月曜日の早朝、通学路を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「おはよーセンパイ。ふぁああ」
「祐騎か、おはよう。眠そうだな」
「まあね」
横に並ぶと、大きなあくびをする祐騎。どうやら徹夜で何かしていたらしい。
「……センパイ、今日は異界、行くの?」
「そうだな……」
どうしようか。
少しだけ、心配そうに尋ねてきた祐騎を見て、悩む。
できるだけ早く助けに行きたいが、今は……
「すまない、今日は行けない」
「……そっ。まあいつでも構わないけどさ」
とても気にしていないようには見えないが……少しだけ、考えたいことがある。
最終期限まであと7日。ちょうど1週間だ。猶予はない。
ここは頼る人間をしっかり選んだ方が良さそうだ。
──放課後──
「璃音、ちょっと良い?」
いつも放課後になるとすぐ璃音は生徒たちに取り囲まれてしまう。
璃音の周囲にまだ人が少ない時が、勝負だ。
「……えっ」
「今日暇だったら、少し付き合ってくれないか?」
「あっ、ウン。別にヒマだけど……」
よし、無事誘えた。
少しずつだけれどクラスメイトたちが集まってきているな。自分のことも認識されている。これ以上ここで長話するべきではないだろう。
さっさと戻って帰り自宅を済ませ、教室を出ようとする。
「…………っ!?」
何か大きな音がしたが、振り返ってみても特に何もない。
いつも通り璃音がみんなに囲まれているだけの風景だ。
アイドルを休業宣言してしばらく経つが、こうして囲まれているのはやはり、彼女自身の人徳あってのことだろう。ただの有名人ならこうはならないはずだ。
……凄い友人を持ったな、自分は。
……そろそろ教室を出よう。
────
「……ゴメン、遅くなっちゃった!」
璃音が駆けてきた。どうやら本当に急いで走ってきたらしい。止まった彼女の髪は少し乱れ、息はとても荒くなっている。そんなに急ぎの用でもなかったんだが、彼女のその気づかいは、とても有り難いものだった。
「別に待っていないし、呼んだのは自分だから大丈夫だ」
「それで、今日はどうしたの? みんなの前で話しかけるなんて珍しかったからビックリした」
「……ああ、そういえばそうだったな」
いつもはサイフォン越しに連絡を取っていた。
でも、それだと、相談する側として、誠意が足りない気がしたから。
「璃音に、相談したいことがあるんだ」
「……ああ、“そういうコト”。だから今日元気なかったんだね、キミ」
「……そうか? 普通だったと思うけど」
「ううん、ぜんっぜん普通じゃなかった。なんかずっと注意力散漫っていうか、心ここに非ずってカンジ」
らしい。
自分では分からないが、彼女が言うならまあ、そうなのだろう。
「……あたしの家で良い?」
──select──
>良いのか?
是非とも!
いや、噂されるのはちょっと……
──────
いくら仲が良いとは言っても、良くないことだと言うのは分かる。
年頃の、しかもアイドルである少女が、異性を招くというのは、きっと並々ならぬリスクとなるであろう。
「きっと、その方が分かりやすいと思う。違う?」
覗き込むように、上目遣いで見上げてくる璃音。
分かりやすい、か。この流れでその言葉が出てくるってことは、本当に自分が話したいことを理解してそうだ。
「……璃音は、本当に分かってるんだな」
「ふっふーん。そのくらい普通だって。トモダチなんだからさ!」
凄いな、本当に。
では、色々と不安は残るものの、好意に乗らせてもらうとしよう。
────>レンガ小路【璃音の部屋】。
「失礼します」
「どうぞー」
先を歩いていた璃音に着いて行き、階段を昇った先に、彼女の部屋はあった。
全体的に質素ではあるが、運動するための小物や、CD・楽譜の数々など、自宅でも並々ならぬ努力をしていることが伺える部屋だ。
「ってコラ、じろじろ見ない」
──select──
良い匂いだ。
もうちょっと。
>ごめんなさい。
──────
ジトっとした目で見られたので、観察を止める。謝るのが吉だったであろう。あれ以上続けていたら、きっと冷めた目で見られていたことは、容易に想像できる。
自由に座って良いよ、と促されるまま床に座り、彼女はベッドに腰かけた。
さて、どう切り出したものか。
「……」
「……」
「璃音は、さ」
「うん」
「アイドルになるって決めた時、親にどんな反応をされた?」
「“心配されて、喜ばれた”」
喜ばれた、というのはまあ、分からなくはない。
可愛い子どもが夢を持った、というのはきっと嬉しいことだろう。
心配された、というのもまあ、分からなくない。
アイドルなんて険しい門、いくら自分の子どもが可愛いからって心配にもなる。
だが、そのどちらかではなく、両方想われた、と?
