PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

68 / 213
 

 また、やってしまった……




6月19日──【教室】隣のクラスのカレンさん

 

 

「さて……」

「ふむ。ザビ、もう帰宅か」

 

 終業のチャイムが鳴り早々に帰り支度を終えた時、サブローが話しかけてきた。

 

「いや、ちょっと七星モールに」

「ほう……フフ、ザビも着々と同志になりつつあるな」

 

 同志? 何のことだろうか。

 

「それよりも、どうしたんだ。話しかけてくるのは珍しいな」

「なに、興味深い本が来週発売になることを伝えておこうかと」

「……何故自分に?」

「何故、とは……お前が他にも本を紹介しろと言ったのだろう」

 

 そういえば、そんなことも言った気がする。

 わざわざ教えに来てくれたのか。とても有り難い。

 

「それで、その本は?」

「ああ、科学白書というシリーズでな、今回は情報科学の“7月号・最先端AIと映画”という」

 

 教えてもらったタイトルをそのままメモする。

 AIについて、か。確かに興味あるな。

 

「ありがとう、読んでみる」

「発売は“6月23日”だ。フフ、語れる日を楽しみにしているぞ」

「ああ、自分も楽しみだ」

 

 6月23日。忘れないようにしないと。

 

「時間を取らせたな。さあ、早く聖地へ行け、ザビ」

「あ、ああ、行ってくる」

 

 所で、そのザビってあだ名はどうにかならないのだろうか。

 

 

────>コスプレショップ【ピクシス】。

 

 

 昼、一通の告知が届いた。

 

『ご注文頂いた商品が届きました。1週間以内に取りに来てくださいますようお願いします。

                ピクシス』

 

 コスプレショップのピクシスで注文した物。間違いなく、アレだ。

 放課後を告げるチャイムが鳴るのを、今か今かと待った。

 そうして、ついに。

 

「すみません、注文していた岸波ですけど」

「あ、はい。お待たせいたしました。こちらが──」

 

 受付のお姉さんが、後ろの棚から出した黒い布を広げる。

 

「──ご注文の、“Tシャツ”です」

 

 それは、黒いTシャツだった。

 真っ黒で、3点を除けばなんてことない、無個性で無地なTシャツ。

 逆に言えば、3点──その両目と口の存在が、個性的。

 

「お間違いないでしょうか」

「はい、大丈夫です」

 

 良かった。

 これで普通だ無個性だと言われ続けた日々も終わり。

 なんだか寂しい……なんてことはないが、まあ感慨深いのは確かかもしれない。

 

 

────>七星モール【1階】。

 

 

 さっそく袋に入れてもらい、七星モールを後にしようと階段を降りた時、見覚えのある制服を見つけた。

 杜宮学園の生徒で、けっこう見覚えのある少女だ。廊下で見かける機会が多いので、恐らく同学年の女子なのだろう。

 彼女は七星モールに入るなり、まっすぐ入口すぐ横のお店へと向かって行った。

 買い物だろうか。通るついでに少し見てみる。

 どうやらレジにいる女性と話し込んでいるみたいだ。何やら随分仲が良さそうだが……というより、よくよく見れば似ている気が。

 

 興味深さに足を止めて観察していると、女性の方が自分に気付いたらしい。女生徒にも声を掛けて、彼女が振り返った。

 小走りで駆け寄ってくる。

 

「ハーイ、ザビ!」

「人違いです」

 

 人違いであってほしい。

 

 

────>輸入雑貨屋【ウェンディ】。

 

 

「岸波白野です」

「こんにちは、カレンの母の、キャサリンです」

 

 カレン──名前を聞いて思い出した。兼ねてより話がしたいと思っていた、外国籍の少女。柊のような帰国子女ではなく、アメリカ生まれでアメリカ育ち。それが彼女、明るく楽しい人と評される、2年C組のカレンだ。

 容姿は金髪で碧眼。全体的に色白で、とても綺麗な顔立ちをしている。なんというか、生粋の外国人という感じ。璃音に聞いていた通りの風貌だった。

 確か、母親のキャサリンさんがアメリカ人で、父は日本人、所謂ハーフらしい。日本語も一応話せるらしいが、日本の文化を誤解している節があるとか。ここら辺は洸から聞いている。あとは、母親が何かお店の店主をやっているとかも教えてもらったが。

