな厭らしい、コロシアムのような仕掛けにそんな「逃げ」が用意されている筈がないだろう。あれに期待していては死ぬ。

 

 俺は囲んでくるモンスターに対し、全方位を切り裂く言わば回転斬りソードスキル「ラウンドアバウト」を発動し、迎撃を図る。

 

 このソードスキルによるダメージはあまり見込めない。あくまでも迎撃用のソードスキルであるからだ。そもそも、こんなソロプレイ用かのような性質のソードスキルがSSスロットに登録されていること自体僥倖なのだ。

 

 そして、SSには技後硬直時間の他にもう一つ、「復帰時間」というペナルティが存在する。これは一度使ったソードスキルを再び使えるようになるまでの時間のことを指す。

 

 そう。つまり、このラウンドアバウトはしかるべき時間にならないと再使用できないのだ。

 

 俺は重攻撃を使用することを躊躇い、ロード・アウェイで眼前の敵を刺突した。軽攻撃のソードスキルだが、ラウンドアバウトでHPの減っているモンスターを倒すには十分だ。刹那、ガラスを砕いたような大音響とともに、その昆虫モンスターは無数のポリゴン片となって爆散した。

 

 俺はそれを無感動に見据えると、再び周囲のモンスターに攻撃を加えようとして、ふと、自分が動けないことに気付いた。緩慢な動きで自分の胸を見ると、そこには何やら、触覚のようなものが突き刺さっていた。その尖端には赤いポリゴン片がこびりついている。それが、俺のものであることは明白だ。

 

 どうやら、その攻撃を繰り出したのは数体存在したNMのうちの一匹であるらしかった。

 

 その触覚ーー否、鎌は、どうやら麻痺を付与する効果があるようだ。視界左上部、HPバーの下にあるアイコンはそれを如実に表している。

 

 動けない。そんな思考が瞬くうちにも、HPバーは減っているのだった。貫通による継続ダメージだ。それによって、俺の命は緩慢に削られていくーー。

 

 麻痺はソロプレイヤーの最大の天敵。どこかで聞いたようなその言葉が脳裏をよぎるが、しかし、もう遅い。俺は死に続けており、それを止める方法は既にないのだから。

 

 視界の端、ここへの入り口付近では、ケイタが必死に鉄格子をこじ開けようとしている。しかし、メイスで叩いていも鉄格子に触れても、筋力パラメーターを限界まで駆使した「こじ開け」も、そのギミックには通用しない。恐らく、一度閉まると条件を満たすまで開かない仕組みになっているのだろう。

 

 俺はもうすぐ死ぬ。ーーもう、希望はない。

 

 遠くで聞こえてくるサチの悲鳴とケイタの叫び、そして、HPバーの減少音を聞き取りつつーー

 

 俺は死んだ。

 




オリジナルソードスキル一覧
・ロード・アウェイ....刺突ソードスキル。ダメージは小さいがその分速く、技後硬直時間もクールタイムも短い
・ノイズ・アポイントメント....5連撃ソードスキル。一撃一撃の重さよりも速さが重視されている。
・フライ....2連撃ソードスキル。全体的な性能バランスが取れており、初動で低姿勢になるのが特徴的である。
・ラウンドアバウト....全方位回転斬りソードスキル。ダメージは小さい。因みにこの単語、直訳すると「迂回」という意味になる。効果とはあまり関係ない気がするが...? モーションはモンスターハンターの片手剣の狩技、ラウンドフォースを思い浮かべてもらえればいいと思う。
・ジャスト・クレイドル.....重攻撃。スタンをとりやすい。しかし重い故に技後硬直も初動も遅いため、ソロプレイではあまり使えない。

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