「あたしがアイドルを目指した理由って、言ったことあったっけ?」
「理由は聞いたことなかったな。その後のことは色々聞いたが」
「そっか、別に隠していることでもないから、気楽に聞いて欲しいんだけどさ」
あたし、10年前にあった大規模震災の被害者なの。
そんな出だしで、彼女の昔話が始まった。
「単純な話、瀕死の重傷で身体は動かないわ、度々変な異常現象が起こるわで気が参っちゃってさ、生きるのも諦めようかなって思ってた時期があるの。それで、それを想い留まらせてくれたのが、テレビの中で輝いていた“伝説のアイドル”だった」
「伝説の、アイドル?」
「ウン。……この前時坂クンに手伝ってもらって、CDを漸く手に入れることができたの。聴く?」
頷きを返す。それが彼女の原点だと言うのなら、聞いてみたいと思った。
音楽が流れる。
陽気で、ポップで、どこかかっこよくて。
それでいて、何より楽しそう。
何て言うのだろうか……歌声が、歌声で想起される景色が、輝いて見える。
「これが、伝説の、アイドル」
「ウン、凄いでしょ」
「ああ、何というか、元気が湧いて来るな」
「ふふっ、時坂クンも同じコト言ってた」
誰だってこれを聞けば、そう思うだろう。
なんというか、璃音たちSPiKAの曲を始めて聞いた時と、同じような衝撃だ。いや、申し訳ないが、それ以上と言わざるを得ない。
「あたしもこれを聞いて、誰かを勇気づけられるアイドルになりたいって思った」
「それが、璃音の原点か」
「そう。それでね、入院中に親に相談したの、『あたしもあんな風になれるかな』って」
……ここで、親か。
「それで? 何て言われたんだ?」
「『なれるよ、リオンなら成れる』って、泣かれちゃった。きっとずっと心配かけてたんだと思う。あたしがキミの変化に気付いたように、親が子の変化に気付かないわけないもんね」
「……」
そうか、璃音の両親は、多分すべてを知っていたのか。
娘に起きていることも、娘が抱いていた悲しみも、娘の投げ出そうとしていたものも。
だとしたら、心配されたことは。
「アイドルを諦めたら、また死を選んでしまうのではないか。という不安か」
「そういうコト、かな。本当に一生懸命に応援してくれたんだ。リハビリも、歌の練習も、オーディションだって、色々手伝ってくれた。でも多分、心配とか恐れとか、そういうだけの感情で手伝ってくれたんじゃなくて、きっと……」
一拍、考えるように言葉を置き、息を吸う。
「あたしが頑張っている姿を、楽しんでいる姿を見るのが、嬉しかったんじゃないかなって、今では思うんだ」
親が子の成長を願う気持ち。
親の楽しみは子の楽しみという気持ち。
きっと根底にあるのはいつだってそれだと璃音は語る。
「子どもの成長を願わない親なんて居ない。子の幸せを願わない親なんて親じゃない」
「……璃音」
「オーディションに受かって、連絡を受けた時に、一緒に泣いたのを覚えてる。テレビに出るたびに録画してくれてたし、ライブがある度に仕事を休んで来てくれた」
そこにあるのは、彼女にとっての悲劇で始まり、彼女たち家族の幸せに繋がる物語だった。
しかし、だったら、
「璃音」
「なに?」
「アイドル、本当に休んで良かったのか?」
「良いに決まってるじゃん」
何を今更と、本当に後ろめたそうでない笑みを浮かべて、彼女は答える。
「目の前に問題があって、その問題を解決しなければ誰かが不幸になるっていうなら、やらないと。そうでしょ?」
「……それは」
「それは、ナニかな? 自分の決意だとでも言っちゃう? 自分1人が頑張れば璃音は頑張らなくてもとか言いたいカンジ? ……怒るよ」
もう顔が怒ってるぞ、とは言えなかった。
「……ああ、そうだな」
考えてみれば、自分も似たようなものだ。璃音が頑張っている姿を見れば、自分も頑張ろうと思える。璃音が楽しんでいれば、自分も楽しめている。
……あれ?
──select──
自分たち、家族みたいだな。
>自分と璃音は親子だった……?
