PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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6月24日──【マイルーム】杜宮の街の協力者たち

 

 

 さて、今日は日曜日だ。何をしようか。

 

 異界へ行っても良いんだが……先に色々と済ませておこう。

 まずは買い物かな。

 

 

────>商店街【倶々楽屋】。

 

 

「ようこそ【倶々楽屋】へって、あなたは確か、アスカさんの……」

「ああ、協力者の岸波だ」

 

 出迎えてくれたのは、着物に身を包んだ【倶々楽屋】の看板少女、マユ。

 お店の奥には職人であるジヘイさんの姿もあった。一瞬だけこっちに視線を流して、また別のことに集中してしまったが。

 

「本日はどうされたんですか?」

「ああ、装備を整えたくてな」

「装備、ですか。そういえば昨日、アスカさんもコウさんも訪れになっています」

 

 洸と柊が、か。

 昨日といえば、作戦会議の後だな。

 

「あの、何か起こってるんですか?」

 

 心配そうな表情で現状の情報を求める彼女。だが当然、軽々と話していい問題でもなかった。それに申し訳ないが、十中八九、マユに関係する事件でもない。

 今の自分では、誤魔化すことしかできなかった。

 

「……大丈夫、気にするようなことじゃない」

「でも……」

「フン……マユ、客の都合にいちいち首を突っ込んでどうなる」

 

 そこでジヘイさんが、金槌で刃を叩きつつ、話に参加する。

 驚いた。積極的に会話をする気はないだろうが、まだまだ半人前の自分と話したくなるとは考えづらい。としたら彼は、可愛い孫のために忠告へ出て来たのだろう。

 

「ワシらはただ、最高の得物を作ることに集中していればいい。好奇心が強いのは良いが、肩を入れすぎるな。良いか、ワシらは道具屋。戦士として己の足で戦場に立つことを選んだ娘とは異なる。事情を知った所で道具屋は道具を作って売るだけ。他には何もできん」

「……岸波さん、すみませんでした。困らせてしまって」

「いや、気にしていない」

 

 

 武具職人の世界は、正直まったく分からない。職人と呼ばれるジヘイさんがどれだけ年月と経験を積み重ねたのかも。マユがどれだけつらい修行をしているのかも。

 だが、人と関わることが間違いだとは、決して思えなかった。

 自分がいくら言った所で、きっと聞く耳を持っては貰えない。自分でなく他の誰かが……例えばプロとして有名な柊が諫言したらどうだろう。

 ……聞いてくれ無さそうだな。まずは信頼と実績を高めることが必要かな。

 

「さて、ご注文を承ります」

 

 無理して笑顔を作り出すマユに、注文を伝える。少し悲痛だったが、どうすることもできない歯痒さだけは、忘れないようにしよう。

 

 

────>駅前広場【さくらドラッグ】。

 

 

 倶々楽屋での準備も一段落。これで武具関係は最新にアップデートされたから、次に手に入れるべきは薬。回復薬を手に入れるために、駅前広場の薬局を訪れていた。

 店主のミズハラさんとはもうそこそこの回数コミュニケーションを取っている。今日も買い物を済ませると、彼から話しかけられた。

 

「どうもありがとう。岸波君、最近調子良さそうだね」

「そうですか?」

「ああ。なんというか、少し楽しそうだ。表情には出てないけど、なんとなく分かるよ」

 

 眼鏡の奥にある目を覗くと、本気でそう言っているらしい。いつもより喜びが深そうな顔をしている。

 

「なんだか、嬉しそうですね」

「そうかな。まあ初日の岸波君はなんというか、掴み処のない青年って感じだったからね。なんとなく理解できてうれしい、というのもあるのかもしれない」

「そういうものですか」

「よく分からないことを知る、というのは面白いことさ」

 

 まあ言っていることは分かる。その感情に同意もできる。

 その対象が自分、ということに少しだけ納得がいかないけれど。

 

「まあ、今後ともご贔屓に。よい付き合いをしていこう」

「そうですね」

「……うん、その素朴で普通な感じが良いな」

 

 え、なんで急に貶されたのだろうか。

 え、というかまだ普通!? こんなに良いTシャツを着ているのに……いいや、まだ1人目。他の人がどう思っているのか分からないし、我慢だ。

 

「どうかしたんですか」

「……さっき、久我山さんが来た時に同じことを言ったら、商魂逞しそうな営業を受けたよ。あたし達のこともよろしくお願いしますね。とか、CMのお話があったら相談してくださいね。とか、まあ色々とね」

 

 ……なんで璃音がそんなことを?

 少しばかり押しつけがましい自身の押し売りは、まああることかもしれないが、少なくとも自分たちのときにはCD購入を押し付けられた、といった営業じみたことはしてない。最初だって、渡されたCDは買わせるのではなく貸し渡す、といった形だったし。

 まあ同年代への対応と社会人への対応の差、と言われたら納得してしまいそうになるが……あの璃音が、か。

 

「友人が、ご迷惑をお掛けしました」

「構わないよ。正直不快だったわけではないしね」

 

 懐の深い人で良かった。

 ……今度、璃音にそれとなく聞いてみるか。

 

 

────>【駅前広場】。

 

 

 さて、せっかく駅前広場に来たし、何かしておきたい……と思ったが、やることならあったか。

 

 【さくらドラッグ】の隣に立つ、【スターカメラ】へと視線を向ける。

 駅へ向かうなか、SPiKAの曲が流れていた。

 ……そういえば、そろそろアクロスタワーでコンサートがあるとか聞いたな。いつかは行ってみたいものだ。

 

 さて、スターカメラ、スターカメラ。

 

 

────>駅前広場【スターカメラ】。

 

 

「さてさて本日は大安売り! テレビとDVDデッキがセット価格で大変お安くなっております!」

 

 

 ……買った!

 

 

──夜──

 

 

 テレビの配線を終わらせると、漸く視聴が可能となった。これでテレビ番組などの録画ができるようになる。

 レコーダーもつないだし、どこかでDVDを借りるのも良さそうだ。

 そのうちゲーム機なども買ってみようか……

 

 




 

 コミュ・愚者“諦めを跳ね退けし者たち”のレベルが4に上がった。
 


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