また、やってしまった……
「さて……」
「ふむ。ザビ、もう帰宅か」
終業のチャイムが鳴り早々に帰り支度を終えた時、サブローが話しかけてきた。
「いや、ちょっと七星モールに」
「ほう……フフ、ザビも着々と同志になりつつあるな」
同志? 何のことだろうか。
「それよりも、どうしたんだ。話しかけてくるのは珍しいな」
「なに、興味深い本が来週発売になることを伝えておこうかと」
「……何故自分に?」
「何故、とは……お前が他にも本を紹介しろと言ったのだろう」
そういえば、そんなことも言った気がする。
わざわざ教えに来てくれたのか。とても有り難い。
「それで、その本は?」
「ああ、科学白書というシリーズでな、今回は情報科学の“7月号・最先端AIと映画”という」
教えてもらったタイトルをそのままメモする。
AIについて、か。確かに興味あるな。
「ありがとう、読んでみる」
「発売は“6月23日”だ。フフ、語れる日を楽しみにしているぞ」
「ああ、自分も楽しみだ」
6月23日。忘れないようにしないと。
「時間を取らせたな。さあ、早く聖地へ行け、ザビ」
「あ、ああ、行ってくる」
所で、そのザビってあだ名はどうにかならないのだろうか。
────>コスプレショップ【ピクシス】。
昼、一通の告知が届いた。
『ご注文頂いた商品が届きました。1週間以内に取りに来てくださいますようお願いします。
ピクシス』
コスプレショップのピクシスで注文した物。間違いなく、アレだ。
放課後を告げるチャイムが鳴るのを、今か今かと待った。
そうして、ついに。
「すみません、注文していた岸波ですけど」
「あ、はい。お待たせいたしました。こちらが──」
受付のお姉さんが、後ろの棚から出した黒い布を広げる。
「──ご注文の、“Tシャツ”です」
それは、黒いTシャツだった。
真っ黒で、3点を除けばなんてことない、無個性で無地なTシャツ。
逆に言えば、3点──その両目と口の存在が、個性的。
「お間違いないでしょうか」
「はい、大丈夫です」
良かった。
これで普通だ無個性だと言われ続けた日々も終わり。
なんだか寂しい……なんてことはないが、まあ感慨深いのは確かかもしれない。
────>七星モール【1階】。
さっそく袋に入れてもらい、七星モールを後にしようと階段を降りた時、見覚えのある制服を見つけた。
杜宮学園の生徒で、けっこう見覚えのある少女だ。廊下で見かける機会が多いので、恐らく同学年の女子なのだろう。
彼女は七星モールに入るなり、まっすぐ入口すぐ横のお店へと向かって行った。
買い物だろうか。通るついでに少し見てみる。
どうやらレジにいる女性と話し込んでいるみたいだ。何やら随分仲が良さそうだが……というより、よくよく見れば似ている気が。
興味深さに足を止めて観察していると、女性の方が自分に気付いたらしい。女生徒にも声を掛けて、彼女が振り返った。
小走りで駆け寄ってくる。
「ハーイ、ザビ!」
「人違いです」
人違いであってほしい。
────>輸入雑貨屋【ウェンディ】。
「岸波白野です」
「こんにちは、カレンの母の、キャサリンです」
カレン──名前を聞いて思い出した。兼ねてより話がしたいと思っていた、外国籍の少女。柊のような帰国子女ではなく、アメリカ生まれでアメリカ育ち。それが彼女、明るく楽しい人と評される、2年C組のカレンだ。
容姿は金髪で碧眼。全体的に色白で、とても綺麗な顔立ちをしている。なんというか、生粋の外国人という感じ。璃音に聞いていた通りの風貌だった。
確か、母親のキャサリンさんがアメリカ人で、父は日本人、所謂ハーフらしい。日本語も一応話せるらしいが、日本の文化を誤解している節があるとか。ここら辺は洸から聞いている。あとは、母親が何かお店の店主をやっているとかも教えてもらったが。
「お母さん、ここで働いているのか」
輸入雑貨店、なるほど。
「ワタシもネ!」
「カレンもここでバイトを?」
「アルバイトじゃなくて、お手伝いだヨ」
「なるほど」
何が違うのかと思ったが、雇用関係とか給料が云々とかいう話はない、ということを伝えたいのだろう。多分。彼女からしたら、娘として家族を手伝っているだけ、みたいな感じだろうか。
……なんて偉いのだろうか。
「孝行娘だな」
「コウコウ……? ンー、よく分かんないケド、コウは関係ナイよ?」
「コウ?」
「コウ」
「コウって何だ?」
「コウはトモダチ、知らない?」
「友達……」
友達、ということは人の名前か。
コウ、コウ……洸! 時坂 洸!
