PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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7月14日──【マイルーム】それは、きっと……

 

 

「あ、ハクノセンパイ、そこのレバー引いて」

「こうか」

「コウセンパイはそこで足場を作って……ちょっと早く早く!」

「分かってる、よ!」

「危ない危ない危ない! めっちゃ追われてるんだけど!?」

「はやく来るんだ、祐騎」

「ちょっ、殿務めてあげてんの僕なんだけど!?」

「おう、頑張れユウキ」

「ああもう使えないセンパイ達だなあ!」

 

 

 洸と祐騎と3人でゲームを開始してから、約4時間が経とうとしていた。

 

 そもそもなぜ3人でゲームをしているかと言えば……何でだったか。

 いや、本当に何で?

 

 

「なあ2人とも、何で今自分たち、ゲームしてたんだっけ」

「何でって……ユウキが持ってきたからだろ?」

「いやそもそも、時間が余ってるから何か暇つぶしのものないかって言ったのハクノセンパイじゃん」

「暇つぶし……あ、そういえば」

 

 本来今日行うはずだった打ち上げだが、部活で重要な話し合いがある空を置いて始めるのも何だったので、18時集合にしたのだ。

 学校は期末考査最終日で、午前には終了。お昼前には下校が可能となり、今日は何をしようかと思っているところに連絡があった。

 

『ねえハクノセンパイ、集合18時にハクノセンパイの家だよね。先入って良い?』

『良いけど、暇なのか?』

『まあね。なんか時間の潰せるものある?』

『いや、逆に何か暇つぶしになるもの持っていないか?』

『暇つぶし、ね……オッケー。あ、コウセンパイも呼んでおいてよ。せっかくだし』

『? 分かった』

 

 そうして下校中だった彼を呼び止め、自分の部屋へ。

 待つこと数分、祐騎がゲーム機を持って来て、3人協力プレイのゲームをすることとなった。

 

 ちなみに女性陣は買い物してから来てくれるらしい。

 

「……それにしても」

「「ん?」」

「このゲーム、終わる気配がないんだが、どうする?」

「……はあ、何言ってんのさハクノセンパイ、“明日から学校無いんだよ”?」

「徹夜する気かお前!?」

「徹夜どころか、3日くらい掛ける前提でいかないと。センパイたち、何か予定あんの?」

「「ないけど……」」

 

 ないのか洸。

 彼も自分に対して、そっちは用ないのかみたいな目を向けてくる。

 

「……しゃあねえ、やるか。たまにはゲームでこうバカやるのも悪くないだろ。夏だしな」

「夏関係あるのか、それ……まあ自分も構わない」

「んじゃ決定。クリアするまで帰れると思わないでね。せいぜい足を引っ張らないでよ?」

「はっ、上等」「望むところだ」

 

 というわけで一旦中断。

 電源は付けたままに、軽い片づけをして、女性陣を出迎える準備をする。

 

 やがてインターフォンの音が鳴り、来客の存在と打ち上げの開始を知らせてくれた。

 

 

────

 

 

「うん、こんなトコじゃない?」

「ああ、そうだな。全員集まってくれ」

 

 全員が集合してから、柊と空は勉強を、自分と璃音が打ち上げの準備を、洸と祐騎がゲームの続きを、と引き続き別々に行動していたが、準備が完了したのでテーブル周りに集合を掛ける。

 最初に柊と空が道具を片づけ、その場に座り直す。

 次に洸と祐騎が一段落付け、中断ボタンを押してこちらへやってきた。

 全員がジュースの入ったコップを持ち、乾杯の準備をする。

 

「……岸波君?」

「いや、葵さんが……」

 

 キッチンで準備をしてくれていた女性──葵さんがまだ戻っていない。

 

「岸波君、呼んだ?」

「今回の集まりは葵さんの退院祝いでもあるので、ぜひ」

「え、いえそんな、お邪魔だろうし」

「そんな! 休んでて欲しいのに準備を手伝ってもらいましたし、ここから先は私たちでそれぞれやりますから!」

 

