PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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7月1日──【マイルーム】攻略会議 2

 

 

 

 時間もあったので、早朝ではあるが部屋の片づけをしようと思い立った日曜日。新しく買ったテレビを置く台の周辺や、CD・DVDの収納されている棚、気付けばだいぶ中身の増えてきた衣類タンスなどを整理していると、不意にインターホンが鳴った。

 

「こんにちは、岸波君。上がっても良いかしら」

 

 出てみると、なにやら見覚えのある顔が複数。

 オートロックを解除し、部屋まで上がってくるのを待つ。当然頭の中は疑問でいっぱいだが、来客があった以上、清掃の手は止めなくてはならない。彼女らが上がってくる前に一段落つけなければ。

 

 

────

 

 

「で、どうして自分の家に?」

「異界が近い方が良いでしょう。その時点で四宮君か岸波君の家に向かうつもりだったけれど」

「ま、ウチはモニターとか色々あって手狭だから、岸波センパイの部屋に移動したわけ」

 

 あ、これお土産です。と空がお菓子を手渡して来たので、ご丁寧にどうも。と受け取った。

 

 ……既に勢揃いだな。

 

 洸、璃音、柊、空、それから新しい仲間の四宮 祐騎。5人の来客があったのは朝早く。だいたい8時頃だっただろうか。

 朝に集合をかけると言われておきながら、集合時間も場所も知らされなかったのは、こういうことか。ようやく得心がいった。正直事前に相談してもらいたかったところだが。

 まあ見られて困るようなものもない。

 何気に美月以来居なかった来客だ。丁重におもてなししないと。

 

「へえ、外から見ると分からなかったが、けっこう広いんだな」

 

 リビングに案内すると、臙脂色のシャツを着ている洸が、辺りを見渡しながらそう呟いた。

 

 ……そういえば、全員すっかり夏らしい私服になったな。

 

 7月初日。段々と暑さが実感できるようになってきたが、目に見えた変化といえば周囲の彼らが軽装になったことくらいしかない。

 まだ雨は若干続いているし、湿度の高い日だって継続中だ。

 夏休みになればまた変わるのかな、なんて想像をしてみる。すべては時が来てからのお楽しみ。

 今は目の前の困難に向かい合っていかなければならない。

 

「ねえソラちゃん、せっかくだし探索しない?」

「えっ!? でも、良いんでしょうか……」

 

 璃音の提案に、ちらりと横目でこちらの顔色を伺う空。駄目に決まっているだろう。

 というか、璃音寒そうな格好しているな、大丈夫だろうか。

 へそ出しノースリーブシャツに1枚薄手の上着を羽織っただけ。下はショートパンツ。なんとも開放的な姿。帽子を被っているとはいえ、少し心配になる。

 その反面、空は翠っぽいシャツにジャケット、ミニスカートの組み合わせ、下は璃音と変わらない風通しの良さだが、上がしっかりと閉まっているため、寒そうな印象は受けない。

 ……おっと、あまりじろじろ見るのも失礼か。

 

「自分が許可すると思うか?」

「疚しいことがないならイイでしょ?」

「そういう問題じゃない」

「ソラちゃんも少しは興味あるよね?」

「え、わたし!? その、まあ、少しは……」

「ま、僕も少し興味があるから、参加しようかな」

 

 なんて。

 結局全員が思い思いの場所を覗き回る流れになってしまった。

 見て面白いところなんてないとは思うが。

 

 

「ねえセンパイ、ゲームとかないの?」

「つい先日テレビを買ったばかりだ。ゲームとかはまだ先だな」

「ちぇ、時坂センパイはゲームとかするの?」

「付き合い程度だな。あんまガッツリはやったことねえ」

「なぁんだ、つまんないの。ウチからゲーム持ってこようかな。幸い、テレビは悪くない大きさだしね」

「説明終わってからにしろよー」

 

 

 説明、という単語で思い出した。

 そうか、ユウ君──いや、祐騎に事態の説明と、協力の要請を行うために集まったんだっけ。

 こうしてはいられない。

 

「全員、集合」

 

 自分の台詞に、祐騎と璃音以外の全員が集まる。

 璃音は棚の前、祐騎はテレビ台の前に立っていた。

 いや、仮にも祐騎は説明を求める立場だろうに。

 

「……いやセンパイほんと、そこそこ良いテレビ持ってるじゃん。僕もゲームは大画面でしたい派だからね。今度やろうよ」

「ああ、今度な。取り敢えず今は話を」

「はーい、ゴメンナサーイ」

 

