PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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第5話 瞼の裏に強く焼き付く(So,it is called "BLAZE")
8月1日──【マイルーム】噂調査 1


 

 

 

 8月の初日。茹だるような暑さ。電気代を考えるとエアコンはあまり使いたくないと考えていたものの、結局のところ決意虚しく文明の利器に頼った自分は、冷房を効かせた室内で1人本を読んでいた。

 時間帯としてはもう昼食時が過ぎる頃。そろそろ何か食べようかなと考え出した所で、サイフォンが鳴動する。

 

 差出人は、時坂 洸。

 比較的連絡を取ることが多い彼だが、忙しいであろう夏休みの初日から、何か用だろうか。

 

 

『よう、今何してる?』

 

 ……何気ない世間話のようだ。

 

「『読書中だ』」

『家か?』

「『ああ。来るか?』」

『いや、今バイト中だから』

 

 なら何で連絡してきたのだろう。

 主旨が見えない。

 

『風の噂で聞いたんだが、ハクノお前、ゲーセンで不良にカツアゲされたってマジか』

「……カツアゲ?」

 

 

 されてない。ゲームセンターで見知らぬ人たちとゲームした記憶はあるが、お金を巻き上げられたなんてことはなかった。

 できるだけ丁寧に説明する。誤解を受けてしまうかもしれないが、自分の練習に付き合ってもらったのだと。

 

『なるほどな……いやまあ、言いたいことは分かったんだが…………別に本人が良いなら良いか』

「『言いたいことがあるならはっきり言ってくれ』」

『お前ただ絡まれて暇潰しに巻き込まれただけじゃね』

「……」

 

 人の視点は様々で、まあ、そういった意見を持つ人は、一定数いるかもしれない。うん。

 

 

 

────

 

 

「『それで、どうして急にそんな話を?』」

『ワケを話すと、少し長くなるんだが……』

 

 

 どうやら昨晩、共通の友人である小日向 純が不良に絡まれて怪我をしたらしい。とはいえ頬に少しの傷と、倒れたときに痛めた手以外に怪我という怪我はないらしく、重症という程ではないらしい。

 たまたま偶然通りすがったという先輩に助けられなければ、もっと酷いことになっていたかもしれないとのことだ。

 

 そんな話を聞いた洸は、蓬来町のカフェでバイトをしつつ、少し情報を仕入れようとしていたのだという。

 そして舞い込んだ噂話。

 “以前、杜宮高校の地味めな男の子が、ゲームセンターで不良に絡まれていたのを見たことがある”。と。

 

 

「『ちょっと待て』」

『どうした?』

「『地味めな男子で自分だと特定したのか?』」

『気にしすぎだっつうの。ちゃんと聞き込んだぜ』

 

 曰く、制服の下に変な顔がプリントされた服を着ていた。

 曰く、大人しめで真面目そうな男子だった。

 曰く、ゲーセンでたまにバイトをしている子だ。

 

 洸的には服の時点でピンと来たとかなんとか。変な顔とは失礼な。

 

 

『それで、一応聞いておきたいんだが、そのお前とゲームしたっていう不良どもについて、覚えていることはあるか?』

「『蓬莱町を中心に活動しているって聞いたな。あとは服装。黒地に炎のマークを入れた人たちだったな』」

『黒い服に炎? どこかで……いや、取り敢えず分かった。情報ありがとな』

「『ああ』」

 

 バイトに戻るらしい時坂へエールを送り、サイフォンをテーブルに置き直す。

 聞き覚えの有りそうな反応をしていたが、有名な人たちだったのだろうか。

 

 

 ……それにしても、小日向が怪我、か。

 重症ではないとのことだが、1度お見舞いに行った方がいいかもしれない。

 

 それとは別に気になるのは、やはりゲーセンにいた彼らのこと。

 悪い人たちだとは思っていない。なんだかんだ付き合いが良く、着ている服もカッコよかった。

 

 ……せっかくだし、ゲーセンに行ってみようか。もしかしたら会えるかもしれない。

 まあ、会ったところで覚えられているかは定かじゃないが。

 

 

 

────>ゲームセンター【オアシス】

 

 

「おっ、あの時の地味メンじゃね!?」

 

