PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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6月18日──【教室】(ネタバレ)璃音→白野 返信時間 22時30分

 

 

『ゴメン、今日の放課後は時間あるかな?』

 

 昼休み、ご飯を食べていると、サイフォンが振動した。

 送信者は久我山璃音。

 ……そういえば、先週も何か自分に用事があるような素振りを見せていた。もっと早く、こちらから声を掛けるべきだったかもしれない。とにかく、今日の放課後は璃音と一緒に過ごすか。

 快諾の返事を送り、サイフォンをしまう。

 さて、それじゃあ今日の予定も決まったし、ご飯を──

 

 

 ──ガタッ!!

 

 

「ど、どうしたのリオンちゃん、急に立ち上がって」

「ふ、震えてるよ……? 風邪? 保健室行く?」

「~~~~~っ! だ、大丈夫、大丈夫だから!!」

 

 急に大きな音が響いて来て驚いたが、どうやら璃音が急に立ち上がった所為らしい。どうかしたんだろうか。

 

『大丈夫か、具合が悪いなら日を改めても良いぞ』

 

 心配なのでこれくらいは送っておこう。

 

「いや何で!?」

 

 返ってきたのは悲鳴だった。

 

 

──放課後──

 

 

 授業が終わり、鞄の中に教科書を詰めていると、身体の後ろで手を組んだ璃音がこちらにゆっくり歩いてきた。

 

「あ、あのさ、今日は……」

「ああ、どこに行く?」

「~~っ!」

 

 ? 急にガッツポーズし始めたが、何なのだろうか。

 

「どうした?」

「え、ああ、ウン。まあその……ほら、先週から全然捕まらなかったから」

「そうか?」

「そうだよ! 木曜も金曜も授業終わるなりすぐ出てっちゃうし!」

「……そういえば」

 

 確かに木曜は早くスケボーがしてみたかったし、金曜はTシャツのデザインをいち早く持っていきたいと焦っていた。

 そうか、それは悪いことをしたかもしれない。

 

「でもそれなら、今日みたいに連絡してくれれば」

「……良いから、いこっ!」

 

 ……まあ確かに、ここで話しているのも時間が勿体ないか。

 会話なら歩きながらでもできる。移動を開始しよう。

 

 

────>ブティック【ノマド】。

 

 

「来たかった所って、ここか?」

「ううん、ここはついで」

 

 ついで?

 

「せっかくだし、男子の服でも選んでみようかなぁって」

「……自分の?」

「そ。こんな機会じゃないとこういうの出来ないし、キミが適任だったからさ」

「適任……」

 

 どういう意味でだろうか。

 璃音が自分に抱いているイメージといえば……認めたくはないが、平凡、という言葉で片付く。つまりその……平凡だからできる、ということか。

 

「さっぱり分からない」

「ふふっ、良いから大人しくしときなさいって。アイドルにコーディネートしてもらえるなんて、ファンだったら……ず、ず……必髄ものなんだから!」

「……垂涎?」

「…………どっちでも良いでしょ! ほら、さっさとコッチに来る!」

 

 まあ確かに、喜んでもいいところだろう。身近にアイドルが居なければ、絶対にしてもらえない経験だ。

 でも少し、本当に少しだけ複雑でもある。自分の力で彼女には“平凡じゃないこと”を認めてもらいたかったから。おしゃれだってそうだ。何よりもまず、自分のセンスであっと言わせたかった。

 まあ今日は、勉強させてもらうとしよう。

 きちんとした服を着れば、平々凡々な自分から脱却できるということが証明できるなら、それもまたいい経験となるはずだから。

 

 

────

 

 

「うーん、地味、かなぁ。次」

 

 

────

 

 

「なんかピンと来ないなぁ。次」

 

 

────

 

 

「あれー……? ま、まあ、次……」

 

 

────

 

 

「ううううっ……………次」

 

 

────

 

 

「……うん、止めよっか」

「……璃音」

「いやー……──っていうかホラ、そろそろ本題に入りたいし、そろそろ出よ、ねっ!」

 

 

 ……ちくしょう。

 

 

────

 

 

────>カフェ【壱七珈琲店】。

 

 

