デスゲームの半死人   作:サハクィエル

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 なにとなしにキーボードに向かっていたら創作意欲が溢れてきて、気付いたら3000文字近く書いていました(唐突)
 僕を悩ましている現実の問題もこんな簡単に片付いたらいいのに。


剣舞による鏖殺

『GAME OVER』

 

 前世、今世で、どれだけこの無機質なメッセージを聞いただろう。

 

 デスゲームと化していないモニターゲーム内では、勝利メッセージと同等の頻度でこのメッセージが画面一杯に浮かび上がる。このメッセージが示すのは死。アバターの一時的な消滅だ。

 

 だが。

 

 ことデスゲームに於いて、そんなものはあり得ない。この世界で失われたアバターは元には戻らないのだから。

 

 だが。

 

 このスキルは、そんな定立を破壊する。

 

 次の瞬間。さっきまで俺が戦場としていたコロシアムの一角に土管が形成され、その中から俺が排出される。それと同時に、「87」と記されたウィンドウの数字が「86」に変わる。

 

 久々の、「死」だ。しかし、感慨など沸かない。さっき仲間にも言ったように、俺はもう死んでしまっているから。言わば、「デスゲームの死人」なのだから。

 

 仲間の唖然とした声がここからでも聞こえてくる。懐疑、驚愕、あるいは畏怖。それらがないまぜとなった混沌とした声が。

 

 俺はもう一度剣を抜き放ち、さっき自分を葬ったNMへと突進していった。あいつの触手。あれで攻撃されればそれだけで即、死だ。なので、最初にあいつを片付ける必要がある。

 

 俺は間合いの外からSS、「ヴォーパル・ストライク」を発動させると、周囲のモンスター3体を薙ぎ払いつつそいつに剣先を向けて突進した。

 

 俺の持っている剣ーーとあるクエストの報酬アイテムとなる片手剣、「クエイクボトムズ」は、要求STR(力)値の低い、軽い剣である。よって、突進系、刺突系のソードスキルの威力を十分に引き出せないと思われがちだが、それは違う。この剣は鋭度の高い設定であり、むしろ、この剣が本領を発揮するのは刺突ソードスキル使用時である。

 

 クエイクボトムズの、松明を受けて輝く曇天色の剣尖は糸を引くようにNMへと向かいーーその眼球に命中した。ぐちゃり、と厭らしい音が響き渡り、次いで、快感を感じるレベルの手応えとともに、そいつのHPバーが7割まで割り込んだ。

 

 相手はNM。威力だけ見れば所持SSの中で最強のものを使用しても、これだけのダメージしか稼げないのは至極当然のことだろう。

 

 しかし、「これだけ」という言葉の判断基準は通常のモンスターだ。NMに放ったソードスキルだと思えば、削れた方なのかもしれない。

 

 と次の瞬間、技後硬直のペナルティを課せられ、嫌でも静止してしまう俺を、横からモンスターがどついた。その反動で俺は吹き飛び、コロシアムの岩壁に激突して満単だったHPを6割地点まで減らしてしまう。

 

 これは痛手だ。だが、あのNMの反則レベルの触角を食らうのと比べれば遥かにマシだ。

 

 俺は凹んだ岩壁から脱出すると、HP回復を怠り、再びあのモンスターへと斬りかかりに飛び出す。使うソードスキルはさっきと同じだ。対モンスター戦に於いて最強の、「ヴォーパル・ストライク」ーー。

 

 今度の突撃は、なんということか、そいつの鎌によって防がれてしまう。さっきは完全な不意打ち故にすんなりと攻撃が通ったが、今回は違った。奴の行動パターンには、「ブロック」というものも存在したのだ。

 

 しかしそれでも、2割ほどはもっていけた。NMのHPは後5割ほど。いける。倒せる。俺がそう思考した瞬間、ふと、飛んできた真横からの攻撃に、俺は麻痺させられ、その場に倒れ込んでしまう。

 

 麻痺し、攻撃してきた相手も見えない中、俺は視界の右隅に浮かび上がるHPバーを見た。このゲームでは、フロアボスやNMがプレイヤーを知覚した瞬間にそいつのHPバーが視界に浮かび上がる仕組みになっている。通常のモンスターとの差別化を図るためのシステムだ。

 

 今、俺はそれのお陰で自分を襲ったモンスターの正体を理解していた。それは、もう一体のNMだ。もう一体存在していたNMが、俺を麻痺させたのだ。

 

