『璃音、今日空いているか?』
『ぜんぜんオッケー!』
そんな軽いやり取りをメッセージでやり取りした自分たちは、講習後、レンガ小路に集まっていた。
今更ながらにアイドルとこうして気軽に連絡を取れるって、凄いと思う。本当に。
隣を歩く変装した彼女を見て、そう思った。
「前から思っていたんだけれど」
「なになに?」
「それって変装になってるのか?」
ピキッと、璃音の身体が止まった。
彼女は今、帽子にラフな私服姿でここにいる。髪形も多少変わっていて、いつもはサイドテールのように纏めているが、今は下ろしてかつ三つ編み。確かに変わったようには見えるだろう。
だが、変わっただけの久我山璃音ということは、否定できない。
──Select──
眼鏡を推す。
カツラを推す。
>男装を推す。
──────
「いっそ男装してみるか?」
「い、いやー、わたしのアイドルとしての魅力は男装程度じゃ隠しきれないんじゃないカナー……?」
寧ろ隠しきれていないのが問題なのだが。
「それともキミ、ただ男装が見たいだけだったりして」
「いや、そこには興味はないけど」
「ぐっ……そこははっきり断言しないでよ!」
そんなこと言われても困るのだが。
興味があったのは眼鏡姿くらいだ。
「それとも何? わたしには男装が似合うって言うの?」
「……悪くないんじゃないか?」
「……なんか、カチンときたかも」
……怒らせてしまったみたいだ。
「……でも、キミも女装似合いそうだよね」
「そうか?」
「え、なんで食い気味で反応を!?」
女装が似合うというのは、1つの個性と成りえる気がするからだ。
Tシャツで無個性は脱したと思うが、それでも個性的な面は多い方が良い。その方が人間魅力が増す気がする。
本当に似合うというなら、試してみたいものだが。
「そのうち、自分が女装して、璃音が男装して1日過ごしてみるか」
「何の罰ゲーム!?」
罰ゲーム、なのだろうか。面白そうな気はするのだが。
加えて変装にもなるし一石二鳥だろう。
まあでも、嫌がっているのなら無理に行うつもりはない。いつか起こるであろう希望を持ち続けるだけだ。
「ところで、今日はどうしたの?」
「暇だったんだ」
「あっさり……まあわたしも予定なかったケド。せっかくだし買い物でも行こっか」
「男装グッズの?」
「ち・が・う・わ・よ・!」
……かなり怒っていた。
>────>アンティークショップ【ルクルト】。
2人で次の目的地としてやって来たのは、歩いて数分もしない距離のアンティークショップ。ユキノさんが店主を務める、彼女だけの城だ。
流石に洸の姿はない。きっと今日もどこかでバイトをしているのだろうが、ここではないらしかった。
「おや青年、いらっしゃい」
ユキノさんがこちらを見て、その後璃音のほうへ向き、視線を行ったり来たりさせてにやりと笑う。
「好きに見ていきなさい」
……あれは何かを思いついた顔だった。
悪いことでなければ良いが。
「……キミ、店主さんと知り合いなの?」
「まあ、少し」
「ふーん」
少し気になるようだが、彼女は追及してこない。
ふらりと足を前に出して、璃音は物色を始めた。
どうでも良いが、何か買う予定はあるのだろうか。
……せっかくだし、何かプレゼントでもしよう。
──Select──
>ランプ。
オルゴール。
人形。
──────
「あ、それ買うの?」
「ああ。……ユキノさん」
「はいはい」
ゆっくり腰を上げ、包装の用意をするユキノさん。
腰が重そうだなと思ったら、軽く睨まれた。
あれは、それ以上考えたら分かっているわよね青年、という意味の視線だろう。表情だけで意志を明確に伝えきる伝達力、見習いたいところだ。
「終わったわよ」
てきぱきと紙に包んだユキノさんは、自分に手渡してきた。表示してあった御代を払い受け取った自分は、そのままランプを璃音へ。
「はい、これ」
「え」
「……」
「え、……え?」
「どうぞ」
「……あ、アリガト」
少し困惑させてしまったみたいだ。
もう唐突すぎただろうか。
「その、なんでコレを?」
「似合うと思ったから」
「──……ああもう、ほんとこういう所あるんだから……!」
最初はぽかんと口を開けていた彼女だったが徐々に威勢を取り戻し、小声でぶつぶつと呟いた後、キッと前を向いた。
「キミ! 次からこういういきなりのプレゼントはなし!」
「あ、ああ」
「けど、アリガト! すっごい嬉しい! それだけは言っておくから! ……先お店出るからね!」
小走りで出ていく璃音。その背中を見送る自分。とユキノさん。
「……青年も青春しているわね」
「茶化さないでください」
青春。
まあ確かに、今の日常は掛け替えのない青春のひと時に違いなかった。
……自分も後を追わなければ。
────>レンガ小路【通路】。
不意に、視線を感じた。
「どうしたの?」
「いや、今何か……」
誰かに見られているような気がする。だが、どこを向いても目が合う人は居ない。
気のせいだろうか。
いや、そういえばこの前璃音の家から帰ろうとした時も視線を感じたな。
……気にし過ぎか?
