閲覧ありがとうございます。
書こうと思ったらできました。
短いですけど。
「スケボー体験?」
「そうなんです。この前コウ先輩と行って……岸波先輩も良かったら一度行ってみてください!」
登校中に偶然出会った空からそんな話を聞き、少し興味があったので放課後さっそく来てみた。寧ろ急いで来てしまった為、周囲に高校生らしき人影はない。息を切らしている自分の姿が、少しおかしく思えてしまう。
……まあ、いいか。
杜宮記念公園の売店の前を右折した広場。そこに専用のコースがいくつも広がっている。存在自体は、来訪初日から知っていたのだが、こうしてきちんと覗くのは初めて。
いったいどんな感じなのだろう、楽しみだ。
さて、何にせよまずは受付を済ませなければ。
「お、いらっしゃい。見ない顔だな、初めてかい?」
事務所のような建物に入ると、男性が出迎えてくれた。
レジが併設されたカウンターらしき場所と、ボードやその他よく分からない道具が多く飾られたスペースと、の2領域に室内は分かれている。
取り敢えず、マスターらしきこの人物に指示を仰ごう。
「はい、初心者なんですけど、レンタルとかってできますか?」
「出来るよ、ほれ。そこにあるものの中から好きなのを選びなさい。フリータイムで1回800円だ」
借り受ける前に怪我についての注意書などを渡され、サインをしてからまずプロテクターを付ける。その上で複数あるボードの中から1つを選ぶらしい。
取り敢えず手を伸ばした先には、真っ黒なボードがあった。
……いや、ここでこういった無難に見えるものを選ぶから、平凡だとか言われるんじゃないか?
迷った末1つ隣の、黒いボードに白丸で目と口が書かれたものを手に取る。
「……うん、我ながら良いセンスかもしれない」
何よりも、これで誰から見ても平凡そうとは思われないだろう。
心晴れやかに、初心者コースへと向かった。
初心者コースには小さな台と反った坂があるくらい。遠目に見える中級者コースなどにある谷やバーなどは存在しなかった。少しだけ安心する。
さて…………1人だと心細いな。
「サクラ、少し良いか」
『はい、異界探索ですか?』
「いや、スケボー」
『……はい?』
「良いから、見ていてくれ」
サイフォンを、カメラだけきちんと出るように胸ポケットに入れる。
そのまま、取り敢えず片足を板に乗せて蹴って見ることにした。軽く。
数回繰り返してみて、何となく両足を乗せても大丈夫なくらいにはなってきた。
「どうだ?」
『え? いきなりどうだと言われましても……』
「きちんと漕げているかなって」
『……動画サイトに上がっている動画を提示しますね』
すぐさま、初めて見る男性が凄い技を繰り広げる動画が再生され始める。
まあこれはこれで凄いのだが、今の自分にとってはまったく参考にならない。
「そういうのじゃなくて、漕ぎ方とかどう感じるかとか」
『申し訳ございません、私は感情を搭載していませんので、お答え仕兼ねます』
「……そうか」
高機能AIとはいえ、感想を聞くのは難しいみたいだ。
ならば、どうしたものか。
「こういうのはどうだ。実際のレクチャー動画と見比べて、動きが変なところがあるか検証する、とか」
『あ、そういうことでしたら可能ですね。では準備をしますので、サイフォンを先輩が見えるような位置に立て掛けてください』
「ああ」
近くの坂に、カメラが全身を捉えられるように置く。
周囲に人は……よし、居ないな。
「行くぞ……っ」
先程掴んだ感覚で、少しだけ速度を出した状態で乗ってみる。
少しぐらついた。
「何か変な所あったか?」
『変、というかは分からないですけど、その、乗った時の膝が伸びっぱなしの所とか、姿勢とかは動画との間に差異がありました』
「うん、それを変って言うんだ」
『……覚えておきますね』
しかし、膝か。伸びていておかしいと言うなら本来は曲げるべきなのだろう。
やってみるか……
『あと、1つだけ良いですか、先輩』
「?」
『初心者はいきなり漕ぐよりも、乗り方などを別で練習した方が良いそうです』
「……そうなのか」
『あの、不必要な情報でしたか?』
「いや、サクラが居てくれて助かった。もう少しだけ付き合ってくれ」
『……はい。私で、良いのでしたら』
その後もしばらく練習したが、そんなに劇的に上手くなる、なんてことはなかった。
今後も何度か通ってみよう。お金に余裕があれば、だが。せめて今日の体験を忘れない内に。
──夜──
ピンと来た。
──6月15日(金) 放課後──
────>コスプレショップ【ピクシス】。
「えっと……これ、作るの?」
コスプレショップの店主さんは、自分の書いたデザイン案を見て尋ねてきた。
昨晩思いついた傑作である。あのスケボーから着想が得られたのだ。
やはり色々なものに挑戦する、ということは大事だと痛感した。こんな発見があるなんて、一昨日までの自分は思いもしていなかっただろう。今度話を聞かせてくれた空にはお礼をしなければ。
「はい。お願いしてもいいですか?」
「え、ええ……これくらいなら5日もあればできる、はず」
「じゃあお願いします」
「……あの、本当に良いの?」
値段的な話だろうか。
だとしたら問題ない。服に関しては必要経費だ。
「はい、できたら2枚ください」
「……分かったわ、腕に縒りをかけて作るから」
それは嬉しい。期待できる。
初のデザインTシャツだ。良いものになると良いな。
さて、時間も余ったしバイトでもしていこうか。
今日なら確か、ゲームセンターのバイトができるはずだ。
──夜──
「……そろそろ、安物のテレビくらいなら買えるかもしれない」
バイト上がりに貰った給料袋の中身を取り出し、財布の中身と合わせて机に並べる。
安物のテレビを買ってお釣りがくるところまで、ようやくたどり着いた。
もう少し余裕を持てれば、あとは機を伺うだけだろう。これからは色々な情報に注意していかないといけない。お買い得情報を一度見逃すだけで、首が閉まると思わなければ。
まあ、もっと余裕は持っておきたい。これからも積極的にバイトを続けていこう。
今日は……昼にアルバイトをしたし、勉強しよう。
明日と明後日、つまり今週の土日は神山温泉に向かうつもりだ。学校もない純粋な連休に、がっつり働かないという選択肢もない。問題があるとすれば、人手が余っていて雇ってもらえない可能性があることくらいか。
……まあ、仮に雇ってもらえなかったとしたら、別の事をすればいいだけの話か。
気楽に行こう。
度胸 +2
優しさ +4。
>優しさが“かなり鈍感”から“ふつうに優しい”にランクアップした。
根気 +2。
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多めに優しさが上がっているのは、土日分の温泉バイトのおかげ。
バイトしているだけなので、描写は省きます。
次回更新はまた五日後、日曜日で。
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