 ーー刹那。そいつの鋭利な爪先が俺の背中に食い込むと、神速という形容が相応しい速度でHPバーが減少していきーー0になった。

 

 その瞬間、俺の体は無数のポリゴン片となって爆発四散し、そして、再構成された。離れた地点に発生した土管から這い出ると、俺は再び剣を構え、ずっと練習していた技を放つために二歩前に出た。その間にもモンスターがにじり寄ってくるが、それを無視し、俺はソードスキル、「レイジスパイク」を発動する。

 

 深紅のライトエフェクトが剣尖から散り、人間の限界を超えた速度でアバターが照準したNMへと向かっていく。

 

 そのレイジスパイクは糸を引くように、あるいは吸い込まれるようにそいつに命中した。本来ならば、ここでソードスキルの運動は終わり、ライトエフェクトが消滅し、そして技後硬直時間が課せられる羽目となる。

 

 しかし。そんな定立を壊すのが、この技術だ。

 

 俺は技後硬直時間が課せられる直前、まだ僅かばかり体が動くタイミングを見計らって、剣尖をほんの僅か下へと動かして、伸ばしきった肘を定位置に引き戻す。

 

 と次の瞬間。剣のライトエフェクトが不自然に消滅し、そして、青白い、新しいライトエフェクトが生まれた。

 

 そこから、俺は再び肘を伸ばしきり放った。軽い刺突ソードスキル、「ロード・アウェイ」を。

 

 これは、ソードアートオンラインの、アリシゼーション編でユージオが使った、片手剣のみのスキルコネクトだ。

 

 スキルコネクトとは、二刀流スキルを失ったキリトが考案した技の体系で、ソードスキルの終了間際の時間、技後硬直時間の直前に無理矢理別のソードスキルの初動モーションを取ることで、技後硬直時間を無視して別のソードスキルを発動させるというものだ。

 

 これはシステムを欺く技であるため、成功率が非常に低い。言わば、旧式ゲームハードで能動的に誘発できるバグのようなものであるためだ。

 

 しかし。成功した時のアドバンテージは計り知れない。技後硬直が存在しない技の連続だ。技を受けた相手が反撃するための隙を完全に消すことができる。

 

 放たれた、「ロード・アウェイ」は、そいつの眼球に命中した。さっきまで斬っていたNMと同じ部分への攻撃である。こちらも同じように大きくHPを削ることができた。

 

 しかし、それでも後8割、HPが残っている。それを削り切らなければいけないわけだ。

 

 俺は左手の盾をすかさず体の前で構え、剣が引き戻される直前で盾で唯一の攻撃スキル、「ザ・バッシュ」を発動させた。これまた不自然に右手が自由になり、左手はそれと異なり、NMに向かって打ち込まれた。

 

 ザ・バッシュはダメージが少ないものの、ノックバック性能の高いスキル。それを顔面に食らったそいつは、大きく仰け反ってしまう。

 

 そこが狙い目だ。俺は盾を中心に散るライトエフェクトが消えるよりも早く剣を体の正中線に沿え、放った。重攻撃ソードスキル、「ジャスト・クレイドル」を。

 

 これは出までに僅か時間がかかる。これの初動の時点でやられるなどというのはご愛敬だ。

 

 しかし、奴はーーNMは今、仰け反っている。そして、他のモンスターのCPUは今の動きについてこれていないため、反応することができない。

 

 抜けるーー。そう確信した俺の剣は、確実に、NMの体を裂き、その破壊の一閃が半分まで到達したところで、俺は別のソードスキルを発動させる。回転斬りのソードスキル、「ラウンドアバウト」だ。奴の額から超高速で剣が引き抜かれ、周囲のモンスターを引き裂きつつ、確実にNMへとダメージを与えていく。

 

 スキルコネクトで発動できるソードスキルを全て打ち終わったうえで、俺は最後に、辛うじて動いた足でモンスターの顎を蹴りあげる。

 

 それが致命傷となった。俺の蹴りを受けたそいつは、無数のポリゴン片となって霧散し、そして、二度と蘇らなかった。

 

 やった。俺は僅かな勝利感と、未来への希望で歓喜していた。これで勝てる。厄介なNMを一体葬り、そして、スキルコネクトのコツを掴んだのだ、俺は。

 

 そう、このまま二体目を葬り、周囲のモンスターを一掃すれば勝てるーー。

 

 と次の瞬間。

 

 俺の腕の中で、曇天色の剣が砕けた。

 

 とっくに、耐久値はゼロになっていたのだ。

 


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