 祐騎の姉、四宮 葵さんが退院して2日。

 今日は、一学期終了兼葵さんの退院兼異界攻略完了の打ち上げだ。

 最初は本当に招待客として葵さんを呼んだのだが、女性陣が迎えに行く際、軽い料理をするための材料を入れた買い物袋を見られ、打ち上げ開始までの間ずっと手伝ってくれていた。

 おっとりした外見と話し口調の葵さんだが、印象に反して手際に無駄が少なく、手先が器用。

 想定していた時間よりも余程早く打ち上げを開始することができた。

 

「なに遠慮してんのさ、姉さん」

「ユウ君……」

「祝いたいって物好きが集まってるんだ、素直に祝われておきなよ」

「……そうよね。ありがとう、ユウ君」

「べつに」

 

 こうして姉弟が会話できるのも、自分たちが勝ち得た光景だと思うと、感慨深い。

 

「なに笑ってんの、ハクノセンパイ」

「別に」

「柊センパイと郁島も、なににやにやしてんのさ」

「「別に?」」

「……変な人たち」

 

 なんだ、同じ気持ちだったのだろうか。柊と空だけでなく、洸も璃音も口角を上げている。

 守れて嬉しくないわけがない。プロの柊だって、新人の空だって、そこは変わらないだろう。

 ましてや、こうしてしっかりと守った日常が感じられるというのはいいことだ。

 自分たち、そして祐騎や葵さんなど、多くの人の尽力で守れた温かみ。誰一人諦めなかったからこそ到達できた場所。それらを感じて漸く“自分たちのしたことは、取り合えず間違いではなかった”と認識できるから。

 4月中旬に美月が言っていた、意見の押し付けという言葉。それをお節介と、あるいは傲慢なことだと知りながらも、相沢さん、空、そして祐騎のお父さんに繰り返してきた。

 押し付けて、ごり押して、相手の意見を変えさせる。正しいことかどうかは笑顔の増減による判別がもっとも測りやすい。

 だからこれから先も、自分……いや、自分たちで祐樹と葵さんの笑顔を守っていこう。

 

 葵さんが祐騎の隣に腰かけ、コップを持つ。

 これで全員に飲み物が行き渡った。

 

「それじゃあ私から一言」

 

 乾杯の前に、柊さんが口を開く。

 

「みんなにとっては怒涛の一学期だったと思うわ。本当にお疲れ様。色々個人に言いたいことはあるけれど、それは後半までとっておくとして、今はみんなの無事を祝い、健闘を讃えましょう」

 

 なんかお小言を頂くのか、と洸や祐樹が嫌そうな顔をした。

 その変化を見逃す柊ではない。しっかりと彼らに向かって笑顔で威圧した後に、グラスを上げる。

 

「それでは──乾杯」

「「「「「「乾杯!!」」」」」」

 

 

────

 

 

「あれ、なんか元気ない?」

 

 璃音が自分の顔を覗き込んでくる。

 打ち上げもかなりの時間が経ち、用意した食材も大半が尽きた。

 それぞれが思い思いの相手と話し、時に全員で笑い合ったりして、あっという間に時が過ぎていく。

 なんて楽しい時間なんだろう、と思った。

 

 元気がないわけではない。

 不意に、異界攻略のことを思い出しただけだ。

 それが疑問になって、頭から離れないだけだった。

 

「愛ってさ、なんなんだろうなって」

「冷静な顔して何言い出してんの!?」

 

 祐騎の元気なツッコミは受け流させてもらうとして。

 もしかして、と柊が口を挟む。

 

「……異界攻略の時のことね?」

「ああ、愛って、一緒に居て楽しい相手との間にあるものだと思ったんだ」

「まあ、一緒にいてつまらない相手との間に愛があるか、と言われたら確かに首を捻るけど……」

「でも、祐樹と葵さんの父親が言うには、愛は楽しいものだけを生み出すのではないと言う」

 

 一瞬理解できたような気はしたが、理解できたのは言葉の上での複雑さのみ。肝心なところは点で分かっていない。

 

「だから、みんなが考える愛を、教えてくれ」

「「いきなり随分な無茶振りだな!?」」

 

