PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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6月23日──【空き教室】攻略会議 1

 

 

「それでは、作戦会議を始めましょう」

 

 前回の話し合いから2日。各々が情報を持ち寄って、方針の決定に向かって意見を合わせることにした。

 

「まず最初に、全員が分かっている情報の整理から行きましょう……岸波君、黒板」

「ああ」

 

 流れるように書記をやらされているが、まあ別に文句はない。もともと自分のやり出したことだ。それに、情報を可視化する、というのは大事だろう。

 

 黒板の前に立つ。

 そういえばいつの間にか、席が定位置化してきたな。黒板側で窓に近い方から、自分と璃音。その反対側には洸、柊、空が順に座っている。自分の対面に洸が座っている形だ。

 その席順もあって、この位置からだと全員の姿はよく見渡せるが、璃音の表情だけ分からないようになっている。彼女が半身でこっちを向いてくれると助かるのだが……まあ、そこら辺は良いか。

 

 ……どうしたら見やすいだろうか。

 なんとなく、下書き的に5W1Hにでもしてみようか。

 

 発生日時(いつ)

 

 発生場所(どこで)

 

 異界主(だれが)

 

 対象(なにを)

 

 発生理由(なぜ)

 

 被害現状(どのように)

 

 被害予測(どうした)

 

 こんなものだろうか。

 柊が頷いているし、前準備としては良いのだろう。

 

 

「異界の主は1年、四宮(しのみや) 祐騎(ゆうき)君のお父さま。6月20日に異界は発生し、杜宮記念公園横のタワーマンション入口付近に顕現しているわ」

「巻き込まれたのが、ユウ君のお姉さんである四宮 (あおい)さんですね。ちょうど居合わせていた私と岸波先輩が確認してます」

「ええ。そして、マンションの入口付近という人通りが一定数以上ある場所だったけれど、他に被害者はゼロ。平日の、しかも帰宅が集中する時間でこの数字は、せめてもの救いと言って良いわ」

 

 救い、か。確かに多少不謹慎であるが、救う自分たちからしてみれば、助ける対象がいればいるほど困難になっていく以上、そう表現するのも正しいかもしれない。

 とはいえ、進んでそう言いたくはないが。ユウ君の前で同じことが胸を張って言えるか、と言われたら、絶対に無理だろうし。

 そこらへん、柊なら言えるかもしれない。そこが自分たちと柊の違い、かもしれないな。

 異界と長く付き合ってきたからこその、割り切りの良さ。判断の速さ。客観性の保持。どれをとっても、真似できそうにない。

 

 そんなことを思いつつ、空白の部分に今の情報を書き入れていく。

 あと埋まってないのは、対象、発生理由、被害予測か。

 

「それでは、各自集めた内容を共有していくとしましょう」

 

「なら先に自分から。近所を回った結果だが、特に何もなかった。ユウ君が引き籠りがちの生活をしていたという証拠なら、ピザの宅配が何度も部屋に来ていることから推測できるが、分かったこととしたらその程度だろう」

 

 なんにせよ、ご近所づきあいができたから、自分としては少し満足している。

 

「商店街、周辺公園でも、ユウ君は辛うじて目撃証言を得られるんですが、お父さんとなるとまったく話を聞けませんでした。あまり常日頃の関りはなさそうです」

 

 空の報告。彼女は関係者である四宮家3名の目撃情報がないかを、色々な場所で聞き込んでもらった。

 もしその時、喧嘩かなにかをしていれば、目や記憶に残っていると思ったのだが……当てが外れたな。

 

「ちなみにそれ、葵さんは?」

「葵さんはアクロスタワーにお勤めになっているみたいで、蓬莱町でも何度か見たという声は聴いています。けど、ユウ君やお父さんと一緒の姿は見られていないそうです」

「なるほど」

 

 空もあまり収穫なし。強いて言うなら、3人は普段外で会う間柄ではない、ということが分かったくらいだろうか。

 

「それじゃあ次は私から。一昨日、北都会長から受け取ったデータによると、四宮君は1人暮らしで、異界化場所であるマンションに越して来たのが、今年。バイトしている形跡はないみたいだけど、お金はしっかりと払っているそうよ。契約者の名義はお姉さんね」

「は? マンションの契約者まで分かるのか、生徒会長って?」

「いいえ、これも彼女が北都に連なる者だからでしょう」

 

 美月もあそこに住んでいるから、ということか。

 そういえば自分があそこに住んでいるのも、北都の勧めだった……関連の建築物なのかな。詳しいことは分からないけれど。

 

