『よう。勉強会の件だが、オレは金曜なら空いてるぜ』
早朝、サイフォンの点滅に気が付き確認すると、グループメッセージで洸から日程の報告が届いていた。
金曜なら、ということは、一緒に提案した月曜の方は無理らしい。
『私は月曜日ね。金曜日は少し出かける用事があるの』
『あたしは金曜日だけかも』
「柊だけ別日か……」
自分はどちらも行ける。よって金曜日は洸と璃音、月曜日は柊との勉強会となる。主に月曜日が柊の負担になりそうで怖いな。
……っと。昨日の連絡はここまでか。空からの返事は来ていないな。確認してみるか。
『空はどうだ? 金曜か月曜、片方だけでも空いてるか?』
『え、わたしもですか?』
数分置いて返信が来る。
わたしもですか、とはどういう意味だろうか。
『無理にとは言わないが、来ないのか?』
『いえ、その、わたしは皆さんと違って1年ですし、教わるばかりになってしまうので……』
どうやら遠慮してくれていたらしい。
確かに学年が上の自分たちと勉強するのは、一方的に教わるのと同意義。真面目な彼女にとっては気が引けるのだろう。
このままだと自分も柊に教わってばかりの勉強会になりそうだから、気持ちは分かる。前回はたまたま役に立てたみたいだが、今回もしっかり事前勉強しなければ。
『そのことなら気にする必要はないわ。郁島さんに教えることで去年の内容を再確認できるのは私たちにとっても大きなメリット。ほとんどの分野は1年生の時に基礎を学ぶから、学習し直すことで理解を早められるの』
『まあつまり、教えるのを渋る人は誰もいないってことだ。気楽に参加しろよ、ソラ』
『じゃ、じゃあ参加させていただきます! よろしくお願いしますっ!』
可愛らしくにっこりとした絵文字を文末に付けて、空は参加を宣言してくれた。
曜日は?
『すみません。明日は少し忙しいので、月曜日に参加しても良いですか?』
『勿論』
祐騎も誘おうかと思ったが、葵さんが起きるまではそっとしておいた方が良いかもしれない。
取り敢えず、予定は決まったな。
……そろそろ学校へ行こう。
──放課後──
────>杜宮高校【教室】。
さて、今日は木曜日。何をしようか。
……そういえば、異界に行く前、フウカ先輩と話した時、少し悩んでいるようだったが……様子を見に行ってみよう。
────>杜宮高校【保健室】。
いた。いつものベッド。廊下側一番端。窓からの光が絶対に当たらない場所で、編み物をしている。
「あれ、岸波君?」
「こんにちは、フウカ先輩」
「こんにちは。今日はどうしたの?」
「ふらっと寄っただけですけど、良ければ少し話しませんか?」
「うん、良いよ」
いつも通りの儚い笑顔を浮かべベッド横の椅子に座るよう勧めてくる彼女に応える。
それから、何気ない話をした。彼女は楽しそうに聞いてくれていたが、何かを積極的に話すことはない。
だが、話したそうにはしてくれていた。何度か尋ねてみるも流され、聞けず終い。今回は話す気になれなかったと言った所か。
また次回来た時は話してくれそうだ。なんとなくだけど。
今日はもう帰ろう。
──夜──
さて、明日に備えて勉強をしよう。
前もって疑問点を纏めておくだけでも変わるはずだし、自分が覚えている要点を整理すれば、足りていない所も見えてくるかもしれない。
よし。
──7月6日(金) 朝──
早く目が覚めた。二度寝も良いが、せっかくだし何かしよう。
とはいえ今日は放課後から勉強会だし、それ以外のことをしたいな。
……運動でもしようか。今この場にあるものを使って何か、というのは出来そうにない。外を走ろう。
────>杜宮記念公園【マンション前】。
運動着に着替えて、ロビーを抜ける。朝日が昇って少しした時間帯。犬を散歩しているおばあさんや、同じようにランニングしている人が数人いた。
自分はどうしようか。
──Select──
短い距離を速く走る。
>長い距離をゆっくり走る。
──────
体力を付けるなら長距離走だ。一定のペースを守って走ろう。
──
少し前を走っている人が居る。
──Select──
>後ろに張り付く。
気にせずペースを維持する。
──────
あまり疲れてないし、他の人と同じくらいの速度で走った方が案外鍛練になるかもしれない。
何があってもこの人の背中から離れないようにしよう。
「…………」
「…………」
「…………!」
「…………!?」
ちらりと後ろを確認するように振り返った彼。すぐにスピードを上げた。
