PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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7月25日──【駅前広場】倉敷さんの好み

 

 さて、放課後だ。

 今日は取り敢えず、何を差し置いても本を買いに行こう。

 夜に勉強以外をする余裕もでてきたし、何より習得したいことが多い。本を読めば、きっと足しにしていけるはずだ。

 

 

────>駅前広場【オリオン書房】。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 

 今日の目当ては、以前から買いたいと思っていた水泳の本と、最近よく作るようになった手芸の中級教本。

 それらを購入し本屋を出ようとしたところで、馴染みのある顔が見えた。

 

「あれ、岸波君?」

「倉敷さん」

 

 倉敷 栞。同学年だから当たり前かもしれないが、講習明けの制服姿だ。

 特徴的な赤いリボンを揺らす彼女は、いつも通り優し気な微笑みを浮かべている。

 

「こんにちは。どうしたの?」

 

 彼女の視線が、自分の手にあるビニール袋に向く。

 

「あ……お買い上げ、ありがとうございました!」

「どうも」

 

 ぺこりとお辞儀をした彼女に釣られて頭を下げた。

 

「倉敷さんは仕事?」

「うん、今日はお手伝いの日なの。少し早く来すぎちゃったけど」

「そうか」

 

 ……せっかくだし、彼女と話をしていこうか。

 

──Select──

 >共に過ごす。

  帰る。

──────

 

 

 勢いで、誘ってみようか。

 どうせ自分もこの後予定が入っている訳でもない。

 

「それなら倉敷さん、少し時間ある? 少し話さないか?」

「え? ……うん、別に良いよ」

 

 とはいえ、話す場所がない。駅前のベンチなどでも大丈夫だろうか。

 

「場所? 外は暑いし……スタッフ用の控室使って良いか聞いてくるね?」

「良いのか、自分は部外者だけど」

 

 尋ねている間に、彼女は店主である彼女の父親のもとへ進んでいった。

 その後、一言二言交わした彼女らは笑顔で別れて、父親は業務へ、娘はこちらに戻ってくる。

 

「大丈夫だって。お父さん、岸波君のこと覚えていたみたい」

 

 その言葉に、彼女の父親の方を向くと、目が合った。手を振ってくれる。

 お辞儀を返し、聴こえているか分からないが感謝の言葉を述べ、倉敷さんとともに控室へ向かうことにした。

 

 

────>オリオン書房【控室】。

 

 

「ごめんね、こんな狭いところで」

「いいや、全然。寧ろ有り難いくらいだ」

 

 炎天下のベンチより格段にマシなのは確か。本当に感謝しきれない。

 積まれた未開封の段ボールの前を横切り、奥にある休憩用の机に向かう。

 

 

「岸波君は本、好きなの? どういう本が好き?」

 

 

──Select──

  小説。

 >実用本。

  哲学書。

──────

 

 

 好き、と言われたら悩むところだが、今のところもっとも読んでいるのは教本などなので、実用書と答えるのが正しいはずだ。もちろん小説も好きだし、哲学にも興味はあるけれど。

 

「そうなんだ。私もレシピ集とかはよく読むかな」

「自分が最近買ったのは──」

 

 

 ここ2ヶ月で読んだ本をあげていく。

 ……そんなに多くなかった。

 

「そうなんだ。私も、難しい料理とか、家事に困った時は本を読むかも。ふふっ、同じだね」

「ああ、そうだな」

 

 実力の不足を本からの知識で補おうという姿勢は、確かに同じかもしれない。

 自分自身どうして本が好きかは覚えていないが、多分最初から本を用いた学習などは結構好きだった。

 興味のあるものを集中的に学べるからだろうか、特に苦を感じたこともない。

 

「でも、私が一番多く読むのは、小説かな」

「小説か」

 

 自分があまり手を出せていない分野だ。

 

 

──Select──

 >好みのジャンルを聞く。

  お勧めの本を聞く。

  小説の良さを聞く。

──────

 

 小説も、かなり好き嫌いが分かれると思う。そんななかでも数多くの作品に触れられるということは、何かが好きなのだろう。

 読みやすいジャンルとか理由があったら、知りたいものだ。

 

「うーん、好きなジャンル……推理小説とか、コメディが多い、かな?」

「何で?」

「あ、推理小説って言っても人が死んじゃうものはあまり好きじゃないかも。何かの理由を探す、といか、そういうのが好きかな。コメディもドタバタしているより、ゆったりとした中でクスクス笑えるのが好き。落ち着いて読めるから」

 

 “落ち着き”。それが彼女の読書に求めるものか。

 基本、読書など創作物に求めるものは、今の自分に足りていないもの。という説があるらしい。自分だったら知識がそれにあたる。

 なら、倉敷さんは。

 

「私生活が落ち着いていないのか?」

「え? ……あはは、そういうことじゃないけれど」

 

 苦笑いを浮かべる彼女。

 

「ただ「おーいシオリ! あ、岸波君も! 良ければ手伝ってくれ!」…………ごめん、そろそろ行かないと。岸波君は帰っても大丈夫だよ?」

「いいや、手伝わせてもらう」

「本当? ありがとう」

 

 倉敷さんのお父さんが店舗で応援要請の声を上げている。

 

 倉敷さんのことは少し分かってきたし、今日はこの辺りにしておこう。

 久し振りの本屋バイトだ。気合を入れなければ。

 

 

──夜── 

 

 

 今日購入した本の片割れ、“手芸中級編”を読む。

 

 前回はビーズを使ったお手軽アクセサリーを作るようなキットだったが、今回は少し難易度が上がり、縫物などを勉強する。とはいえ複数の部品を組み合わせて作るようなものではなく、糸や布だけで完成するようなものばかりだ。

 縫い方1つとっても色々なやり方があるし、全部覚えるのは至難の技だろう。

 まだかなりの量がある。一回で読み終わるのは難しそうだから、3回に分けることにした。3回目は主に体験キットを使った実践になるだろう。

 

 さて、そろそろ寝ようか。

 

 

 




 

 コミュ・審判“倉敷 栞”のレベルが2に上がった。


────


 知識  +2。
 魅力  +2。





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