PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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7月2日──【通学路】璃音の原点

 

 

 

 月曜日の早朝、通学路を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

 

「おはよーセンパイ。ふぁああ」

「祐騎か、おはよう。眠そうだな」

「まあね」

 

 横に並ぶと、大きなあくびをする祐騎。どうやら徹夜で何かしていたらしい。

 

「……センパイ、今日は異界、行くの?」

「そうだな……」

 

 どうしようか。

 少しだけ、心配そうに尋ねてきた祐騎を見て、悩む。

 できるだけ早く助けに行きたいが、今は……

 

「すまない、今日は行けない」

「……そっ。まあいつでも構わないけどさ」

 

 とても気にしていないようには見えないが……少しだけ、考えたいことがある。

 最終期限まであと7日。ちょうど1週間だ。猶予はない。

 ここは頼る人間をしっかり選んだ方が良さそうだ。

 

 

──放課後──

 

 

「璃音、ちょっと良い?」

 

 いつも放課後になるとすぐ璃音は生徒たちに取り囲まれてしまう。

 璃音の周囲にまだ人が少ない時が、勝負だ。

 

「……えっ」

「今日暇だったら、少し付き合ってくれないか?」

「あっ、ウン。別にヒマだけど……」

 

 よし、無事誘えた。

 少しずつだけれどクラスメイトたちが集まってきているな。自分のことも認識されている。これ以上ここで長話するべきではないだろう。

 さっさと戻って帰り自宅を済ませ、教室を出ようとする。

 

「…………っ!?」

 

 何か大きな音がしたが、振り返ってみても特に何もない。

 いつも通り璃音がみんなに囲まれているだけの風景だ。

 アイドルを休業宣言してしばらく経つが、こうして囲まれているのはやはり、彼女自身の人徳あってのことだろう。ただの有名人ならこうはならないはずだ。

 ……凄い友人を持ったな、自分は。

 

 ……そろそろ教室を出よう。

 

 

────

 

 

「……ゴメン、遅くなっちゃった!」

 

 璃音が駆けてきた。どうやら本当に急いで走ってきたらしい。止まった彼女の髪は少し乱れ、息はとても荒くなっている。そんなに急ぎの用でもなかったんだが、彼女のその気づかいは、とても有り難いものだった。

 

「別に待っていないし、呼んだのは自分だから大丈夫だ」

「それで、今日はどうしたの? みんなの前で話しかけるなんて珍しかったからビックリした」

「……ああ、そういえばそうだったな」

 

 いつもはサイフォン越しに連絡を取っていた。

 でも、それだと、相談する側として、誠意が足りない気がしたから。

 

「璃音に、相談したいことがあるんだ」

「……ああ、“そういうコト”。だから今日元気なかったんだね、キミ」

「……そうか? 普通だったと思うけど」

「ううん、ぜんっぜん普通じゃなかった。なんかずっと注意力散漫っていうか、心ここに非ずってカンジ」

 

 らしい。

 自分では分からないが、彼女が言うならまあ、そうなのだろう。

 

「……あたしの家で良い?」

 

 

──select──

 >良いのか?

  是非とも!

  いや、噂されるのはちょっと……

──────

 

 

 いくら仲が良いとは言っても、良くないことだと言うのは分かる。

 年頃の、しかもアイドルである少女が、異性を招くというのは、きっと並々ならぬリスクとなるであろう。

 

「きっと、その方が分かりやすいと思う。違う?」

 

 覗き込むように、上目遣いで見上げてくる璃音。

 分かりやすい、か。この流れでその言葉が出てくるってことは、本当に自分が話したいことを理解してそうだ。

 

 

「……璃音は、本当に分かってるんだな」

「ふっふーん。そのくらい普通だって。トモダチなんだからさ!」

 

 

 凄いな、本当に。

 では、色々と不安は残るものの、好意に乗らせてもらうとしよう。

 

 

 

────>レンガ小路【璃音の部屋】。

 

 

 

「失礼します」

「どうぞー」

 

 先を歩いていた璃音に着いて行き、階段を昇った先に、彼女の部屋はあった。

 全体的に質素ではあるが、運動するための小物や、CD・楽譜の数々など、自宅でも並々ならぬ努力をしていることが伺える部屋だ。

 

「ってコラ、じろじろ見ない」

 

 

──select──

  良い匂いだ。

  もうちょっと。

 >ごめんなさい。

──────

 

 ジトっとした目で見られたので、観察を止める。謝るのが吉だったであろう。あれ以上続けていたら、きっと冷めた目で見られていたことは、容易に想像できる。

 自由に座って良いよ、と促されるまま床に座り、彼女はベッドに腰かけた。

 

 さて、どう切り出したものか。

 

「……」

「……」

「璃音は、さ」

「うん」

「アイドルになるって決めた時、親にどんな反応をされた?」

「“心配されて、喜ばれた”」

 

 喜ばれた、というのはまあ、分からなくはない。

 可愛い子どもが夢を持った、というのはきっと嬉しいことだろう。

 心配された、というのもまあ、分からなくない。

 アイドルなんて険しい門、いくら自分の子どもが可愛いからって心配にもなる。

 

 だが、そのどちらかではなく、両方想われた、と?