「いや洸のことじゃなくて、孝行娘って言うのは、家族を大切にしている娘ってことだよ」
「う~ん、やっぱ日本語ムヅカシーね。でも、勉強になったヨ」
しっかりとメモする彼女。開いた拍子に中が垣間見えたが、びっしりと色々なことが書いてあった。真面目さが見て取れる。
それもそうか、彼女にとって日本は異国。知らないことだらけだし、覚えないといけないことも多くて大変だろう。
その苦労は、自分の比ではない。自分は最初0だったから、覚えるだけでよかった。だが彼女は、違う知識や経験を持っている状態から、まったく別の事を覚えようとしているのだ。常識やイメージが先行して邪魔してしまうことも多いだろう。
本当に、頑張って過ごしているんだな。
「カレン、何か困ったことがあったら相談してくれ」
「……こ、これはもしかして、“ブシドー・マインド”……!」
「え」
「困ってるヒト、女子どもにシンセツ! ワタシも見習わないと! ザビも、トラブルがあったらいつでも相談だヨ!」
「目下のところ困っているのは、ザビと呼ばれることくらいだな」
「?」
「ぜったい理解してない……」
というか、ブシドーマインドって何だ。
少しよく分からないが、今後付き合っていけば、きっといつかは分かるだろう。カレンも自分に興味を持ってくれたみたいだし、これからお互いに詳しくなっていけば良い。
新たな縁の息吹を感じる。
────
我は汝……汝は我……
汝、新たなる縁を紡ぎたり……
縁とは即ち、
停滞を許さぬ、前進の意思なり。
我、“太陽” のペルソナの誕生に、
更なる力の祝福を得たり……
────
その後も少し話したが、いつまでも仕事の邪魔をするのも申し訳ない。
帰ることにした。
──夜──
「またやってしまった」
目の前にあるのは、2冊の本。
図書館で借りた、“今日返却日だった本たち”だ。
……読み終わらないだけでなく、延滞してしまうなんて。
明日絶対に返さなければ。
「取り敢えず、今日は読める所まで読んでしまおう」
“3年F組・金鯱先生”は読了済みだ。
残る本は、“エジプト神話の偉大なる神”。時坂のペルソナ、ラーについて調べようとしたんだった。
さっそく読んでみよう。
エジプト神話、古代エジプトが発祥の神話の中において、ラーは最初にして最高の太陽神として考えられているらしい。他の神々を生み出したり、色々姿形が変わっていたりするが……とても難解だ。
だが、今の知識量なら、あと1日使えれば読破できる気がする。
取り敢えず、もう1回連続で借りられるか確かめる所からだな。
あと、しっかり謝らなければ。
コミュ・太陽“同い年の外国人”のレベルが上がった。
太陽のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。
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知識 +2。
>知識が“物知り”から“秀才級”にランクアップした。
────
白野が買った(作った)Tシャツは、Foxtailの3巻あたりからずっと着てるあれ。生地は黒っぽいけど、顔は何色なんだろうか。
カレンのキャラを掴み直そうと1日更新を遅らせました。
嘘です。日にち間違えただけです。
ともあれこれでインターバル3も終了。次話からは、新たな章の幕開けです。