 

「お母さん、ここで働いているのか」

 

 輸入雑貨店、なるほど。

 

「ワタシもネ!」

「カレンもここでバイトを?」

「アルバイトじゃなくて、お手伝いだヨ」

「なるほど」

 

 何が違うのかと思ったが、雇用関係とか給料が云々とかいう話はない、ということを伝えたいのだろう。多分。彼女からしたら、娘として家族を手伝っているだけ、みたいな感じだろうか。

 ……なんて偉いのだろうか。

 

「孝行娘だな」

「コウコウ……? ンー、よく分かんないケド、コウは関係ナイよ?」

「コウ?」

「コウ」

「コウって何だ?」

「コウはトモダチ、知らない?」

「友達……」

 

 友達、ということは人の名前か。

 コウ、コウ……洸! 時坂 洸!

 

「いや洸のことじゃなくて、孝行娘って言うのは、家族を大切にしている娘ってことだよ」

「う~ん、やっぱ日本語ムヅカシーね。でも、勉強になったヨ」

 

 しっかりとメモする彼女。開いた拍子に中が垣間見えたが、びっしりと色々なことが書いてあった。真面目さが見て取れる。

 それもそうか、彼女にとって日本は異国。知らないことだらけだし、覚えないといけないことも多くて大変だろう。

 その苦労は、自分の比ではない。自分は最初0だったから、覚えるだけでよかった。だが彼女は、違う知識や経験を持っている状態から、まったく別の事を覚えようとしているのだ。常識やイメージが先行して邪魔してしまうことも多いだろう。

 本当に、頑張って過ごしているんだな。

 

「カレン、何か困ったことがあったら相談してくれ」

「……こ、これはもしかして、“ブシドー・マインド”……!」

「え」

「困ってるヒト、女子どもにシンセツ! ワタシも見習わないと! ザビも、トラブルがあったらいつでも相談だヨ!」

「目下のところ困っているのは、ザビと呼ばれることくらいだな」

「?」

「ぜったい理解してない……」

 

 というか、ブシドーマインドって何だ。

 少しよく分からないが、今後付き合っていけば、きっといつかは分かるだろう。カレンも自分に興味を持ってくれたみたいだし、これからお互いに詳しくなっていけば良い。

 新たな縁の息吹を感じる。

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“太陽” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

──── 

 

 

 その後も少し話したが、いつまでも仕事の邪魔をするのも申し訳ない。

 帰ることにした。

 

 

──夜──

 

 

「またやってしまった」

 

 目の前にあるのは、2冊の本。

 図書館で借りた、“今日返却日だった本たち”だ。

 ……読み終わらないだけでなく、延滞してしまうなんて。

 明日絶対に返さなければ。

 

「取り敢えず、今日は読める所まで読んでしまおう」

 

 “3年F組・金鯱先生”は読了済みだ。

 残る本は、“エジプト神話の偉大なる神”。時坂のペルソナ、ラーについて調べようとしたんだった。

 さっそく読んでみよう。

 

 エジプト神話、古代エジプトが発祥の神話の中において、ラーは最初にして最高の太陽神として考えられているらしい。他の神々を生み出したり、色々姿形が変わっていたりするが……とても難解だ。

 だが、今の知識量なら、あと1日使えれば読破できる気がする。

 

 取り敢えず、もう1回連続で借りられるか確かめる所からだな。

 あと、しっかり謝らなければ。

 

 




 
 
 コミュ・太陽“同い年の外国人”のレベルが上がった。
 太陽のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。


────
 

 知識  +2。
 >知識が“物知り”から“秀才級”にランクアップした。


 
────


 白野が買った(作った)Tシャツは、Foxtailの3巻あたりからずっと着てるあれ。生地は黒っぽいけど、顔は何色なんだろうか。
 カレンのキャラを掴み直そうと1日更新を遅らせました。
 嘘です。日にち間違えただけです。
 ともあれこれでインターバル3も終了。次話からは、新たな章の幕開けです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。