(黙っておこう)。
──────
「なにいってるの?」
まったく感情の籠っていない声が返ってきた。
馬鹿にしたわけではないんだけれど。
「いや、璃音の言ったことに、結構思い当たる節があって」
「トモダチが集まる場所が、自分の居場所で。自分の居場所の中の究極が、家、もしくは家族、なんじゃない? ほら、気の置けない仲になるって言うけどさ、子が親に気を置くなんてことはないんだから」
「なるほど、それはもう家族のように身近な友達ということか」
「そ。それだけあたしとキミが仲の良いトモダチって……こと……」
言っている最中に、段々と顔が赤くなってきた璃音。
そして、ぷいっと顔を背けてしまった。
「ううううっ……意識したら恥ずかしくなってきた。何言ってたんだろあたし……」
「大丈夫か」
「今話しかけないで」
「あ、はい」
すぅ、はぁ、と深呼吸を繰り返し、よしっとこっちを向く璃音。
顔はまだ赤い。
「ひょっとして恥ずかしいことを言ったかもだけど、忘れて」
「それは無理だな」
「ぐっ……忘れて」
「無理だ。そして、よく分かったよ、ありがとう」
家族というのがどういうものか。
いや、自分は世の家族に“どう在ってもらいたい”かが。
「ぐぬぬ……はあ。まあ良いか。とにかく、1つだけ」
何か吹っ切れたのか、彼女はまっすぐな瞳でこちらを見据える。
「四宮クンのお父さんが息子想いでないなんてことはないと思う。だって、あたしはよく分からないケド、お姉さんは全部を知った上で、2人を会わせて話させようとしてたんだよね? だとしたら、きっと2人に行き違いがあっただけで、お互いがお互いをしっかり想い合ってたんじゃないかなって。そうじゃなかったらきっと、弟想いなお姉さんも動かなかったんじゃない?」
「ああ、そうだと良いな。そうであることを祈ろう」
すべては、相対した時に分かるが、自分たちは、希望を持っていこう。
きっと、分かり合う道があるはずだ。
「璃音、明日、異界に行こうと思う」
「イイよ! みんなにも声掛けとこっ!」
元気よく笑う彼女に元気づけられる。
本当に、良い友人を持った。
……璃音との絆が深まっていくのを感じる。
「それじゃ、また明日ね!」
璃音に見送られ、彼女の家を後にする。
さすがに見送りは申し訳なかったし、少し歩けばレンガ小路のメインストリート。迷う気配もないだろう。
「…………?」
今、誰かに見られていたような気がしたが……気のせいだろうか。
コミュ・恋愛“久我山 璃音”のレベルが4に上がった。
────
まだ4? ……うっそだー。
もう7くらいのイメージで書いてるんですが。
選択肢回収
79─1─2
────
「……あたしの家で良い?」
──select──
良いのか?
>是非とも!
いや、噂されるのはちょっと……
──────
「ええ……やっぱ止めようかな」
ドン引きされた。
しまった。がっつき過ぎたか……
>コミュ上がらないのでもう1日。
────
79─1─3
────
「……あたしの家で良い?」
──select──
良いのか?
是非とも!
>いや、噂されるのはちょっと……
──────
「今更!? さっきもあんな堂々と人前で誘うし! こっちはその……恥ずかしかったんだからね!」
「それは、その……すまない」
少しばかり余裕がなかったのか、そこまで考えが回らなかった。
「ま、まあ大事な話っていうのは分かってたし、クラスの人たちにも弁解しておいたから、酷い噂になるってこともないと思うけど」
「助かる」
「次に誘うときは気を付けてね、ホント」
肝に銘じておこう。
>然り気無く誘ってほしいアピールになった。
────
79─2─1
────
「ってコラ、じろじろ見ない」
──select──
>良い匂いだ。
もうちょっと。
ごめんなさい。
──────
「……」
「……」
「帰って」
「はい」
>コミュブレイク。
────
79─2─2
────
「ってコラ、じろじろ見ない」
──select──
良い匂いだ。
>もうちょっと。
ごめんなさい。
──────
「ちょ」
「あれ、あの箪笥から何かはみ出て──」
「──コロス」
>dead END。ろくな選択肢じゃなかったな。
────
79─3─1
────
……あれ?
──select──
>自分たち、家族みたいだな。
自分と璃音は親子だった……?
(黙っておこう)。
──────
「かぞっ!?」
「ああ、一緒にいて落ち着くのも家族みたいだろう」
「そ、それって遠回しなプロポーズじゃ……」
「……?」
「うーん、【死んでくれる?】」
>これがコミュランク9のイベントだったら告白選択肢立ったと思う。そうじゃないのでDeadENDで。
────
79─3─3
────
……あれ?
──select──
自分たち、家族みたいだな。
自分と璃音は親子だった……?
>(黙っておこう)。
──────
>特になし。
────────
こんなものですかねえ。DEAD多めの選択肢はFate主人公の恒、と。