PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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7月9~11日──【教室】試験前スパート再び

 

 

 

 月曜日。約束の日だ。

 テスト勉強のため、帰宅の片付けを早々に終わらせ、帰路に着く。

 今日の参加メンバーは、柊と空。会場は【壱七珈琲店】。柊のバイト先でかつ下宿先。まあ、下宿先とはいえ彼女が生活している部屋ではなく、店の奥にあるテーブルを貸してもらえるそうだが。その代わり、勉強会中の飲み物や間食はここで注文することになっている。

 これは柊が自身から言い出したことらしい。店主のヤマオカさんは、気にせず自由に場所を使って構わないと言ってくれたらしいが、1席が長時間埋まるということは売上にも影響してくる。その補填というわけではないが、少しでも恩返し、といった意味での提案だ。

 自分も空も、喜んでと賛成しているから、何も問題ない。

 

 

────>カフェ【壱七珈琲店】。

 

 

「あら、私が最後かしら」

 

 自分が到着した時には空が既に席に着いていて、自分から遅れること数分、柊がやって来た。

 

「自分は今来たばかりだ。空は少し待たせてしまったみたいだけど」

「そ、そんな。わたしも今来たばかりです!」

「……それでも最後に来たのは私よ。ごめんなさい」

 

 話はこれでおしまい。と彼女も席に着く。

 長い髪を座板の後ろに持っていくため、後ろ髪をかき上げた。

 

「アスカ先輩、髪綺麗ですね! 量があるのに、ふわっとしていて!」

「そ、そう?」

「ええ、岸波先輩もそう思いませんか?」

「確かに。CMとかにも出れそうだな」

 

 最近テレビを見始めたのもあって、そういったコマーシャルをよく見るが、正直引けを取らない気がする。実際に見るのとテレビで見るのはまた別なのだろうが。

 

「……ほら、冗談を言っていないで、早く始めましょう」

 

 今度こそ彼女は話を終わらせて、教科書、問題集、それとノートを広げた。

 だが、彼女の頬がほんの少しだけ朱く染まっているのを見て、自分と空は顔を見合わせ、声を出さずに笑った。

 

 

────

 

 

 1時間半ほどで、休憩を取ることにした自分たちは、少し雑談をしていた。

 

「柊先輩はどうしてアメリカに留学を?」

「私は両親が亡くなった後、引き取り先に着いていく形でステイツに渡ったわ」

「えっ……すみません、知らなくて」

「気にしなくて良いわ」

 

 そうだったのか。自主的ではないと思っていたが。

 それでは、アメリカでペルソナ使いになったということか?

 ……聞いてみたいが、周りに人が居る状況では聞きづらい。

 

「き、岸波先輩はどうして杜宮に転校を?」

「自分も身寄りのない所を引き取ってもらったからかな」

「あわわわ……」

「私より岸波君の環境の方が過酷よね。身寄りもなく、記憶もなく、それでいて選択を迫られてここにいるのだから」

「選ばせてもらえたことは、幸運だったと思っている。柊の方が大変だったんじゃないか? いきなりアメリカに行っても分からない事だらけだろう」

「例えいつどこへ行っても分からないことだらけよ。人間は皆すべてを知って生まれるわけじゃないもの。その点、記憶を失ってここに来た岸波君とスタートは同じだわ」

「言語の通じる通じないは大きな差だと思うが」

「伝わる伝わらないは言葉だけでないのよ。言語習得なんて後からでもできるもの」

 

 どうやらお互いに自身より相手の苦労を想っている状況らしい。

 自分たちだけで話し合っていても埒が明かないな。

 

「「……どちらが大変だと思う?」」

「え、あ、あの、余計なこと言っちゃってすみませんでしたっ!」

 

 空に聞いたらすごい勢いで頭を下げてきた。

 なんで謝られているのか分からないかったが、そもそも彼女が帰国や転校の理由を聞いたことが始まりだったことを思い出す。

 

「……私たちは何とも思っていないけれど、他人からしてみたら地雷にしか聞こえないわね」

「確かに」

 

 そして上手く踏み抜いていったなぁ、と感心した。

 

「ほら、そろそろ勉強再会するわよ」

「ああ」

「は、はい……! 後半もよろしくお願いしますね」

 

 

 ……勉強に集中しよう。

 

 

 

 

 

 そのまま夜まで勉強して、解散した。

 

 

──7月10日(火) 放課後──

 

 

 明日が試験、本番だ。

 最後の追い詰めをしたい。

 今日は図書室で勉強するとしよう。

 

 

──夜──

 

 

 この時間はどうしようか。

 今更新しいことを覚えるくらいなら、復習をしたいが。一回勉強から離れるのもアリだと思う。

 かと言って読書する本はないし。

 ……そうだな、早めに寝ようか。

 

 

 ……洸と小日向と一緒にゲーセンで遊ぶ夢を見た。

 小日向がとても強く、洸と2人協力して倒そうとするも、上手くいかず返り討ちに。

 だが、全員笑顔だ。

 楽しい夢だった。

 

 

 

 

 

──7月11日(水) 朝──

 

 

 さて、今日はテスト当日だ。気合を入れなければ。

 と意気込んでいると、早朝からインターフォンが鳴った。

 しかも外からではなく、建物内からの呼び出し。外門ではなく玄関前のインターフォンが鳴っている。

 ……誰だろう、美月か?

 そう思って覗き穴を見ると、予想とは違う色の頭部が見えた。この髪は……

 

「祐騎?」

「遅いよセンパイ」

「いや、祐騎が朝早いんだと思うが」

「良いから支度して早く来て!」

 

 ……?

 なんの話だろう。約束とかあったっけか。

 

「なにぼーっと突っ立ってんのさ!」

「いや、何が何だか分からなくて」

「あ~もう! だから! “姉さんが目を覚ましたんだ”ってばっ!」

「ッ!!」

 

 

 

 




 

 知識  +7。
 根気  +1。


────


 ちなみにこの後病院に行き、顔を見せて話した後、ふと試験前ということに気付き、ユウキを引き摺って全力で走る白野の姿があったとかなかったとか。


 次回、4章エピローグ。
 テストはカットです。4日ほど飛びます。



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