 

 

「あたしがアイドルを目指した理由って、言ったことあったっけ?」

「理由は聞いたことなかったな。その後のことは色々聞いたが」

「そっか、別に隠していることでもないから、気楽に聞いて欲しいんだけどさ」

 

 

 あたし、10年前にあった大規模震災の被害者なの。

 そんな出だしで、彼女の昔話が始まった。

 

「単純な話、瀕死の重傷で身体は動かないわ、度々変な異常現象が起こるわで気が参っちゃってさ、生きるのも諦めようかなって思ってた時期があるの。それで、それを想い留まらせてくれたのが、テレビの中で輝いていた“伝説のアイドル”だった」

「伝説の、アイドル?」

「ウン。……この前時坂クンに手伝ってもらって、CDを漸く手に入れることができたの。聴く?」

 

 頷きを返す。それが彼女の原点だと言うのなら、聞いてみたいと思った。

 音楽が流れる。

 陽気で、ポップで、どこかかっこよくて。

 それでいて、何より楽しそう。

 何て言うのだろうか……歌声が、歌声で想起される景色が、輝いて見える。

 

「これが、伝説の、アイドル」

「ウン、凄いでしょ」

「ああ、何というか、元気が湧いて来るな」

「ふふっ、時坂クンも同じコト言ってた」

 

 誰だってこれを聞けば、そう思うだろう。

 なんというか、璃音たちSPiKAの曲を始めて聞いた時と、同じような衝撃だ。いや、申し訳ないが、それ以上と言わざるを得ない。

 

「あたしもこれを聞いて、誰かを勇気づけられるアイドルになりたいって思った」

「それが、璃音の原点か」

「そう。それでね、入院中に親に相談したの、『あたしもあんな風になれるかな』って」

 

 ……ここで、親か。

 

「それで? 何て言われたんだ?」

「『なれるよ、リオンなら成れる』って、泣かれちゃった。きっとずっと心配かけてたんだと思う。あたしがキミの変化に気付いたように、親が子の変化に気付かないわけないもんね」

「……」

 

 そうか、璃音の両親は、多分すべてを知っていたのか。

 娘に起きていることも、娘が抱いていた悲しみも、娘の投げ出そうとしていたものも。

 だとしたら、心配されたことは。

 

「アイドルを諦めたら、また死を選んでしまうのではないか。という不安か」

「そういうコト、かな。本当に一生懸命に応援してくれたんだ。リハビリも、歌の練習も、オーディションだって、色々手伝ってくれた。でも多分、心配とか恐れとか、そういうだけの感情で手伝ってくれたんじゃなくて、きっと……」

 

 一拍、考えるように言葉を置き、息を吸う。

 

「あたしが頑張っている姿を、楽しんでいる姿を見るのが、嬉しかったんじゃないかなって、今では思うんだ」

 

 親が子の成長を願う気持ち。

 親の楽しみは子の楽しみという気持ち。

 きっと根底にあるのはいつだってそれだと璃音は語る。

 

「子どもの成長を願わない親なんて居ない。子の幸せを願わない親なんて親じゃない」

「……璃音」

「オーディションに受かって、連絡を受けた時に、一緒に泣いたのを覚えてる。テレビに出るたびに録画してくれてたし、ライブがある度に仕事を休んで来てくれた」

 

 そこにあるのは、彼女にとっての悲劇で始まり、彼女たち家族の幸せに繋がる物語だった。

 

 しかし、だったら、

 

「璃音」

「なに?」

「アイドル、本当に休んで良かったのか?」

「良いに決まってるじゃん」

 

 何を今更と、本当に後ろめたそうでない笑みを浮かべて、彼女は答える。

 

「目の前に問題があって、その問題を解決しなければ誰かが不幸になるっていうなら、やらないと。そうでしょ?」

「……それは」

「それは、ナニかな? 自分の決意だとでも言っちゃう? 自分1人が頑張れば璃音は頑張らなくてもとか言いたいカンジ? ……怒るよ」

 

 もう顔が怒ってるぞ、とは言えなかった。

 

「……ああ、そうだな」

 

 考えてみれば、自分も似たようなものだ。璃音が頑張っている姿を見れば、自分も頑張ろうと思える。璃音が楽しんでいれば、自分も楽しめている。

 ……あれ?

 

 

──select──

  自分たち、家族みたいだな。

 >自分と璃音は親子だった……?

