PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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6月28~29日──【教室】フウカの憂鬱

 

 

 

 今日はどうしようか。

 仲間全員と話すことには、一応成功した。まあ柊には接触はできたということにしておく。

 となると、異界攻略へ挑むかどうかだが……うん、もう少し時間を置こうか。

 そうだな、土曜日あたりに行こう。

 今週は午前授業だし、事前に言っておけば集まりに支障はないはず。特に疲れが残っていなければ、日曜日に再挑戦だってできる。

 

 差し当たって今日何するかと言えば……部活か。最近ご無沙汰していたこともあるし。

 特別何かがある、という気はしないが、活動はしておくべきだろう。一刻も早く泳げるようになりたいのは本当だ。異界に遠泳を求められる可能性もありにしもあらずなのだから。

 いまだに滑る床は少しトラウマである。

 ……部活に行こう。

 

 

────>クラブハウス【プール】。

 

 

 全力で水泳の練習をした。

 少しだが息継ぎのコツを掴めた気がする。

 ……何か教本があればできるようになりそうだが……試験が終わったら買ってみようか。

 まだ25メートルを泳げそうにはない。

 少し根気が上がった気がする。

 

 ……帰るか。

 

 

──夜──

 

 

────>【マイルーム】。

 

 試験に向けた勉強を始めよう。

 ……そういえば、“異界攻略を速く終わらせることができれば、余った日にちで勉強会を提案できる”な。

 そういう意味では、勉強は後回しで異界攻略を済ませるべきかもしれないが……まあ一度決めたことを覆すのも変か。この調子で行くとしよう。

 無論、休憩を適切に取りながらも、早めに終わらせる気ではいるが。

 

 

──6月29日(金) 放課後──

 

 

────>杜宮高校【保健室】。

 

 

「そう、そんなにいい人なのね、時坂君。私も少し前に頼み事をしたけれど、嫌な顔1つせずに手伝ってくれたの。今度お礼を言っておいてくれる?」

「……いいえ、それはフウカ先輩の口から直接伝えるべきかと。何でしたら呼び出しますし」

「そうかな……そうだね、お礼の言葉くらい、自分で言わないと」

 

 

 放課後の保健室、廊下側にあるベッドに横たわるフウカ先輩に、少しの間話しかけている。

 

 ……なんでも、体育の時間中に倒れたらしい。

 

「そもそも、体育出れるんですか?」

「調子のいい日はね。けれど今日は見学だったよ」

「でも倒れたんですよね?」

「休憩中にね」

 

 ああ、そういうことか。

 

「少し湿度が高かったのもあるみたい」

「全国的に熱中症が流行り出す時期みたいなので、フウカ先輩も気を付けてください」

「ええ、あまり心配ばかり掛けていられないものね」

 

 フウカ先輩はやる気みたいだ。

 顔色はあまり宜しくないが、良い目をしている。

 

「今日だって、大丈夫って言ったのに絶対安静って保健室に取り残されちゃって」

「構ってくれそうな自分に声を掛けたと」

「構ってくれそうって……まあ、その通りかな。君なら私の気持ちを理解してくれるかなって思ったのもあるけれど、何かあった時に一番変化に気付いてくれそうだし」

「そうですか?」

「そうだと思う。君、結構人のこと観察している節があるもの」

「先輩も同じだと思いますけど」

「入院者の相かな。来てくれる人が少ないから、じっくり話しちゃうの」

「分かる気がします」

「やっぱり?」

 

 そんな入院トークを続ける。

 観察している節、か。分かる物なんだな。もう少し気を使わないと、不快に思う人がでてくるかもしれない。

 

「ねえ、岸波君は退院をするとき、どんなことを想った?」

「退院するとき?」

 

──Select──

 >ひゃっほう自由の身だぜ。

  今後どんな生活が待っているのかドキドキ。

  病室が恋しくて寂しい。

──────

 

 

「…………あらあら」

「…………ははは」

 

 

 真面目に答えた方が良さそうだった。

 

 

──Select──

  ひゃっほう自由の身だぜ。

 >今後どんな生活が待っているのかドキドキ。

  病室が恋しくて寂しい。

─────

 

 

 特に思ったことなんてない気もするが、振り返ってみるとそれは、未来のみを向いていたからだろう。

 例えば退院する病院のことを考えたなら、そこで過ごした時間を重要視しているということだ。

 自由になった。解放された。と喜んでいたなら、それは今現在を重要視しているということ。

 そして、未知の事柄へ興味を抱くのは、未来を渇望しているから。

 

「そう……強いんだね、岸波君」

 

 自分の答えに儚い笑みを浮かべるフウカ先輩。きっと彼女の答えは、自分とは違うものだったのだろう。

 なにか、言わなければ。

 

 

──Select──

  これから強くなれば良い。

 >変に焦るな。

  ……(無言)。

─────

 

 

 

「焦るな、か。ううん、焦るよ。焦っちゃう。いつ、なにが起こるか分からないから」

 

 フウカ先輩が抱えている原因不明の病気。それは爆弾にも等しい。焦る気持ちは充分に分かるつもりだ。いまできることをしていかなければ、という気持ちは、自分がいつも抱いているものと同じだから。

 

「時間がないと思うからこそ、1つ1つを大切にこなしていくべきだと思う」

「分かっているけれど……」

「それが難しいことなのも、分かってる」

 

 彼女と自分の違いは、今も蝕んでいるものがあるかどうか。

 そういう意味で、完璧な助言は難しいだろう。彼女は実際に自分が苦しんでいる姿を見たことがなく、自分は彼女の苦しむ姿を見ているのだから。

 思い出せ。

 そんな彼女にもせめて、未来に対する希望だけは抱き続けてほしい、と。自分が見ている“楽しいもの”を伝えていく、という形で、この関係を始めたのだ。

 

「……ごめん、少し体調が悪くなってきたかも」

「そうか」

 

 

 無論、嘘だろう。いや、病は気からともいうし、本当になってしまうかもしれないが。

 それはともかくとして、一旦退いた方が良さそうだ。いまの状態では何をしても無駄になりそうだから。

 

 ……1度、誰かを間にいれて話してみるべきかもな。

 

 そんなことを考えつつ、保健室を後にした。

 

 そろそろ帰ろう。

 

 

 

──夜──

 

 

 ……勉強、息詰まってきたな。

 

 

「サクラ、音楽を流してくれないか?」

『はい、どんな音楽が良いですか?』

 

 

──Select──

  穏やかな曲。

  明るい曲。

  激しい曲。

 >お任せで。

──────

 

 

『分かりました。お任せください、先輩』

 

 

 ………………っ。

 

『どうでしたか?』

「……疲れた」

『……残念です』

 

 

 頭が混乱してしまった。……こうなったらもう進められないな。今日はもう寝るとしよう。

 

 




 

 コミュ・死神“保健室の少女”のレベルが3に上がった。
 
 
────


 知識  +3。
 根気  +2。


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