PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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7月19日──【オアシス】倉敷さんとばったり

 

 

 木曜日。テスト休みの最終日は、バイトに注ぎ込むことにした。

 ゲームセンター。昨日小日向と遊んだ場所だ。

 なぜここを選んだかと言えば……まあ、昨日負けたから。負け続けたからだ。

 祐騎や洸とゲームをした時も思ったが、他人のプレイというのは勉強になる。一昨日までは協力プレイで、昨日は対人プレイでゲームに没頭し、1人でやるということに限界を覚えた。

 どれだけ相手の動きを研究しようと、自分の動きが理想に着いていかない。大事なのは、しっかり観察すること。その時その時の対応や目線の向きなどを研究し、自分にとってやりやすいやり方を探っていくことが重要になる。

 

 というわけで、バイトをしながらプレイヤーたちを見学しようというわけだ。

 

 

 

 

 

 バイトは6時間。そのうちの3時間は大したことのない。観察を行いつつ仕事を進めてきた。その後30分の休憩を取り、戻った後の勤務。

 そこで、数人のグループが同じ服を着て入店してきたのを見た。

 

「岸波くん、気を付けて」

「なににですか?」

「あの人たち。今噂になってる不良グループだよ」

 

 不良……? そういえば以前にも噂を聞いたことがあった。蓬莱町で有名になっているのだろうか。

 専用の衣装があるなんてカッコいいな。自分たちの同好会も、何かユニフォームみたいなのを作った方が気が引き締まるだろうか。

 

「……おい、何ガン飛ばしてんだテメエ」

 

 黒い生地に炎のマークが刻印されたパーカーを着る彼らのうちの1人が、こちらに来る。

 その彼につられるように、1人、また1人と近づいてきた。

 

「こんにちは」

「ンだコラ」

「良い服ですね」

「────」

 

 なんだと聞かれたので、素直に見ていた理由を答える。

 

「なんだなんだガキ、テメエ俺らのウェアに興味があんのか?」

「格好いいと思います。色合いも良いし」

「話が分かんじゃねェか! テメエ、ちょっと付き合えや!」

 

 リーダー格の男性に連れていかれそうになる。

 バイト中なので、社員の方に少しだけ職務を離れて良いか聞こうとしたが、目を合わせた瞬間にうんうんと強く頷かれた。

 ……凄い勢いで頷き続けている。

 

 

 

 

「ギャハハハハ! コイツ弱え!」

「イメージ通りの地味さだな!」

「ザ、平凡って感じ。オレらと遊ぶには早すぎだぜ!」

 

 自分と相手のプレイを見ていた彼らが、失礼な盛り上がり方をしていた。

 だが自分が弱いのに変わりはない。故に特に反論できることもなく、取り敢えず黙っていることに。

 

「……飽きた、行くぞ」

「おい戌井さん、俺らまだやってねえんだけどよ」

「行くっつったろ」

 

 地団駄を踏もうとした青年の胸倉を、戌井と呼ばれた男が掴み上げる。

 間近で睨み付けられた男性は、冷や汗をかきながら静かに頷く。

 

 ぞろぞろと筐体の前から去る男性たち。

 彼らはそのままゲームセンターを後にした。

 

「はぁ、行ったか」

「チーフ」

「大丈夫? 殴られなかった?」

「殴るような人には見えなかったですけど」

「いや、でも不良だよ?」

「不良にだって良い人悪い人いますよ」

 

 多分だけど。

 それにしても、相手を飽きさせてしまうなんて、まだまだだな。もっと他人のプレイを観察しなくては。

 

 

 

 

 その後は特に何の問題もなくバイトを終えた。

 

 

 

──夜──

 

 

────>【マイルーム】。

 

 

 本当なら読書をしようかと思ったが、手持ちに未読の本がない。

 ……買いに行くか。

 

 

────>駅前広場【オリオン書房】。

 

 

「……あれ、たしか岸波君……だよね?」

 

 

 本を選んでいるところに、声を掛けられた。

 聞き覚えのある、透き通るような声。

 振り返ると、やはり見たことのある女子が立エプロン姿でっていた。

 

「倉敷さん」

 

 倉敷 栞。洸の幼馴染。柊曰く通い妻。

 まあ多方面から悪い話を聞かない同級生。そんな彼女が、後ろに立っていた。

 

「わっ、わたしの名前憶えててくれたんだ」

「洸たちの話によく出てくるから」

「ふふっ、コーちゃんがお世話になってます」

「こちらこそ、洸がお世話になってます」

 

 お互いに深々とお辞儀をする。

 くすっと、笑い声が聴こえてきた。

 

「同じ学校にいるけど、あまり話す機会無いよね」

「ああ。すれ違うことは何回かあったけれど、こうして話すのはあの壱七珈琲店以来か?」

「そうかも。なんか不思議だね」

 

 確かに不思議だ。知らない仲でもないが、ろくに話した記憶がない。挨拶くらいはしているとおもうのだが……まあ、一瞬一瞬の挨拶を覚えていられるほど記憶力が良いわけではない。そんなものだろう。

 

「ねえ、岸波君、1つ聞いて良いかな?」

「洸のことか?」

「わ。なんで分かったの?」

 

 だって、倉敷さんがわざわざ畏まって聞いて来るなんて、よほど彼女にとって重要な事なのだろうから。

 そんな中で、わざわざ付き合いの浅い自分に相談するとなれば、テーマも限られてくる。

 

 ……答えられるものなら良いが。

 

 異界に関わることの説明は流石にできない。いくら幼馴染だとしても、巻き込むべきでないことはあるのだから。

 少しだけ、倉敷さんの質問に構える。

 数秒、時が流れた。

 

「……ううん、やっぱりなんでもない」

「いいのか?」

「うん、聞くべきじゃないと思ったから」

「そうか」

 

 

 よく分からないが、彼女の譲れない一線に触れたのかもしれない。

 ……少しだけ、彼女の奥底を覗けた気がする。

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“審判” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

──── 

 

 

「じゃあね、岸波君」

「ああ、また」

 

 去って行く彼女の背を見送る。

 ……なんとなく、洸に一言言ってやりたい気持ちになった。

 

 

 

 

 “水泳・入門編”、“中級手芸キット”を購入し、家に帰った。

 

 

 

 

 




 

 コミュ・審判“倉敷 栞”のレベルが上がった。
 審判のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。


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