どちらにせよ、今は追うことができないだろう。
向けられていた目も逸れたらしい。
……嫌な予感はしないが、すっきりしないな。
次に視線を感じることがあれば、積極的に追ってみようか。
……今日一日で、また少し璃音と仲が良くなれた気がする。
そろそろ解散しよう。
──夜──
さて、今日はゲーム機の配線をもう少し頑張ってみよう。
……ネット周りの回線も伸ばした。テレビとは無事に繋げた。電源までのコードも伸びた。
よし、大丈夫みたいだな。案外簡単に進んで驚いた。まあ2日目ということもあるだろうが……とにかく起動しよう。
「……」
出て来たのは、初期設定画面。
まだまだ格闘する必要があるらしい。
その後夜まで1つ1つ設定を弄りながらセットアップを進めていった。
そして。
「できた……!」
取説に書いてあるようなメイン画面へと辿り着き、自分がやり遂げたのだと知る。
少しだけ、根気が上がったような気がした。
これでようやくゲームができる。が、少し疲れてしまった。
今日はもう寝るとしよう。
コミュ・恋愛“久我山 璃音”のレベルが5に上がった。
────
根気 +3。
────
ただイチャイチャしているだけの時間をコミュとは言いません。
さてさて、どの話が今後の伏線になるのでしょうか。
今回は1つだけ選択肢回収しておきますね。
──Select──
>眼鏡を推す。
カツラを推す。
男装を推す。
──────
本当に?
眼鏡をかけたところで、小手先の変化にしかならないのは、自分にも分かっているだろう。
──Select──
>それでも眼鏡を推す。
カツラを推す。
男装を推す。
──────
待て、冷静になろう、自分。
確かに眼鏡を掛けた璃音は魅力的だろう。見てみたい。人間誰しも美しい人の眼鏡姿は見てみたいものだと思う。いや、眼鏡を掛けたらだれでも美しくなるが。
だからそういうことではなくて。
──Select──
ここで眼鏡への愛を断つ。
>断固として眼鏡を推す。
──────
「璃音……」
「ど、どうしたの?」
「眼鏡を、掛けてくれないか」
ゆっくりと、似合いそうな赤い眼鏡を渡す。
璃音は困惑しながらも、眼鏡を受け取った。
受け取ったのだ!
「こ、こう……?」
眼鏡を掛けて、上目遣いで尋ねてくる彼女。
自分は、その姿に、天使を重ねた。
「璃音」
両肩を掴む。顔を至近距離に近づけ、その御姿を目に焼き付けていく。
「きゃ、ちょっ、近っ!」
「自分の前でだけは、その姿でいてくれないか?」
「う、ウン……って、ええ!?」
→眼鏡をはずすのは自分の前だけにしてくれ、はよく聞くけど、逆はあまり聞かないですねえ。某八葉の剣士も前者は言ってたような気がしますが、後者は言わなかったでしょうし。多分。