PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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インターバル 4
7月17日──【マイルーム】祐騎と洸とゲーム明け


 

 

 

 

 夢を見た。

 責任に悩む青年の夢だ。

 

 

 

 願い無き身で奪った3つの命。弱く非才な身体でそれを背負う夢の中の彼は、唐突に見せつけられた“まだ手の届く命”を見捨てることができなかった。

 何よりその対象は、縁もゆかりもない相手ではない。夢で複数回見掛けた、時たま力を貸してくれる少女──いや、少女たちなのだ。

 恩人2人の戦い。しかしこのままいけば、共倒れにも成り兼ねない状況。もはや選択に一刻の猶予もなく。

 恩を返すのとは違うのかもしれないが、それでも少女を救おうと岸波白野は手を伸ばす。

 

 そして、それは成功した。

 

 完全に成功したのかは分からないが、生きたまま戦場を出た2人。

 意識を失った姿を少しだけ満足そうに見てから、岸波白野は彼女のもとを去る。

 

 次の日、助けた彼女に会いに行って、気付く。

 岸波白野は、人1人を救ったわけではない。

 恩人の夢を強引に諦めさせただけなのだと。

 

 助けたかった。助けたはずだった。それでもその救いは、彼女の求めたものではなかった。

 岸波白野は思い悩む。これが本当に正しい選択だったのかを。

 狐耳の美女はフォローするかのように明るく話しかける。

 貴方の優しさに意味はあったと。

 貴方の行動に勇気があったと。

 その上で彼女は、目前に迫った戦いへと意思を向けるよう誘導した。助けた側と助けられた側、両方に時間が必要なことを理解して。

 

 

 ダンジョンの中で嫌な気配と出会い、接した次なる敵。それに付随する謎の多く。それと向き合わなければ、彼にこれ以上の生存はない。

 それが分かっているからこそ、助けられた彼女は不器用ながらも岸波白野の背中を押した。──押したというよりは押し出したと表現するのが正しいかもしれないが──とにかく、終わった自分に関わるな、と前を向かせてもらい、彼は再度戦いへ赴く。

 

 かくして、岸波白野の戦いは再開する。未だ終わりの見えないデスゲームを生き残るために、誇れるナニかを見つけるために、彼の歩みは、止まらない。

 

 

────

 

 

 暫くぶりの夢を見た。

 連続する夢。悪夢のような、そうでもないような、誰かの記憶。

 

「……記憶、か」

 

 実際に言葉にしてみて、首を傾げる。

 こんなことが現実に起こり得るのだろうか、と。

 異界を通じて非現実と呼ばれる事象にも耐性が付き始めている自分だが、それでも夢の内容はその比ではない。あんな殺人ゲーム、どこを探してもないだろう。

 それに、あれを記憶というなら、その記憶は誰のものなのか。

 仮に岸波白野の記憶なのだとしたら、自分の見る光景に、夢の中の自分は映らないはずなのだから。

 やはり記憶という線は薄いだろう。

 

 そうして思考をしていると、隣で何かがゆったりと動いた。

 

「んあ……いま何時……?」

「8時」

「なぁんだまだ朝じゃん」

 

 聴こえてきた声に、思考を止める。

 発生源を見ると、もぞもぞとカーペットの上で動く祐騎の姿があった。

 まだ朝って……ならいつ起きるのだろうか。

 

「……てか、ハクノセンパイ、起きんの早……」

「ああ、目が覚めたから。おはよう祐騎」

「おはよー……じゃあオヤスミ……」

 

 二度寝の態勢に移行した祐騎。流石に止めるつもりはない。

 自分たちは、あの打ち上げから3日間、本当にずっとゲームをしていたのだから。

 

 祐騎の身体が完全に横たわったのと同時、その奥でもう1つの影が動き出す。祐騎よりも素早い気象だ。

 

「……っ、今何時だ?」

「8時」

「もう朝か、早いな」

 

 

 大きく伸びをして起きる洸。

 その声に、しかめっ面をした祐騎も二度寝を諦めた。

 ……ああいや、まだ眠そうだ。もう少ししたら今度こそ2度寝しそうである。

 

 まあ、学校はないので、安心して寝ていて良いのだが。

 杜宮高校はテスト休みに突入した。次の登校日は20日の金曜日。その後は晴れて、夏休みである。ゆえにこうして、3日連続徹夜ゲームなどという強行に出れたのだが。

 