 ……まあ、素直に戻ってきたから良いか。

 問題は璃音だが、棚の前で何をしているのだろう。

 

 

「璃音、どうした?」

「ひゃっ……ううん、なんでもないナイ! ゴメン、今行く!」

 

 少しだけ顔が赤い。どうしたのだろうか。特に何か目に留まるようなものは置いていなかったはずだが。

 まあ、良いか。これで全員がテーブルの周りに集った。

 

 

「それじゃあ、説明を始めよう」

 

 

────

 

 

「ふーん、なるほどね」

 

 頭の後ろで手を組みながら、座布団の上であぐらをかく祐騎。

 

「今の説明で分かったのか?」

「余裕だっての。頭の出来が違うんだよ、センパイたちとは」

「コイツ……」

 

 昨日の殊勝さはどこへ行ったのか、とでも言いたげに白い目で見る洸。

 だが、そんな目で見ようと何も変わらない。

 

「それより岸波センパイ、冷房つけないの?」

「電気代節約」

「主婦かよ……」

 

 洸のツッコミには何にも言えないから放っておこう。

 だって、無駄使いするほどのお金はないし。

 ……いや、みんなの快適のためなら財布の紐を解くのも悪くないか。

 冷房冷房……リモコンは何処だったか。

 

「主婦云々はコウ先輩が言えることじゃないと思いますけど……」

「……その通りね」

「お前らが俺の何を知ってんだよ」

「エプロン姿が似合う」

「柊が言うな」

「商店街の特売日を把握してますよね」

「八百屋の一人息子が内通者(ダチ)だからな」

 

 リモコンを見つけて操作、エアコンが起動して冷気を吐き出したのとほぼ同時、柊と空の口撃を華麗に捌いた洸が、ふぅ、と一息吐いた。

 

「そろそろ話を──」

「時坂クンはどっちかって言うと、主婦というか主夫だよね」

「「「あー」」」

 

 璃音の台詞に、祐騎と本人以外の全員が納得の声を漏らす。

 倉敷さんに世話を焼かせすぎないように、先回りして家事をする洸の姿が思い浮かんだ。

 バイトの経験値で一通りのことはできるだろうし、間違ってはいないのではないだろうか。

 

「あーじゃねえよ! 話を戻すぞ」

 

 いい加減青筋が彼の額に浮かびそうだったので、話を進めることにした。

 

「四宮、異界が発生した心当たりはないか?」

「ないね。あんなヤツのことなんて知るもんか」

 

 目を逸らしながら、祐騎は切り捨てる。

 まあ言い方は悪いが、祐騎にとっては姉を命の危機に陥れている張本人、だしな。

 

「ユウ君、お父さんのことそんな呼び方……」

「あんなヤツ父親じゃ……って、いつまでその呼び方を続けるつもりだよ、郁島」

「えー……わたしはこの呼び方、好きだけどなぁ。可愛いし、ユウ君にあってると思う」

「いや、男の僕にカワイイとか言わないでくれる? そういうのが似合うのは小学生まででしょ」

「ユウ君を一番分かってるお姉さんが付けてる愛称だもん。今のユウ君にあってないわけないよ」

「姉さんは昔から何も考えてないだけなんだよなぁ」

「また横道に逸れてるぞ」

 

 柊と璃音は何か考え込んでいるし、議論もろくに進んでいない。

 こうなってくると、選べる道は少ないな。

 

「1つ、ユウ君が少しでもヒントになり得ることを思い出して、議論し、対策してから攻略。2つ、何も知らずに特攻。どっちにするか」

「後者は脳筋すぎるでしょ。ってか呼び方戻ってる」

「じゃあ前者にするか?」

「……ハァ。えっと確か、異界ってのは構成者による何かしらの諦観が元となるんだよね。それには対となる“諦めたくない意地”のようなものが必要なんでしょ」

 

 そうだなぁ、と天井を仰ぐ祐騎。

 

「ねえ、ちょっと良い?」

「どうした璃音」

「四宮クンに聞きたいんだけどさ、どうしてそんなに父親との仲が拗れてるの?」

「……」

 

 そういえば。

 そもそも今回の一件がなくても彼ら親子は仲が良くないのだったか。

 その原因を、自分たちは知らない。

 

「別に、大したことじゃないよ」

「その大したことじゃないことを、教えてくれないかしら。今は少しでも情報が欲しいの」

 