 今度は洸と祐騎が同時に突っ込んできた。

 それも流させてもらうとして。

 

 各々が少し、考える。一番最初に口を開いたのは、璃音。

 

「あたしが考える愛は、無償であることかな。相手に何かをしてもらいたいわけでなく、何かしたいという気持ちが湧いて来る。ただ一緒にいるだけで幸せ。そんな間柄にこそ、愛があるんじゃないかなって」

 

 “無償であること”。

 そういえば異界の攻略完了前日、璃音は『子どもの成長を願わない親なんて居ない。子の幸せを願わない親なんて親じゃない』ということを話していた。

 そこには無条件の愛が関わっている。親と子との間には明確な絆が合って、想いがある。相手に幸せになって欲しいという欲求が必ず親子関係には含まれている、という彼女の持論。

 間違っては、ないと思う。

 

「オレもそう思うぜ。なんか一緒にいるだけで幸せっつうか、楽なんだよな。家にいる時が喜楽なのは、きっとそういう理由なんじゃねえか」

「あ……そういうことなら、私も分かる気がします! 家でも学校でも、そういう繋がりが居場所となるんですよね。友情や愛情、親子愛とかも、そういう場所で形成されるんじゃないかなって」

 

 段々語るたびに顔を赤くしていく空。

 歳下に愛を語らせる、というのは絵的にどうかと思うが、続行で。

 

「残りのみんなは?」

「私の考える愛、は……尊いもの、かしら」

「尊いって?」

「本当なら裏切りを一切疑わない、十全の信頼を向けられる稀有な存在に対する感情。私は神様の類に良い思いを抱いてないけれど、唯一、この身に暖かな血を流してくれたことだけは、感謝しているわ」

「……」

 

 話が難しかった。

 

「分かる気がする」

「葵さんも、ですか?」

「神様が親子姉弟って決めてくれたおかげで、お父さんともユウ君とも仲良くいられる。神様がくれた奇跡のことを尊いって言うなら、愛ってとても尊いものよね」

「私はそこまで言ってませんが。もし将来そういった出会いの機会があるなら、神様が出会わせてくれるのではなく、自分で出会う運命を切り開いたと思いたいですね」

「なに、柊センパイも無神論者?」

「いいえ、“神はいるわよ”。いないのは“人間にとって都合のいい神様”と“人間に優しい神様”」

「何が違うんだ?」

「前者は神頼みとかをすると受けてくれる神様。個人の言葉を聞く神なんてそうそういないし、聞いたとしてもロクな神様じゃない。後者は単純に人間が好きでも、人間に優しく手を差し伸べようという神様が居ないというだけ」

「すっごい流暢に話すな」

「神様に恨みでもあんのかね」

「……貴方たち、言いたいことがあるならはっきり言いなさい」

「話が逸れてるぞ」

「……コホン、まあそういうことよ」

 

 いやどういうことだよ。

 尊いもの、という感想は理解できた。

 あと、柊が全体的に神様を嫌っていることも把握できた。

 

 さて、あと発表してないのは、祐騎か。

 

「祐騎は何かあるか?」

「僕は……その両方。無償で、かつ尊いもの、だと思う」

「……どうして?」

「今回の件で、思ったんだ。父さんはともかくとして、姉さんはずっと僕を心配してくれていた。僕は姉さんに何もしてないのに、頼んでもいないのに、姉さんはずっと僕の味方だったんだ。無償でここまでやってくれんだよ、これを尊くないなんて言える訳ないじゃん」

「ユ、ユウ君……?」

 

 驚いたように目を丸くする、葵さん。

 自分たちも驚いている。

 ペルソナとソウルデヴァイスを手に入れた際、姉を──大事な家族を守りたいと叫んだ彼の決意。恐らく彼が話しているのは、その時に自覚した未練により伝えておきたくなった感謝の言葉、なのではないだろうか。

 

「だからありがとう、姉さん。本当に、本当にありがとう。今までずっと一緒に居てくれて。ずっと味方してくれて。ずっと心配してくれて。……いきなりもう大丈夫、ってわけじゃないけど、僕も少し、やりたいことを見つけたよ」

「やりたい、ことって……?」

 