だが、離れないと決心した身。自分も負けじと速度を上げる。
「……はぁ……はぁ……」
追走はやがて並走となるが、そう長くは続かなかった。
体力の限界。間違いなく鍛練不足だ。進みを緩めた自分を変わらぬスピードで置いていく彼の背中を見送り、壁の高さを痛感する。
もっと頑張らなければいけない。
今日のところはしっかりと身体を解して、帰ってシャワーでも浴びよう。
──放課後──
────>杜宮高校【教室】。
『ねえねえ、今日ってどこでやるの?』
『あ』
璃音の言葉で漸くミスに気が付く。実施場所を決め忘れていた。
どこにしようか。
『え、ハクノの家じゃなかったのか? そのつもりで向かおうとしてたんだが』
『自分の部屋か。別に構わないが』
『…………』
『璃音?』
『……いや、まあ、うん。いっか!』
何がだろうか。
────>【マイルーム】。
自分が帰ってから数分後、璃音が到着。
2人で勉強を進めること数十分、洸が遅れながらもやって来た。
「お邪魔します。これ、トワ姉が持ってけって」
「九重先生が?」
「教室でる時に捕まってな。一回道場行って取ってきた」
道場。そういえば一度行ったか。洸のおじさん、お歳のわりにとても強そうだったことを覚えている。
しかしわざわざ申し訳ないな。今度お礼をしなくては。
「あ、2人とも。あたしも一応お菓子買って来てるよ」
「へえ、じゃあある程度進めたら休憩がてら貰おうか」
「うんうん、それで行こっ。ほらほら時坂クンも早く座って準備準備」
「おお。……よし、気合入れるか」
黙々と勉強を開始する。
時計の針は結構進んだが、全体的に見て雑談はそんなにない。ふとした時に話の内容が質問から横道へ逸れることはあるが、3人で勉強していることもあり、会話に参加していない1人がストップを掛けられるのは大きい。
そんなこんなで始めること2時間、一旦休憩である。
「そういや、ハクノって来年は進学するのか? それとも就職?」
「分からない。就職かなとは思うが、自分の意志だけでは決められないからな」
そういえば、洸は自分が北都グループに人生を預けていることを知らないのだったか。
璃音には話しただろうか。いや話したな。美月との関係を聞かれた時に流れで話していたはず。
「久我山は?」
「一応大学には通うつもり。どんな形でもね!」
「ま、有名人が普通に大学へ通うわけにはいかねえよな」
「そーいうこと。でもしっかり勉強はしておきたいからね。何が為になるか分からないし」
「立派な心掛けだな」
「フッフーン、でしょでしょ」
自身の持ってきたお菓子の大半を食べながら、期限良さそうに笑う璃音。
「そういう時坂クンの進路は?」
「あー……正直まだ決まってねえ。何も決まってねえけど、大学って取り敢えずで行くところじゃねえ気がするしな」
「まあ、ゆっくり考えて行こう。まだ来年までは時間があるんだ」
「だな」
とはいえ、実際どうなるんだろうか。
前もって言われている職業活動内容なら、美月が大学へ行くとなると自分も行く必要性が出てくるだろう。
それに、専門的な勉強をしっかりとして準備した方が、会社にとっても役に立つはず。
一方で現場経験が大事というのも分かるし。
そのうち相談してみないとな。
「……よし、勉強を再開するか」
「もう一頑張りしちゃお!」
「ああ、やろうぜ」
この日は夜まで一緒に勉強した。
洸は1人歩いて帰り、璃音は親の迎えを待つらしい。
一緒にロビーで待とうとしたが、凄い剣幕で部屋へと戻された。
「いやいや、親が来るって言ってんのにキミと一緒だとややこしくなるじゃん! 時坂クンも帰っちゃってるし!」
ということらしい。
そこら辺も、親子間での複雑な事情なのだろう。自分にはあまりよく分かっていないが。
でも、親子関係や親戚関係について、“自分は無縁のものだから分からない”というスタンスは今後、止めていかないといけない。その理解の遅さは、祐騎のお父さんの異界のような問題が再発したときにきっと足を引っ張る。
それに、人間関係に不理解があると、誰かと仲良くなるのにもきっと難しくなる。
両親と子ども。もしくは兄弟関係を今後は知っていきたいな。
知識 +5。
根気 +1。
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所謂テスト対策回。ついでに参加メンバーの好感度上げ。
大事なのは最後の方だけだったり。
そりゃ更新も早いわけですわ。