 

 覚えられ方に問題があった。

 自分に反応したのは、見覚えのある黒いパーカーの男たちの1人。間違いない。あの時相手してもらった人たちだ。

 

「何やってんだよ地味男」

「ゲームをしに」

「あぁ? オレらとやりてえって言うのかよ」

「……やりましょう」

 

 自分の答えにひとしきり笑った後、彼らは席を開けて受け入れてくれた。

 

 ……やっぱり悪い人たちとは、思えない。

 

 洸に言われて気になったから来てみたが、何の問題もなさそうだ。となればやはり似た何か誰かなのだろう。

 

 

 

 

 暫く対戦ゲームに付き合ってもらったり、後ろから見学させて頂いたり、それらを繰り返して長い時間を過ごした。

 

「おい、この後時間あるか?」

「? はい、ありますけど」

「んじゃ、クラブ行くぞ」

「……クラブ?」

 

 

 クラブ……って、クラブ?

 

 

────>ダンスクラブ【ジェミニ】

 

 

 連れてこられたのは、本当にクラブだった。

 クラブと呼ぶ他にない。カウンター席があり、ダンスコーナーのような広々とした空間があり、ジュークボックスがあり……って本物は始めて見たな、ジュークボックス。

 まあとにかく、昼間だが少人数が躍っていたり、数人が端の席で呑んでいたりと、明るい雰囲気の場所となっている。

 

 

「よぉ、地味メン、クラブは初めてだろォ? どーだよ」

「すごく明るい場所ですね」

「ハッ、地味な感想だなテメエ」

「想像を裏切らねえのがウケるわ」

「いやウケねえだろ。ってか、お前らコイツのこと気に入り過ぎじゃね。何言われても知らねえぞ」

「別に気に入ってる訳じゃねェよクソが。……別にすぐ帰すっつーの」

「……アキヒロさんに見つかんじゃねえぞ。とばっちりはゴメンだからな」

「わぁってるよ」

 

 

 ……どうやら歓迎してくれているのは連れてきてくれた人たちだけであって、元からここにいた大部分には歓迎されていないらしい。それはそうだ。自分だって場違いなことは理解している。

 それでも、滅多にできない経験だ。少し楽しみ方くらいは知っておきたい。

 

 

 

 

 

 それから、少しの時間ではあるが、ダンスクラブというものを体験させてもらった。

 流石に踊ることはなかったが、流れに任せて身を振るくらいのことはしていたし、結構満喫できていたようにも思う。

 

「地味男、お前……」

「はい?」

「リズム感ねえな」

「……」

 

 まあ、目覚めてこの方、リズム感を必要とされることはなかったし。あっても戦闘の癖を把握する時に必要なくらいで、音に合わせたことはなかった。

 少々無理のある言い訳を考えつつ、水で喉を潤わす。

 カウンターから提供されるお水も美味しい。お茶でなくても良いのかと聞かれたが、少し法外な値段が掛かりそうだったので遠慮しておいた。

 

「おい、アキヒロさん帰ってくるってよ」

「マジか、おい地味メン、帰り支度しとけ!」

 

 どうでも良いが、地味男とか地味メンとか、他に呼び方ないだろうか。

 まあ名乗っていない自分にも問題はあるのだが。

 いやそれでも呼ばれるたびに何かが心に刺さるので、できれば遠慮したい。

 

 そんなことを考えながら、席を立つ準備をする。

 夕方と呼べる時間帯に差し掛かってから、ポツポツと店が盛り上がり始めた。

 誘ってくれた彼らと同じ服を着た青年たちが多いが、そうではない人たちの割合が少しずつ増えてきたのだ。

 席にはカップルだったり成人だったりと、多種多様な人が集まっている。流石に同級生などはいないが。仮に遭遇しても反応に困るから別に会わなくて良いんだが。

 

 

 ──そんなことを考えていたら、目の前に、見覚えのある2人組が現れた。

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 時坂と、空が、目を丸くしてこちらを見ている。

 かくいう自分は、目が点にでもなっているんじゃないだろうか。自分の目が大きく開かれているのが分かる。

 

 ……いや、だから、会わなくて良いんだが。

 

 

 


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