デスゲームの半死人   作:サハクィエル

11 / 16
 お久しぶりです。立て込んだ状況が一段落したので戻ってきました。
 しかし、この物語、どこに向かってるんでしたっけ?


反旗を翻したように

 剣が、砕けた。

 

 その事実を認識し、受け入れ、現実を肯定できるようになるまでには数秒を要した。

 

 剣は剣士ーーSAOプレイヤーの命にも等しい存在だ。だから、ある程度このゲームをやりこんだプレイヤーならば、耐久値にはHPバーの次に気を配るものだ。戦闘中に剣が砕け散る、もしくはヘシ折れるようなことになれば、そこで生命線は絶たれてしまうからだ。未来への道が閉ざされてしまうからだ。

 

 そう。

 

 つまり、俺の生命線は、運命の糸とやらは、切れた、と、そういうことなのだろう。剣が折れてしまったのだ。替えの剣も体術スキルも持っていない俺はーー。

 

 否、あるにはある。前々から、片手剣が俺のプレイに合っているか疑問だったので、俺は曲刀スキルを修練していたのだ。そのスキルポイントは300であり、ソードスキルも十分使い慣れている。

 

 しかし、パワー不足は否めない。今の俺の片手剣スキルポントは943。曲刀スキルとは600以上も数値的な差があるうえに、その化け物のようなスキルポイントを以てしても、俺は二回死んでしまったのだ。曲刀を用いても状況は覆らない。いや、むしろ悪化してしまうだろう。

 

 俺は何も残っていない腕をしばらく見つめていたがーーやがて、こちらへ向かって打ち込まれた攻撃で我に返り、その、中型モンスターの毒針による刺突を盾で防ぐ。衝撃が抜け、腐蝕属性が含まれていたのか盾が僅か溶けるが、構わず俺は「ザ・バッシュ」を放ってそいつを突き放す。

 

 そうだ。迷っていたって仕方がない。戦わなければ生き残れないのだ。この世界では。迷っているうちに死んでしまうならーー例え戦いがどれだけ悪辣でも、この背で背負ってやらなければならない。

 

 取り敢えず、剣が無ければ戦いにならないので、俺は手早くウィンドウを操作して剣を実体化させようと画策する。しかし、その作業時間中ずっと待っているモンスターなど居ない。当然攻撃してくる。

 

 毒針が胸に突き立てられ、体当たりが鳩尾に突き刺さり、鎌で切り裂かれたところで、俺は漸く剣の実体化に成功したのだった。

 

 しかし、その時点で既に、俺のHPバーは赤の危険域まで割り込んでいた。もう助からない。俺はそれを悟ると、剣の柄に手をかけるのをやめ、眼前に迫った相手モンスター向かい打撃を繰り出した。グローブで保護されたひ弱そうな拳で。

 

 俺はあまりSTRの値へとポイントを振っていない。剣舞の際に重要になるのは速さと正確さだと信じているからだ。だからこそ、その打撃で稼げるダメージなど微々たるものである筈だった。

 

 しかし。その攻撃が命中した瞬間、ダメージよりも重要な情報を入手し、俺の顔は驚愕で塗り潰された。

 

 俺の殴打がモンスターに突き刺さった瞬間、敵モンスターの真横に、一つのウィンドウが表示されたのだ。ーーレベルダウンを示す、そのウィンドウが。

 

 そうだ。俺はかなり前、ケイタとのデュエルの最中、このレベルダウンスキルを認識したのだった。あの時は盾でそのスキルを発動させた筈だが、あれは革製の盾が薄く、システムの判定が「素手で触れた」という欺瞞に満ちたものになった故だろう。

 

 ーーしかし、重要なのはそこではない。真に重要となるのは、プレイヤー以外にもこのスキルが有効になったという事実の方だ。確かに、プレイヤーのみならず、モンスターにもレベルは存在する。前世で嗜んでいたSAOのゲームでは、画面右上に、モンスターのHPバーと一緒にレベルも表示されたのだ。

 

 前々からそういう性能だった、というのは可能性から除外していい。俺が前にモンスターに触れた時、レベルダウン現象は起きなかった。

 

 では、どうして? 否、答えを、俺は既に知っているのかもしれない。そもそも、このレベルダウンは「ゾンビアクションゲーマーレベルXー0」の一部だ。今まで深く考えたことはなかったが、それも「スキル」に大別される一つの存在であるならば、通常のそれと同様にスキルポイントが介在し、それに付随する固有技もまた介在する筈である。つまり、このレベルダウンが「成長する」可能性はあった。

 

 その「成長」により変容したスキルの仕様に、俺はたった今、偶々気付いてしまったのだろう。

 

 ーーと次の瞬間。いつの間にか這い上がってきていた小型の昆虫モンスターが、俺の喉笛を噛みきると同時に、無機質な、「GAME OVER」メッセージが視界いっぱいに表示され、俺は死んだ。

 

 そして、蘇る。残りライフ84。

 

 このスキルは使える。どれだけやれるか分からないが、それでも、有効活用しない手はない。

 

 俺は復活地点から、取り敢えず目についた雑魚モンスター目掛けて疾駆した。接近し、間合いの中に入った瞬間にソードスキルを打ち込むのだ。

 

 初歩的なソードスキル、「リーバー」の攻撃がトンボ型モンスターの羽を裂き、地に落としつつHPバーを消滅させる。どうやら、今やったモンスターは雑魚だったようだ。レベルドレインを使うまでもなかった。

 

 それを見た周囲のモンスターは奇怪な叫び声をあげると、こちらへと肉薄してくる。最も俺に近い蟻型モンスターの顎は、既に3センチほどの間合いまで迫っていた。

 

 しかし、焦ることはない。心の中でそう唱えつつ、俺はそのモンスターの頭を掴み、レベルを下げたうえで、袈裟斬りの軌道となるソードスキルをそいつの体へ打ち込んだ。

 

 その袈裟斬りソードスキルは、初歩的な軽攻撃スキルだった。威力が足らないくせに技後硬直時間がそれなりに長いので、今まで敬遠しがちだったものだ。

 

 なので、本来、こんな攻撃でこの12層のモンスターが倒せる筈はなかった。しかし、レベルドレインはそんな常識など破壊する。

 

 どうやら、モンスターであろうと、レベルが低下すればステータスが下がるようだった。

 

 俺はその蟻が消滅するのを待たず、背後のムカデ型の頭部へと剣の鋒を突き刺した。その剣は僅かにライトエフェクトを帯びている。スキル熟練度が300に到達した時に発現したソードスキル、「スパイラル・グラビティ」だ。これは、剣の鋒を下に向けて突き下ろす軌道で繰り出されるソードスキルであり、ピンポイント過ぎるその性能故に、ネタ枠で入れていたものだ。まさかこんなところで使うことになるとは思わなかった。

 

 俺はそのソードスキルが続くうちにムカデへと触れ、レベルを下げる。ある地点を過ぎてから急激にダメージ量が増加し、やがて、そいつはHPバーを散らして消滅した。

 

 いける。俺はそれを確信していた。このまま少しずつ倒していけば、やがてモンスターは全滅する。それまでに使いライフも、多くて15ほどだろう。それでも、70を僅か切るほどだ。後の攻略に支障が出るような減少量じゃない。

 

 しかし、俺は気付いていなかった。このイベントが、正攻法ではほぼ攻略不可能な、カーディナルの設定した罠であることに。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。