 北都グループの凄さが、また分かった気がした。

 

「まあ何はともあれ、情報助かったってカンジだ。他には?」

「とくには何も。越してくる前の家庭環境などはないから、家族の事情として提示できる内容はないわ」

「……うーん、やっぱり思ったより集まらないね」

「そういう久我山さんは何かあったの?」

「なーんもなし」

 

 お手上げだった、と手の平を空へ向ける璃音。

 最後の頼みは時坂に。

 

「それじゃあオレから21日の報告だな。ソラと一緒に職員室に行って、トワ姉に聞いたんだ。1年の四宮について何か知らないかって」

「九重先生自身あまり詳しくはなかったみたいですけど、最初の目論見通り、ユウ君の担任の先生に取り次いでもらえました! そこで得た情報なんですが、やはりユウ君は学校に来ていないみたいなんです」

「理由は?」

「それがその……学校に来る理由がないから、だそうで」

 

 学校に来る必要がない?

 そういえば、最初に会った時に言っていたな。

 

『別にどうしようが僕の勝手でしょ。ま、学校なんて行ってもツマラナイしね』

 

 あの時は聞けなかったが、この言葉にも彼の大事な気持ちが乗っていたということか。

 ……もっと踏み込んでおくべきだったか。

 

『ほんとサイアク。これだから学校なんて……』

 

 異界が生じる前、最後に会った日。別れ際にそんなことを言っていた。

 察するに、規則や姦しさが嫌い、というのもありそうだが……決定的ではないな。

 そういえば、彼について気になることがあった気がする。

 それは……

 

 

──Select──

  学校に行かない理由。

 >お姉さんの年齢。

  自分の学年を知っていた理由。

──────

 

 

 ……いや、気になる。非常に気にはなるが、それはユウ君についてではない。

 ……さり気無く、父親とユウ君と一緒に年齢を聞いてみるか? 誰かが集めた情報にあるかも。

 聞かないけど。

 

 

──Select──

  学校に行かない理由。

  お姉さんの年齢。

 >自分の学年を知っていた理由。

──────

 

 

『って何呑気に話してんだよ! センパイも!』

 

 センパイ。彼は自分をそう呼称した。会ったのはたった数度。自分の記憶する範囲では、彼と学校内で会ったことはそれまでにない。まあ確かに自分の評判は知れ渡っているのかもしれないが、あまり学校に行かない彼が、その情報を偶然手に入れたと?

 あまり、素直にそう考えることは出来ないだろう。

 つまり、彼はそういう情報を調べられる立場に居たということだ。

 その立場とは。

 

 

──Select──

  探偵。

  秘密工作員。

 >ハッカー。

──────

 

 

 家から出ずに、情報を抜き出せる存在。恐らく出所はネット上。個人情報を難なく覗き見ることが出来る程の、検索能力に長けた人材。

 つまるところ、ハッカーだろう。

 そんな思考を、みんなに話してみる。

 

「なるほど……って、ちょっと待て。それが本当だとしたら、ふつうに犯罪じゃねえか」

「……ねえ、それって、女子のその、身体的特徴まで知れたりする?」

「仮にハッカーとしての実力があるなら、可能でしょうね。現に岸波君の学籍を覗いているわけだし。尤も、身体的特徴までデータで保存してあるかは分からないけれど」

「よし、異界攻略したら四宮君をぶっ飛ばしに行こう」

 

 

 璃音が腕まくりをする。表情は見えないが、声は本気だ。ちょっと低いし。

 どうにかしてフォローできないかと思案するものの、難しい。異性からすると口を出しにくい話題だった。

 しかし、自分たちの中には切り込み隊長が居る。彼は、ゆっくりと口を開いた。

 

「……いやその、四宮にだって情報の好き好みくらいあるんじゃねえの。わざわざ女子のデータなんて」

 

 残念ながら、ただの無神経だった。

 

「時坂君……」

「時坂クン……」

「コウ先輩……」

「すまんハクノ、助けてくれ」

「洸くん……」

「気持ち悪っ!」

 

 流れに乗って、興味のないものを見る目で洸を見てみたが、駄目らしかった。

 

 閑話休題。

 

「四宮君がハッカーである可能性は分かったけど、それがどう影響するというの?」

 

 持ち直した場で、柊が聞いてくる。

 ユウ君がハッカーだとしたら、どういう問題が付いて来るだろうか。

 