  (黙っておこう)。

──────

 

 

「なにいってるの?」

 

 まったく感情の籠っていない声が返ってきた。

 馬鹿にしたわけではないんだけれど。

 

「いや、璃音の言ったことに、結構思い当たる節があって」

「トモダチが集まる場所が、自分の居場所で。自分の居場所の中の究極が、家、もしくは家族、なんじゃない? ほら、気の置けない仲になるって言うけどさ、子が親に気を置くなんてことはないんだから」

「なるほど、それはもう家族のように身近な友達ということか」

「そ。それだけあたしとキミが仲の良いトモダチって……こと……」

 

 言っている最中に、段々と顔が赤くなってきた璃音。

 そして、ぷいっと顔を背けてしまった。

 

「ううううっ……意識したら恥ずかしくなってきた。何言ってたんだろあたし……」

「大丈夫か」

「今話しかけないで」

「あ、はい」

 

 すぅ、はぁ、と深呼吸を繰り返し、よしっとこっちを向く璃音。

 顔はまだ赤い。

 

「ひょっとして恥ずかしいことを言ったかもだけど、忘れて」

「それは無理だな」

「ぐっ……忘れて」

「無理だ。そして、よく分かったよ、ありがとう」

 

 

 家族というのがどういうものか。

 いや、自分は世の家族に“どう在ってもらいたい”かが。

 

「ぐぬぬ……はあ。まあ良いか。とにかく、1つだけ」

 

 何か吹っ切れたのか、彼女はまっすぐな瞳でこちらを見据える。

 

「四宮クンのお父さんが息子想いでないなんてことはないと思う。だって、あたしはよく分からないケド、お姉さんは全部を知った上で、2人を会わせて話させようとしてたんだよね? だとしたら、きっと2人に行き違いがあっただけで、お互いがお互いをしっかり想い合ってたんじゃないかなって。そうじゃなかったらきっと、弟想いなお姉さんも動かなかったんじゃない?」

「ああ、そうだと良いな。そうであることを祈ろう」

 

 すべては、相対した時に分かるが、自分たちは、希望を持っていこう。

 きっと、分かり合う道があるはずだ。

 

「璃音、明日、異界に行こうと思う」

「イイよ! みんなにも声掛けとこっ!」

 

 元気よく笑う彼女に元気づけられる。

 本当に、良い友人を持った。

 

 ……璃音との絆が深まっていくのを感じる。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、また明日ね!」

 

 璃音に見送られ、彼女の家を後にする。

 さすがに見送りは申し訳なかったし、少し歩けばレンガ小路のメインストリート。迷う気配もないだろう。

 

「…………?」

 

 今、誰かに見られていたような気がしたが……気のせいだろうか。

 

 

 

 




 

 コミュ・恋愛“久我山 璃音”のレベルが4に上がった。


────


 まだ4? ……うっそだー。
 もう7くらいのイメージで書いてるんですが。


選択肢回収
79─1─2

────

「……あたしの家で良い?」


──select──
  良いのか?
 >是非とも!
  いや、噂されるのはちょっと……
──────

「ええ……やっぱ止めようかな」

 ドン引きされた。
 しまった。がっつき過ぎたか……


 >コミュ上がらないのでもう1日。


────
79─1─3
────
「……あたしの家で良い?」


──select──
  良いのか?
  是非とも!
 >いや、噂されるのはちょっと……
──────

「今更!? さっきもあんな堂々と人前で誘うし! こっちはその……恥ずかしかったんだからね!」
「それは、その……すまない」

 少しばかり余裕がなかったのか、そこまで考えが回らなかった。

「ま、まあ大事な話っていうのは分かってたし、クラスの人たちにも弁解しておいたから、酷い噂になるってこともないと思うけど」
「助かる」
「次に誘うときは気を付けてね、ホント」

 肝に銘じておこう。



 >然り気無く誘ってほしいアピールになった。


────
79─2─1
────
 
「ってコラ、じろじろ見ない」


──select──
 >良い匂いだ。
  もうちょっと。
  ごめんなさい。
──────

「……」
「……」
「帰って」
「はい」


 >コミュブレイク。



────
79─2─2
────
 
「ってコラ、じろじろ見ない」


──select──
  良い匂いだ。
 >もうちょっと。
  ごめんなさい。
──────

「ちょ」
「あれ、あの箪笥から何かはみ出て──」
「──コロス」


 >dead END。ろくな選択肢じゃなかったな。


────
79─3─1
────

  ……あれ?


──select──
 >自分たち、家族みたいだな。
  自分と璃音は親子だった……?
  (黙っておこう)。
──────

「かぞっ!?」
「ああ、一緒にいて落ち着くのも家族みたいだろう」
「そ、それって遠回しなプロポーズじゃ……」
「……?」
「うーん、【死んでくれる?】」


 >これがコミュランク9のイベントだったら告白選択肢立ったと思う。そうじゃないのでDeadENDで。

────
79─3─3
────

  ……あれ?


──select──
  自分たち、家族みたいだな。
  自分と璃音は親子だった……?
 >(黙っておこう)。
──────


 >特になし。

────────


 こんなものですかねえ。DEAD多めの選択肢はFate主人公の恒、と。

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