 柊が話を拾う。

 祐騎自身は話したくなさそうだが、流石に周囲から問い立てるような視線を向けられ、観念したらしい。ゆっくりと口を開き始める。

「最初は多分、小学校に入る前だったかな。アイツが言ったんだ、『お前は私のように、いや、私以上にしっかりとした道を歩むんだぞ』って」

「……それの何が?」

「別にこの時から嫌悪感を抱いていたわけじゃないさ。けど、時間が経つにつれて色々なことを強要されるようになって、アイツが僕を“自分の理想通り”に育て上げようとしているのが明け透けになった辺りから、抑え込んでいた蓋が壊れたかのように嫌悪感が湧き出てきたってだけ」

 

 理想通りに、育てる。

 

 子どものいない自分に、親の気持ちなんて分からない。

 親に育ててもらった記憶のない自分に、親の苦労は分からない。

 

 それでも確かに、“理想通り”という言葉は違う気がした。

 ……もっと親について知っていたら、何かを言えるのだろうか。

 

「……そっか」

 

 璃音はまた、何かを考え込む。

 

「それで、お父さまは“どんな風に”貴方を育てたがっていたのかしら」

 

 柊が、目を鋭くして尋ねた。

 祐騎も少しだけ、目を細める。

 なんかこの2人、相性が悪そうだな。何でだろうか。

 

「……さあね。最終的なヴィジョンは知らない。けれどまあ、よく言われたことなら覚えてるよ」

「それは?」

「“才能”」

 

 才能?

 その単語自体は、祐騎の好きそうなものだが。

 実際何度か、自らのことを天才と称していた気がするし。

 

「やれ『お前には才能がない』だの、『才能の無駄遣い』だの言ってくれちゃってさ。頭にくる」

「お父さんの期待していたことが、できなかったってこと?」

「できたさ。けれど、“手放しでほめるほどの事ではなかったよ”」

「成程」

 

 今の説明で何かが分かったのか、柊が頷く。

 逆に空は首を傾げてばかりだ。洸も自分も、あまり理解できていない。璃音は……表情が読めなかった。

 

「だから家出をしたというわけね」

「そうさ、アイツの要求は、狭すぎるんだ」

「えっと……?」

「つまり四宮君には、“確かな才能があった”けれど、それは“お父さまの求める四宮祐騎の才”ではなかったという話よ。至った結論は恐らく……父親の元に居たら自分の才能が腐る、というもので間違いない?」

「ああ、だいたいそんなカンジだね」

 

 力なく笑う祐騎。なんとも自嘲的な笑みだった。

 

 今度の説明でなんとなく分かった。

 自分が理解できるのは、きっと似たような思いがあるからだろう。

 自分は北都グループに“期待”されているが、期待に応えられるほどの才能に“心当たりがない”。

 自分で言う“心当たりがない”、の部分が、祐騎にとっての“他分野の才能”ということだと考えている。

 そう考えれば、分からないことでもない。きっと似たような思いを抱いたことが無ければ、ピンとこないだろう。

 

 しかしこの2人、柊と祐騎は相性が悪いのではなく、折り合いが悪いのか。考えを理解できるということは、近い何かを持っているということなのだろうから……やはり、単純に仲の良し悪しとだけで測れる問題でもないらしい。

 

 空が理解できないのはきっと、求められた才能と持ち合わせている才能がかけ離れていないからだろう。己も才能を巡った事件に遭遇していた彼女ではあるが、少しばかり問題のベクトルが違っている。

 彼女の祖父は道場の師範だと言う。その上で彼女も流派を継ぐ者の一員として努力してきた。

 これがある意味“噛み合っている才能”。

 

 では、“噛み合っていない”才能とは。

 それこそが祐騎とその父の問題。父親の理想とする四宮祐騎像を構成する才能を祐騎が持っておらず、その代わりに類まれな才能を持っていた、というだけの話だ。

 父親はその才能を認めず、自分の思う通りに育てようとした。

 祐騎は自らの才能を活かせば、色々なことができると信じていた。

 だから喧嘩別れのようなことをして、家出という結論を彼は選んだのだという。

 

 詳しい話は、父親のシャドウからでも聞けるだろう。恐らく、自分たちが説き伏せなくてはいけないのは、そこの辺りの思い込みだ。

 なぜ彼がそこまで才能を重要視するのか。なぜ頑なに他の道を進むことを許さなかったのか。

 今、何を考えているのか。

 

 知ろう。

 知って、祐騎にも分かってもらおう。

 親と仲違いというのはきっと、悲しいことだと思うから。

 

 

 

 でもそうなると、親と子の正しい在り方って、いったいどういうものだろうか?

 

 

 

 




 

 お部屋イベント。
 特定のアイテムを持っていると、仲間たちの好感度が上がるシステム。
 今回満たせたのは、祐騎と璃音だけでした。

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