「単純に、身内に犯罪者を置いときたくないって感じじゃねえか?」

「あとは、恐怖心? ちょっと怖いかも……」

「……そうですね、そこらへんを含めて、家族として叱りたかったのかもしれません。間違ったことをしたら叱るっていうのは、当然だと思います」

 

 洸と璃音が出した意見を、空が纏める。妙に実感がこもっているというか、彼女の中で明確に推測できていそうに見えるな。

 

「空の家はそういうの、厳しいのか?」

「……えっと、人並みには」

「ま、郁島流の師範だしな。小さいときに会ったことはあるが、正義感の強い人だった。曲がったことをするヤツが身内にいれば、きっと容赦しねえだろうな」

「ははは……」

 

 時坂の指摘が的確だったのだろう。笑ってそれ以上の言及を避ける空だった。

 

 

「コホン。つまり、“息子を人の道から外させない”という義務感、が考えられるわけね」

「なら異界を生じさせた原因は、四宮にあるってことか?」

「現状の案でいくなら、そうなるわ」

 

 確定ではないが、これで対象者、発生理由の欄も埋まった。

 一応矢印か何かで結んでおいて、違った場合に訂正箇所を分かりやすくできるよう紐づけておこう。

 

 あと埋まっていないのは、被害予測……いつまでに攻略しないと人的被害が出るかを考えなければ。

 

 

「実際、何日間くらい保つか分かるか?」

「記憶を消す際に測ったところ、そう長くは維持されないでしょう。それに何より、“お姉さんであるアオイさんの異界適正は測れていない”の」

「「「「 !! 」」」」

 

 つまり、救出期限は分からず、できるだけ早い攻略が望ましいということか。

 

「だからそうね……お父さまの異界適正はC+。一般的な異界適正がCだから、それに則って言うなら、出来れば“10日”で救出しておきたいわ。可能であれば、“一週間以内”を目標に、まずはアオイさんを救出」

「その時できれば異界を攻略したいが、出来なければ?」

「追加で10日。計20日が、今回の最低限(リミット)ね。だから余裕を持って……日にちで言えば、“7月9日”までに終わらせたいわ」

「“7月9日”」

 

 被害予測の欄も埋める。これですべてが一応埋まった。

 それにしても、7月9日、2週目か……あれ、7月の2週目って何かなかったか?

 

「……あ、試験前だな」

 

 自分の言葉に、数人がハッとする。なお柊はこの中に含まれていない。

 

「“7月11日水曜日”から4日間だっけ、期末。うわ~」

「よ、4日もあるんですね……」

「あ、そっか。ソラちゃん期末は初めてだよね」

「中間に比べて、科目数も多いしな。ソラ、勉強は大丈夫か?」

「が、頑張ります!」

 

 そうだな、頑張ればなんとかなる。

 自分もしっかり勉強しなくては。

 

「まあ、その点は各自努力するとして」

「今回は勉強会しないのか?」

「……各自取り敢えずは努力してもらうとして、まずは異界攻略よ。岸波君、今回も指揮は任せるわね」

「ああ。みんな──」

 

 

──Select──

  

 >今回も、絶対に助けよう。

  

──────

 

 

「おう!」「うん!」「ええ!」「はい!」

 

 

 




 

 対象(なにを)被害現状(どのように)被害予測(どうした)

 どういう意味か、どうしてこのルビ振りになったか、書いた自分自身分かりづらく感じているので、一応追記を。


 対象。これは誰に対しての不満や鬱憤が溜まったか。何に対しての諦めがあったか。という事項ですね。1章なら夢に対して。2章ならソラに対して。といった感じ。


 被害現状はルビが足らない気がしました。どのようにして今、物や人を巻き込んでいるか。といった内容のつもりです。シャドウが諦める為に、何を取り込もうとしているのか。その巻き添えを誰が喰らっているのか、という割と重要事項になります。


 被害予測がどうした(How)なのは、何と言いますか……
 WhatとWhyの部分、つまり、理由が関係して動いた“結果/終着”がHowにあたるとします。異界化が発生し、放置された際の帰結は、『期日』に『諦めを完了』し、『巻き込んだ人の帰還』は叶わなくなるということ。その点はハクノもコウ達もよく理解しています。
 今回の場合、『諦めを完了』させない為には説得が必要。『巻き込んだ人の帰還』を達成するには、シャドウを倒せば良い。『期日』は過ぎるまでに達成できれば良いのですが、そ『期日』が分からない、というのが現状です。
 被害予測。その中でももっとも不透明な『期日』が“How”に該当した理由でした。

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