 葵さんは、泣いている。

 涙を耐えようともせずに泣いたまま、弟を正面からしっかりと見据えていた。

 化粧が落ちようが何しようが関係なく、彼の想いを、弟の巣立ちを聞き届けようと。

 大人の女性ではなくただの四宮祐騎の姉として、彼女は背筋を伸ばしている。

 

「この人たちと一緒にいたい。借りを返したいのもそうだけど、この人たちを通して社会に触れて、僕の知らない所を、僕が切り捨ててきたものを知りたいんだ」

「知って、どうするの?」

「将来の足掛かり。せいぜいしっかり見据えて、考えて、父さんが“息子の選択が正しかった”と納得するほどのものを持って帰ってくる」

 

 はっきりと断言する祐騎。

 力強い目だ。覚悟を決めているのだろう。

 

「こんなにも真っすぐで、信じられる人に出会ったのなんて、初めてなんだ。外に触れるなら、この人たちと一緒の方が気が楽だしね。それに、世の中には僕より少しだけ先を行っている人がたくさん居て、そのうちの数人がうちの学校にいる、なんて言われたら、行くしかないじゃん。……ウソじゃないよね、コウセンパイ?」

「ああ、決して期待外れとは思わせねえよ。つっても相手はオレじゃねえがな」

「コウセンパイも良い線いってると思うよ?」

「すげえ上から来たなオイ」

 

 少しだけ、真面目な空気が四散する。

 笑いが一部から起こり、完全に空気が変わった。

 

「ねえハクノセンパイと柊センパイ、これからも一緒に戦って良いよね?」

「ああ、ぜひ頼む」

「……岸波君がそれで良いなら良いわ」

 

 素人が増えることに頭を抱える柊だが、人が増えるのは少しだけ嬉しそうだった。

 

 

「ユウ君」

「姉さん……」

「約束」

 

 葵さんは小指を立てて、祐騎へと差し出す。

 

「必ず、無事でいて。ちゃんと小まめに連絡すること」

「……いいの?」

「毎日連絡してくれても良いんだよ?」

「し、しないってばっ!」

 

 まったく。と呟きながらも祐騎は、姉の小指に自身のを絡ませ、誓いを立てる。

 

「……皆さん、弟のこと、よろしくお願いします」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

「あ、ユウ君。近いうちにお父さん呼ぶから」

「え!?」

「次喧嘩したら一緒に住むって約束、忘れてないよね?」

「………………」

 

 

 あ、祐騎の目が死んだ。

 

 

「姉さん、そういう約束は書面に起こさないと。僕は覚えてないけど、そういう訳だから、その約束は無効ってことで」

「そんな……!? 酷いわユウ君。所詮お姉ちゃんとの約束なんてそんなものなのね」

「ちょ……違っ」

 

「へー四宮クンさいてー」

「男の風上にも置けないわね」

「え、あ……その、残念です」

 

「ぐっ……ああ、分かったよ 守ってあげるよ約束ぜんぶ! 最初からそのつもりだっての!」

 

 女性4人からの責め立て。まさに四面楚歌の状態に参り、自棄になって叫ぶ祐騎。

 璃音がボイスレコーダーを身体の後ろで作動させていたことを、彼はまだ知らない。

 地味にハッキングで身体データを知られていないかの不安が残っていた彼女が、交渉カードを手に入れた。

 

 

 

 賑やかな状態のまま打ち上げは終わり、しかし祐騎の災難はもう少し続くらしい。

 さしあたっての困難は、3日ぶっ通しでやると決めたゲームが彼の思う通りに進まず、かなりのストレスを溜めること……だろうか。

 

 

 

 

 

 

 




 

 コミュ・愚者“諦めを跳ね退けし者たち”のレベルが5に上がった。


────

 ご報告。

 この第4話を持ちまして、PXe第一部はこれにて終了です。
 ここから夏休み・二学期編となる第二部が開始しますが、色々な変化が出たりします。作用してなかったタグも動き始めます(予定)。なぜここが第一部の切れ目なのかなど、全体を読み返した時に分かってもらえることといいなぁって思います。
 



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