 ……まあ、大変だったな。

 

 主に祐騎がストレスと戦い続けた3日間であったが、その間に、色々な話をした。

 

 日常のこと、異界のこと。

 友達のこと、仲間のこと。

 過去のこと、未来のこと。

 

 恐らく、すべてが頭に入っているなら、自分の次に岸波白野に詳しいのはこの2人だと断言できるほどに色々な話をしたし、それは相手からしても同じ、色々な話を聞いた。

 問題があるとすれば、寝不足で頭がろくに働いてなかったことくらいか。

 

 

「しっかし終わってみればあっという間の3日間だったな」

「いや洸、昨日『なんだよこれいつまでつづけんだよこれ』って死んだ目で呟き続けてたじゃないか」

「そんな前のことは忘れた」

「あっという間の間にあったことなのにか」

「ああ」

 

 力技。かなり雑な対応だ。まだ眠いのかもしれない。

 

「だいたい昨日までも言ってたけど、センパイたち動き悪すぎ……もっとしっかりしてよね」

「「面目ない」」

 

 おそらく祐騎が居なければ倍以上の時間が掛かっていただろう。

 それほどまでに彼は頑張っていた。

 頑張っていたのだが。

 

「てかユウキ、動きは良いけど指示出すの遅いって」

「はあ? 本来そんな場所でわざわざ指示なんて出さないっての。流れである程度理解できるでしょ」

「いや、自分たち初心者なんだが」

「流れを身に付けさせるのも指揮官の能力じゃねえの? 異界攻略のときの白野とか見習ったらどうだよ」

「あんな個性強いメンバー纏めるなんて無理に決まってんじゃん……」

 

 ひどい言い様だ。

 言い返せないが。

 自分だって洸だって、普通でない自覚はある。璃音も柊も空も、勿論祐騎だって、全然普通じゃない。

 ああ、自分は普通じゃない。個性が強いメンバーの一員! 脱弱個性、このTシャツのおかげだろうか。

 

 

「仕方ないで諦めてるようじゃ……次からゲーム内の指揮も白野に任せるか」

「うぐ……仕方ないだろ! 協力プレイなんて初めてだったんだから! 今までPvPばっかやってたし!」

「ん、ぴーぶいぴー? DVDの進化型か?」

「プレイヤー バーサス プレイヤーの略称、だったと思うぞ。前にジュンがそんな話をしてた」

「そうだよ! そんなことも知らないの!?」

「知らない」

 

 ただでさえゲーム界隈には明るくないのだ。最初はコントローラーの握り方で四苦八苦だったし。

 それにしても、祐騎がイライラしていたのは、足を引っ張られ過ぎていたからじゃないのかもしれない。慣れない環境に対応するので精一杯だった、というのもあったのだろう。

 その辺り、ゲーム中に話していた昔話も関係していそうだ。

 彼は誰かと競ったりすることはあっても、誰かを尊重することはしてこなかった。自分1人が楽だと考え、群れを成さないことを最適解と考えてきた祐騎は、問題解決に他人の力を借りることなんてしてこなかったのだろう。

 

 でも、こうして一緒にゲームをしようと言い出したのも、その祐騎自身だ。

 変わろうと、しているのだろうか。

 

 少しだけ祐騎のことを分かってきた気がする。

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“運命” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

──── 

 

 

 

 

 

 

 だがまあ洸の言うとおりかもしれない。楽しい記憶の方が多く、思い返せばあっという間の数日間だった。確かに苦労もあったが、その分得られた達成感は強い。

 それに祐騎の持ってきたものだけあって、ゲームの内容も感動的で、面白かった。

 だからまあ、やっぱり、こういう日がたまにあっても良いだろう。

 

「ユウキ、また誘えよ?」

「ああ、いつでも一緒にやろう」

「……フン、勝手にすれば」

 

 そう言ってそっぽを向く彼の頬は、少しだけ朱くなっていた。

 

 

 ──結局その日は夕方まで感想を話し合ったり、ご飯を食べたり、軽く運動をしたりして、夜はぐっすり寝ることとなった。

 

 

 

 




 

 コミュ・運命“四宮 祐騎”のレベルが上がった。
 運命のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。


────


 根気 +4。


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