 強引に店外へと追い出され、次に連れてこられたのは近くの珈琲店。

 ここに下宿している柊はいない。今日はシフトではないらしい。

 

「この前の誕生日会は盛り上がったネ!」

「ああ、そうだな」

 

 そういえば、前回訪れたのは柊の誕生日と空の歓迎の合同会の時か。

 とても楽しかった。みんなでわいわい騒ぐ、というものの楽しさを、初めて知った気がする。

 こうして友人と1対1で楽しむ、というのもとても良い時間だ。しかしああいう風に大勢で集まる機会ももっとあれば良いな。

 

「特に最初のアスカがキョトンとした顔! 写真に撮っておけば良かったなー」

「自分は後ろ姿しか見ていなかったが、そんなにレアな表情だったのか?」

「ウンウン、目がぱっちり開いてて、口が半開きになってた。本当に可愛かったんだって!」

「そうなのか。自分も見ればよかったな」

「損したねー……ううん、こっちが得したってカンジかな。ホント、協力してくれてアリガト!」

 

 朗らかな笑みを、彼女は浮かべる。人を(ファン)にする、素敵な笑顔。

 ……それが言いたくて、わざわざ?

 恐らく違うだろう。お礼だけだったら、もっと早く言いに来ているはずだ。少なくとも久我山璃音は、そういうのを後回しにする人間には見えない。

 だとしたら、本題はこの後だろう。

 

「それでさ、どうだったの?」

「何がだ?」

「あれからアスカと仲良いみたいじゃん。後押しした身としては気になってて」

「後押し?」

「忘れられてる!?」

 

 ……ああ、そうか。そもそも彼女が勇気を出して、柊に声を掛けたのがきっかけ。その時に自分と柊の間にも約束が生まれて、気軽に声を掛けて良いのだと感じたのだ。

 まああの後柊との間にも色々あったからな。ペルソナでの戦闘を見せてもらった後、厳しめな忠告を受けて、彼女の優しさを知り。彼女の協力者と話すことで、普段見えていなかった面も知り。

 彼女と仲が良い、と断言できるほど彼女を知っていないし、共に過ごしたわけでもない。しかし、もっとこの人と向き合っていこう、というように思えるようになった。

 そしてそれは間違いなく、

 

「璃音のおかげだ」

「──え」

「璃音が勇気を出して声を掛けてくれたから、歩み寄れるようになった。本当に助かったよ」

「……そっか」

 

 最初は驚いたように小さく開けた口を、今度は横に広げて。

 

「そっかぁ」

 

 心底嬉しそうに、弧を描かせた。

 

「じゃああたしも、アスカともっと仲良くならないと!」

「ああ、お互い頑張ろう」

 

 

 もっとも彼女なら、すぐに仲良くなれると思うが。

 その明るさ、優しさは、人を惹き付けられるものだ。

 これが、アイドルの素質か。

 

 少し、璃音のことが分かった気がする。

 

 

────>レンガ小路【通路】。

 

「それじゃ、今日はアリガト」

「いや、こちらこそ。楽しかった」

「楽しかった……?」

「? 何で驚く?」

 

 何か変なことを言っただろうか。

 ひょっとして、つまらなかったとか?

 と思ったら、璃音は急にしゃがみ込んだ。

 

「え、あれ、まって。……え。ひょっとして今日のって……あ、ああああああ……」

「え、どうした」

「……う、ううん、何でもない」

「何でもないって、そんな」

「何でもないの! じゃあね!」

 

 

 ……走り去ってしまった。

 顔が赤かったが、大丈夫だろうか。まだ21時前だし、帰れないということもないだろうが、少し心配だ。

 ……念のため連絡入れておこう。

 大丈夫か、と。

 

 

 

 

 

『大丈夫、アリガト。あたしも楽しかったよ、今日ので・え・と』

 

 

 




 

 コミュ・恋愛“久我山璃音”のレベルが2に上がった。
 
 
────





 恋愛コミュって総じて恋愛雑魚のイメージ。
 いやでも、女教皇ほどでもないか……うん。
 あ、一応言っておくと、璃音に恋愛感情はありません。今の所。
 まだコミュランク2ですし。
 ……え、こいつまだ2なのか。




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